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537.転売屋はチョコをもらう
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今年も甘いにおいのする時期がやってきた。
町のいたるところからショコラータ、つまりはチョコレートのにおいがしてくる。
昨年贈り物の日に併せて大流行させたが、今年も無事に流行が復活したようだ。
とはいえ、前回は俺の主導だったが今回はギルド協会が一元に管理して販売している。
もともとそういう約束だったので俺としては何の問題も無いけどな。
「あ~、いい香り。」
「みんな好きだよなぁ、ショコラータ。」
「甘いし見た目も綺麗だし、今年もやるみたいよコンテスト。」
「シープさんが張り切っていたし今回も大騒ぎするんじゃないか?」
昨年も行われたショコラータコンテストだが、今年も同規模のやつを開催すると羊男が熱く語っていた。
盛り上がれば盛り上がるだけショコラータが売れ、ギルド協会が儲かるんだから熱くなるのも無理は無い。
今年は誰が優勝するのやら。
「シロウは参加しないの?」
「俺は食べるほうがすきなんでね。それに今回はこういったものを用意してる、コンテストもいいがこっちも宜しくな。」
「どれも可愛いですよね。」
「私はコレが好きだな~。」
「食べるなよ。」
「食べないわよ。」
とかいいなが伸びているその手はなんだろうか。
屋敷の食堂。
その巨大テーブルに広げられているのは色とりどりのラッピングが施された既製のショコラータだ。
大小さまざまな大きさ、デザインが施されており、入れ物もなかなかに可愛い。
さながらバレンタインデーに併せた特設会場と言ってもいいだろう。
元の世界ではこんなのが各デパートで催されていたなぁ。
何度か足を運んだが、見るだけでも楽しかった覚えがある。
もちろん自分用にも何度か購入させてもらった。
残念ながらもらう当てが無かったってのもあるが、自分の好きなものを自分のために買うのもなかなかいいものだ。
仮にもらっても不味かったらいやな気分になるだろ?
「他所ではこんなにもたくさんショコラータが作られているんですね。」
「自分で作るよりも買ったほうが見栄えもしますから、ショコラータ職人になるのは上級冒険者と同じぐらいにすごいことなんだそうです。」
「売れるショコラータを作れるのはほんの一握り、だがこうやって世に出てたくさんの人に喜ばれるのなら目指したくもなるだろう。」
「見た目もきれいだし、味も申し分ないわ。」
「だから食うなって。」
「買うからいいでしょ。」
さっき食べないとか行ってたのはどの口だろうか。
口の端についているショコラータを指でなぞり口に運ぶ。
うん、なかなかにおいしいじゃないか。
「アネットさん。」
「わかってますハーシェ様。」
「そこで何を画策しているかは知らないが、わざとつけた分は知らないからな。」
「残念です。」
「・・・はい。」
アネットとハーシェさんがわざとらしくため息をつく。
その横ではそんなやり取りを聞きながらもミラが口の横にショコラータを押し当てていた。
そしてドヤ顔をして俺を見てくる。
普段まじめにしているくせにこんなところでボケをかまさないでもらえるかな。
今度は指ではなく直接舌でショコラータを頂いた後、そのまま唇を押し当てた。
情熱的に舌を絡ませてくるミラ。
うん、激甘だわ。
「ともかくだ、コンクールとは別に俺たちは俺たちでこれを売る。これと思うやつを責任を持って売りさばいてくれ。」
「競争ってわけね。もちろん最初に売り切ったらご褒美があるんでしょ?」
「そんなのはない・・・といいたいところだが、ないといったらやらないだろ?」
「当然よ。」
「何が欲しいんだ?」
「シロウ一日独占権。」
「やります。」
「私も!」
「シロウ様と一日ゆっくりですか、とても魅力的です。」
てっきり高いものを買わされるのかと思ったが、まさかこんなことになるとは。
「勝手に決めないで欲しいんだが?」
「もう決まりよ、変更は無し。」
「じゃあ俺が勝ったらどうするんだよ。」
「私達を独占?」
「・・・いつもどおりか。」
これまでも特に自重することもなくしたい時に色々させてもらっているだけに、独占したからといって特に何が変わるわけでもない。
まぁ張り切ってくれるのはいいことだ。
「そんじゃまどれを売るか決めてくれ、ちなみに俺はこれな。」
「あ、ずるい!私が狙ってたやつ!」
「早い者勝ちってな。タイムリミットは明日の夕方、金額はどれも銀貨1枚で値引きは不可だ。それじゃあはじめ!」
俺が選んだのはシンプルなハートのモチーフ。
真っ赤なラッピングが施された小粒のショコラータがこれまた赤い箱に五つはめ込まれている。
エリザは高級そうな箱に三つショコラータが並べられている。
アネットは数で勝負、小さなショコラータが20粒ほど入った可愛らしい小瓶だ。
ミラはカラフルな包装紙に包まれたショコラータが10個、これまたカラフルな箱に収められたやつだな。
最後にハーシェさんだが、板チョコと錯覚するような大きなやつをわざわざ選んでいた。
各自ノルマは100個。
さて、誰が最初に売り切るか楽しみだな。
って事で、早速市場へ向かいいつもの場所に陣取ってショコラータを並べる。
「なんだそりゃ。」
「ショコラータだよ、今年はギルド協会がお祭り騒ぎをするらしいから俺は簡単なやつにしたんだ。」
「ずいぶんと派手だねぇ。」
「もうすぐ贈り物の日だからな、それに合わせて気持ちを伝えるにはこれぐらいしないと。」
「それは分かるけど、あんたの店にこれを買う客が来るのかい?」
「・・・わからん。」
「まぁせいぜいがんばるんだね。」
おっちゃんおばちゃんもはあまりウケがよろしくないようだ。
確かに派手だがこれぐらいしても問題ないと思うんだがなぁ。
いつものように店の商品をうりつつ、ショコラータの宣伝をする。
銀貨1枚という値段設定だが、見た目の派手さもありぽんぽんと10個ほど売れた。
特に女性冒険者の受けが良かったので、このまま宣伝してくれるとすぐにでも売れそうだ。
この勝負もらった。
そう思っていたのもつかの間、前を歩く女性冒険者が別の商品を持っているのに気がついた。
その後も通り過ぎる冒険者は皆それを持って通り過ぎていく。
もちろん俺のほうを見る事はない。
「あのパッケージはまさか、エリザか?」
「売れなくなっちまったな。」
「どうやら別の場所で似たようなのを売ってるらしい、ちょっと見てくる。」
店を任せて冒険者が来た方向へと走り出す。
しばらく進むと人だかりの出来た露天を見つけた。
売っていたのは、やはりエリザだ。
「シロウじゃない。自分のが売れなくて様子を見に来たの?」
「そんなわけがないだろ、こっちも大忙しだ。」
「でも勝負は私の勝ちね。今、冒険者仲間に声を掛けてるから夜までには売れちゃうんじゃないかしら。」
「値下げはしてないんだろ?」
「そんなずるしないわよ。」
「その余裕がいつまで続くか楽しみだ、じゃあな。」
そんな話をしながらも後ろにはショコラータを買いに来たであろう女性冒険者が立っていた。
とはいえ、100人もの女性冒険者を集めるのは大変なはず。
このまま売れ続けるとは思えない。
ひとまず店に戻り様子を見るも、こちらはぽつぽつと売れる程度。
うぅむこのままじゃまずいな。
待っていては先がないのでさっさと露天をたたみ、大通りへと足を向ける。
通りでの販売は認められていないのでどこかの軒先を借りなければならない。
モーリスさんのところは邪魔になるし、それならとマリーさんの店へと向かった。
「あ、シロウ様。」
「ようこそお越しくださいました。シロウ様もマリー様のショコラータがご希望ですか?」
店先ではマリーさんとアニエスさんがが可愛らしいエプロンを身に着けてショコラータを売っていた。
どうやら手作りしているようだ。
「いや、そうじゃないんだが・・・。」
「ではお一つどうぞ。」
「アニエスも手伝ってくれたんです、美味しいですよ。」
可愛らしいエプロン姿で言い寄られて断れる男がいるだろうか。
有難くチョコを受け取り小走りでその場を後にする。
その後もあちらこちらへ足を伸ばすも、どこもショコラータ一色で販売させてもらえる場所はなかった。
「で、ここに来たのか。」
「あぁ。」
「ちなみに商売は禁止だからな。」
「知ってる。」
最後にたどり着いたのは三日月亭。
とはいえマスターの所では販売は出来ないのだが、行く先々でもらったショコラータで俺の腕はパンパンだった。
売らないといけないのになぜか増えていくショコラータ。
贈り物の日に併せて感謝の気持ちを表してもらえるのは有難いのだが、俺にもやることがあってだな。
そんな気持ちを知るわけもなく、いつもありがとうございますとショコラータを手渡される。
よく見れば見たことのあるパッケージ。
これはアネットが担当しているやつか。
で、こっちはミラ。
この分だとどちらかに軍配が上がるんだろう。
やはり伝手がものをいうよなぁ、こういうときは。
俺も婦人会に顔を出せば買ってくれるかもしれないが、倍以上のショコラータを渡される未来が待っている。
これ以上は俺の腕が持ちそうもない。
「モテる男は大変だな。」
「喜んでいいのか?」
「喜べよ、世の中にはもらえない男もいるんだぞ。」
「マスターもお一つ、いや80個ほどどうだ?銀貨80枚だ。」
「馬鹿言え。」
残念。
時間を掛ければ売れそうなので勝負をあきらめのんびり酒を飲んでいると、新しい客が入ってきた。
「あれ、ハーシェさん?」
「勝敗がつきましたのでご報告に。」
「マジか。」
「はい。ミラ様アネット様が同時に戻ってこられました。エリザ様はあいにくまだのようです。」
「という事はミラとアネット、それとハーシェさんの同時優勝か。」
「いえ、優勝はお二人です。私はまだここにありますから。」
「ん?」
「このショコラータ、一つ銀貨1枚です。買ってくださるともれなく私とおなかの子がついてきますが、いかがですか?」
それを言うために優勝を捨てわざわざココに来たのか。
これが身篭った女の余裕・・・なのかもしれない。
っていうかさ、この言い方は卑怯だろう。
「金貨1000枚でも安いと思うんだが。」
「ふふ、うれしいです。この一年お世話になりました、次の一年もこのこと一緒に宜しくお願いします。」
「もちろんだ。」
一応銀貨1枚を手渡し、ショコラータを買わせてもらう。
そしてもれなくついてくるハーシェさんとお腹の子。
優勝はあの二人かもしれないが、本当の優勝はこの人で決まりだな。
色々片付いたら一緒に住める。
もう少しだけ辛抱してもらおう。
「さて、優勝者をねぎらいに帰りますかね。」
結局エリザは全て売り切ることが出来ずに帰還、同時優勝の二人といい雰囲気をかもし出すハーシェさんを見て全てを察するのだった。
もっとも、一番売れてなかったのは俺ってことで無理やり半日デートをねじ込んできたけどな。
町のいたるところからショコラータ、つまりはチョコレートのにおいがしてくる。
昨年贈り物の日に併せて大流行させたが、今年も無事に流行が復活したようだ。
とはいえ、前回は俺の主導だったが今回はギルド協会が一元に管理して販売している。
もともとそういう約束だったので俺としては何の問題も無いけどな。
「あ~、いい香り。」
「みんな好きだよなぁ、ショコラータ。」
「甘いし見た目も綺麗だし、今年もやるみたいよコンテスト。」
「シープさんが張り切っていたし今回も大騒ぎするんじゃないか?」
昨年も行われたショコラータコンテストだが、今年も同規模のやつを開催すると羊男が熱く語っていた。
盛り上がれば盛り上がるだけショコラータが売れ、ギルド協会が儲かるんだから熱くなるのも無理は無い。
今年は誰が優勝するのやら。
「シロウは参加しないの?」
「俺は食べるほうがすきなんでね。それに今回はこういったものを用意してる、コンテストもいいがこっちも宜しくな。」
「どれも可愛いですよね。」
「私はコレが好きだな~。」
「食べるなよ。」
「食べないわよ。」
とかいいなが伸びているその手はなんだろうか。
屋敷の食堂。
その巨大テーブルに広げられているのは色とりどりのラッピングが施された既製のショコラータだ。
大小さまざまな大きさ、デザインが施されており、入れ物もなかなかに可愛い。
さながらバレンタインデーに併せた特設会場と言ってもいいだろう。
元の世界ではこんなのが各デパートで催されていたなぁ。
何度か足を運んだが、見るだけでも楽しかった覚えがある。
もちろん自分用にも何度か購入させてもらった。
残念ながらもらう当てが無かったってのもあるが、自分の好きなものを自分のために買うのもなかなかいいものだ。
仮にもらっても不味かったらいやな気分になるだろ?
「他所ではこんなにもたくさんショコラータが作られているんですね。」
「自分で作るよりも買ったほうが見栄えもしますから、ショコラータ職人になるのは上級冒険者と同じぐらいにすごいことなんだそうです。」
「売れるショコラータを作れるのはほんの一握り、だがこうやって世に出てたくさんの人に喜ばれるのなら目指したくもなるだろう。」
「見た目もきれいだし、味も申し分ないわ。」
「だから食うなって。」
「買うからいいでしょ。」
さっき食べないとか行ってたのはどの口だろうか。
口の端についているショコラータを指でなぞり口に運ぶ。
うん、なかなかにおいしいじゃないか。
「アネットさん。」
「わかってますハーシェ様。」
「そこで何を画策しているかは知らないが、わざとつけた分は知らないからな。」
「残念です。」
「・・・はい。」
アネットとハーシェさんがわざとらしくため息をつく。
その横ではそんなやり取りを聞きながらもミラが口の横にショコラータを押し当てていた。
そしてドヤ顔をして俺を見てくる。
普段まじめにしているくせにこんなところでボケをかまさないでもらえるかな。
今度は指ではなく直接舌でショコラータを頂いた後、そのまま唇を押し当てた。
情熱的に舌を絡ませてくるミラ。
うん、激甘だわ。
「ともかくだ、コンクールとは別に俺たちは俺たちでこれを売る。これと思うやつを責任を持って売りさばいてくれ。」
「競争ってわけね。もちろん最初に売り切ったらご褒美があるんでしょ?」
「そんなのはない・・・といいたいところだが、ないといったらやらないだろ?」
「当然よ。」
「何が欲しいんだ?」
「シロウ一日独占権。」
「やります。」
「私も!」
「シロウ様と一日ゆっくりですか、とても魅力的です。」
てっきり高いものを買わされるのかと思ったが、まさかこんなことになるとは。
「勝手に決めないで欲しいんだが?」
「もう決まりよ、変更は無し。」
「じゃあ俺が勝ったらどうするんだよ。」
「私達を独占?」
「・・・いつもどおりか。」
これまでも特に自重することもなくしたい時に色々させてもらっているだけに、独占したからといって特に何が変わるわけでもない。
まぁ張り切ってくれるのはいいことだ。
「そんじゃまどれを売るか決めてくれ、ちなみに俺はこれな。」
「あ、ずるい!私が狙ってたやつ!」
「早い者勝ちってな。タイムリミットは明日の夕方、金額はどれも銀貨1枚で値引きは不可だ。それじゃあはじめ!」
俺が選んだのはシンプルなハートのモチーフ。
真っ赤なラッピングが施された小粒のショコラータがこれまた赤い箱に五つはめ込まれている。
エリザは高級そうな箱に三つショコラータが並べられている。
アネットは数で勝負、小さなショコラータが20粒ほど入った可愛らしい小瓶だ。
ミラはカラフルな包装紙に包まれたショコラータが10個、これまたカラフルな箱に収められたやつだな。
最後にハーシェさんだが、板チョコと錯覚するような大きなやつをわざわざ選んでいた。
各自ノルマは100個。
さて、誰が最初に売り切るか楽しみだな。
って事で、早速市場へ向かいいつもの場所に陣取ってショコラータを並べる。
「なんだそりゃ。」
「ショコラータだよ、今年はギルド協会がお祭り騒ぎをするらしいから俺は簡単なやつにしたんだ。」
「ずいぶんと派手だねぇ。」
「もうすぐ贈り物の日だからな、それに合わせて気持ちを伝えるにはこれぐらいしないと。」
「それは分かるけど、あんたの店にこれを買う客が来るのかい?」
「・・・わからん。」
「まぁせいぜいがんばるんだね。」
おっちゃんおばちゃんもはあまりウケがよろしくないようだ。
確かに派手だがこれぐらいしても問題ないと思うんだがなぁ。
いつものように店の商品をうりつつ、ショコラータの宣伝をする。
銀貨1枚という値段設定だが、見た目の派手さもありぽんぽんと10個ほど売れた。
特に女性冒険者の受けが良かったので、このまま宣伝してくれるとすぐにでも売れそうだ。
この勝負もらった。
そう思っていたのもつかの間、前を歩く女性冒険者が別の商品を持っているのに気がついた。
その後も通り過ぎる冒険者は皆それを持って通り過ぎていく。
もちろん俺のほうを見る事はない。
「あのパッケージはまさか、エリザか?」
「売れなくなっちまったな。」
「どうやら別の場所で似たようなのを売ってるらしい、ちょっと見てくる。」
店を任せて冒険者が来た方向へと走り出す。
しばらく進むと人だかりの出来た露天を見つけた。
売っていたのは、やはりエリザだ。
「シロウじゃない。自分のが売れなくて様子を見に来たの?」
「そんなわけがないだろ、こっちも大忙しだ。」
「でも勝負は私の勝ちね。今、冒険者仲間に声を掛けてるから夜までには売れちゃうんじゃないかしら。」
「値下げはしてないんだろ?」
「そんなずるしないわよ。」
「その余裕がいつまで続くか楽しみだ、じゃあな。」
そんな話をしながらも後ろにはショコラータを買いに来たであろう女性冒険者が立っていた。
とはいえ、100人もの女性冒険者を集めるのは大変なはず。
このまま売れ続けるとは思えない。
ひとまず店に戻り様子を見るも、こちらはぽつぽつと売れる程度。
うぅむこのままじゃまずいな。
待っていては先がないのでさっさと露天をたたみ、大通りへと足を向ける。
通りでの販売は認められていないのでどこかの軒先を借りなければならない。
モーリスさんのところは邪魔になるし、それならとマリーさんの店へと向かった。
「あ、シロウ様。」
「ようこそお越しくださいました。シロウ様もマリー様のショコラータがご希望ですか?」
店先ではマリーさんとアニエスさんがが可愛らしいエプロンを身に着けてショコラータを売っていた。
どうやら手作りしているようだ。
「いや、そうじゃないんだが・・・。」
「ではお一つどうぞ。」
「アニエスも手伝ってくれたんです、美味しいですよ。」
可愛らしいエプロン姿で言い寄られて断れる男がいるだろうか。
有難くチョコを受け取り小走りでその場を後にする。
その後もあちらこちらへ足を伸ばすも、どこもショコラータ一色で販売させてもらえる場所はなかった。
「で、ここに来たのか。」
「あぁ。」
「ちなみに商売は禁止だからな。」
「知ってる。」
最後にたどり着いたのは三日月亭。
とはいえマスターの所では販売は出来ないのだが、行く先々でもらったショコラータで俺の腕はパンパンだった。
売らないといけないのになぜか増えていくショコラータ。
贈り物の日に併せて感謝の気持ちを表してもらえるのは有難いのだが、俺にもやることがあってだな。
そんな気持ちを知るわけもなく、いつもありがとうございますとショコラータを手渡される。
よく見れば見たことのあるパッケージ。
これはアネットが担当しているやつか。
で、こっちはミラ。
この分だとどちらかに軍配が上がるんだろう。
やはり伝手がものをいうよなぁ、こういうときは。
俺も婦人会に顔を出せば買ってくれるかもしれないが、倍以上のショコラータを渡される未来が待っている。
これ以上は俺の腕が持ちそうもない。
「モテる男は大変だな。」
「喜んでいいのか?」
「喜べよ、世の中にはもらえない男もいるんだぞ。」
「マスターもお一つ、いや80個ほどどうだ?銀貨80枚だ。」
「馬鹿言え。」
残念。
時間を掛ければ売れそうなので勝負をあきらめのんびり酒を飲んでいると、新しい客が入ってきた。
「あれ、ハーシェさん?」
「勝敗がつきましたのでご報告に。」
「マジか。」
「はい。ミラ様アネット様が同時に戻ってこられました。エリザ様はあいにくまだのようです。」
「という事はミラとアネット、それとハーシェさんの同時優勝か。」
「いえ、優勝はお二人です。私はまだここにありますから。」
「ん?」
「このショコラータ、一つ銀貨1枚です。買ってくださるともれなく私とおなかの子がついてきますが、いかがですか?」
それを言うために優勝を捨てわざわざココに来たのか。
これが身篭った女の余裕・・・なのかもしれない。
っていうかさ、この言い方は卑怯だろう。
「金貨1000枚でも安いと思うんだが。」
「ふふ、うれしいです。この一年お世話になりました、次の一年もこのこと一緒に宜しくお願いします。」
「もちろんだ。」
一応銀貨1枚を手渡し、ショコラータを買わせてもらう。
そしてもれなくついてくるハーシェさんとお腹の子。
優勝はあの二人かもしれないが、本当の優勝はこの人で決まりだな。
色々片付いたら一緒に住める。
もう少しだけ辛抱してもらおう。
「さて、優勝者をねぎらいに帰りますかね。」
結局エリザは全て売り切ることが出来ずに帰還、同時優勝の二人といい雰囲気をかもし出すハーシェさんを見て全てを察するのだった。
もっとも、一番売れてなかったのは俺ってことで無理やり半日デートをねじ込んできたけどな。
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