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535.転売屋は体を動かす

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魔力過多が原因だったとはいえ、運動不足なのもまた事実だ。

健やかな生活は適度な運動と食事から。

もうあの過酷な運動はご免なのでしっかりと自分で運動しようと思っている。

だって寝ていて動けないのをいいことに、上に乗ってとっかえひっかえだぞ?

そりゃあ俺の体がやばいからってかわるがわる休まずに朝までやられたら体中悲鳴も上げるっての。

まぁ、そのおかげでかってに勃起することも無くなりこうやって外出できるようになったわけだけども。

後半は魔力の影響を受けたのかは知らないが、三人ともハイになってくるし。

正直怖かったです。

まる。

「シロウさん、お久しぶりです!」

「悪いな急に使わせてくれなんて頼んで。」

「いえいえ、元はシロウさんのジムですから。むしろ使わせてもらってるのはこっちです。」

「中々盛況らしいじゃないか。」

「おかげさまで感謝祭明けは皆さん色々と気になるみたいです。」

「ま、俺もその一人だけどな。ロロさんは?」

「ロロでしたら今はシャワー室の掃除ですね。」

運動不足を解消するために選んだのが前に作ったジムだ。

ケインとロロはそこのインストラクター。

ぶっちゃけ立案はしたものの稼働後は全部丸投げしているので経営者兼インストラクターでいいだろう。

俺は場所を貸出して賃料をもらっているオーナーって感じかな?

その特権でこうやって営業前に使わせてもらっているというわけだ。

「あ、シロウさんお久しぶりです!」

「ロロさんも元気そうで。っと、そうだ二人とも結婚おめでとう。」

「ありがとうございます。」

「わざわざお祝いまでありがとうございました。」

「簡単な物でわるいが、まぁ気持ちだけな。」

そう、元はカップルだった二人もこの前の夏に結婚する運びとなった。

その時にささやかながら結婚祝いを渡しておいたのだ。

まぁ、お祝いといっても現金と花ぐらいなものだけどな。

「お気持ちだけでジムを丸々手放されるとは思いませんでしたけど。」

「本当です、びっくりしました。」

「いや、全部丸投げしているのも悪いし結婚するならそれなりに収入が必要だろ?雇われよりも自前でやった方が儲けも増えるし俺も手間がないだろ。」

そう、結婚祝いとしてジムも一緒に渡すことにした。

今までは俺の雇われという形であれこれやってもらったが、実際俺が指示を出したことは一度もなく全部丸投げしていたのでそれならと渡すことにしたわけだ。

その代わりにロイヤリティとして総売り上げの一割をもらう。

何もせずに金だけが入ってくるし、こうやって好きな時に使わせてもらえるので俺にしてみればプラスしかないけどな。

「怪我をして引退した時はどうなるかと思いましたけど・・・。」

「でもシロウさんがこうやって働く場所をくれて本当に感謝してるんです。」

「なら今まで通りしっかりと稼いで俺に金を運んでくれ。」

「「はい!」」

「ま、硬い話はこれで終わりにして一日運動メニューで宜しく頼む。」

「ハードモードがいいですか?」

「いやノーマルで頼む、これでも病み上がりなんでな。」

「風邪ですか?」

「そんなところだ。」

まさか魔力過多でセックスしまくっていたなんて言えるはずがない。

ジムは継続利用の月額方式と、単発のお試し方式の二種類で収益を上げている。

今回は単発の方でお願いすることにした。

ちなみに、イージーは普段運動しない人向けでノーマルがそれなりに運動している人向け。

ハードは現役冒険者向けとなっている。

現役が音を上げているのに俺みたいなのが出来るわけないだろうが。

まずは簡単なウォーミングアップ。

それから筋トレと柔軟をミックスしたような運動。

他にもランニングや開発した筋トレ器具を使った運動なんかもある。

ベンチプレスもどきを上げるのは大変だが、上がった時の達成感はなかなかだ。

気づけば朝一番から昼前ぐらいまでぶっ続けで体を動かしていた。

おかげで全身汗だくだ。

「あれ、シロウさんがいる。」

「お、ルティエじゃないか。いつも来てるのか?」

「いつもじゃないんですけど、いつも引きこもっているので休みの時は出来るだけ体を動かそうと思って。」

「殊勝な心掛けだな。」

シャワーを浴びてさっぱりした気分でジムに戻ってくると、ルティエとばったり出くわした。

運動用のウェアだろうか、いつもよりもぴっちりとした服を着ている。

うん、出るところはあまり出ていないので問題はないな。

「うぅ、シロウさんの目線がつらい。」

「俺だって似たようなもんだ。」

「とか言って腹筋われてますよね?」

「そりゃなぁ。」

「私なんてこんなにぷにぷにですよ。」

「とか言って腕は結構がっしりだよな。」

「言わないでください、気にしてるんですから。」

細工仕事は中々に筋力を使う。

なんだかんだ言って金属を曲げたりするからな、どうしても腕力がついてしまうんだろう。

腹?

しらん。

「ま、ロロさんに言って鍛えてもらえ。」

「そうします。それじゃあまた。」

「おぅ、またな。」

ルティエはそのままランニングマシンモドキにまたがり、真剣な面持ちでペダルをこぎだした。

有酸素運動は腹にきくんだろうか。

ま、頑張れよ。

ジムを出たその足で裏口から畑へと出る。

カニバフラワーが一斉にこちらを向き、俺に気づいたのかカカカカと歯を鳴らして挨拶をしてくれた。

春に近づくにつれ元気になってくるなぁ。

そして活動的になればなるほど、口に血を付けたやつが増えるというね。

また魔物が近づいたのを襲ったんだろう。

いつもご苦労さん。

「あ、シロウさん。」

「アグリあれから問題ないか?」

「なにがです?」

「いや、変わりないならそれでいい。ちょっとサウナ使わせてもらうぞ。」

「シロウ様の物ですから断らなくていいですよ。」

ま、それもそうだ。

パパっと裸になり素早くサウナの中へ。

用意してあった水を焔の石にかけると蒸気が一気にサウナを包んだ。

さっき汗を流した所だが、それとこれとはまた違う。

出来るだけ我慢に我慢を重ね、体の中から不純物を絞り出していく。

限界の少し前に外に飛び出し、体を冷やしたらもう一度中へ。

それを何度か繰り返して自分を追い込んでから、水をかぶって休憩を取った。

あぁ、レレモン果汁の入った水が美味い。

ちなみに用意してくれたのはアグリだ。

いつもの事だが本当に気の利く人だなぁ。

「温室も順調そうだな。」

「おかげさまで。」

簡易サウナの横では温室の建設が急ピッチで進んでいる。

骨組みは完成しているので後は魔ガラスの到着を待つばかりだ。

高い買い物だったが、完成すれば時期を気にせず安定して薬草を作れる。

わざわざ高価な薬草を買わなくても自分で準備できるってのがいいよなぁ。

「春以降の先付けはもう決まったのか?」

「去年と同じようにしつつ、輸出用に珍しい葉物に挑戦してみようと思っています。」

「それだと税金を取られないか?」

「他を自分達で消費するのであればあくまでもその一部と言い張れます。それに、わざわざ文句を言ってくる人はこの街にはいませんよ。」

「お主もわるよのぉ。」

「シロウ様のお役に立てるのが我々の喜びですから。とはいえ、本気で輸出を考えられるのであればここの二倍は広さが欲しい所です。」

「いっそアグリに全部丸投げするかなぁ。」

「今もそのような感じでは?」

「違いない。」

畑の管理は全部丸投げ。

もうアグリの畑といってもいいかもしれない。

それならジム同様に経営権ごと譲渡してロイヤリティをせしめるやり方の方が喜ばれるかもしれないなぁ。

「でも畑はいりませんよ。」

「なんでだ?」

「私はシロウ様の畑を管理したいのであって自分の畑を持ちたいわけではありません。なにより、自分で稼ぐよりもお給料を頂く方が安心します。死ぬまで雇って下さいね。」

「むしろそれは俺がお願いすることだ。とはいえ、いい加減嫁貰ったらどうだ?」

「生憎野菜以上に愛せるものが無くてですね。」

ならばこれ以上は何も言うまい。

良い感じで体温も下がったので、最後はルフとレイを連れてのジョギングだ。

とはいえ前回の件もあるので町の周りをぐるぐると回るだけだがそれだけでもいい運動になる。

うん、一日中体を動かしてみたがたまにはいいかもしれない。

今後は月一ペースで運動するとしよう。

とかなんとか、前も言った気がするが気のせいだよな。

なんて言い訳をしながら心地よい疲れと共に家に戻るのだった。

まぁ、夜の運動も待っていたわけだけども。
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