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533.転売屋は体調を崩す

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「う~む。」

「どうされましたか?」

「体がな、ちょっと重い。」

「太ったんじゃない?」

「うるせぇいうな。」

確かに腹に肉はついているが、それでもここに来る前の体を考えればスマートな方だ。

いや、むしろ筋肉は三割、いや四割り増しぐらいだろうか。

なんでこんなに筋肉がと思うが、よく考えれば昔と比べ物にならないぐらいに動いている。

そりゃ筋肉も付くし腹もへっこむだろう。

今感じている重さはそういうのとは違うだよなぁ。

肩をぐるぐると回し大きく伸びをしてみる。

ラジオ体操の要領で全身ストレッチしてみるものの、だるさは取れない。

「お疲れなのではないでしょうか。」

「さぁなぁ。」

「この間のぬいぐるみも軌道に乗せる為に連日出ておいででしたから。」

「そういう事にしておくか。」

「今日はもう休んだら?」

「別に熱があるわけでもないしそこまでしなくていいだろう。」

「いいえ、ダメです。」

ミラがバッサリと切り捨ててくる。

ダメですと言われてしまったらもう働けない。

俺の店だがこの辺は女達がかなり厳しいんだよなぁ。

「じゃあ買い物。」

「それも駄目です。」

「買い物といいながら仕入れだものね。」

「ただのだるさだ、それぐらいはできるぞ。」

「そうやって無理をして体を壊したのをもうお忘れですか?」

それは自分も同じじゃないかと言いたくなったが、働かせているのは俺だ。

奴隷の主人としてコントロール出来ていなかっただけの事。

とはいえ、それとこれとは話が違うと思うんですけど。

ダメですかそうですか。

「わかった、大人しく寝とく。」

「そうしてください。」

「あとでお薬持って行きますね。」

「じゃあ私は元気になるお肉でも探してこようかな。ドラゴンでいい?」

「なんでもいい。」

スーパーにでも行く感覚でドラゴンの肉を取りに行くのはどうかと思うぞ。

することもないので仕方なく二階に上がり、ベッドの上で寝転がる。

ただの疲れなら肉食って薬飲んで寝れば翌日にはケロっとしているだろう。

なんせこの若さだからな。

昔の俺では無理だがこの体なら問題ない。

そんな感じで一日ゆっくりさせてもらった。

はずなんだが。

「うぅむ。」

「今日もダルそうですね。」

「昨日以上に体が重い。」

「ちょっと、呪いか何かもらったんじゃないの?」

「呪い?」

「この前スキルが使えなくなったじゃない、あれ呪われた道具だったんでしょ?」

「アレはもう戻ったぞ?」

「遅効性の呪いかもしれません、一度見てもらった方がよろしいのではないでしょうか。」

遅効性の呪いとかあるのか?

スキルは戻ったんだし大丈夫だと思うがそのままじゃ納得しなさそうなので仕方なくモニカの所へ向かう。

いつもならすんなりと到着するはずなのに、今日は倍以上の時間がかかったんじゃないだろうか。

すぐに息が上がってしまいまるで老人の様に何度も何度も休憩を入れてしまう。

こりゃマジで呪いかもしれない。

「モニカ、いるか?」

「シロウさん!どうしたんですか、凄いお疲れですけど。」

「どうなっているか俺にもわからん、とりあえず座らせてもらえるか?」

「こちらへ、すぐお水を持ちしますね。」

近くの椅子に誘導してもらい倒れこむようにしてドシンと腰掛ける。

あーしんど。

どう考えても普通の状態じゃないよな、これ。

やっぱり呪いか?

誰かが俺を呪っているとしか思えないんだが。

「どうぞ。」

「悪いな、助かる。」

「お顔色は悪くないようですが、ずいぶんとだるそうです。」

「うちの女達に言わせれば呪いでもかけられたんじゃないかって感じらしい。俺も今までこんな疲労感を感じたことはないんだが、モニカにわかるか?」

「呪いですか。心当たりは?」

「無いとは言い切れん。一応まっとうな商売をしてきたが、恨まれていない保証はどこにもないからな。」

ぼったくりはしていないが、転売なんて良い目で見られることはないからなぁ。

それこそ元の世界じゃ蔑まれるような仕事だ。

俺はそれなりに好きだし金を稼げるのは楽しいが、それをよく思わない人間もいるだろう。

「わかりました、すぐに準備しますね。」

心配そうな顔をしていたモニカだが、表情が急に引き締まりテキパキと何かの準備を始めた。

その間も座っているはずなのに体からエネルギーが出て行っているような感覚がある。

体どこかに穴でも開いているんだろうか。

「お待たせしました。」

「宜しく頼む。」

周りにろうそくが置かれ、いつも以上に気合の入った表情をするモニカが俺を見下ろしている。

祝詞かなにかだろうか、俺の耳に聞こえない程度の音量で何かをつぶやき前で不思議な印を切る。

頭に聖水が掛けられると同時に周りがパッと光ったように感じた。

「今のは?」

「呪いの有無を確認しました。でも、そういった何かがかけられた痕跡はありません。しいて言えば魔力が少ないぐらいでしょうか。」

「マジか。」

「周りが光ったのは?」

「あれは念のための浄化です。稀に呪いが漏れることもありますから。」

「とはいえ、呪いはかけられていないと。」

「残念ながら。」

「ならこのダルさはいったい何なんだ?」

呪いでもないのなら余計に原因がわからない。

座っている分にはいいが、立ち上がろうとすると一気に体力を持っていかれる。

これを呪いといわずになんというのか。

「お医者さまではないので何とも言えませんが、呪術的な物ではないと断言できます。」

「まぁそれがわかっただけでも良しとするか。」

「帰れますか?」

「まぁ、何とかなるだろう。ガキ共には言うなよ、変に心配するからな。」

心配というかちょっかいというか。

何とか重たい腰を上げ、ゆっくりと教会を後にする。

来た時のさらに倍の時間を掛けて店へと辿逸くことが出来た。

「ただいま。」

「ずいぶん遅かったじゃない・・・って危ない!」

気が緩んだんだろう。

扉に体を預けたつもりが全く見当違いの場所に体重をかけてしまった。

受け身を取ろうにも上手く体が動かずそのまま床に向かって倒れていく。

だが驚異のスピードでエリザがかけより、床とのキスはスレスレで回避することが出来た。

「ちょっと、どうしたのよ。」

「わからんが体に力が入らないんだ。わるい。」

「そんなのいいから。ミラ、すぐ二階に運ぶわよ!」

「はい!」

エリザにお姫様抱っこされるような感じで二階に運ばれ、ベッドに寝かされる。

立っていると苦しいが、横になと随分とマシになった。

「ご主人様、体は起こせますか?」

「手伝ってくれれば何とか。」

アネットに背中を支えてもらいながら上半身を起こす。

その途端にまた例のダルさが襲ってくるのがわかった。

「気休めですが滋養と魔力のお薬です。」

「うげ、苦いなこれ。」

「我慢しなさいよ。ほら、お水。」

「良薬口に苦しっていうしなぁ。」

粉薬はかなりの苦みがあり流し込んだ後も口の中に残っている感じがする。

とはいえアネットの薬だ、じきに効いてくるだろう。

再び横になり大きく息を吐いた。

「スキルは使えるのよね?」

「あぁ、モニカ曰く呪いの類ではないそうだ。魔力は少なくなっているがその程度らしい。」

「呪いじゃないとなると・・・何が原因なの?」

「それがわかれば苦労しないっての。」

横になりながら近くにあったグラスに手を伸ばす。

『グラス。何の変哲もないガラス製の入れ物。水が入っている。最近の平均取引価格は銅貨3枚。最安値銅貨1枚最高値銅貨11枚。最終取引日は本日と記録されています。』

うん、スキルは問題無し。

そもそも呪いは解けたんだから使えて当たり前なんだよな。

じゃあ何が原因なのか。

それがわかれば苦労しないっての。

「とりあえずそのまま寝てなさい。明日お医者さんに来てもらうから。」

「それでわかればいいんだけどなぁ。」

「何か拾い食いしたとかじゃないわよね。」

「お前じゃないんだし。」

「失礼ね。」

魔力の減少って部分と自分の状況からミラが体調崩した時を思い出す。

あの時も似たようなな感じだったと思うが、今回はどうなんだろうか。

横で女達が小声で話すのを聞きながら目を閉じる。

何事もありませんように。

俺にしては珍しく神頼み的なことをしながら眠りについた。
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