転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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530.転売屋はスキルを失う

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「やべ!」

「え?」

冒険者の持ってきた道具を鑑定していたときの事。

普段ならやらないようなミスをやらかしてしまった。

鑑定していたのは呪われた道具。

触るだけでは問題ないが、使用すると効果が発動してしまう。

呪われているだけに効果はあまりよろしくないものばかりなんだが・・・。

鑑定中に手を滑らせ道具を落としかけた。

それを慌ててつかんで回収したわけだが、掴んだ場所が悪く効果が発動してしまった。

「大丈夫ですか?」

「あぁ、問題な。」

「な?」

いつもだったら何も考えずに発動するスキル。

だが今はそれが発動しない。

「あの、大丈夫です?」

「気にするなこっちの話だ。これは封じの小槌、呪われているから銀貨10枚って所だ。どうする?」

「それでお願いします。」

「ミラ、代金を払ってくれ。」

「畏まりました、では代金の確認とサインをお願いします。」

その場をミラに任せて裏へと移動する。

手に持ったままの小槌を机の上に置き、俺はため息をついた。

『封じの小槌。コレを使用した者のスキルを封印する呪われた道具。ただし封印期間は短く翌日には効果が切れるが、それまでは何をしても封印を解くことは出来ない。最近の平均取引価格は銀貨10枚、最安値銀貨5枚最高値銀貨30枚。最終取引日は84日前と記録されています。』

最後に鑑定したこいつの能力。

どうやら落としたのを慌てて拾ったときに使用したという扱いになってしまったんだろう。

スキル封印か。

普通は相手とか魔物に使うものをまさか俺が使用することになるとは。

「あの、シロウ様大丈夫ですか?」

「大丈夫だが大丈夫じゃない。」

「えっとそれは・・・?」

「どうやらコレを拾ったときに効果が発動してしまったみたいだ。スキルが使えない。」

「そんな!」

珍しくミラが慌てた様子で小槌に触れた。

すぐに鑑定スキルが発動し効果を確認したことだろう。

「よかった、効果は一時的なようですね。」

「あぁ、それだけが救いだよ。しかし参ったな今日は仕事が出来そうにない。」

「大丈夫です、今日は武具の鑑定を止めて明日来て貰うようにしましょう。」

「そうするしかないか。」

「表は私が見ていますので、どうぞゆっくりしてください。」

働きづめというわけではないが、あれやこれやとしていてこの二日程外出していない。

ミラ的に気を使ってくれているんだろう。

たまには何も考えずに歩くのもありか。

「そうさせて貰う、悪いな。」

「そうだ、ドルチェ様の新作が出るそうなんですが・・・。」

「わかった、買ってくる。」

おねだりするなんて、いや俺が気を使わないようにしてくれたんだろう。

本当に出来た女だよお前は。

財布を手に取りそのまま店を出る。

仕事するにはスキルがないと困るが生活するだけなら特に問題ない。

さて、何をするかなぁ。

いつもなら何か理由があって外出をするのだが、今日に関していえばそれがない。

ないのだから好きな場所に行けばいいんだけども・・・。

「あれ、シロウさんどうしたんですか?」

「シープさんか、そっちこそこんな所で何してるんだ?」

大通りのど真ん中で羊男に会うのは珍しい。

いつもなら手には何かの書類を持っているだが今日はそれもなさそうだ。

「私はちょっと見回りに。」

「あぁ市場か。」

「最初のシロウさんみたいな人がいるかもしれませんから。」

「そりゃご苦労さん。」

「シロウさんこそお店はいいんですか?」

「ドルチェの新作を買ってこいとお使いを頼まれたんだよ。」

「なるほど戦力外通告ですね。」

俺がスキルを使えなくなったのは知らないはずなんだがなぁ。

盗聴器とかつけられてないよな?

「そういう事にしておいてくれ。」

「せっかくですから見て回ります?」

「邪魔になるだろ?」

「巡回も暇なんですよ。その点シロウさんがいれば暇つぶしも出来ますし目利きも出来ますから。」

「暇つぶしにだけは付き合ってやる。」

羊男自身も鑑定スキルを使えるから目利き自体は問題ないだろう。

俺にとっても暇つぶしになるので、羊男の後ろについて市場へと向かった。

「今日はいつも以上に活気があるな。」

「もうすぐ冬が明けますから、気分も上がるでしょう。」

「寒いのよりは暖かい方が気持ちがいいしな。」

「農地では作付けも始まりますし、それに向けての資金集めもあるんでしょうね。」

「そしてそんな時期にこそやらかすやつがいると。」

「そういう事です。あ、ちょっと行ってきます。」

ふらふらと市場の中を歩いていたが、突然いつものなよっとした感じが一瞬にして戦闘モードに切り替わった。

鋭い目をして向かったのは特に怪しくもないオッサンの露店だ。

店頭に並んでいるのは何の変哲もない壺や食器、何が気になるんだろうか。

しばらく様子を見ているとすぐに羊男が戻ってきた。

話しかけられたオッサンは慌てた様子で荷物をまとめている。

「何だったんだ?」

「壺の中に薬を入れて販売していたようです。中身を確認するとご禁制の物でした。」

「いや、なんで見ただけでわかるんだ?怖すぎるんだが。」

「呼び込みをするわけでもなくただ座っているように見えますが、冒険者の何人かが無言で壺の中を覗き込んでいました。あそこに薬があるのがわかっていたんでしょうね、目線でやり取りしていたのが見えたんです。」

「・・・この短時間でそれを感じるとか、ないわー。」

「それが仕事ですから。シロウさんもそういうのあるじゃないですか、どこに何が売ってるとかすぐわかるでしょ?」

「そういう事も出来た気もする。」

「なんで過去形なんです?」

「まぁいいじゃないか、次行くぞ次。」

その後も羊男と共に市場を巡回し、何人か注意していくのを眺めていた。

最近はポンコツみたいな感じに思っていたのだが、腐ってもギルド協会職員。

それなりの力量がないと、この仕事は出来ないよなぁ。

あらためてこいつの目はごまかせないなと思った。

「はぁ、今日はこんなもんでしょう。」

「ご苦労さん。」

「向こうでドルチェさんが店を出していましたね、どうぞ行ってきてください。お付き合いありがとうございました。」

「こっちこそいい勉強になった。」

「そうですか?」

「あぁ、悪いことは出来そうにない。」

「する気だったんですか?」

「生憎まっとうな商売を心がけていてね、とはいえ仮に魔が差してもそれはできそうもない。」

最初の時もそうだったが、頼りなさそうな顔しながらやるときはやる男だ。

悪いことはするもんじゃない。

羊男と別れてドルチェの店へ。

新作のレレモンと柚子のチーズケーキは中々に好評のようだ。

「シロウさん、あの柚子って果物また買ってきてくださいね!」

「あぁまた来月買い付けてくるつもりだ。」

「絶対ですよ!これなら夏も売れます、絶対に売れますから!」

「わかったからそんな大声出すなって。」

俺に気づくなりショーケースから身を乗り出してアピールしてくる。

レレモンと柚子は大半をジャムにしてみたが、全部消費できないのでドルチェにいくつか買ってもらった。

ジャムの味を確認するや否や即決での買い付けだ。

それがこうやって形になって戻ってくるのは感慨深いものがある。

「世の中にはあんなに美味しい果物がまだまだあるんですねぇ。」

「そうだな。」

「あ、次はこれでお菓子を作ろうと思うんですけどどう思いますか?」

はっとした顔をして下から何かを取り出すドルチェ。

思わず手を伸ばし受け取るも、もちろん鑑定スキルは反応しない。

見た感じは苺のようだが、詳しくはわからない。

鑑定スキルに慣れ過ぎてしまって詳細がわからないのが非常に不安だ。

メルディも普段こんな感じなんだろうか。

見るだけで物を見極めるってのは実はすごい事なんだなぁ。

「いいんじゃないか?」

「かなり酸っぱいのがネックなんですけど、シロウさんならどんな風にするのか意見を聞きたいんです。」

「なら明日まで待ってくれ、ちょっと考えてみる。」

「わかりました!明日じゃなくてもいつでもいいので教えてください。あ、いらっしゃいませ次の人どうぞ!」

後ろに別の客が来たので足早に店を後にする。

いつもならあれこれと見て回りたくなる露店も、今日は一切興味がわかない。

自分がいかにスキルに依存しているのかがよくわかるなぁ。

それがダメとは言わないが、ある程度は自分の目で判別できるようになったほうがいいだろうか。

とはいえ、明日には鑑定スキルは戻ってくるわけで。

ほんと、贅沢な悩みだなぁ。

もらった苺を転がしながら足早に店へと戻る。

「あ、おかえり。」

「おかえりなさいませ。」

「エリザ戻ってたのか。」

「うん、宝箱見つけたから帰ってきたんだけど今日は鑑定できないので。」

「悪いな、明日には見るから勘弁してくれ。」

「別に急いでないし大丈夫。ねぇそれは?」

「ドルチェから預かったやつだ。これでお菓子を作りたいんだと。」

「拝見します。」

ミラの手の上に苺を転がす。

いつもならこんなことしなくてもいいんだが、今日は全部丸投げだ。

「リフレッシュストロベリーですね、酸味が強く一粒で目が覚めると言われています。酸味はありますが甘みもそれなりにあるので、両方引き出せるようなお菓子がいいかもしれません。」

「酸っぱい苺か、なら甘く煮てパイにでもするか?」

「それじゃありきたりよ。もっと新しいのじゃないと。」

「新しいのってなんだよ。」

「そ、それは食べてから考えるわ!」

エリザは目にも止まらぬ速さで苺を奪い、口に入れてしまった。

が、本当に酸っぱいんだろう。

目を大きく見開きその場で足をジタバタさせている。

「酸っぱいってわかって食うなよ。」

「だってこんなに酸っぱいって思わなかったんだもの。」

「で、何か閃いたか?」

「じぇんじぇん。」

「だめじゃねぇか。」

やれやれ、これだから脳筋は。

スキルを失いどうなることかと思ったが、特に問題が起きるわけでもなく。

寝て起きれば元通りになっているだろう。

これからは気を付けようそんな事を思いつつ、スキルのありがたみを感じた一日だった。
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