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526.転売屋は旅について考える
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春が近いとはいえ暦はまだ冬。
予定していた宿場町の手前で暗くなってきたので、予定よりも手前の村で宿をとることになった。
今アネットとミラが宿の主人と交渉してくれている。
俺達は冬の空を見上げながらその帰りを待っていた。
「王都もいいけど一度は西方にも行ってみたいよなぁ。」
「そうですね、これだけの品を作られている場所がどんな景色なのか気になります。」
「知識がないからどの時代が適しているのかはわからないが、いっても江戸ぐらいだろう。」
「エド?」
「こっちの話だ。」
車が走っているわけでもなし、とはいえあんなにきれいなグラスを作れるだけの技術はある。
流石職人の国ってか?
異世界であることを忘れさせる品の数々にどうしても興味はそっちに行ってしまう。
「ただいま戻りました。」
「おかえり、どうだった?」
「何とか一部屋だけ空いていたのですが食事の用意が出来ないとのことで他所で食べてくるように言われました。」
「部屋が確保できるだけで十分だよ。」
「いつもはもっと先の宿で宿泊するのですが、どうしても速度を出せないので・・・。」
「それを買い付けた俺の責任だ気にしないでくれ。とりあえず裏に馬車を移動させて荷物を運び込もう。」
「それは私とアニエスさんでやるわ、グラスだけで良いでしょ?」
「あぁ、他はいつものように警報装置をつけておけばいい。」
大きな宿場町であれば停車場がありセキュリティもしっかりしているのだが、今回泊まる村には生憎とそういう場所はなかった。
ならば自衛しなければならないわけで。
誰かが馬車に残る事も出来るがそんな事をしなくてもいいように簡易の警報装置を積んできている。
警報装置と言っても、荷台部分に音が鳴る魔道具を置いておくだけだ。
これだけ静かであれば小さい音でもすぐに気づける。
後はエリザとアニエスさんが5秒以内に駆け付け捕まえられるだろう。
割れ物があると二人も遠慮してしまうので、そういう物は引き上げておけば気兼ねしなくていいわけだな。
それぞれが荷物を持ち、宿の主人に挨拶をして部屋に向かった。
手配できた部屋は6人分の大部屋。
ベッドは6つあるものの、言い換えればベッドしかない。
普段かなりいい部屋を使っているので落差はあるが、ぶっちゃけこういう部屋も嫌いじゃないんだよな。
元々金持ちじゃないし貧乏旅で雑魚寝部屋とかも経験がある。
「私こことったー!」
「子供かよ。」
「えへへいいでしょ別に。」
「まぁどこでもいいけど。荷物は角に置いておけばいいだろう、着替える時は俺が出ていく。」
「隅から隅まで見られてるんだから別に構わないわよ。」
「そうですよ、わざわざ御主人様が出て行かなくても。」
いやまぁそうなんだが、四人ではしたことはあっても六人はまだない。
そもそもするとも言っていないんだが、見るとその気になってしまうだろ?
「わ、私も問題ありませんよ。」
「無理しなくてもいいんだぞ?」
「マリー様は久々で緊張しているだけで、内心喜んでおりますのでどうぞご安心を。もちろん私もきになりません、今から脱ぎますか?」
「脱がなくていいっての。休憩が終わったら次は飯だな、といっても飯屋も一軒だけか。」
「そちらはここの主人が連絡してくださっているそうです。貸し切りだそうですよ。」
「そりゃそうだ。」
俺たち以外に客は居ないようだし、こんな村にわざわざ寄るぐらいなら一気に隣町に行った方が宿も飯も確保できる。
とはいえ、たまにはこういう場所もいいだろう。
ぜいたくは敵ってわけじゃないが、さっきも言ったようにこういうのは嫌いじゃない。
宣言通り各自がその場でサクッと着替え、俺は目の保養をさせてもらった。
「どうぞ行ってらっしゃいませ。」
「食事の手配までしてもらって助かった。」
「いえいえ。聞けば色々と御販売いただけたとか、こちらも助かります。」
「こういう商売だからな、持ちつ持たれつだ。」
この村で宿をとると決めて一番最初に向かったのは村長の家だ。
今回仕入れた品は個人で消費する物だけじゃなく、行く先々で売って利益を出す為の物も仕入れている。
ようは行商だ。
挨拶をしてから素性を明かし、こちらの扱っている品を提示する。
村長もそう言うのには慣れているので、いくつか必要なものを割安で売り、代わりに宿を提供してもらったというわけだ。
名産品なんかがあればそれを仕入れて相殺するんだが、生憎とこの村にそう言うのはなかった。
「いらっしゃいませ、お話は聞いております。六名様ですね。」
「急な訪問で申し訳ないがよろしく頼む。」
「とんでもない、うちはお客様が少ないので他所から来るお客様は大歓迎ですよ。ささ、どうぞお席に。」
「しつれしまーす。」
中央には店中の机をくっつけた即席の長机が用意されていた。
いつも適当に座るのだが、こういう場所で食べる時は入り口側にアニエスさん、そこから離れた場所に俺とマリーさんが座るようになっている。
エリザはその横、ミラとアネットはその時々で場所が違う。
「とりあえず料理はお勧めのやつを人数分、それとエールを同じく人数分頼む。」
「私は香茶をお願いします。」
「私も同じもので。」
「なんだ、ミラとマリーさんは飲まないのか。」
「今日はお食事を楽しみたい気分なんです。」
「なるほどな。」
「あ、おつまみみたいのってありますか?」
「ございます、飲み物と一緒にお持ち致しますね。」
さて、注文も終わった。
あまり客は来ないとのことだったが、おかみさんの手際は非常によく、あっという間に人数分のエールとおつまみが運ばれて来た。
「とりあえず乾杯するか。」
「「「「かんぱ~い!」」」」
程よく冷えたエールを胃の中に流し込む。
うーむ美味い。
「一仕事した後のお酒は最高ね!」
「そうですね、今日は珍しく二度も襲われました。」
「ま、それもすぐに返り討ちにしたけどな。」
「人数が少ないのが幸いでした。もう少し多ければアネット様に助力を頼んでいたでしょう。」
「もちろんお任せください!これでも多少は戦えるんですよ。」
「こういう時戦えないのが申し訳ないよな。」
「そうですね、何か自衛する武器があると良いのですが・・・。」
「その時はその時よ。私達を置いて逃げてくれれば後は何とかするわ、守る物が無い方が戦いやすいし。」
エールの泡を口につけつつエリザがまともな事を言う。
そうなんだよなぁ。
素人が下手な武力を持って戦うよりも、熟練者が何も考えずに戦う方が何倍も強いんだよな。
よく漫画とかで戦えない主人公が武器を持つシーンがあるけれど、大抵が最後には守られている。
そんな事になるのならさっさとその場を離れ、後で迎えに来た方がいい。
もっとも、それは残された人物が絶対に無事だと確信できたらの話だ。
そうじゃないのなら俺の女を置いていくのは・・・いや、結局そうするしかないんだろうな。
「どこか旅をするのなら護衛役にもう一人欲しい所だ。」
「この地域なら問題ないでしょうが王都に行くのならば治安の悪い場所も通ります。せめてあと一人、もしくは商隊などについていくのが望ましいかと。」
「・・・集団行動できるか?」
「失礼な、ちゃんとできるわよ。」
「シロウ様は他人に邪魔をされるのが嫌いなんです。」
「別にそう言うわけじゃないんだが・・・。」
「そうですねそれは私達も同じです、できれば私達だけで行けると良いですね。」
酒を飲んでない筈なのに何でマリーさんはそんなにも艶めかしい目をするのだろうか。
その目線から逃げるようにエールを一気に流し込むんだ。
運ばれてきた料理はどれも素晴らしく、地元産の野菜を使ったポトフは大好評だった。
特産品はないとのことだったが野菜を仕入れてもいいかもしれない。
「はぁ美味しかった。」
「お口に合ってよかったです。」
「いや、本当に美味しかった。明日の朝も頼めるか?」
「よろこんで。あぁ、こんなにたくさんの料理を作ったのは本当に久々です。この村は旅の方が少ないので・・・。」
「これだけの腕なら別の場所でもやっていけるとおもうんだがなぁ。」
「本当は娘からこっちに来て店を出さないかと誘われてはいるのですが・・・。」
はぁ、と小さなため息をつくおかみさん。
なるほど娘がいるのか。
道理でなかなかの色気があるとおもった。
なんていうかハーシェさんに似た雰囲気があるんだよな。
「娘さんは何をされているんですか?」
「ここから離れた山で果物を育てています。そう言えば西方のお話をされていましたね、娘も向こうの果物を育てているんですよ。」
「ん?」
「中々に大変なようですがあまり売れていないようで呼び寄せるお金がたまらないと言っていました。でも、必ず気に入ってもらえると旦那と一緒に頑張っているようです。」
「それは、ユジュという果物ですか?」
「そうですが・・・よくご存じですね。」
ふむ、料理の中に似た香りを感じたのは偶然じゃなかったか。
しかし世界は狭いもんだなぁ。
「ちょうど港町でそれを買い付けてきたんですよ。素晴らしい果物ですね。」
「まぁ、そうだったのですね。気に入っていただけたようで何よりです。」
「店を出すのなら港町に出すのか?」
「はい、空き店舗を紹介してもらえるとのことで後は契約だけ。とはいえこの村ではなかなかお金もたまらなくて。だめですね、お客様にこんな事を言うなんて。」
これだけの味がこの村に埋もれているのはもったいない。
是非向こうでも味わいたいものだ。
その娘からしっかり買い付けたのでもしかすると呼んでもらえるかもな。
「失礼な事を言いました。では皆様、明日の朝またお待ちしています。」
おかみさんに見送られながら宿まで戻る。
外はすっかり暗くなっていた。
風も冷たい、早く部屋に戻ってゆっくりしよう。
ゆっくりと星を見上げながら歩く。
「遅くなりました。」
少し遅れて支払いを終えたミラが走って戻って来た。
「いくらだった?」
「朝食代も含めて金貨1枚でした。」
「ま、そんなもんか。」
「ねぇアネット、ミラが変なこと言ってるけど私が酔っているせい?」
「聞き間違いじゃないと思いますよ。さっきの話を聞いたシロウ様ならそうすると思います。」
「そういう事だ。わざわざここに寄る事を考えたら向こうで店を出してもらった方が都合がいい。今は馬車だがもし船を使いだしたらここには来ないわけだしな。」
「あ、やっぱり考えているんですね。」
「あくまでも儲かるならのはなしだぞ。」
儲からないならやらない。
でも、儲かるからこそディアスはあそこで働いているんだろう。
今後を考えて投資すべきか、それともしっかりと地に足をつけて働くか。
「どちらにせよ、港であの味を楽しめるのは嬉しいです。」
「だな。継続的に柚子を買えるよう俺たちも動くか。」
「カーラにも掛け合ってみます、きっと気に入ると思いますよ。」
確かに化粧品に使えそうだ。
そうなればかなりの数を必要とするから一気に儲けが出るだろう。
そうなればおかみさんの出店も早まるというもの。
「戻ったらまた忙しくなるな。」
「そうですね、頑張りましょう。」
仕入れたからには売らねばならない。
できるだけ高く売るのが俺の仕事。
さぁ、がっつり売って大もうけさせてもらうとするか。
予定していた宿場町の手前で暗くなってきたので、予定よりも手前の村で宿をとることになった。
今アネットとミラが宿の主人と交渉してくれている。
俺達は冬の空を見上げながらその帰りを待っていた。
「王都もいいけど一度は西方にも行ってみたいよなぁ。」
「そうですね、これだけの品を作られている場所がどんな景色なのか気になります。」
「知識がないからどの時代が適しているのかはわからないが、いっても江戸ぐらいだろう。」
「エド?」
「こっちの話だ。」
車が走っているわけでもなし、とはいえあんなにきれいなグラスを作れるだけの技術はある。
流石職人の国ってか?
異世界であることを忘れさせる品の数々にどうしても興味はそっちに行ってしまう。
「ただいま戻りました。」
「おかえり、どうだった?」
「何とか一部屋だけ空いていたのですが食事の用意が出来ないとのことで他所で食べてくるように言われました。」
「部屋が確保できるだけで十分だよ。」
「いつもはもっと先の宿で宿泊するのですが、どうしても速度を出せないので・・・。」
「それを買い付けた俺の責任だ気にしないでくれ。とりあえず裏に馬車を移動させて荷物を運び込もう。」
「それは私とアニエスさんでやるわ、グラスだけで良いでしょ?」
「あぁ、他はいつものように警報装置をつけておけばいい。」
大きな宿場町であれば停車場がありセキュリティもしっかりしているのだが、今回泊まる村には生憎とそういう場所はなかった。
ならば自衛しなければならないわけで。
誰かが馬車に残る事も出来るがそんな事をしなくてもいいように簡易の警報装置を積んできている。
警報装置と言っても、荷台部分に音が鳴る魔道具を置いておくだけだ。
これだけ静かであれば小さい音でもすぐに気づける。
後はエリザとアニエスさんが5秒以内に駆け付け捕まえられるだろう。
割れ物があると二人も遠慮してしまうので、そういう物は引き上げておけば気兼ねしなくていいわけだな。
それぞれが荷物を持ち、宿の主人に挨拶をして部屋に向かった。
手配できた部屋は6人分の大部屋。
ベッドは6つあるものの、言い換えればベッドしかない。
普段かなりいい部屋を使っているので落差はあるが、ぶっちゃけこういう部屋も嫌いじゃないんだよな。
元々金持ちじゃないし貧乏旅で雑魚寝部屋とかも経験がある。
「私こことったー!」
「子供かよ。」
「えへへいいでしょ別に。」
「まぁどこでもいいけど。荷物は角に置いておけばいいだろう、着替える時は俺が出ていく。」
「隅から隅まで見られてるんだから別に構わないわよ。」
「そうですよ、わざわざ御主人様が出て行かなくても。」
いやまぁそうなんだが、四人ではしたことはあっても六人はまだない。
そもそもするとも言っていないんだが、見るとその気になってしまうだろ?
「わ、私も問題ありませんよ。」
「無理しなくてもいいんだぞ?」
「マリー様は久々で緊張しているだけで、内心喜んでおりますのでどうぞご安心を。もちろん私もきになりません、今から脱ぎますか?」
「脱がなくていいっての。休憩が終わったら次は飯だな、といっても飯屋も一軒だけか。」
「そちらはここの主人が連絡してくださっているそうです。貸し切りだそうですよ。」
「そりゃそうだ。」
俺たち以外に客は居ないようだし、こんな村にわざわざ寄るぐらいなら一気に隣町に行った方が宿も飯も確保できる。
とはいえ、たまにはこういう場所もいいだろう。
ぜいたくは敵ってわけじゃないが、さっきも言ったようにこういうのは嫌いじゃない。
宣言通り各自がその場でサクッと着替え、俺は目の保養をさせてもらった。
「どうぞ行ってらっしゃいませ。」
「食事の手配までしてもらって助かった。」
「いえいえ。聞けば色々と御販売いただけたとか、こちらも助かります。」
「こういう商売だからな、持ちつ持たれつだ。」
この村で宿をとると決めて一番最初に向かったのは村長の家だ。
今回仕入れた品は個人で消費する物だけじゃなく、行く先々で売って利益を出す為の物も仕入れている。
ようは行商だ。
挨拶をしてから素性を明かし、こちらの扱っている品を提示する。
村長もそう言うのには慣れているので、いくつか必要なものを割安で売り、代わりに宿を提供してもらったというわけだ。
名産品なんかがあればそれを仕入れて相殺するんだが、生憎とこの村にそう言うのはなかった。
「いらっしゃいませ、お話は聞いております。六名様ですね。」
「急な訪問で申し訳ないがよろしく頼む。」
「とんでもない、うちはお客様が少ないので他所から来るお客様は大歓迎ですよ。ささ、どうぞお席に。」
「しつれしまーす。」
中央には店中の机をくっつけた即席の長机が用意されていた。
いつも適当に座るのだが、こういう場所で食べる時は入り口側にアニエスさん、そこから離れた場所に俺とマリーさんが座るようになっている。
エリザはその横、ミラとアネットはその時々で場所が違う。
「とりあえず料理はお勧めのやつを人数分、それとエールを同じく人数分頼む。」
「私は香茶をお願いします。」
「私も同じもので。」
「なんだ、ミラとマリーさんは飲まないのか。」
「今日はお食事を楽しみたい気分なんです。」
「なるほどな。」
「あ、おつまみみたいのってありますか?」
「ございます、飲み物と一緒にお持ち致しますね。」
さて、注文も終わった。
あまり客は来ないとのことだったが、おかみさんの手際は非常によく、あっという間に人数分のエールとおつまみが運ばれて来た。
「とりあえず乾杯するか。」
「「「「かんぱ~い!」」」」
程よく冷えたエールを胃の中に流し込む。
うーむ美味い。
「一仕事した後のお酒は最高ね!」
「そうですね、今日は珍しく二度も襲われました。」
「ま、それもすぐに返り討ちにしたけどな。」
「人数が少ないのが幸いでした。もう少し多ければアネット様に助力を頼んでいたでしょう。」
「もちろんお任せください!これでも多少は戦えるんですよ。」
「こういう時戦えないのが申し訳ないよな。」
「そうですね、何か自衛する武器があると良いのですが・・・。」
「その時はその時よ。私達を置いて逃げてくれれば後は何とかするわ、守る物が無い方が戦いやすいし。」
エールの泡を口につけつつエリザがまともな事を言う。
そうなんだよなぁ。
素人が下手な武力を持って戦うよりも、熟練者が何も考えずに戦う方が何倍も強いんだよな。
よく漫画とかで戦えない主人公が武器を持つシーンがあるけれど、大抵が最後には守られている。
そんな事になるのならさっさとその場を離れ、後で迎えに来た方がいい。
もっとも、それは残された人物が絶対に無事だと確信できたらの話だ。
そうじゃないのなら俺の女を置いていくのは・・・いや、結局そうするしかないんだろうな。
「どこか旅をするのなら護衛役にもう一人欲しい所だ。」
「この地域なら問題ないでしょうが王都に行くのならば治安の悪い場所も通ります。せめてあと一人、もしくは商隊などについていくのが望ましいかと。」
「・・・集団行動できるか?」
「失礼な、ちゃんとできるわよ。」
「シロウ様は他人に邪魔をされるのが嫌いなんです。」
「別にそう言うわけじゃないんだが・・・。」
「そうですねそれは私達も同じです、できれば私達だけで行けると良いですね。」
酒を飲んでない筈なのに何でマリーさんはそんなにも艶めかしい目をするのだろうか。
その目線から逃げるようにエールを一気に流し込むんだ。
運ばれてきた料理はどれも素晴らしく、地元産の野菜を使ったポトフは大好評だった。
特産品はないとのことだったが野菜を仕入れてもいいかもしれない。
「はぁ美味しかった。」
「お口に合ってよかったです。」
「いや、本当に美味しかった。明日の朝も頼めるか?」
「よろこんで。あぁ、こんなにたくさんの料理を作ったのは本当に久々です。この村は旅の方が少ないので・・・。」
「これだけの腕なら別の場所でもやっていけるとおもうんだがなぁ。」
「本当は娘からこっちに来て店を出さないかと誘われてはいるのですが・・・。」
はぁ、と小さなため息をつくおかみさん。
なるほど娘がいるのか。
道理でなかなかの色気があるとおもった。
なんていうかハーシェさんに似た雰囲気があるんだよな。
「娘さんは何をされているんですか?」
「ここから離れた山で果物を育てています。そう言えば西方のお話をされていましたね、娘も向こうの果物を育てているんですよ。」
「ん?」
「中々に大変なようですがあまり売れていないようで呼び寄せるお金がたまらないと言っていました。でも、必ず気に入ってもらえると旦那と一緒に頑張っているようです。」
「それは、ユジュという果物ですか?」
「そうですが・・・よくご存じですね。」
ふむ、料理の中に似た香りを感じたのは偶然じゃなかったか。
しかし世界は狭いもんだなぁ。
「ちょうど港町でそれを買い付けてきたんですよ。素晴らしい果物ですね。」
「まぁ、そうだったのですね。気に入っていただけたようで何よりです。」
「店を出すのなら港町に出すのか?」
「はい、空き店舗を紹介してもらえるとのことで後は契約だけ。とはいえこの村ではなかなかお金もたまらなくて。だめですね、お客様にこんな事を言うなんて。」
これだけの味がこの村に埋もれているのはもったいない。
是非向こうでも味わいたいものだ。
その娘からしっかり買い付けたのでもしかすると呼んでもらえるかもな。
「失礼な事を言いました。では皆様、明日の朝またお待ちしています。」
おかみさんに見送られながら宿まで戻る。
外はすっかり暗くなっていた。
風も冷たい、早く部屋に戻ってゆっくりしよう。
ゆっくりと星を見上げながら歩く。
「遅くなりました。」
少し遅れて支払いを終えたミラが走って戻って来た。
「いくらだった?」
「朝食代も含めて金貨1枚でした。」
「ま、そんなもんか。」
「ねぇアネット、ミラが変なこと言ってるけど私が酔っているせい?」
「聞き間違いじゃないと思いますよ。さっきの話を聞いたシロウ様ならそうすると思います。」
「そういう事だ。わざわざここに寄る事を考えたら向こうで店を出してもらった方が都合がいい。今は馬車だがもし船を使いだしたらここには来ないわけだしな。」
「あ、やっぱり考えているんですね。」
「あくまでも儲かるならのはなしだぞ。」
儲からないならやらない。
でも、儲かるからこそディアスはあそこで働いているんだろう。
今後を考えて投資すべきか、それともしっかりと地に足をつけて働くか。
「どちらにせよ、港であの味を楽しめるのは嬉しいです。」
「だな。継続的に柚子を買えるよう俺たちも動くか。」
「カーラにも掛け合ってみます、きっと気に入ると思いますよ。」
確かに化粧品に使えそうだ。
そうなればかなりの数を必要とするから一気に儲けが出るだろう。
そうなればおかみさんの出店も早まるというもの。
「戻ったらまた忙しくなるな。」
「そうですね、頑張りましょう。」
仕入れたからには売らねばならない。
できるだけ高く売るのが俺の仕事。
さぁ、がっつり売って大もうけさせてもらうとするか。
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