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522.転売屋はお久しぶりの人に会う

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何かある、そう覚悟していたのだが結局は向こうからのアクションもなく港町に着いてしまった。

なんていうか拍子抜けだな。

絶対に何かしてくると思っていたんだが、あくまでも冬の終わりまでは手を出さないということなんだろうか。

「船旅はいかがだったかな?」

「あぁ、非常に快適だった。」

「帰りもと言ってあげたいけど、喧嘩の様子を見に行かないといけないから勘弁して欲しい。」

「帰りは馬車を手配してのんびり帰るさ。」

「それがいいよ。あぁ、ちゃんと期日までには向こうに戻るから安心して、彼女もそれを望んでいる。」

「それまでに何とか金を稼いでおくよ。金貨50枚、だったよな?」

念には念を。

急に値段が上がったといわれる可能性もあるので、早いうちに言質を取っておく。

所詮は口約束だがプレッシャーにはなるだろう。

「その通り。」

「ならもうひと頑張りって所か。喧嘩に巻き込まれないようにな。」

「あはは、心配されるなんていつ振りだろう。大丈夫、今回はそこまで首を突っ込まないから。それじゃあ気をつけて。」

荷降しを終えディアスの船を全員で見送る。

さて、予定よりも早く着いてしまった。

マリーさんたちの到着は今日の夕方。

ひとまずそれまでに雑用を済ませておくか。

「アネットは宿を人数分確保しておいてくれ。エリザはミラと一緒に荷物の売買を、俺は塩を買い付けてくる。」

「一緒に行かなくていいの?」

「本命が手を出してこなかったんだ、ここで襲われることはないだろう。」

「わからないわよ。油断させといてブスってやられる可能性もあるわ。」

「別に命を狙われてるわけじゃないし、何より俺は妹を買う側の人間だ。流石にそれはないだろう。」

「それはそうだけど、くれぐれも気をつけてよね。」

本来は護衛の一人でもつけるべきなんだろうが、さっきも言ったように命を狙われているわけじゃない。

あくまでも商人同士のやり取りをするだけの話。

俺が裏で探りを入れていることは知らないわけではないだろうが、証拠も無しに襲うことはないはずだ。

向こうもわざわざ此方を指名して売ろうとしているんだから売買が成立する前にちょっかいは出してこないだろう。

三人と別れて港のほうへと向かう。

えーっと、確かこの辺に・・・。

お、いたいた。

「ゾイル、久々だな。」

最初に出会ったときのように、港の一角で魚が山盛りになった入れ物の前で客を探していた。

客というか獲物というか。

まぁどっちでも一緒か。

「誰かと思ったら金持ちの買取屋じゃないか。」

「その呼び方はどうなんだ?」

「間違いないだろ?」

「期待している所悪いが今回は弟に用があるんだ。」

「まさか、あの量の塩がもうなくなったのか?」

「まったくなくなったわけじゃないが、そろそろなくなりそうなんでな。追加購入がしたい、アポを取れるか?」

信じられないという顔をするゾイルに向かってニヤリと笑みを浮かべる。

いくら塩が売れるからって初回の量を半年も経たずに売ったんだからそんな顔もするだろう。

魚の干物系が無くなって来たのでついでにゾイルから買い付けてから、宿に戻った。

「お帰りなさいませ。」

「あれ、アニエスさんもう着いたんですか?」

「頑張らせていただきました。」

宿に入るとアニエスさんが俺に気づき挨拶をしてくれた。

今日の夕方到着のはずが昼過ぎには到着しているということはだ。

本人はともかく同乗者は中々に大変だっただろうと思われる。

「と、いうことはマリーさんは今・・・。」

「上でお休みになられています。報告には参加できると思いますので、そっとしておいてください。」

「帰りはゆっくり戻るとしよう。」

「それがよろしいかと。では私も部屋に戻ります。」

「まだ時間はある、ゆっくりしてくれ。」

「お気遣いありがとうございます。」

涼しい顔はしているものの、疲れているのは間違いない。

買い付けは終わったので後は先方が到着するのを待つだけだ。

アネットが手配してくれた部屋に戻って、しばし時間をつぶす。

そして夕刻。

「失礼、シロウ様はおいでか?」

聞き覚えのある声が俺の名前を呼ぶ。

エリザが武器を持ちドアの横に立つ。

「いるぞ、入ってくれ。」

聞き覚えがあるとはいえ何が起きるかわからない。

心臓が早鐘のようにドクドクと鳴る音を聞きながら、ゆっくりと開く戸を見つめ続けた。

「ホリアさん、久々だな。」

「あぁまさかこんな場所で合うとは思わなかった。」

ドアの前にいたのは重厚な鎧を身に着けた一人の男。

鎧の中心にはこれまた見覚えのある紋章が描かれている。

聖騎士団。

国中の騎士団の中から選りすぐられた団員のみが入ることを許される精鋭の集う場所だ。

「大丈夫そうね。」

「問題ない、マリーさんたちを呼んできてもらえるか?」

「わかったわ。」

入れ替わるようにしてエリザが部屋の外に出る。

ホリアさんを応接用のソファーに案内して俺もその前に座った。

「元気そうだな。」

「おかげさまで。そっちも体調は良くなったのか?」

「完全復活とまでは行かないが環境も含めてだいぶマシになった。心配感謝する。」

彼とはとある騒動で知り合ったが、その時に彼が探していた人物を俺が偶然助けて以来の関係だ。

が、それを公表することはできない事情があるため念の為名前を出さずに状況を確認したわけだな。

そうか、良くなったのか。

「さて、時間も少ない早速報告報告させてもらいたいんだが・・・。」

「失礼します。」

「げ、アニエスじゃねぇか。」

「これは、ホリア様お久しぶりです。」

「様付けは勘弁してくれ、アンタの方が上官だろう?」

「今は聖騎士団を抜けた身ですから。」

入ってきたアニエスさんを見てホリアさんが目を見開く。

どうやら二人は知り合い、かつ昔はアニエスさんの方が上官だったようだ。

世間は狭いなぁ。

「再会に関してはまた後でやってくれ、報告を頼む。」

「わかった。お前が関わっているデビット=ベルモントだが、アレは黒も黒真っ黒の商人だな。表向きは貿易商人として国外と国内を移動して利益を上げているが、実際は奴隷となった犯罪者を別の人間とすり替えて普通の奴隷として販売している。すり替える為の人間は国外で手配しているようで俺達でもそれを探ることは出来ていないが、奴が犯罪者を別人にすり替えているのは間違いない。俺が別の筋から仕入れた話では、わざわざ戦地に行って死にかけの人間を拾って来るらしい。死神だよあいつは。」

「戦地か、なるほどな。」

「何か知ってるのか?」

「いやな、実はここに来るために奴の船に乗ってきたんだ。その時に隣国で喧嘩が起きているから商売をしてくると言っていた。荷物はうちで買い付けた大量の食糧と燃料、おおかたそれを餌に新しい素材を探してくるんだろうな。」

「おいおい、あいつの船に乗ったのかよ。」

「特に何もなかったぞ、なんせ俺は奴の顧客候補だからな。」

信じられないという顔をするホリアに俺はドヤ顔をする。

俺がやつから奴隷を買うという話もしてあるので、そっちも調べてあるはずだ。

それを知っているからこそ船に乗ってきたというのが信じられないんだろうな。

なんせ敵陣のど真ん中だ。

普通は選択肢にすら入らない。

「はぁ、相変わらずやることが豪快だな。」

「それしかここに来る手段がなかったんだよ。でもまぁ、そのおかげで情報を仕入れられたしいいじゃないか。で、もう一人の情報はどんな感じだ?」

「奴がいま手元に置いている奴隷だが、元は王都の研究所にいたらしい。だがとある事件を起こして家から破門されそのまま奴隷に、その後奴が隣国で仕入れてきた何者かとすり替わったって所まではわかっている。どういう手段を使ったかはわからないがご丁寧に身分証まで作って登録されていて、今はフローリアと名前を変えているようだ。元はキキという名前らしいな。」

「そう、あの子破門されたの。」

「知り合いなのか?」

「身内よ。で、あの子何したの?」

「研究成果を漏洩したのさ。『人造魔獣の飼育とその有効性』っていうかなりグレーな内容だ。」

「待ってください、それは過去に一度封印されたはずでは?」

静かに話を聞いていたマリーさんが驚いた顔をして質問してくる。

過去に封印ねぇ。

よっぽどよくない内容だったんだろう。

「お前、なんでそれを知ってる。」

「知っていて当然です、研究を封印するように指示した本人なのですから。」

「封印の指示は共同研究していた王子殿下自ら出されたんだぞ。・・・おい、まさか。」

「世の中には知らなくてもいいことがたくさんあると思わないか?」

「し、失礼いたしました!」

さっきまで堂々としていたホリアが急にマリーさんに向かって頭を下げる。

いや、土下座だなこれは。

「顔を上げてください、私はただの平民で王子殿下とは何のかかわりもありません。そうですねアニエス。」

「その通りですマリアンナ様。ホリアも顔を上げなさい、聖騎士団員が平民に身を伏せるなど前代未聞ですよ。」

「・・・わかった。」

ホリアが立ち上がり先程と同じ姿勢に戻る。

いや、さっきよりも背筋が伸びているようだ。

「ともかくだ、その封印されたはずの研究結果をどこぞに横流しして家から破門され奴隷に落ちた。普通であれば売られる事なく殺されるか犯罪奴隷として労役につくところをなぜかデビットが手に入れ、他人として売買している。というわけだな。」

「まぁそんな感じだ。」

「はぁ、面倒だとは思っていたがそんなことになってるとはなぁ。マリーさん、その研究ってかなりやばいのか?」

「魔物を人工的に作り出して飼育し素材を回収するという内容ですが、そもそも魔物を作り出すこと自体がかなり危険かつ不安定なので。学生時代にカーラと共に研究こそしましたがすぐにやめました。現在も実用はされていないはずです。」

「実用化されればダンジョン等に依存せずに素材を回収できるはずでしたが、命を作り出す行為は非常に難しくまた倫理的にもよろしくないので禁止されました。これはどの国でも同じような見解ですが、どこにも属さず研究している者がいてもおかしくはないでしょう。」

エリザの妹だがなかなかの危険人物のようだ。

確かに鑑定スキルが使えて魔物の生態や素材に精通しているのは俺の商売にとって非常にプラスになる。

とはいえ、元は犯罪者で良くないことをしたのもまた事実。

それが表ざたになった時にどうなるかだよなぁ。

「ちなみに、それを知らずに俺が買ったとして事実が公表されることはあるのか?」

「表向きにはキキという人物は奴隷に落ちた後失踪、死亡したとされている。よって、この世にそういった人物は存在しない為、公表されることはないだろう。」

「うわ、無かったことにしやがった。」

「仕方ないだろ、犯罪奴隷を逃がしたとなったら大目玉だからな。ちなみにその裁定を下したやつは判明後自分も奴隷に落とされて、今は僻地の魔石鉱山で使いつぶされてるんじゃないか?」

「それもこの間の大掃除でわかったのか?」

「まぁ、そんな感じだ。こんな所で話がつながるとは思わなかったが、ともかく買うことに関しては問題ない。あくまでもフローリアという名の奴隷を買うだけの話で、それをキキと呼ぼうがどうしようかはお前らの好きにしていい。が、問題があるのは買う人間の方だな。」

「だよなぁ。」

犯罪者から奴隷を買う。

もちろん確たる証拠はないのだが、明らかに黒とわかるやつから買う事で俺の心象が変わることを懸念しているんだろう。

デビットから俺が奴隷を買う事で俺が黒いやつらとかかわっていると思われてしまう。

それは王家ともかかわりが深いだけに避けてほしい、そんな感じか。

「どうしても買うんだよな。」

「あぁ、買う。とはいえそれによって他人様に迷惑がかかるのは正直俺も避けたいところだ。」

「じゃあどうする?」

「つまりは俺がデビットから買わなきゃいいんだよな?善意の第三者が買って、かつ俺がその事情を知らなければ問題はない。」

「元犯罪奴隷という事実はあるから俺達のような組織に所在ぐらいは調査されることもあるだろう。まぁ、余程の事が無ければ誰が所持してると記録に残るだけだ。」

「だそうだぞエリザ、問題は全て解決した。」

エリザと目線を合わせ同時に深く頷く。

つまり俺が買わなきゃ問題ない。

表向きにはエリザと俺は客と店主という関係だ。

結婚しているわけではないのであくまでも他人。

恋人同士・・・といえばそうなんだろうが、戸籍上のかかわりは一切ない。

だから客がどんな奴隷を買おうが俺の知った事じゃない。

知らない所でエリザが奴隷を買い、その後俺と結婚したとしてもそれは俺が悪いわけじゃない。

あくまでもエリザが妹とは知らずに奴隷を買った。

ただそれだけだ。

「私があの子を買うわ、それで問題ないでしょ?」

「こっちの不手際をそっちが回収してくれるのであればむしろありがたいか。今回の件は・・・。」

「お互いに他言無用。俺達は何も聞いていない、そうだよな?」

「はい。ホリア様とは偶然ここでお会いしてシロウ様と食事をされた、ただそれだけです。」

「ってことで全部忘れて飯にしようぜ。それぐらいの時間はあるんだろ?」

「あぁ、明日までは自由だ。それと個人的に頼みたいこともあったし、まずは飯にしようじゃないか。もちろんそっちのおごりだよな?」

お互いに表情を崩し全員が気を緩める。

個人的にってことは彼に関しての事だろうか。

大事な話は終わったがどうやらまだ別の話が待っているようだ。
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