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516.転売屋はおでんを仕込む

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「冬といえばあれもあるよな。」

「あ、またシロウが何か考えてる。」

「この前のお餅も非常に美味しかったのですが、まだあるのですか?」

「あぁ、とっておきを忘れていた。」

鍋もカニも餅もやったのに、冬にこれを食べないのはどういうことだ。

材料だって探せばちゃんとあるのに何故思いつかなかったんだろうか。

さぁ、まだ冬は終わらない。

とっておきを準備しようじゃないか。

「それで、次はなんなの?」

「おでんだ。」

「オデン?」

「また発音が違うが、まぁいいか。おでんってのは大量の昆布だしに浸した野菜や肉なんかを思い思いにつつく料理だ。」

「お鍋とは違うんですか?」

「似て非なるものだな。確かに出汁は使っているが、鍋と違ってシメはないし好きなものをのんびりと食べる感じだ。鍋はワイワイ食うだろ?」

「そうですね、同じ味をみんなでって感じです。」

「鍋には鍋の良さがあるが、おでんは各自がおのおののペースでのんびり食べる。こたつで食うのもいいが、外で食うのもいいぞ。」

「え、外!?」

エリザが素っ頓狂な声を上げる。

春に近づいているとはいえまだまだ夜は寒い。

わざわざ外で食うなんてって思ったんだろう。

これだから脳筋は・・・いや、脳筋関係ないか。

ともかくだ、外で食うのがいいんだよ。

背中は寒いが体の中心から温まっていく感じ。

熱くなればすぐにほてりを冷ませるのがいいよなぁ。

「なんだかとても楽しそうです。」

「あぁ、楽しいと思うぞ。」

「必要な具材を教えてくださればすぐにご準備します。」

「かなりの量になるぞ。」

「え、そうなの?」

「いつもの鍋を基準にすると10倍ぐらいか。」

「・・・どの鍋を使えばいいでしょうか。」

「炊き出し用のやつがあっただろ、アレを使おう。家のコンロじゃ無理だから庭に火を起こすか、最悪前みたいに屋敷で作るかだな。」

ちっちゃい鍋で作ったって美味しくない。

やっぱり大鍋でくつくつやり、そこからつまむのがおでんの醍醐味だ。

「とりあえず何を入れるか書き出してくれる?」

「それもそうだな。えーっと、大根と卵と白滝は別ので代用するとしてそれから・・・。」

考えてみたものの、練りもの系がほぼ全滅なのか。

作ろうにもここで魚介を集めるのはなかなかに難しい。

しかたない、今回はシンプルな感じで行くとしよう。

「ではロングラディッシュを15本、ソーセージを20本、アングリーバードの卵20個にゼリーフィッシュの切り身が10個、それとワイルドカウのすじ肉ですね。」

「トポテとか入れてもいいんだが、崩れると出汁が濁るんだよなぁ。」

「油揚げとか言うのも食べてみたかったけど仕方ないわね。」

「また港町に行ったときに探してみよう。向こうならあってもおかしくない。」

「では至急手配いたします。シロウ様はお鍋と出汁の準備をお願いできますか?」

「任された。」

「じゃ、ダンジョンに行ってくるわね。」

「きをつけて。」

各々がおでんづくりの準備に入る。

食べるのはもちろん好きだが、作るのも結構好きだ。

特に料理は自家消費できるから自分のために頑張れるのがいいよな。

屋敷に到着後ハワードに出汁づくりを指示してそのまま裏庭へ。

ちょうどミミィがこの前の後片付けをしていた。

「あ、お館様!」

「今日も元気だな。」

「えへへ、元気だけが取り柄ですから。」

「このぐらいの大鍋無かったか?」

「寸胴ですか?」

「いや、これぐらいのやつだ。」

胸の前で腕を伸ばしてわっかを作ってみる。

別に同じサイズではなくていいんだが、このぐらいあるほうが楽しいよな。

「多分あったはずです、ハワードさんが使ってなければ。」

「出汁づくりに使ってる可能性もあるわけか。ま、あるのがわかっただけでも良しとしよう。ありがとな。」

「えへへ、どういたしましてです。」

小動物の様な可愛さがあるよな、ミミィは。

なんていうかくしゃくしゃと頭をなでたくなるやつだ。

とはいえ、そんな事をするとセクハラで訴えられかねないのでもちろんしない。

まぁ、正確には雇用主じゃなくて本物の主人なので自分の奴隷に対してどのような扱いをしても咎められるわけではないのだが・・・。

それでもやっちゃいけない感があるんだよなぁ。

ミラとかアネットの胸や尻は何も考えずに揉むのに、不思議なもんだ。

「ハワード、出汁用の鍋なんだが・・・。」

「え?あの、使いやすいんでつい・・・。まずかったです?」

「いや、予定通りの鍋を使ってるようで安心した。」

「あー、よかった。またグレイスさんに小言いわれる所でした。」

「私が何か?」

って、いつのまに登場したのか厨房を囲うカウンターの向こうからグレイスが涼しい顔でこちらを見ていた。

出迎えがなかったのはハーシェさん関係で何かしていたんだろう。

「おでんを作るんだが一緒にどうだ?」

「この間お餅を頂いたところですが?」

「別にいいじゃないか、みんなで食った方が美味いんだ。」

「お館様が食いしん坊なのはハーシェ様より聞いていましたが、どちらかというと食道楽ですね。」

「食道楽上等だよ。美味い物を楽しめない人生なんてごめんだね。」

「さすがお館様!いいこと言うねぇ。」

「ハワード、よそ見するんじゃありません噴きますよ。」

「おっとぉ!」

出汁を取るときは沸騰させ過ぎないのがポイントだ。

さすがグレイス、ハワードのピンチを華麗に救ったな。

「食道楽な主人は迷惑か?」

「そんな事は申しておりません。」

「ならいいんだが。ハーシェさんはどんな調子だ?」

「少しつわりがひどいようで横になっておいでです。昨日お医者様が来られましたが、経過は良好のようです。」

「そうか、宜しく頼むな。」

「どうぞお館様は何も心配なくご準備をなさってください。」

あまり使用人を甘やかすなとグレイスは言いたいのかもしれないが、怒ってるわけではなさそうなのでこのままいかせてもらおう。

ハーシェさんが少し心配だが、優しい出汁の味なら食べられるかもしれない。

一度店に戻りミラの報告を受ける。

ロングラディッシュは畑から調達できたようで、追加でロケットキャロットという白いニンジンを持って帰ってきた。

「個人的にはブラウンマッシュルームも美味しいと思うのですが、どう思われます?」

「確かにすまし汁に入れると美味いんだよな、とりあえずやってみるか。」

「ありがとうございます。」

「ご主人様、スモールオクトパスはどうですか?」

「ん?タコ?」

「ご主人様が作ってくださったタコ焼き、あるじゃないですか。アレに入っていたのがおいしかったのでまた食べたいなって。」

「なるほど、明石焼きも出汁で食うしありだろう。」

「明石焼きですか?」

「タコ焼きを醤油と鰹節じゃなくて出汁にくぐらせて食うんだ。今回は入れられないが別で作ってやるよ。」

「やった!楽しみにしてます!」

たこ焼きを作ったのはずいぶん前なんだが、よく覚えてるなぁ。

タコ焼き器が無くて上手く作れなかったんだが、それに似たやつをマートンさんのお弟子さんに頼んである。

そういや出来たって連絡ないんだが、今度聞いてみよう。

「出汁を入れるのであれば出汁巻きもおいしそうです。」

「あー、美味いかもしれんがチャレンジしたことないな。」

「やりましょうよ!」

「となるとだ、大鍋でやるよりもそういうのは別の鍋でやる必要があるわけで。それなら仕切りがほしいよなぁ。なるほど、出店のおでん屋がお鍋じゃない理由はそれか。」

色々な味を楽しませるためには種類が欲しい。

だが、それ全部を喧嘩させないためにはしっかりと間仕切りをしてやらないといけない。

あの鉄製の仕切りをどう用意するか。

下手な金属使うと味が代わるかもしれないし・・・。

「やばいな今更ながらやることが増えてきた。」

「食材は任せを、すぐに手配いたします。」

「私はお酒用意します!お出汁に合うのはやっぱりあのお酒ですよね。ハワードさんにきいてこよ~っと。」

「ほどほどにしろよ、エリザが浴びるように飲むからな。」

珍しい酒となると遠慮せず飲むからなぁあいつは。

おでんにはやぱり熱燗。

あー飲みたくなってきた。

いっそリアカーでも引いて商売するか?

酒をメインに出汁さえあればいくらでも具材は補充できる。

変わりタネとか用意して日替わりでとか面白いかもしれない。

うーむ考えれば考えるほど深みにはまりそうだ。

ただの飯がこんなに悩むことになろうとは。

グレイスの言うように食道楽なんだろうなぁ俺は。

それも金儲けの絡んだ欲の深い食道楽。

でもそれが俺らしいよな。

やるからには美味い物を食いたい。

そして儲けたい。

俺の望むままにやりたいことをやればいい。

女達は口をそろえて言うだろう。

あのグレイスでさえそういいそうだ。

『お館様の好きにすればいいでしょう。私が何を言っても聞きそうにありません。』

とかいってな。

「ただいまー!」

とか考えていたらエリザが戻ってきた。

さぁ、まだまだ忙しくなるぞ。

具材の準備が出来たら今度は仕込みだ。

やることは山積み、楽しくなってきたな。
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