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500.転売屋は後始末をする

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流行り病は完全になくなったわけではないが、少しずつ落ち着きを取り戻してきた。

一度かかると免疫がつくんだろう。

二度かかるという話はなかったし、薬の材料もちゃんと届くようになったので後はアネットが頑張ってくれた。

エリザもミラも全快していつもの日常が戻ってきている。

もっとも、隣町では流行が始まったそうで薬の注文が大量に入ってきていた。

冒険者達も二度かからないとわかれば怖がらずにもぐってくれる。

この分だと材料不足になることはないだろう。

「ただいま。」

「おかえりなさいませ、どうでしたか?」

「幸いにも死者は出なかったそうだ。アネットが病気を押して薬を作り続けてくれたおかげだとアナスタシア様も喜んでたぞ。」

「ご主人様がダンジョンにもぐってくださったおかげです。」

「その通りではあるのですが・・・。」

「わかってるからこれ以上言うな。もう無理やりダンジョンにはもぐらないって。」

エリザに怒られ、家に戻ってミラとアネットに怒られ、翌日にはハーシェさんにも怒られてしまった。

あとマリーさんな。

心配してくれるのはありがたいがアレは不可抗力だ。

何度も言われるのは流石に堪える。

「ご理解いただけたようでなによりです。」

「でも、それがあってからベッキーちゃんがダンジョンを移動するようになったそうですね。」

「あぁ、自分にも出来ると自信をつけたみたいだ。なんせ、死なないからな。」

「それで本当にいいんでしょうか。」

「本人が喜んでるんだ、俺達がどうこういう問題じゃない。それに普段行きにくい場所の依頼が達成出来ているそうじゃないか。むしろwin-winだろう。」

「ダンジョン内に少女と巨大猫の幽霊が出ると冒険者の噂になっていると、ニアさんが言っていましたが・・・。」

「ゴースト系の魔物もいるんだ、少女と巨大猫ぐらいいるだろう。ということで片付くんじゃないか?」

知らんけど。

ともかくあの二人が一緒に行動することで起きる問題よりも、得る利益の方が大きいのが現状だ。

毒が多かったり暑かったり寒かったり、ともかく生者が行きにくい場所に彼らはいける。

たいていそういう場所にある物は貴重品なので、結果として重宝されているというわけだ。

問題は長時間物を運べないということ。

やはり実体化をし続けることは出来ないのと、物を運んでいると壁を通り抜けることが出来ないのでいろいろと面倒なんだそうだ。

依頼料はお供えとしておかしやスイーツなんかで支払われているんだとか。

どう考えても大損だが本人達がいいならそれでいいだろう。

ちなみにミケには巨大な肉がお供えされている。

目を離した瞬間になくなっているあたり大喜びしているんじゃないか。

「さて、次いってくるか。」

「少し休まれてはどうですか?」

「そうしたいのは山々だが仕事は待ってくれないんだよなぁ。メルディが戻ってきたら今年の春に何を仕込むか話し合っておいてくれ。」

「わかりました。」

「そうだ、グリーンスライムの核は昨年同様で十分だから。じゃ、いってきます。」

「「いってらっしゃいませ。」」

用意された香茶を勢い良く飲み干してから再び店を出る。

ギルド関係の呼び出しは全て終わったので後は自分の仕事だけ。

とりあえずルティエ達の様子を見に行くか。

そのまま職人通りへと足を向けると人の数は少ないものの、開いている店の方が多くなっていた。

前はがらがらだったもんなぁ。

ルティエの店は・・・あれ、しまってる。

ノックをしても返事はない。

よく見ると外出中の札が窓の内側から外に向けられていた。

ということは病に臥せっているわけではないということだ。

仲間の看病か、それとも注文関係か。

「あ、シロウさん!」

そんなこと考えていると後ろから本人が声をかけてきた。

「元気そうだな。」

「もしかして心配してくれた?」

「そりゃあな。で、どんな感じだ?」

「まだ寝込んでいる子もいるけど、とりあえず仕事は始められそうかな。でも、ちょっとやばいんだよね。」

「納期がか?」

俺の質問に無言で頷くルティエ。

悲壮感こそないもののあまり宜しくない感じのようだ。

「具体的には?」

「ガーネットルージュは何とかなるんだけど、私の方で抱えている依頼が終わらないかも。隣町だし大急ぎでやれば何とかって思って受けちゃったのがまずかったみたい。」

「まったく、余裕を持てといつも言ってるだろ。」

「こんなことになるなんて思わないじゃないですかぁ。」

「それでもだ。」

「うぅ、シロウさんが厳しい。」

厳しいのも当然だろう。

リスクを考えずに行動するからこんなことになるんだ。

まったく困った奴め。

「で、どうするつもりだ?」

「とりあえずフェイとディアスの二人にガーネットルージュを任せて徹夜で頑張ります。」

「材料は?」

「手持ちで何とか。」

「足りないなら早くいえ、用意してやるから。」

「でも・・・。」

「でももへったくれもあるか、お前が雑な仕事をしたら他のやつらの評価も下がるんだ。責任があるんだよ、それがわかってるのか?」

「わかってますよぉ。」

「ならやれ、後で様子見に行くから足りないのはその時に言えよ。ほら、さっさとしろ!」

「はぃぃぃ。」

ルティエの尻をひっぱたき、家に追い返す。

まったく困った奴だ。

その後も職人たちの様子を確認して回り、最後に露店を見に市場へ。

流行り病が出たという事で外から来た商人は少ないが、見知った顔がいつもの場所で営業していた。

「あれ、おっちゃんは?」

「こんな時期に来るはずないじゃないか。もう少し収まるまでは来ないよ。」

「チーズが切れかけだから欲しかったんだけど、まぁ仕方ない。」

「アンタは随分と元気そうだね。」

「おかげさんで。おばちゃんはどうだ?マシになったか?」

「ミラが心配してすぐ薬を持ってきてくれたからね、ハドゥスに比べたらへでもないよ。でもあの子には悪いことしたねぇ。」

おばちゃんが流行り病にかかったとわかってすぐにミラは薬をおばちゃんに届けに行った。

本人はその時にうつしたと思っているようだが、恐らくはエリザからもらったんだろう。

潜伏期間僅か1日の今回の流行り病。

ミラの発症時間が微妙にずれているので間違いはない。

「気にするな、間違いなくエリザが持って帰ってきたやつだから。」

「でもねぇ。」

「とりあえずそうやって店が出来るぐらいに回復したんならいいじゃないか。」

「それもそうだね。」

「明日ミラが顔を出すって言ってたから話を聞いてやってくれ。」

「待ってるよ。」

よし、これで用事は全ておしまい。

後始末は大変だけど、これをするとしないとでは今後の仕事内容が変わってくるからな。

気配りも人付き合いの中では非常に大切だ。

あとは家に戻ってゆっくりするとするか・・・。

「あ、いたいた!シロウさんちょっといいですか?」

「よくねぇ。」

「まぁまぁ、そんなこと言わないで。」

さぁ家に帰ろうと市場の出口に向かっていると、正面から羊男が走ってきた。

ちょっといいかと聞かれてちょっとで済んだためしがない。

俺は家に戻ってゆっくりしたいんだ。

なんで一日に二回もこいつの顔を見ないといけないのか。

解せぬ。

「で、なんだよ。」

「隣町からの緊急要請です、追加で薬を発注したいとの事ですが可能ですか?」

「不可能だ。」

「そこを何とか。」

「今でもオーバーワークなんだぞ?うちの薬師を殺すつもりか?」

「もちろんそれはわかってるんですけど・・・。ビアンカさんにも頼んでもらえないかなと。」

「あっちは錬金術師だぞ?」

薬師と似て非なるもの。

作れないことはないと思うが、あまり期待しない方がいいだろう。

「欲しいのは特効薬ではなく体力の向上を目的とした薬なんです。」

「体力向上か。それならなくはない・・・か?」

「他の錬金術師にも声はかけています。こんな状況ですし、恩を売るにはまたとないチャンスなんですよ。」

「本音が駄々洩れだぞ、人の命がかかってるのにいいのか?」

「求めているのは船乗りなんです、彼らは強いので大丈夫かと。」

船乗りって事はディアスさん関係か。

エリザの件もあるし多少恩を売っておくべきだろうか。

でもなぁ、直接手を出すとエリザ怒るんだよなぁ。

関係ないとか言いながら明らかに機嫌が悪くなる。

流行り病にかかって少しは落ち着いたかと思ったら、治ったら治ったでまたダンジョンに潜り始めるしなぁ。

病み上がりだってのに困った奴だ。

「わかった、とりあえず声をかけてはみるが期待しないでくれ。それと、体力の向上なら薬じゃなくて食い物で代用できないのか?」

「食べ物ですか。」

「肉に卵に精のつく食い物なんてそれこそ手に入るだろ、あそこなら。」

「流行り病とは別に食中毒も発生したそうでして。」

「・・・残念過ぎる。」

「併発して大惨事になる前に何とかしたいんでしょう。まったく、迷惑な話です。」

「迷惑と言いながらそれで恩を売ろうとしている奴がよく言うぜ。」

まぁ、俺も同じだけどな。

緊急依頼ってことは儲けもそれなりに。

今回の特効薬も自前で素材を集めたのでかなりの利益が出ている。

流石に地元からはふんだくれないが、隣町であれば多少高くても文句は言われないしな。

さて、そうとなれば急ぎ手配しないと。

アネットにはこれ以上仕事は任せられないのでビアンカには直で連絡を入れる必要があるな。

素材を準備して直接行くとしよう。

今から出れば日暮れまでには着くはずだ。

流石に一人ではいけないので誰かを連れて行かないといけないが・・・。

「ん、こんな所で何してるんだ?」

「ダン、良い所に。」

「なんだよその顔、仕事はしないぞ?」

飛んで火にいるなんとやら。

いや、持つべきものは友?

それとも・・・。

ともかくこの機を逃すのはもったいないよな。

ガシッとダンの方をつかみ、逃がさないようにする。

元冒険者だし本気を出せば逃げ出せるのだが、それをしないという事は話を聞く気があるという事だ。

さぁ、手ごまはそろった。

急ぎ準備するとするか。
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