上 下
498 / 1,063

496.転売屋は行く末を見守る

しおりを挟む
向かい合う二人はお互いに無言のままお互い見つめあっている。

姉?

エリザを今そう呼んだよな。

そういえば家族関係については何も知らないんだが、まさか妹がいたとは。

「まさか二人が知り合いだったなんて、世の中狭いものだね。」

「デビットまさかあなた。」

「何を誤解しているかわからないけど、これは本当に偶然だよ。ここに彼が来ることは知らないかったし、ましてやキキが連れてきたその冒険者の家族だなんて聞かされていない。そもそも家族はもういないっていう話じゃなかったかな?」

「・・・その通りです。家族はもういません。」

「でも彼女は君の姉なんだろう?」

「姉は7年前に死にました。」

「じゃあ、あそこにいるのは他人だね?」

「その通りですデビット様。」

他人。

さっきまでとはまるで別人の顔をしてキキと呼ばれたその奴隷は言い切った。

それを聞いたエリザの表情が一瞬曇る。

だが、すぐに元の顔に戻った。

「知り合いなのか?」

「まさか。」

「本当だな?」

「私は天涯孤独の冒険者よ、家族なんているはずないわ。」

「そうか。」

どう考えても嘘だが、本人がそう言い張るのであれば俺は何も言わない。

誰にだって聞かれたくない過去があるだろう。

向こうもそのつもりのようだし、わざわざ場を荒らす必要はないさ。

「世の中には三人同じ顔をした人がいるらしいじゃないか、勘違いなんてのはよくある話だろ?」

「確かに。」

「で、彼女が俺に紹介するとっておきなのか?」

「見た目もさることながらこう見えて鑑定もち、さらに魔物学の知識も豊富だから生態や素材など冒険者の求める知識はすべて彼女の頭の中にあるといっても過言ではないよ。冒険者ギルドとも関係のある買取屋なら喉から手が出るほどほしい逸材じゃないかな。」

「なんだ、俺のこと知ってたのか。」

「世界の歩き方は僕も愛読していてね、あれだけ大々的に特集されていればいやでも記憶に残るというものさ。まさか本人に出会えるとは思っていなかったし、さらに言えばナミルの知り合いとは想像もつかなかった。」

にもかかわらず俺にふさわしい奴隷をわざわざVIP待遇の船に乗せているなんて、随分と都合のいい話じゃないか。

まるで俺が来ることを知っていたようだ。

ようだっていうか、知ってたんだろうな。

一週間前には告知していたし、それに合わせて奴隷を手に入れればいい。

まさかエリザに関係する奴隷とは思わなかったが。

それをわかって手配したんならこの商人、かなりの手練れだぞ。

「まぁ、そういうことにしておいてやるよ。」

「後ろの奴隷は銀狐人だね?まさか本物にお目にかかれるとは思わなかったけど、君ほどの人物であればそれだけの奴隷がいてもおかしくない。でも、うちのキキだって負けてないと思うな。」

「生憎と奴隷は間に合っていてね、残念だが今回は見送らせてもらうつもりだ。」

「値段も聞かずにかい?」

「興味のない奴隷の値段を知ったところでどうなる。でもそうだな、参考までに聞かせてもらおうか。」

エリザの手前聞かないわけにいかないだろう。

もちろん買うつもりはない。

たとえエリザの肉親であっても本人がそれを望んでいないのならば俺が手を出す必要はない。

「金貨80枚と言いたい所だけど、お近づきのしるしに金貨50枚でどうかな。」

「それじゃ大赤字だろう。それに俺はこの町の人間じゃない、陸路で商売しないのなら縁はないさ。」

「でも、港町に荷物を運ぶ予定はあるよね。」

「まぁな。」

「僕たちならほかの業者と違って確実に荷物を届けられるよ。通常三日、でも僕らの船を使えば最短一日半だ。」

陸路の半分で荷物を届ける。

一度この町で水揚げしてそこから陸路で運んでも一日は早くつく計算か。

生ものは鮮度が命。

今後そういう品を扱うのであれば非常に魅力的な提案と言えるだろう。

王都へは陸路よりも海路の方が断然早くつく。

加えて量を運ぶのも馬車よりも船の方が多く運べるからなぁ。

向こうも俺が王都と商売をする可能性があることを知っている、だからこそこういう提案をしてくるんだろう。

情報流出先は女豹。

もちろんそれを咎めるつもりはないが・・・。

この男本当に信じていいんだろうか。

「生憎とまだそこまで荷物はないし、急がず陸路で運んだ方が安くつく。」

「でも盗難や襲撃のリスクは高いよ。特に最近は盗賊が多く出ているから、その点水路はその心配がないからね。安全確実そして早い。三拍子揃ってるのが自慢なのさ。」

「なるほどなぁ。」

「どうかな、悪い話じゃないと思うけど。まさか君ほどの商人が金貨50枚ぽっち出せないとか言わないよね。」

「それがいうんだなぁ、残念ながら。この二か月で屋敷は買うわ奴隷を5人も雇うわでうちの財政は火の車だ。年明けすぐに税金も払ったばかりだしな、買うとしたら一儲けしてからになるだろう。」

「そうか、君達には税金があるんだったね。」

「なんだ、そっちにはないのか?」

「どこにも属さない僕らは税金とは無縁なのさ。もちろんその町々で必要な分は払うけど、自分達の身は自分で守れるからね。」

町に属して守ってもらう代わりに税金を払うか、どこにも属さず自分の身を守り税金を払わないか。

どっちがいいかなんて商売のやり方で変わってくる。

俺は属している方が何かと都合がいい、だから税金を払っているまでだ。

「うらやましい事で。」

「参考までにどのぐらい待てばお金が入るのかな。」

「おいおい手に入るかもわからない金を勘定するのか?」

「それができるからわざわざここまで買取に来ているんだろ?じゃないと自分のテリトリーから出て商売するはずがない。聞けばいろいろと手を出しているそうじゃないか、化粧品の新作には僕の妻も興味津々なんだ。」

「嫁いるのかよ。」

「そりゃそうさ。家を任せられる女がいるからこうやって外に出て働けるんだ。」

まぁ、嫁がいたからどうしたんだって話なんだけども。

うーむ、この男と結婚する嫁ってどんな感じなんだろうか。

正直そっちの方が気になるんだが。

「とりあえず春までは待つよ。」

「いや、待たれても困るんだが?」

「それでいいね、キキ。」

「デビット様のすきになさってください。それと、そろそろ眠いので出て行ってもらって構いませんか?」

「それは悪かったね。」

奴隷が主人に出て行けとかあり得ていいのか?

追い出されるようにして豪華な部屋から出てそのまま船の外へ。

空はオレンジ色に輝き、川はその色を映しまるで燃えているようだった。

「僕からは以上だ、今日は素敵な時間をありがとうナミル。」

「いいのよ、私もいい取引ができたわ。」

「そんじゃまさっさと宿に案内してくれ、さすがに疲れた。」

「シロウさんもありがとう香辛料は明日までに馬車へ積み込んでおくよ。」

「よろしく頼む。」

「それじゃあ。」

さわやかな笑顔とともにイケメン男ことデビットは再び船の中へと消えた。

はぁ、いろいろありすぎて今日はもう疲れた。

さっさとベッドに入って眠りたい。

「それで、さっきの子買うの?」

「買わねぇよ。」

「あらもったいない。あの見た目であのスタイル、金貨50枚なら横流ししても儲かると思うけど?」

「俺は奴隷商人じゃない。」

「でもなんでも買い取る買取屋、利益になるのなら買ってもいいんじゃない?」

「生き物は扱わない主義なんだよ。いや、レイブさんに流す手もあるか。」

エリザがどう出るかはともかく、近場に置いておくという手も・・・。

いや、それは俺の気にするところじゃないか。

どうするかはあいつが決めることだ。

金?

出すわけないだろ。

「シロウも疲れてるんだし、早く宿に案内してよね。」

「あらあらご機嫌斜めね、ちょっとそんな目で見ないでよ。」

殺すぞと言わんばかりの殺気を伴った目。

素人の俺でもわかるぐらいだ。

直接向けられたらちびってしまうかもしれない。

こわやこわや。

女豹に連れられていつものお宿へと移動する。

おなじみになったこの町では最高のお宿、さらに言えば最高の部屋に案内してもらったあたり一応歓迎されているんだろう。

部屋に入ると勢いよくベッドへ飛び込む。

「あー疲れた。」

「お疲れさまでした。」

「食事はまだ先だろ、少し寝るわ。」

「時間が来たら起こしますね。」

「頼む。」

「私は先に飲んでくるわ。」

緊張の糸がほどけた俺たちとは対照的に、エリザはずっと怖い顔のまま。

これで彼女は無関係ですというあたり無理があると思うんだが。

ま、別にいいけど。

ドカドカと勇ましい足音を立てて部屋を出ていくエリザの背中を見送り、俺は枕に顔をしつけた。

「あの・・・。」

「何も言うな、あれはエリザの問題だ。何かあれば自分で言ってくるだろ。」

「すみませんご主人様、何を言ったのかわかりません。」

「悪い。ともかく、あれはエリザの問題だから何かあれば自分で言ってくるだろう。」

「ご主人様もエリザ様のご家族だと思っておられるんですね。」

「あの反応を見ればなぁ・・・。」

赤の他人にあの反応はしないだろう。

まるで生き別れた妹にあったような感じ。

赤の他人であればあんな反応しないはずだ。

「何とかなりませんかね。」

「俺が買ってレイブさんに流す手もあるが、それをすると値段は倍になる。金貨100枚、あいつが用意できるかどうかだな。」

「そうなりますよねぇ。」

「慈善事業じゃないんだそうなるだろ。」

「金貨100枚かぁ、エリザ様なら何とかしそうですけど。」

「だがその分リスクは上がる、あいつすぐ無茶するからな。」

「怪我しますよね。」

「怪我で済めばいいが、最悪生きて戻れない場所だからなダンジョンは。」

妹?を助けるためにダンジョンに潜り自分が死ぬとか十分にあり得る話だ。

いや、ダンジョンで言えば日常茶飯事だろう。

仲間のためにダンジョンに潜り、無理をして死ぬ。

もしくは大けがをして結果助けられない。

彼らはそんな世界で生きているんだ。

俺みたいに右から左にものを転がすだけでもうかる商売じゃない。

「何とかできないかなぁ・・・。」

「いっただろ、あいつの問題だ俺たちができることはない。ってことで飯まで寝る。」

「はい、おやすみなさい。」

これ以上は何も言うまい。

再び枕に顔をうずめ目を閉じると同時に睡魔がどっと押し寄せてきた。

あっという間に意識が刈り取られ、眠りの淵へと落ちていく。

時間にしてわずか一時間ほど。

もちろん目が覚めて全部解決・・・しているわけがなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...