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496.転売屋は行く末を見守る
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向かい合う二人はお互いに無言のままお互い見つめあっている。
姉?
エリザを今そう呼んだよな。
そういえば家族関係については何も知らないんだが、まさか妹がいたとは。
「まさか二人が知り合いだったなんて、世の中狭いものだね。」
「デビットまさかあなた。」
「何を誤解しているかわからないけど、これは本当に偶然だよ。ここに彼が来ることは知らないかったし、ましてやキキが連れてきたその冒険者の家族だなんて聞かされていない。そもそも家族はもういないっていう話じゃなかったかな?」
「・・・その通りです。家族はもういません。」
「でも彼女は君の姉なんだろう?」
「姉は7年前に死にました。」
「じゃあ、あそこにいるのは他人だね?」
「その通りですデビット様。」
他人。
さっきまでとはまるで別人の顔をしてキキと呼ばれたその奴隷は言い切った。
それを聞いたエリザの表情が一瞬曇る。
だが、すぐに元の顔に戻った。
「知り合いなのか?」
「まさか。」
「本当だな?」
「私は天涯孤独の冒険者よ、家族なんているはずないわ。」
「そうか。」
どう考えても嘘だが、本人がそう言い張るのであれば俺は何も言わない。
誰にだって聞かれたくない過去があるだろう。
向こうもそのつもりのようだし、わざわざ場を荒らす必要はないさ。
「世の中には三人同じ顔をした人がいるらしいじゃないか、勘違いなんてのはよくある話だろ?」
「確かに。」
「で、彼女が俺に紹介するとっておきなのか?」
「見た目もさることながらこう見えて鑑定もち、さらに魔物学の知識も豊富だから生態や素材など冒険者の求める知識はすべて彼女の頭の中にあるといっても過言ではないよ。冒険者ギルドとも関係のある買取屋なら喉から手が出るほどほしい逸材じゃないかな。」
「なんだ、俺のこと知ってたのか。」
「世界の歩き方は僕も愛読していてね、あれだけ大々的に特集されていればいやでも記憶に残るというものさ。まさか本人に出会えるとは思っていなかったし、さらに言えばナミルの知り合いとは想像もつかなかった。」
にもかかわらず俺にふさわしい奴隷をわざわざVIP待遇の船に乗せているなんて、随分と都合のいい話じゃないか。
まるで俺が来ることを知っていたようだ。
ようだっていうか、知ってたんだろうな。
一週間前には告知していたし、それに合わせて奴隷を手に入れればいい。
まさかエリザに関係する奴隷とは思わなかったが。
それをわかって手配したんならこの商人、かなりの手練れだぞ。
「まぁ、そういうことにしておいてやるよ。」
「後ろの奴隷は銀狐人だね?まさか本物にお目にかかれるとは思わなかったけど、君ほどの人物であればそれだけの奴隷がいてもおかしくない。でも、うちのキキだって負けてないと思うな。」
「生憎と奴隷は間に合っていてね、残念だが今回は見送らせてもらうつもりだ。」
「値段も聞かずにかい?」
「興味のない奴隷の値段を知ったところでどうなる。でもそうだな、参考までに聞かせてもらおうか。」
エリザの手前聞かないわけにいかないだろう。
もちろん買うつもりはない。
たとえエリザの肉親であっても本人がそれを望んでいないのならば俺が手を出す必要はない。
「金貨80枚と言いたい所だけど、お近づきのしるしに金貨50枚でどうかな。」
「それじゃ大赤字だろう。それに俺はこの町の人間じゃない、陸路で商売しないのなら縁はないさ。」
「でも、港町に荷物を運ぶ予定はあるよね。」
「まぁな。」
「僕たちならほかの業者と違って確実に荷物を届けられるよ。通常三日、でも僕らの船を使えば最短一日半だ。」
陸路の半分で荷物を届ける。
一度この町で水揚げしてそこから陸路で運んでも一日は早くつく計算か。
生ものは鮮度が命。
今後そういう品を扱うのであれば非常に魅力的な提案と言えるだろう。
王都へは陸路よりも海路の方が断然早くつく。
加えて量を運ぶのも馬車よりも船の方が多く運べるからなぁ。
向こうも俺が王都と商売をする可能性があることを知っている、だからこそこういう提案をしてくるんだろう。
情報流出先は女豹。
もちろんそれを咎めるつもりはないが・・・。
この男本当に信じていいんだろうか。
「生憎とまだそこまで荷物はないし、急がず陸路で運んだ方が安くつく。」
「でも盗難や襲撃のリスクは高いよ。特に最近は盗賊が多く出ているから、その点水路はその心配がないからね。安全確実そして早い。三拍子揃ってるのが自慢なのさ。」
「なるほどなぁ。」
「どうかな、悪い話じゃないと思うけど。まさか君ほどの商人が金貨50枚ぽっち出せないとか言わないよね。」
「それがいうんだなぁ、残念ながら。この二か月で屋敷は買うわ奴隷を5人も雇うわでうちの財政は火の車だ。年明けすぐに税金も払ったばかりだしな、買うとしたら一儲けしてからになるだろう。」
「そうか、君達には税金があるんだったね。」
「なんだ、そっちにはないのか?」
「どこにも属さない僕らは税金とは無縁なのさ。もちろんその町々で必要な分は払うけど、自分達の身は自分で守れるからね。」
町に属して守ってもらう代わりに税金を払うか、どこにも属さず自分の身を守り税金を払わないか。
どっちがいいかなんて商売のやり方で変わってくる。
俺は属している方が何かと都合がいい、だから税金を払っているまでだ。
「うらやましい事で。」
「参考までにどのぐらい待てばお金が入るのかな。」
「おいおい手に入るかもわからない金を勘定するのか?」
「それができるからわざわざここまで買取に来ているんだろ?じゃないと自分のテリトリーから出て商売するはずがない。聞けばいろいろと手を出しているそうじゃないか、化粧品の新作には僕の妻も興味津々なんだ。」
「嫁いるのかよ。」
「そりゃそうさ。家を任せられる女がいるからこうやって外に出て働けるんだ。」
まぁ、嫁がいたからどうしたんだって話なんだけども。
うーむ、この男と結婚する嫁ってどんな感じなんだろうか。
正直そっちの方が気になるんだが。
「とりあえず春までは待つよ。」
「いや、待たれても困るんだが?」
「それでいいね、キキ。」
「デビット様のすきになさってください。それと、そろそろ眠いので出て行ってもらって構いませんか?」
「それは悪かったね。」
奴隷が主人に出て行けとかあり得ていいのか?
追い出されるようにして豪華な部屋から出てそのまま船の外へ。
空はオレンジ色に輝き、川はその色を映しまるで燃えているようだった。
「僕からは以上だ、今日は素敵な時間をありがとうナミル。」
「いいのよ、私もいい取引ができたわ。」
「そんじゃまさっさと宿に案内してくれ、さすがに疲れた。」
「シロウさんもありがとう香辛料は明日までに馬車へ積み込んでおくよ。」
「よろしく頼む。」
「それじゃあ。」
さわやかな笑顔とともにイケメン男ことデビットは再び船の中へと消えた。
はぁ、いろいろありすぎて今日はもう疲れた。
さっさとベッドに入って眠りたい。
「それで、さっきの子買うの?」
「買わねぇよ。」
「あらもったいない。あの見た目であのスタイル、金貨50枚なら横流ししても儲かると思うけど?」
「俺は奴隷商人じゃない。」
「でもなんでも買い取る買取屋、利益になるのなら買ってもいいんじゃない?」
「生き物は扱わない主義なんだよ。いや、レイブさんに流す手もあるか。」
エリザがどう出るかはともかく、近場に置いておくという手も・・・。
いや、それは俺の気にするところじゃないか。
どうするかはあいつが決めることだ。
金?
出すわけないだろ。
「シロウも疲れてるんだし、早く宿に案内してよね。」
「あらあらご機嫌斜めね、ちょっとそんな目で見ないでよ。」
殺すぞと言わんばかりの殺気を伴った目。
素人の俺でもわかるぐらいだ。
直接向けられたらちびってしまうかもしれない。
こわやこわや。
女豹に連れられていつものお宿へと移動する。
おなじみになったこの町では最高のお宿、さらに言えば最高の部屋に案内してもらったあたり一応歓迎されているんだろう。
部屋に入ると勢いよくベッドへ飛び込む。
「あー疲れた。」
「お疲れさまでした。」
「食事はまだ先だろ、少し寝るわ。」
「時間が来たら起こしますね。」
「頼む。」
「私は先に飲んでくるわ。」
緊張の糸がほどけた俺たちとは対照的に、エリザはずっと怖い顔のまま。
これで彼女は無関係ですというあたり無理があると思うんだが。
ま、別にいいけど。
ドカドカと勇ましい足音を立てて部屋を出ていくエリザの背中を見送り、俺は枕に顔をしつけた。
「あの・・・。」
「何も言うな、あれはエリザの問題だ。何かあれば自分で言ってくるだろ。」
「すみませんご主人様、何を言ったのかわかりません。」
「悪い。ともかく、あれはエリザの問題だから何かあれば自分で言ってくるだろう。」
「ご主人様もエリザ様のご家族だと思っておられるんですね。」
「あの反応を見ればなぁ・・・。」
赤の他人にあの反応はしないだろう。
まるで生き別れた妹にあったような感じ。
赤の他人であればあんな反応しないはずだ。
「何とかなりませんかね。」
「俺が買ってレイブさんに流す手もあるが、それをすると値段は倍になる。金貨100枚、あいつが用意できるかどうかだな。」
「そうなりますよねぇ。」
「慈善事業じゃないんだそうなるだろ。」
「金貨100枚かぁ、エリザ様なら何とかしそうですけど。」
「だがその分リスクは上がる、あいつすぐ無茶するからな。」
「怪我しますよね。」
「怪我で済めばいいが、最悪生きて戻れない場所だからなダンジョンは。」
妹?を助けるためにダンジョンに潜り自分が死ぬとか十分にあり得る話だ。
いや、ダンジョンで言えば日常茶飯事だろう。
仲間のためにダンジョンに潜り、無理をして死ぬ。
もしくは大けがをして結果助けられない。
彼らはそんな世界で生きているんだ。
俺みたいに右から左にものを転がすだけでもうかる商売じゃない。
「何とかできないかなぁ・・・。」
「いっただろ、あいつの問題だ俺たちができることはない。ってことで飯まで寝る。」
「はい、おやすみなさい。」
これ以上は何も言うまい。
再び枕に顔をうずめ目を閉じると同時に睡魔がどっと押し寄せてきた。
あっという間に意識が刈り取られ、眠りの淵へと落ちていく。
時間にしてわずか一時間ほど。
もちろん目が覚めて全部解決・・・しているわけがなかった。
姉?
エリザを今そう呼んだよな。
そういえば家族関係については何も知らないんだが、まさか妹がいたとは。
「まさか二人が知り合いだったなんて、世の中狭いものだね。」
「デビットまさかあなた。」
「何を誤解しているかわからないけど、これは本当に偶然だよ。ここに彼が来ることは知らないかったし、ましてやキキが連れてきたその冒険者の家族だなんて聞かされていない。そもそも家族はもういないっていう話じゃなかったかな?」
「・・・その通りです。家族はもういません。」
「でも彼女は君の姉なんだろう?」
「姉は7年前に死にました。」
「じゃあ、あそこにいるのは他人だね?」
「その通りですデビット様。」
他人。
さっきまでとはまるで別人の顔をしてキキと呼ばれたその奴隷は言い切った。
それを聞いたエリザの表情が一瞬曇る。
だが、すぐに元の顔に戻った。
「知り合いなのか?」
「まさか。」
「本当だな?」
「私は天涯孤独の冒険者よ、家族なんているはずないわ。」
「そうか。」
どう考えても嘘だが、本人がそう言い張るのであれば俺は何も言わない。
誰にだって聞かれたくない過去があるだろう。
向こうもそのつもりのようだし、わざわざ場を荒らす必要はないさ。
「世の中には三人同じ顔をした人がいるらしいじゃないか、勘違いなんてのはよくある話だろ?」
「確かに。」
「で、彼女が俺に紹介するとっておきなのか?」
「見た目もさることながらこう見えて鑑定もち、さらに魔物学の知識も豊富だから生態や素材など冒険者の求める知識はすべて彼女の頭の中にあるといっても過言ではないよ。冒険者ギルドとも関係のある買取屋なら喉から手が出るほどほしい逸材じゃないかな。」
「なんだ、俺のこと知ってたのか。」
「世界の歩き方は僕も愛読していてね、あれだけ大々的に特集されていればいやでも記憶に残るというものさ。まさか本人に出会えるとは思っていなかったし、さらに言えばナミルの知り合いとは想像もつかなかった。」
にもかかわらず俺にふさわしい奴隷をわざわざVIP待遇の船に乗せているなんて、随分と都合のいい話じゃないか。
まるで俺が来ることを知っていたようだ。
ようだっていうか、知ってたんだろうな。
一週間前には告知していたし、それに合わせて奴隷を手に入れればいい。
まさかエリザに関係する奴隷とは思わなかったが。
それをわかって手配したんならこの商人、かなりの手練れだぞ。
「まぁ、そういうことにしておいてやるよ。」
「後ろの奴隷は銀狐人だね?まさか本物にお目にかかれるとは思わなかったけど、君ほどの人物であればそれだけの奴隷がいてもおかしくない。でも、うちのキキだって負けてないと思うな。」
「生憎と奴隷は間に合っていてね、残念だが今回は見送らせてもらうつもりだ。」
「値段も聞かずにかい?」
「興味のない奴隷の値段を知ったところでどうなる。でもそうだな、参考までに聞かせてもらおうか。」
エリザの手前聞かないわけにいかないだろう。
もちろん買うつもりはない。
たとえエリザの肉親であっても本人がそれを望んでいないのならば俺が手を出す必要はない。
「金貨80枚と言いたい所だけど、お近づきのしるしに金貨50枚でどうかな。」
「それじゃ大赤字だろう。それに俺はこの町の人間じゃない、陸路で商売しないのなら縁はないさ。」
「でも、港町に荷物を運ぶ予定はあるよね。」
「まぁな。」
「僕たちならほかの業者と違って確実に荷物を届けられるよ。通常三日、でも僕らの船を使えば最短一日半だ。」
陸路の半分で荷物を届ける。
一度この町で水揚げしてそこから陸路で運んでも一日は早くつく計算か。
生ものは鮮度が命。
今後そういう品を扱うのであれば非常に魅力的な提案と言えるだろう。
王都へは陸路よりも海路の方が断然早くつく。
加えて量を運ぶのも馬車よりも船の方が多く運べるからなぁ。
向こうも俺が王都と商売をする可能性があることを知っている、だからこそこういう提案をしてくるんだろう。
情報流出先は女豹。
もちろんそれを咎めるつもりはないが・・・。
この男本当に信じていいんだろうか。
「生憎とまだそこまで荷物はないし、急がず陸路で運んだ方が安くつく。」
「でも盗難や襲撃のリスクは高いよ。特に最近は盗賊が多く出ているから、その点水路はその心配がないからね。安全確実そして早い。三拍子揃ってるのが自慢なのさ。」
「なるほどなぁ。」
「どうかな、悪い話じゃないと思うけど。まさか君ほどの商人が金貨50枚ぽっち出せないとか言わないよね。」
「それがいうんだなぁ、残念ながら。この二か月で屋敷は買うわ奴隷を5人も雇うわでうちの財政は火の車だ。年明けすぐに税金も払ったばかりだしな、買うとしたら一儲けしてからになるだろう。」
「そうか、君達には税金があるんだったね。」
「なんだ、そっちにはないのか?」
「どこにも属さない僕らは税金とは無縁なのさ。もちろんその町々で必要な分は払うけど、自分達の身は自分で守れるからね。」
町に属して守ってもらう代わりに税金を払うか、どこにも属さず自分の身を守り税金を払わないか。
どっちがいいかなんて商売のやり方で変わってくる。
俺は属している方が何かと都合がいい、だから税金を払っているまでだ。
「うらやましい事で。」
「参考までにどのぐらい待てばお金が入るのかな。」
「おいおい手に入るかもわからない金を勘定するのか?」
「それができるからわざわざここまで買取に来ているんだろ?じゃないと自分のテリトリーから出て商売するはずがない。聞けばいろいろと手を出しているそうじゃないか、化粧品の新作には僕の妻も興味津々なんだ。」
「嫁いるのかよ。」
「そりゃそうさ。家を任せられる女がいるからこうやって外に出て働けるんだ。」
まぁ、嫁がいたからどうしたんだって話なんだけども。
うーむ、この男と結婚する嫁ってどんな感じなんだろうか。
正直そっちの方が気になるんだが。
「とりあえず春までは待つよ。」
「いや、待たれても困るんだが?」
「それでいいね、キキ。」
「デビット様のすきになさってください。それと、そろそろ眠いので出て行ってもらって構いませんか?」
「それは悪かったね。」
奴隷が主人に出て行けとかあり得ていいのか?
追い出されるようにして豪華な部屋から出てそのまま船の外へ。
空はオレンジ色に輝き、川はその色を映しまるで燃えているようだった。
「僕からは以上だ、今日は素敵な時間をありがとうナミル。」
「いいのよ、私もいい取引ができたわ。」
「そんじゃまさっさと宿に案内してくれ、さすがに疲れた。」
「シロウさんもありがとう香辛料は明日までに馬車へ積み込んでおくよ。」
「よろしく頼む。」
「それじゃあ。」
さわやかな笑顔とともにイケメン男ことデビットは再び船の中へと消えた。
はぁ、いろいろありすぎて今日はもう疲れた。
さっさとベッドに入って眠りたい。
「それで、さっきの子買うの?」
「買わねぇよ。」
「あらもったいない。あの見た目であのスタイル、金貨50枚なら横流ししても儲かると思うけど?」
「俺は奴隷商人じゃない。」
「でもなんでも買い取る買取屋、利益になるのなら買ってもいいんじゃない?」
「生き物は扱わない主義なんだよ。いや、レイブさんに流す手もあるか。」
エリザがどう出るかはともかく、近場に置いておくという手も・・・。
いや、それは俺の気にするところじゃないか。
どうするかはあいつが決めることだ。
金?
出すわけないだろ。
「シロウも疲れてるんだし、早く宿に案内してよね。」
「あらあらご機嫌斜めね、ちょっとそんな目で見ないでよ。」
殺すぞと言わんばかりの殺気を伴った目。
素人の俺でもわかるぐらいだ。
直接向けられたらちびってしまうかもしれない。
こわやこわや。
女豹に連れられていつものお宿へと移動する。
おなじみになったこの町では最高のお宿、さらに言えば最高の部屋に案内してもらったあたり一応歓迎されているんだろう。
部屋に入ると勢いよくベッドへ飛び込む。
「あー疲れた。」
「お疲れさまでした。」
「食事はまだ先だろ、少し寝るわ。」
「時間が来たら起こしますね。」
「頼む。」
「私は先に飲んでくるわ。」
緊張の糸がほどけた俺たちとは対照的に、エリザはずっと怖い顔のまま。
これで彼女は無関係ですというあたり無理があると思うんだが。
ま、別にいいけど。
ドカドカと勇ましい足音を立てて部屋を出ていくエリザの背中を見送り、俺は枕に顔をしつけた。
「あの・・・。」
「何も言うな、あれはエリザの問題だ。何かあれば自分で言ってくるだろ。」
「すみませんご主人様、何を言ったのかわかりません。」
「悪い。ともかく、あれはエリザの問題だから何かあれば自分で言ってくるだろう。」
「ご主人様もエリザ様のご家族だと思っておられるんですね。」
「あの反応を見ればなぁ・・・。」
赤の他人にあの反応はしないだろう。
まるで生き別れた妹にあったような感じ。
赤の他人であればあんな反応しないはずだ。
「何とかなりませんかね。」
「俺が買ってレイブさんに流す手もあるが、それをすると値段は倍になる。金貨100枚、あいつが用意できるかどうかだな。」
「そうなりますよねぇ。」
「慈善事業じゃないんだそうなるだろ。」
「金貨100枚かぁ、エリザ様なら何とかしそうですけど。」
「だがその分リスクは上がる、あいつすぐ無茶するからな。」
「怪我しますよね。」
「怪我で済めばいいが、最悪生きて戻れない場所だからなダンジョンは。」
妹?を助けるためにダンジョンに潜り自分が死ぬとか十分にあり得る話だ。
いや、ダンジョンで言えば日常茶飯事だろう。
仲間のためにダンジョンに潜り、無理をして死ぬ。
もしくは大けがをして結果助けられない。
彼らはそんな世界で生きているんだ。
俺みたいに右から左にものを転がすだけでもうかる商売じゃない。
「何とかできないかなぁ・・・。」
「いっただろ、あいつの問題だ俺たちができることはない。ってことで飯まで寝る。」
「はい、おやすみなさい。」
これ以上は何も言うまい。
再び枕に顔をうずめ目を閉じると同時に睡魔がどっと押し寄せてきた。
あっという間に意識が刈り取られ、眠りの淵へと落ちていく。
時間にしてわずか一時間ほど。
もちろん目が覚めて全部解決・・・しているわけがなかった。
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