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495.転売屋は奴隷を紹介される

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「思ったよりもでかいな。」

「っていうか多すぎない?」

「この川の大きさだとあまり大きな船は入れないから、どうしても数が必要になるのよ。」

「なるほどなぁ。」

川を埋め尽くすほど・・・とまではいわないが、町側の岸を埋め尽くすように6隻の船が横付けされていた。

どれにも荷物がびっしりと詰まれており、周りには人だかりが出来ている。

街の商人たちが話を聞いているんだろう。

「それで、船主は・・・いたいた、デビット!」

ナミル女史が呼びかけると人だかりがざっと開け、長身のイケメンがこちらに手を振ってきた。

流れるような金髪ロン毛。

でも汚い感じは一切ない爽やか系男子。

王子様とか呼ばれていそうな見た目だ。

漫画やアニメの世界から出てきたみたいだなぁ。

そんなイケメンがまっすぐにこちらへ向かってくる。

「やぁナミル、君の方から声をかけてくれるなんて嬉しいじゃないか。」

「例のものは持ってきてくれた?」

「もちろん大変だったけど手に入れたよ。他でもない君の頼みだからね。」

「あら、そんなこと言ってくれるなんて嬉しいわ。」

「それで、横にいる彼は君の新しいいい人なのかな?」

「お生憎様、シロウはそんなんじゃないわ。私の物よ。」

「おい。」

私もと言わんばかりにエリザに続いてアネットが俺の腕を掴んで、自分の胸を押し付けてくる。

その様子を見てイケメンが口笛を鳴らした。

「こんな感じなの、残念だけど。」

「君ほどの美貌があっても落とせない男がいるんだね。」

「やっぱり若さにはかなわないわ。」

「そんなことないさ、僕は今でも君に心を奪われてる。」

「あー、そういう話は別の場所でやってくれるとありがたいんだが。そろそろ仕事の話をしようぜ。」

仕事の話。

そういった瞬間にイケメンの目が急に鋭くなった。

それも一瞬、またさっきと同じ優男の表情に戻る。

「それもそうね、こちら隣町で買い取り業を営んでいるシロウさん。こっちが水運でお商売をしてるデビットよ。」

「シロウだ。」

「デビットです。主に商業用品の運搬と販売をしています。」

女達を振り払い、お互いに軽く握手を交わす。

お互いにこやかな表情だが、心の中ではそうではない。

相手がどんな奴か腹の中を探ってやろうとにらみ合っている感じだ。

「商業用品全般ってことだが、得意にしているのはあるのか?食品や、ここなら工業用品も多く扱ってるだろ?」

「何でも扱うのが我が商家のモットーだけど、得意といわれれば奴隷かな。」

「え、それが得意だったの?」

「だって最初はそこから始めたからね。」

「まぁ、得意じゃなきゃそれで商売しようとは思わないわな。」

「そういう事、理解のある方でうれしいよ。」

俺だって転売を始めたのは得意にしていた、っていうか知識でカバーできるものだ。

主に中古ゲームや後は酒だな。

もちろんそれだけではやっていけないので、少しずつフィールドを変えていき得意とするやつを増やしていく。

何度も失敗はしたが、それなりには食えていたなぁ。

今となっては懐かしい話だ。

「なら、今日持ち込んだものは何なんだ?あれだけみんなが群がるんだ、良い物ばかりなんだろ?」

「それはもちろん、一年の最初にふさわしい物ばかりだよ。良かったら見ていくかい?」

「もちろんそのつもりだ。」

主人直々に案内してくれるんだ、喜んで。

デビットに連れられて最初の船から順番に見せてもらう。

最初は穀物、続いて工業用品。

骨董品などの娯楽品も結構あった。

俺が一番興味をひかれたのは香辛料だったが。

「これ全部そうなのか?」

「南方で採れる香辛料は癖はあるけど好きな人は好きなんだ、今あるうちの半分は頼まれ物だよ。」

「この香り、苦手な人はいるだろうが俺は好きだ。」

「え、シロウ好きなの?」

「私も好きです。薬っぽくて。」

「まぁ、薬にもなるかもなぁ。」

エリザは顔をしかめていたがアネットは平気そうだ。

どれがどの種類の香辛料化まではわからないが、どこかで嗅いだことのある香りばかり。

これがあればカレーとかもできるかもしれない。

「半分は決まっているけど、もう半分はまだ買い手がついていないんだ。どうだい?ナミルの紹介なら安くさせてもらうよ。」

「使い道のない物を買うつもりはないが、そうだなそこの木箱でいくらだ?」

「銀貨50枚かな。」

「じゃあ2箱くれ。」

「使い道ないんだろう?」

「残り半分は無理だが二箱ぐらいはどうにかなるだろ。使わなかったら捨てればいいだけだ。」

まぁ捨てずに全部使うだろうけど。

捨てるという言葉を聞き、デビットが驚いたような顔をする。

「金貨1枚をそんなに軽く捨てると言える人は中々いない、さすがナミルの認めた人だね。」

「別に認められたつもりはないんだが?」

「あら、嫌だったの?」

「認められたことでむしろ面倒ごとが増えた気がするなぁ。」

「気のせいよきっと。」

嘘つけ。

エリザとアネットも横で深く頷いている。

金にはなるが面倒な事ばかり押し付けられている気がする。

いや、気がするんじゃなくて押し付けられてる。

間違いない。

「あはは、ナミルが冗談を言うなんて本当に気に入られているんだね。それじゃあ僕のとっておきを見せても大丈夫そうだ。」

「奴隷か?」

「その通り、横にいる彼女もかなりの品のようだけどそれに負けない奴隷を扱っている。どうだい?」

「奴隷を買う気はないんだが?」

「まぁまぁ、見るだけでもいいから。きっと気に入ってくれると思うよ。」

イケメンが本性を出してきたぞ。

俺が金を持っていてさらに女豹に気に入られているから見せる気になったんだろう。

すぐに見せないのは見せられない理由があるから。

それが非合法かどうかはわからない。

だが、向こうもリスクを負わないとリターンを得られないと知っている。

だから俺に見せるんだろう。

別に奴隷には興味ないんだが・・・。

アネットの方を見ると、気にするなという感じで一度小さく頷いた。

エリザは・・・ついてこないっていう選択肢はなかったな。

「私も見ていいのよね?」

「もちろんだよ。それに、君にも確認してもらわないといけないじゃないか。」

「シロウさんだから良いけど、他人の前で私の物を公表するのはやめてもらえるかしら。」

「おっと、これは失礼した。」

残りの船はあと二隻。

途中の一隻を通り過ぎ、案内されたのは一番最後の船だった。

「まずは彼女から案内するから、シロウさんはそこで待っていてくれるかな?」

「悪いわね。」

「別に、アンタが何を買おうが興味ない。」

「それもそうね、デビット行きましょう。」

俺達を置いて二人が中に消えていく。

前の船はずいぶんと賑やかだが、こっちの船からは何の音もしなかった。

「買うの?」

「いや、そのつもりはない。」

「凄い奴隷でも?」

「あのなぁ、いくらそうだとしても金がねぇよ。屋敷買ったばかりだし、グレイス達の金も貯めなきゃいけないんだぞ?今日買った分も売らなきゃ儲けは無しだ、買う余裕なんてどこにもねぇよ。」

エリザが心配そうに聞いてくるが俺にはそのつもりはない。

仮にアネットのように素晴らしい奴隷だったとしても、うちにそんな余裕はない。

「でも、助ける必要があれば別ですよね?」

「どういうことだ?」

「ご主人様はお優しいのでそういう人だったら買っちゃいそうだなって。」

「俺が優しい?」

いくら優しくても先立つものがなければどうしようもない。

しかも初見の相手だ。

レイブさんみたいに店を構えているならともかく、この後どこに行くかわからないような奴から奴隷を買う気になんてならないなぁ。

しばらくして二人が船の中から出てきた。

「お待たせ。」

「その顔を見ると良い取引だったみたいだな。」

「えぇ、おかげさまで。」

「そりゃ何よりだ。」

「それじゃあシロウさんもどうぞ、もちろんお二人も。」

女豹と交代して船の中へと足を踏み入れる。

転々と照明があるだけで薄暗い通路。

僅かにだが揺れる船内を通り抜け、一番奥の部屋へ案内された。

扉を開けた瞬間に、先程とは比べ物いならない明かりが目に飛び込んできた。

あまりの眩しさに一瞬視界が奪われる。

それと同時に船が大きく揺れ、大きくバランスを崩してしまった。

「ちょっと、大丈夫?」

「あぁ、助かった。」

「しっかりしてよね。」

「すまない、注意するのを忘れていたよ。」

やっと目が慣れてくるとイケメンが申し訳なさそうな顔をしていた。

「気にするな。」

「さぁ、紹介したいのは彼女だ。」

案内されたのは薄汚れた牢獄、ではなく光にあふれた普通の部屋だった。

奴隷と聞いてどうしてもそういう想像をしてしまうが、随分と丁寧に扱われているらしい。

視線の先に見えるのはショートヘアーの女性。

鮮やかな栗色は光の加減かオレンジ色にも見える。

まるで朝日のような美しい髪色。

「紹介しよう、キキだ。」

デビットに呼ばれてキキと呼ばれたその人がゆっくりとこちらを向いた。

「え、嘘!」

「ん?」

その姿を見てエリザが驚きの声を上げる。

それは向こうも同じ。

「姉・・・さん?」

冒険者がいつも言うアレじゃない。

肉親を呼ぶ言葉。

まさかの遭遇に俺達まで目を見開いて二人を見てしまう。

ただ一人、イケメン男を除いては。
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