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488.転売屋は約束をする

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家具の注文は滞りなく終わった。

最初話を持っていったら冗談だと思われてしまったが、女達が作ったリストを見せると目を点にして驚いていたなぁ。

まぁ、量が量だし。

製薬室の棚と机、それと化粧台と戸棚、更にはクローゼット下の収納を全員分だ。

ちなみに全員分ってのは6人と増えるかもしれないということで追加で後二つ。

計8人分。

何でこんなに増えたのかは聞くな。

コレでも減らしたほうなんだから。

流石にコレだけの内容を人任せには出来ないので、職人の元に直接向かって話をしたわけだがどうなったかはさっき言ったとおり。

とりあえず製薬室を最優先してもらって、次いで化粧台と戸棚となった。

クローゼットは採寸とかがあるから、とりあえず規格だけわかれば作れるほうを優先して貰う。

大雑把に見積もって貰って全部で金貨10枚。

追加があればその都度請求して貰うことになった。

高いか安いかは正直わからんが、全部オーダーメイドだしこんなもんだろう。

金はある。

大丈夫だ。

「ってことで、後は機材の発注だな。」

「あの、本当に大丈夫ですよ?今ある奴も十分使えますから。」

「そりゃあ使える奴は使って貰うさ。だが、途中で壊れて仕事にならないなんてことにならないためにもやばい奴はさっさと替えろ、わかったな?」

「はい・・・。」

「ちなみに使用できる機材は二つ、後は全部交換です。」

「えぇぇぇ・・・。」

ミラの容赦ない宣告にアネットから悲鳴にも似た声が上がる。

自分のために金を使われるのがいやだという気持ちはわかるが、それとコレとは話が別だ。

「イライザは何て言っていた?」

「知り合いの知り合いに機材を扱っている商人がいるそうでして、ひとまずそこに話を通して見積もりをもらっている所だそうです。ただ、やはり値段はそれなりになるとの事でした。」

「まぁそれは仕方ないだろう。」

「でもでも、二つ減りましたし金貨150枚とかにはなりませんよね?」

「そうだなぁ、高く見繕って金貨150枚ぐらいじゃないか?」

「輸送費も含めればそれでも安いほうでしょうね。」

「私がもう一人買えてしまう・・・。」

いや、アネットは金貨300枚なんで半分ってところか。

確かに高額だが、今までの儲けを考えればすぐに取り戻せるだろう。

壊れてない機器も予備としておいて置けばいい。

中古で売り出すことも考えたが、新しいものを仕入れるために作業が止まるリスクを考えたら予備はあったほうがいいよな。

「明日には見積もりがあがってくると思いますのでまたご報告いたします。」

「そうしてくれ。」

「あの・・・。」

「いまさらいらないとか言うなよ?もう動き出してるんだから諦めろ。」

「その通りです。これはシロウ様がもっと働くようにといっているのと同じです、期待されているのですから頑張りましょう。」

「なるほど。」

なにを勝手にいうのかなうちのミラさんは。

俺はただいい仕事にはいい道具をという当たり前の考えに基づいているだけで、別に今まで以上に働けとは言って無いんだが。

「別にそういうわけじゃないんだが?」

「そうなのですか?このままのペースで行けば予定より早くアネットさんは自分を買い戻せるでしょう。てっきりそうさせない為かと思ったのですが。」

「鬼か?」

「むしろ奴隷を手放さない為の常套手段かと。」

「マジか。」

「えへへ、そこまで思って下さるのであればもうちょっと高くてもいいかもしれません。」

アネットが急に態度を変えて喜びだした。

だから俺はそんな風に思っていないわけで。

はぁ、もういい。

好きにしてくれ。

「・・・うらやましい。」

「はい?」

「生憎と私はシロウ様に利益をもたらすことは出来ません。出来る事と言えば鑑定と雑務ぐらいなものでしょうか、これではアネットさんのように買いまして頂くなど・・・。」

「ミラ、何を言っているんだ?」

「ミラ様?」

急にミラがよくわからないことを言い出したぞ。

利益をもたらしていないだって?

お前がいなかったら今みたいに仕事することはできなかっただろう。

それはもちろん本人もわかっていると思うんだが・・・。

「ただいまー。」

「あ、エリザ様が返ってきたようです。」

「そ、そうみたいだな。」

大きな声が聞こえたかと思うとドタドタと大きな足音を立てながらこちらへ向かってくる。

いつもなら文句の一つでも言う所だが、この空気が変わるのならこの際なんでもいい。

「ねぇ聞いてよ、すっごいの売ってた!」

顔を出すなり興奮した様子で話始めるエリザ。

ここまでハイテンションなのは珍しい、余程の物なんだろう。

「何が売ってたんだ?」

「ブルードラゴンの鱗を使った鎧なんだけど、それに耐熱の効果と耐久の効果がついてるの。あれがあれば寒い所や水場に行っても困ることはないわね。あー、欲しいなー、でも高いなー。」

「いくらだったんですか?」

「金貨10枚!」

「確かに高いですね。」

「ねぇ、シロウ買ってよ。」

「なんで俺が買うんだよ、それぐらい出せるだろ?」

素材やらなんやらで結構儲けているのを俺は知っている。

さらに言えば最近はギルドの講習や巡回の仕事を受けているので、そっち関係での収入もあるんだよな。

だから金貨10枚ぐらいはポンとだせるはずだ。

どれだけ酒飲みだって言っても普段はうちで飯を食ってるし、外食するときも基本は俺持ちだ。

酒代だけは自腹で払わせているがそれも微々たるもの。

俺がエリザに払った金だけで言えばこの数倍はあるはずだ。

「シロウに買ってもらうから良いんじゃない。」

「意味が解らん。」

「・・・うらやましい。」

「え?」

「エリザ様の持ち帰る素材は利益の出るものばかりですから、私のように鑑定しかできない女と違ってアネットさん同様にしっかりとシロウ様のお役に立っておられます。」

あー、また変なことを言ってるし。

ぶつぶつと呪詛のようにつぶやくミラを見てエリザが目を丸くしていた。

「ねぇ、どうしたの?」

「よくわからんが、今回の家具や機材でアネットの借金が増えるのがうらやましいとか急に言い出したんだ。」

「そうすればより長い事シロウ様と一緒にいられるからと。」

「なるほどね。その気持ちよくわかるわ、ミラ。」

「え?」

エリザの答えに今度は俺とアネットが目を丸くした。

エリザがよしよしとミラの頭をなでる。

いったい何がわかるというのだろうか。

「つまりはシロウと離れられなくなる理由が欲しいのよね?アネットやハーシェさんみたいに高額な借金とかがあればそれを言い訳にできるけど、私やミラにはそれがないから。」

「それはなんとなくわかるが、別にそんなものが無くても手放すつもりはないんだが?」

「でも何かあった時に理由があるほうが納得しやすいでしょ?」

「納得・・・、それはお前らがか?それとも他人がか?」

「どっちもよ。」

借金があるから離れられないってのを今更理由にする必要はないんだろうが、俺にはわからない何かが安心感につながるんだろう。

他人も、俺に借金があるもしくはかなり高額で買われたとなればおいそれと手を出しにくい。

特にアネットぐらい高額になるとまぁ買おうとは思わないよな。

その点エリザはともかくミラはかなり安い。

いや、値段だけで言えば高値で売られる予定だったんだけど安く売ってもらった。

つまり、誰かが強引に買おうとして手が届いてしまうわけだ。

そうならないために借金、もとい自分にかかるお金を増やすことで安心感を増やしたいんだろう。

「まぁ、考えは理解した。つまりアネットがうらやましいわけだ。」

「そういうことになります。」

「で、どうやって借金を増やすつもりだ?っていうかそもそも借金なんてないわけだが・・・。」

「じゃあさ、あの鎧買って?」

「おまえじゃない、ミラに言ってるんだ。」

「今回の家具代などはどうでしょう。」

「たかだか金貨2枚増えたところでなんになる。」

「・・・それもそうですね。」

お、やっといつものミラの顔に戻ってきたぞ。

急にポンコツになるから何事かと思ったが、寒さで正気をなくしていたんだろうか。

それともこっちがミラの素なんだろうか。

まぁ、どっちでもいいんだが。

「つまりいくら増やした所で微々たるものだろう。仮に金貨100枚増えてもお前は安心しない、そうだな?」

「そうかもしれません。」

「それに俺の子供を産むんだろ?子供が出来た時点でお前をどこかにやることはない、奴隷から解放して改めて俺の女にするだけだ。」

「・・・はい!」

「だから今のままでいろ、わかったな。」

「わかりました。」

どうやら納得してもらえたようだ。

そもそも奴隷の身分だから他人に買われる可能性があるわけで、それが無くなれば何の問題もなくなる。

本当はすぐにでも解放したいんだが、本人がかたくなに拒むんだよな。

なら子供をダシに安心してもらうしかない。

「いいないいな~、私もシロウにそんなこと言われたい。」

「お前は鎧が欲しいんだろ?買ってやるさ、それで満足ならな。」

「嫌よ、自分で買うわ。」

「お、言ったな?」

「だからさっさと孕ませてよね、待ってるんだから。」

「そりゃしらん、お天道様に頼むんだな。」

羨ましいからって孕ませろと自分で言うか、普通。

これだから脳筋は。

「なんだか自分が恥ずかしくなってきました・・・。」

「いいじゃないか、ミラはともかくアネットの借金は多ければ多い方が俺も安心できる。なんせあの兄貴が買い戻すとか言いかねないからな。」

「もしそういいだしても拒否します。」

「ともかくだ、何があっても俺はお前たちを売ったりしない。約束する。」

「わかりました。」

「信じてるからね。」

何なら指切りしてやってもいい。

そうすればより安心するだろう。

満足気な女たちとは対照的に俺は大きくため息をついた。

まったく女って生き物は本当にわからないものだなぁ。
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