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486.転売屋は忙しい日々を過ごす

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「あーもう、忙しい忙しい忙しい。」

「ちょっとシロウうるさい。」

「仕方ないだろ、こんなにも買取が山積みなんだから。」

「感謝祭前ですからね、いたし方ありません。」

「それに仕事サボってたのはシロウでしょ?ほらさっさと鑑定する!」

女達の容赦ない正論が俺の心に突き刺さる。

うぅ、コタツが俺を待っているのに戻れないなんて。

せめてコタツの中で鑑定をと思いもしたが、汚れてしまうしそもそも素材をそこまで運ぶのがめんどくさい。

ならばその場でやるしかないだろう。

ミラが受付をして、エリザが運搬。

それを俺が鑑定・査定をして客に伝える。

買取成立ならそれをメルディが倉庫へと運ぶ。

それを朝からずっと続けていると時間感覚が麻痺して来るんだよな。

おそらく昼は過ぎていると思うんだけども。

ちなみにアネットはその他の雑務担当だ。

レジ金を裏に持っていったり掃除をしたり、客を誘導したり。

やることって結構あるんだよなぁ。

「シロウまだー?」

「三番札が全部で銀貨22枚、2番札は銀貨49枚。内訳がいるなら呼んでくれ。」

「おっけー!」

はぁ、これでこっちの山は終わり。

んじゃま次は4番札か。

買取品は混ざらないように別々の場所に置かれ、素の上に整理券代わりの札が乗せられている。

右側の山はほとんどが魔物の皮のようだ。

よくもまぁこんなに集めたなという量である。

「えーっと、ボア、ボア、ボア、ウルフ、ボア、ディヒーア・・・。お、ブルーウルフか珍しいな。」

仕事はかなり丁寧だ。

雑な冒険者は皮を適当にはいでしまうが、これを持ち込んだ人は綺麗に仕事をしている。

これならブレラの所に持ち込むと喜んで貰えるだろう。

「えーっと、全部で銀貨71枚ってところかな。」

「わ、綺麗な毛皮ですね。」

「ブルーウルフの毛皮だ、かなり珍しい魔物のはずだがよく手に入ったものだ。」

「高いんですか?」

「コレだけで銀貨50枚だな。」

アネットが毛皮を見つけ目を輝かせる。

『ブルーウルフの毛皮。ウルフ種の中でも特に珍しい魔獣でダンジョン内のごく限られた場所にのみ出現する。動きがすばやく水をはじく毛皮のおかげで自分の膝上ぐらいの水は簡単に移動できてしまう。最近の平均取引価格は銀貨35枚。最安値銀貨24枚最高値銀貨51枚。最終取引日は203日前と記録されています。』

いつもの俺なら銀貨40枚以上はつけなかっただろうが、仕事の丁寧さに思わず上積みしてしまった。

それでもこの素材ならもっと高値で売れる自信がある。

そのままでもいいがやはり加工して売るべきだろうな。

「そんなにするんですね。」

「いい物にはいい値段をつけるべきだ。そうすればまたここに持ち込んでくれる。」

「なるほど。」

「表はどんな感じだ?」

「お客さんは後三人で終わりみたいです。外には休憩中の札をかけておきました。」

「助かる。」

やれやれもうひと頑張りするか。

残りの三人は冒険者ではなく住民のようで品数も少なく、思ったより早く終えることが出来た。

流石に全員疲れた顔をしている。

「後片付けは私がやりますので皆さんお昼にしてください。」

「アネットだって色々と動いただろ、いいから休め。」

「そうよ、皆でやれば終わるんだから。」

「みなさん香茶が入りましたよ。」

「な、無理に働かなくていいんだって。ほら行くぞ。」

散らかったカウンター周りを片付けようとしていたアネットの腕を取り、店の裏へと移動する。

食卓机の上には個人のカップが準備されていた。

「あー忙しかった!」

「昼からはもっと忙しくなるんですよね?」

「恐らくな。倉庫は大丈夫か?」

「まだまだ買い取ってもらっても大丈夫です!入らなかったら裏庭も使いますし、落ち着いたら北の倉庫に運び込みますので。」

「半分がギルドへの持ち込み分とはいえ、それでもかなりの量だなぁ。捌けるのか?」

「何をいまさら。」

素材の買取はギルドに丸投げできるが、装備品や道具関係は自前で売らなければならない。

数が多ければ多い程その件数は増えていく。

もちろん相場スキルでいつ売れているかや金額は確認しているが、所詮は最新情報のみ。

メルディのように履歴や件数で確認できないのがネックなんだよなぁ。

その点メルディやミラはそれを把握したうえで値付けしている。

俺のスキルでは到底太刀打ちできない経験という名の差。

知識よりも経験、どの世界でもそれはあるんだなぁ。

簡単に食事を済ませ気合を入れて迎えた午後営業。

予想通り大賑わいだったが、夕方前に客は捌けてしまった。

これはちょっと予想外だ。

「それじゃあメルディと一緒に倉庫に運んでくるわね。」

「おぅ、宜しく。」

「宜しくお願いします。」

「帰りに買い物してくるけど、なにかいる?」

「いや、いまミラが買い出しに行ってるから大丈夫だろう。俺もちょっと出てくる。」

「いってらっしゃ~い。」

大量の荷物を運ぶ二人と大通りまで一緒に行き、そこから二手に分かれる。

俺が向かったのはマリーさんの所だ。

「これはシロウ様、今日も大賑わいだったとか。」

「おかげさんで。」

「マリー様でしたらすぐに戻ってこられると思います。いい茶葉が入りましたがいかがでしょうか。」

「ん、いただくかな。」

どうやら席を外しているようだがすぐ戻る感じだな。

トイレか何かだろう。

応接用のソファーに移動してくつろいでいると店の奥から音がして、マリーさんが姿を現した。

「あ、シロウ様。」

「邪魔してるぞ。」

「すみませんお待たせしてしまって。」

「今来た所だから問題ない。在庫確認か?」

「はい、結構売れてしまったので。」

年末、いや年明けを綺麗な姿でってのはどの世界も同じのようだ。

自分へのご褒美だったり贈り物だったり色々だが、売れるのはいい事だ。

「感謝祭は休業するんだろ?それまで持ちそうにないなら言ってくれ、今度向こうに行くときに持ち帰る。」

「そこまでしなくても大丈夫だと思いますけど・・・。でも、わざわざこの忙しい時期に向こうへ?」

「来年の臨時出店の打ち合わせなんだと。ついでに燃料の運搬と買い付けを頼まれている。ったく、人をなんだと思っているのやら。」

「私は行けそうにないのでカーラによろしくお伝えください。」

「手紙とかあったらあずかろう、出発は二日後だ。」

「わかりました。」

ほんと、年末のこの忙しい時にめんどくさいなぁ。

とはいえ、ローランド様が言うように儲けがあるのは間違いない。

さっき買い取ったやつだって向こうなら売れるものもたくさんあるだろう。

買取件数が増えたのならそれをさばく場所も増やさなければならない。

そういう意味でも、今回の出店はプラスなのかもしれないな。

いくつか仕事関係の打ち合わせを済ませ、次に向かったのは冒険者ギルドだ。

「あ、ニア様でしたら奥の会議室ですよ。」

「サンキュ。」

「シープ様も一緒です。」

「・・・それは聞きたくなかったなぁ。」

「本当にシロウ様はシープ様が苦手なんですね。」

「苦手っていうかいらん仕事を押し付けられるから嫌なだけだ。」

「わかります。」

受付嬢にすらそう思われるとか、羊男の株はあまり高くないらしい。

会うのが嫌でも仕事は仕事。

仕方なく会議室へと足を踏み入れると、その本人が満面の笑みで俺を迎えてくれた。

「帰る。」

「ちょっとちょっと、人の顔見るなり帰るとか言わないでくださいよ。」

「どう考えても面倒ごと頼まれる流れだ、このくそ忙しい時に追加で仕事とかごめんだね。」

「そういわずに話ぐらい聞いてくださいよ。」

「聞いたら押し付けて来るだろ?」

「それは・・・そうですね。」

「否定ぐらいしろよな。」

まったくこの男は。

横で話を聞いている嫁も特に気にする様子はない。

この男ありてこの妻ありってか?

「とりあえず話を聞いてください、受けるかはそれからでもいいですから。」

「わかったよ。」

仕方なくソファーに座り二人と向き合う。

するとすぐにニアが資料を取り出した。

「これは?」

「この前お話しした冒険者ギルドの改革案です。」

「で?」

「シロウさんの意見をすべて飲むことは出来ませんでしたが、こちらが出来る限りの改善点を記しています。確認していただけますか?」

俺がこの街を出るか出ないかって話になった奴だな。

四か月で答えを出せと言ったが、どうやら覚えていたようだ。

俺は・・・ぶっちゃけ忘れていた。

書類を受け取りさっと目を通す。

ふむふむ、なるほど。

「50点って所か?」

「厳しすぎません?」

「俺の要望に対する回答としてはそんなもんだ。だが、冒険者からしてみれば好意的に受け取ってもらえるだろう。買取時間の短縮、明確な金額提示、それと冒険者証提示の廃止。特に最後のは思い切ったな。」

「ぶっちゃけるとめんどくさかったんですよね、確認って。」

「ぶっちゃけすぎだろ。」

そのめんどい事を今までやっていたんだろうが。

「確かに昔は素材に応じて貢献度とかがあったから、毎回確認していたの。でも今はそこまで貢献度はないし、むしろ貢献度の高い素材を売買して実際とかけ離れた状態になった事があったからその制度もやめちゃったのよね。」

「ならなんで提示を求めていたんだ?」

「冒険者以外がダンジョンに潜らないようにするためよ。お金になるのがわかって住民がダンジョンに入り素材を持ち帰る。」

「そうすると事故が増え面倒ごとも一緒に増えると。なるほどな。」

「でも、それももうしないことにしたの。」

「理由は?」

「貴方が来たからよ。」

俺が?

買取屋が来たから住民がギルドに持ち込むことが無くなった?

でもそれでは事故は減らないよな。

そこでなんで俺が出てくるんだ?

「これまでこの街で出来る仕事といえば限られていましたからね、ダンジョンの為に存在していますからそれ以外の事は出来ないと言っても過言ではありません。でも、シロウさんが来てから、特にこの一年でそれは大きく変わりました。シロウさんが何かをする度に新しい仕事が生まれ、それによって生かされる人が増えてきたわけです。」

「つまりわざわざダンジョンに潜る素人がいなくなったわけか。」

「調べてみたんだけど、この一年でギルドに素材を持ち込んだ素人は一人もいなかったの。だから確認する必要はもうないってこと。」

「なるほどなぁ。」

「もちろんそうする事で素人も紛れて来るでしょうけど、わざわざ危険のあるダンジョンに潜るぐらいなら他の仕事をした方が安全でかつ稼げるから。」

「まぁ結果としてそういった改革が出来たのなら俺は何も言わん。」

これが冒険者ギルドの出した結論だ。

この書類の中に買取代行などは残念ながら書かれていなかったが、これによりうちに持ち込まれるギルドと同価格の素材は減ることだろう。

余計な仕事が減ることでよりほかの業務にも集中できる。

今日みたいに混雑する日も少なくなるというわけだ。

「代理買い取りは正規買取と混ざる可能性があるのと、価格のすり合わせは約束が出来ない為回答を見合わせました。」

「まぁ、本命は最初の方だ。それさえ何とかしてくれれば俺も助かる。」

「でも50点なんですよね?」

「そりゃな。」

全部やるから100点なのであって、そうでないなら半分だ。

でも一項目で50点なんだからどれがメインかは言わなくてもわかるだろう。

「開始は来年からです、よろしくおねがいします。」

「こちらこそ引き続きよろしく頼む。」

「それでですね~・・・。」

「隣町への買い付けはリストと金を出せ、俺は立て替えないぞ。それとあの女の対処はお前がやれ。俺は知らん。」

「そんなぁ。」

「どうせ前に面倒ごと頼まれたんだろ?頼まれた奴が何とかしやがれ。」

「うぅ、厳しいなぁ。」

「自業自得だろ。ニアも旦那によく言っとけ、俺はそこまで甘くないってな。」

「でも買い付けはしてくれるのね。」

「金になるからな。」

金にならないことはしないが、金になるのならばやらないこともない。

さぁ、感謝祭まで残りあとわずか。

年末までの追い込みだまだまだ頑張るとしよう。
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