485 / 1,063
483.転売屋はミカンを探す
しおりを挟む
「みかんがない・・・。」
「みかん?」
「みかんのないコタツなんてコタツじゃない。」
「せっかく作ったのに何言ってるのよ。これがシロウの望んだ物なんでしょ?」
目の前には完成したコタツ。
四足のローテーブルには火焔石が仕込まれており、テーブル自体が熱を帯びている。
その上に耐熱性の高い天板を乗せることで熱が上まで伝わらないようにすることが出来た。
あとはそいつに毛布をかければコタツの出来上がり。
足を入れれば遠赤外線のような何かがじんわりと体を温めてくれる。
見た目はコタツ。
中身もコタツ。
確かにエリザの言う通りこいつ自体は完成したといえるだろう。
だが、それじゃ足りないんだ。
コタツといえばみかん。
そう、みかんがなければ完成したとはいえない。
茶請けも緑茶もあるのにみかんがないなんて。
くそ、盲点だった。
「みかんっていうのは柑橘系の果物ですよね、ボンバーオレンジじゃダメなんですか?」
「オレンジとみかんは違う、似てるようでぜんぜん違うんだ。」
「どう違うの?」
「俺の主観だが、みかんは小ぶりで皮が柔らかく剥きやすい。その点オレンジは大きなものが多く皮が硬い。味もみかんの方が甘みが少なく水分量は多い・・・気がする。」
「気がするって、そう明確に区分されているわけじゃないのね?」
「いっただろ俺の主観だって。」
俺だって明確にオレンジとみかんの違いなんてしらねぇよ。
そもそもみかんを英語で言うとオレンジになるのかもしれないし。
でもさっきのような違いがあるんだよな、やっぱり。
だからコタツで食べるのはオレンジではなくみかんであるべきだ。
異論は認める。
「その条件であれば確かにボンバーオレンジは該当しませんね。」
「皮は分厚いし甘みもしっかりあるわ。みずみずしいといえばみずみずしいけど。」
「他にも似たようなやつはあるのか?」
「なくはないけど、でも私が知ってる奴は全部皮が分厚いわね。」
「まじか。」
「そもそも皮が薄いと鳥に食べられたりするでしょ?となると屋外じゃなくてダンジョンとか屋内になるだけど、ダンジョン内では魔素の問題で分厚くなるのよね。薄いとそこから魔力が入り込んで変質しちゃうから。」
「魔素って魔力の元だよな?それを吸収するのか?」
「そもそもダンジョンってのは普通と違う生態系をしてるものなの。同じようなものでもダンジョンの中と外では見た目が違うこともあるわ。シロウがほしがっているものはダンジョン内にはないかもね。」
「ダンジョンで手に入らないとなると、すぐに手に入れるのは難しそうです。」
俺の思い描いているみかんは手に入りそうにないようだ。
くそ、ここまで来て最大の問題にぶち当たってしまった。
藁にも縋る思いでアレン少年を頼ってみたが、残念ながら撃沈。
やはりダンジョン内に自生するオレンジ系は全て皮が分厚いらしい。
皮が薄いオレンジはこの近辺では手に入らず、あるとしても国外なんだとか。
それを取り寄せる頃には冬が終わってしまうかもしれない。
あぁ、みかんが恋しい。
「とまぁ、こんな感じだ。」
「みかんですか。私も知りませんね。」
「そうか、モーリスさんも知らないか。」
「お力になれず申し訳ありません。」
「いや、畳を見つけてくれただけでも十分ありがたい。」
「年内は難しいですが年明け1月の半ばぐらいには此方に到着するようです。でも100畳分も頼んで大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ、必ず売れる。」
「確かにあの温かさは魅力ですが、やはり靴を脱ぐということに抵抗がありますね。」
「こっちにそういう文化はないからなぁ。」
この世界、っていうかこのあたりに靴を脱いで生活するという文化はない。
だが、だから売れないというのは間違いだ。
土壌がないのならば耕せばいい。
俗に言うブルーオーシャンという状態だ、俺のやり方次第ではいくらでも売れる可能性がある。
もちろんこの冬は無理だろう。
だが、次の冬には売れる。
いや、売る。
そうじゃないと仕入れた畳も発注したコタツもすべて無駄になってしまう。
売れれば大当たり、売れなければ大損。
ハイリスクハイリターンだが、そもそも俺が欲しくて作ったので失敗しても惜しくはないんだよな。
「こちらでも引き続き皮の柔らかいオレンジを探しておきます。」
「あぁ、よろしく頼む。」
モーリスさんにお礼を言って、いつものピクルスを買いそのまま隣へと移動する。
「これはシロウ様ようこそお越しくださいました。」
「あれ、マリーさんはいないのか?」
「マリー様でしたら所用で出ております。」
「そうか・・・。」
「シロウ様、聞きましたところ皮の薄いオレンジを探しているのだとか。みかんというのでしたか?」
「あぁ、俺の所ではそう呼んでいた。こっちでの呼び名は違うかもしれないがナイフを使わずに手で皮がむける柑橘系の果物だ。」
王家ならば珍しい果物を知っているかもしれないと足を運んでみたものの、生憎とマリーさんは留守にしているようだ。
アニエスさんの所にも情報はいっているようだが、この感じだと知らないみたいだな。
「甘さは控えめでしたね。」
「甘いやつもあるがそこまで甘くない方が俺は好きだ。大きさはこのぐらいだな。」
「ふむ・・・。」
「記憶にあるか?」
「申し訳ありません。私が知っているものはどれも皮が分厚くナイフを使用して剥きますね。ですがシロウ様、ご自身で剝かなくともしてくださる人がいるのですからお願いすればいいではありませんか。大切なのは中身や味であってわざわざ皮にこだわる必要はないと思いますが?」
「それはそうなんだがなぁ。」
「もしそれを考慮に入れなければ、近い味のものであれば心当たりがあります。」
「本当か!?」
俺のこだわりで薄い皮の奴を探していたが、アニエスさんの言うように別にこだわらなくてもいいかもしれない。
剥ける剥けないは問題ではなく、俺が求めているのはあの味。
俺はもう一人じゃないんだ、やってくれるんならやってもらえばいい。
ぶっちゃけ皮が分厚くても自分で剥けるしな。
「ダンジョンの奥にカメレオンフルーツという果物に擬態する魔物がいるのですが、それがつける実がシロウ様のお話に合った味に似ています。あまり甘くなく水分が多い果物ですよね?」
「そうだが・・・魔物が果物に擬態するのか?」
「正確には果物を餌に獲物を引き付ける、でしょうか。擬態とはいえ餌にする果物は食べることが可能です。毎回同じ果物をつけるわけではないので数を手配するのは難しいかもしれませんが・・・。」
「いや、手に入るのであればかまわない。ここのダンジョンにもいるのか?」
「かなり深い場所ではありますが見たことがあります。必要であればとってきますが?」
「いや、せっかくだから冒険者に依頼しよう。金になるとわかれば定期的に持ってきてくれるかもしれん。」
エリザやアニエスさんに頼めばすぐにとってきてくれるかもしれない。
だが、それでは毎回頼まなければならなくなる。
その点冒険者に依頼すれば履歴が残り、かつ俺が依頼主だという事がわかるだろう。
俺が依頼主の場合は高値で買い取ってくれることを冒険者たちは知っている。
そうすると自主的に集めてくれたりするんだよな。
「なるほど。」
「良い事を聞かせてもらった、早速依頼を出してくるよ。」
「お望みのものだといいのですが。」
「そうじゃなかったらまた探すさ。」
改めてアニエスさんに言われて俺が意固地になっていることを教えてもらった。
こだわらなければ可能性があるんだ、それに望みを掛ければいい。
アニエスさんにお礼を言って急ぎ冒険者ギルドへ駆け込んだ。
「え、カメレオンフルーツですか?」
「それもオレンジ系限定だ、頼めるか?」
「もちろんシロウ様の依頼であればお断りしませんけど・・・美味しくないですよ?」
「味が薄いらしいな。」
「本物の方がジューシーですし甘みもあります。ぶっちゃけると本物の方が安いですよ?」
もちろんそれはわかっている。
でも俺が求めているのはそれじゃないんだ。
受付嬢もそれ以上は何も言わず、いつもと同じように依頼を受けてくれた。
そして待つこと二日。
店の二階に設置した主役のいないこたつに入っていた俺の元に、目的のものが届けられた。
「シロウ、持ってきたわよ。」
「きたか!」
「本当にこれでいいの?なんか小さいわよ?」
「これでいい、この大きさこの色、間違いない。」
「こんなのに一つ銀貨5枚も出すなんて、ちょっと信じられないんだけど。」
こたつから飛び出し、目的のものを手に取る。
手のひらに収まる小ささながら、鼻に近づけると柑橘系のすっきりとした香りがした。
『カメレオンフルーツの果実。果物に擬態し獲物を待ち受ける魔物で、本物そっくりの果汁は食べることもできる。ただし本物よりかは味は劣る。最近の平均取引価格は銀貨3枚。最安値銀貨1枚最高値銀貨5枚。最終取引日は98日前と記録されています。』
後は味だ。
再びこたつに入り用意しておいた小刀でお尻の部分に切れ込みを入れ、そこに指を押し込む。
若干の抵抗はあるが思ったよりも力を入れずに皮をむくことが出来た。
順番に皮を剥き、薄いオレンジ色をした身が姿を現す。
いつの間にかミラとアネットまでもが部屋に来ており、俺の反応に興味津々のようだ。
一房むいて口に運ぶ。
奥歯で噛んだ瞬間にあふれる果汁。
甘すぎずでも仄かに甘い。
乾燥したのどを潤すだけの果汁の量もちょうどいい。
みかんだ。
これは間違いなくみかんだ。
「どう?」
「間違いない、これだ。」
「よかったじゃない。一個もーらい。」
「あ、こら!」
「ん~?やっぱりちょっと薄い。でも嫌いじゃないかも。ミラ達も食べなよ。」
「よろしいのですか?」
「まぁ、独り占めするものでもないか。」
せっかく食べるんだみんなで食べよう。
女たちが順番にこたつの中に足を入れてくる。
この冷たいのはミラか?
「あ、すみません冷たいですよね。」
「気にするなすぐに暖かくなる。」
「靴を脱ぐのは面倒だけどこのこたつって良いわよね。なんていうか体の芯から温まる感じがするもの。」
「一度はいると出たくなくなりますよね。」
「それがこのこたつの恐ろしい所だ。ちなみに、こんなものもあるぞ。」
俺は横に用意しておいたお菓子をこたつの上にのせる。
もちろん飲み物もある。
こうなることを予想してエリザ用の酒も用意しておいた。
「こんなのあったら出られないじゃない!」
「ちなみにトイレとかで出たやつが雑用係だからな。」
「なるほど、水分補給もかねての果物ですか。」
「まぁ、それだけじゃないがそんなところだ。」
「はぁ、今日はもう仕事したくないです。」
「休め休め、急ぎの仕事じゃないんだろ?」
「まぁ・・・。」
「なら今日はここでのんびりすればいい、店も終わりだ。俺はもうここから出ないからな!」
そう宣言してもう一つミカンを頬張る。
寒い冬にこたつとみかん。
この二つさえあればもう何もいらない。
女達と足を絡めあいつつ、俺達は昼間からのんびりとした時間を過ごすのだった。
「みかん?」
「みかんのないコタツなんてコタツじゃない。」
「せっかく作ったのに何言ってるのよ。これがシロウの望んだ物なんでしょ?」
目の前には完成したコタツ。
四足のローテーブルには火焔石が仕込まれており、テーブル自体が熱を帯びている。
その上に耐熱性の高い天板を乗せることで熱が上まで伝わらないようにすることが出来た。
あとはそいつに毛布をかければコタツの出来上がり。
足を入れれば遠赤外線のような何かがじんわりと体を温めてくれる。
見た目はコタツ。
中身もコタツ。
確かにエリザの言う通りこいつ自体は完成したといえるだろう。
だが、それじゃ足りないんだ。
コタツといえばみかん。
そう、みかんがなければ完成したとはいえない。
茶請けも緑茶もあるのにみかんがないなんて。
くそ、盲点だった。
「みかんっていうのは柑橘系の果物ですよね、ボンバーオレンジじゃダメなんですか?」
「オレンジとみかんは違う、似てるようでぜんぜん違うんだ。」
「どう違うの?」
「俺の主観だが、みかんは小ぶりで皮が柔らかく剥きやすい。その点オレンジは大きなものが多く皮が硬い。味もみかんの方が甘みが少なく水分量は多い・・・気がする。」
「気がするって、そう明確に区分されているわけじゃないのね?」
「いっただろ俺の主観だって。」
俺だって明確にオレンジとみかんの違いなんてしらねぇよ。
そもそもみかんを英語で言うとオレンジになるのかもしれないし。
でもさっきのような違いがあるんだよな、やっぱり。
だからコタツで食べるのはオレンジではなくみかんであるべきだ。
異論は認める。
「その条件であれば確かにボンバーオレンジは該当しませんね。」
「皮は分厚いし甘みもしっかりあるわ。みずみずしいといえばみずみずしいけど。」
「他にも似たようなやつはあるのか?」
「なくはないけど、でも私が知ってる奴は全部皮が分厚いわね。」
「まじか。」
「そもそも皮が薄いと鳥に食べられたりするでしょ?となると屋外じゃなくてダンジョンとか屋内になるだけど、ダンジョン内では魔素の問題で分厚くなるのよね。薄いとそこから魔力が入り込んで変質しちゃうから。」
「魔素って魔力の元だよな?それを吸収するのか?」
「そもそもダンジョンってのは普通と違う生態系をしてるものなの。同じようなものでもダンジョンの中と外では見た目が違うこともあるわ。シロウがほしがっているものはダンジョン内にはないかもね。」
「ダンジョンで手に入らないとなると、すぐに手に入れるのは難しそうです。」
俺の思い描いているみかんは手に入りそうにないようだ。
くそ、ここまで来て最大の問題にぶち当たってしまった。
藁にも縋る思いでアレン少年を頼ってみたが、残念ながら撃沈。
やはりダンジョン内に自生するオレンジ系は全て皮が分厚いらしい。
皮が薄いオレンジはこの近辺では手に入らず、あるとしても国外なんだとか。
それを取り寄せる頃には冬が終わってしまうかもしれない。
あぁ、みかんが恋しい。
「とまぁ、こんな感じだ。」
「みかんですか。私も知りませんね。」
「そうか、モーリスさんも知らないか。」
「お力になれず申し訳ありません。」
「いや、畳を見つけてくれただけでも十分ありがたい。」
「年内は難しいですが年明け1月の半ばぐらいには此方に到着するようです。でも100畳分も頼んで大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ、必ず売れる。」
「確かにあの温かさは魅力ですが、やはり靴を脱ぐということに抵抗がありますね。」
「こっちにそういう文化はないからなぁ。」
この世界、っていうかこのあたりに靴を脱いで生活するという文化はない。
だが、だから売れないというのは間違いだ。
土壌がないのならば耕せばいい。
俗に言うブルーオーシャンという状態だ、俺のやり方次第ではいくらでも売れる可能性がある。
もちろんこの冬は無理だろう。
だが、次の冬には売れる。
いや、売る。
そうじゃないと仕入れた畳も発注したコタツもすべて無駄になってしまう。
売れれば大当たり、売れなければ大損。
ハイリスクハイリターンだが、そもそも俺が欲しくて作ったので失敗しても惜しくはないんだよな。
「こちらでも引き続き皮の柔らかいオレンジを探しておきます。」
「あぁ、よろしく頼む。」
モーリスさんにお礼を言って、いつものピクルスを買いそのまま隣へと移動する。
「これはシロウ様ようこそお越しくださいました。」
「あれ、マリーさんはいないのか?」
「マリー様でしたら所用で出ております。」
「そうか・・・。」
「シロウ様、聞きましたところ皮の薄いオレンジを探しているのだとか。みかんというのでしたか?」
「あぁ、俺の所ではそう呼んでいた。こっちでの呼び名は違うかもしれないがナイフを使わずに手で皮がむける柑橘系の果物だ。」
王家ならば珍しい果物を知っているかもしれないと足を運んでみたものの、生憎とマリーさんは留守にしているようだ。
アニエスさんの所にも情報はいっているようだが、この感じだと知らないみたいだな。
「甘さは控えめでしたね。」
「甘いやつもあるがそこまで甘くない方が俺は好きだ。大きさはこのぐらいだな。」
「ふむ・・・。」
「記憶にあるか?」
「申し訳ありません。私が知っているものはどれも皮が分厚くナイフを使用して剥きますね。ですがシロウ様、ご自身で剝かなくともしてくださる人がいるのですからお願いすればいいではありませんか。大切なのは中身や味であってわざわざ皮にこだわる必要はないと思いますが?」
「それはそうなんだがなぁ。」
「もしそれを考慮に入れなければ、近い味のものであれば心当たりがあります。」
「本当か!?」
俺のこだわりで薄い皮の奴を探していたが、アニエスさんの言うように別にこだわらなくてもいいかもしれない。
剥ける剥けないは問題ではなく、俺が求めているのはあの味。
俺はもう一人じゃないんだ、やってくれるんならやってもらえばいい。
ぶっちゃけ皮が分厚くても自分で剥けるしな。
「ダンジョンの奥にカメレオンフルーツという果物に擬態する魔物がいるのですが、それがつける実がシロウ様のお話に合った味に似ています。あまり甘くなく水分が多い果物ですよね?」
「そうだが・・・魔物が果物に擬態するのか?」
「正確には果物を餌に獲物を引き付ける、でしょうか。擬態とはいえ餌にする果物は食べることが可能です。毎回同じ果物をつけるわけではないので数を手配するのは難しいかもしれませんが・・・。」
「いや、手に入るのであればかまわない。ここのダンジョンにもいるのか?」
「かなり深い場所ではありますが見たことがあります。必要であればとってきますが?」
「いや、せっかくだから冒険者に依頼しよう。金になるとわかれば定期的に持ってきてくれるかもしれん。」
エリザやアニエスさんに頼めばすぐにとってきてくれるかもしれない。
だが、それでは毎回頼まなければならなくなる。
その点冒険者に依頼すれば履歴が残り、かつ俺が依頼主だという事がわかるだろう。
俺が依頼主の場合は高値で買い取ってくれることを冒険者たちは知っている。
そうすると自主的に集めてくれたりするんだよな。
「なるほど。」
「良い事を聞かせてもらった、早速依頼を出してくるよ。」
「お望みのものだといいのですが。」
「そうじゃなかったらまた探すさ。」
改めてアニエスさんに言われて俺が意固地になっていることを教えてもらった。
こだわらなければ可能性があるんだ、それに望みを掛ければいい。
アニエスさんにお礼を言って急ぎ冒険者ギルドへ駆け込んだ。
「え、カメレオンフルーツですか?」
「それもオレンジ系限定だ、頼めるか?」
「もちろんシロウ様の依頼であればお断りしませんけど・・・美味しくないですよ?」
「味が薄いらしいな。」
「本物の方がジューシーですし甘みもあります。ぶっちゃけると本物の方が安いですよ?」
もちろんそれはわかっている。
でも俺が求めているのはそれじゃないんだ。
受付嬢もそれ以上は何も言わず、いつもと同じように依頼を受けてくれた。
そして待つこと二日。
店の二階に設置した主役のいないこたつに入っていた俺の元に、目的のものが届けられた。
「シロウ、持ってきたわよ。」
「きたか!」
「本当にこれでいいの?なんか小さいわよ?」
「これでいい、この大きさこの色、間違いない。」
「こんなのに一つ銀貨5枚も出すなんて、ちょっと信じられないんだけど。」
こたつから飛び出し、目的のものを手に取る。
手のひらに収まる小ささながら、鼻に近づけると柑橘系のすっきりとした香りがした。
『カメレオンフルーツの果実。果物に擬態し獲物を待ち受ける魔物で、本物そっくりの果汁は食べることもできる。ただし本物よりかは味は劣る。最近の平均取引価格は銀貨3枚。最安値銀貨1枚最高値銀貨5枚。最終取引日は98日前と記録されています。』
後は味だ。
再びこたつに入り用意しておいた小刀でお尻の部分に切れ込みを入れ、そこに指を押し込む。
若干の抵抗はあるが思ったよりも力を入れずに皮をむくことが出来た。
順番に皮を剥き、薄いオレンジ色をした身が姿を現す。
いつの間にかミラとアネットまでもが部屋に来ており、俺の反応に興味津々のようだ。
一房むいて口に運ぶ。
奥歯で噛んだ瞬間にあふれる果汁。
甘すぎずでも仄かに甘い。
乾燥したのどを潤すだけの果汁の量もちょうどいい。
みかんだ。
これは間違いなくみかんだ。
「どう?」
「間違いない、これだ。」
「よかったじゃない。一個もーらい。」
「あ、こら!」
「ん~?やっぱりちょっと薄い。でも嫌いじゃないかも。ミラ達も食べなよ。」
「よろしいのですか?」
「まぁ、独り占めするものでもないか。」
せっかく食べるんだみんなで食べよう。
女たちが順番にこたつの中に足を入れてくる。
この冷たいのはミラか?
「あ、すみません冷たいですよね。」
「気にするなすぐに暖かくなる。」
「靴を脱ぐのは面倒だけどこのこたつって良いわよね。なんていうか体の芯から温まる感じがするもの。」
「一度はいると出たくなくなりますよね。」
「それがこのこたつの恐ろしい所だ。ちなみに、こんなものもあるぞ。」
俺は横に用意しておいたお菓子をこたつの上にのせる。
もちろん飲み物もある。
こうなることを予想してエリザ用の酒も用意しておいた。
「こんなのあったら出られないじゃない!」
「ちなみにトイレとかで出たやつが雑用係だからな。」
「なるほど、水分補給もかねての果物ですか。」
「まぁ、それだけじゃないがそんなところだ。」
「はぁ、今日はもう仕事したくないです。」
「休め休め、急ぎの仕事じゃないんだろ?」
「まぁ・・・。」
「なら今日はここでのんびりすればいい、店も終わりだ。俺はもうここから出ないからな!」
そう宣言してもう一つミカンを頬張る。
寒い冬にこたつとみかん。
この二つさえあればもう何もいらない。
女達と足を絡めあいつつ、俺達は昼間からのんびりとした時間を過ごすのだった。
16
お気に入りに追加
332
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる