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481.転売屋はこたつを作る

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「さぶぶぶ。」

「ほら、早く入りなさいよ。」

「入っても寒いんだよなぁ・・・。」

「文句言うなら外で待ってなさい。」

「それは困る。」

一仕事終えた俺達は北風に震えながら一角亭へと滑り込んだ。

中は別世界とまでは行かないが、料理の熱と厨房の熱気もあってそれなりに温かい。

「いらっしゃい、奥の席開いてるよ。」

「イライザさん今日のお鍋は~?」

「ワイルドボアの火鍋かアングリーチキンのトトマト鍋だよ。」

冬といえば鍋、鍋といえば一角亭。

これもすっかり定着したなぁ。

「どうする?」

「私トトマト!」

「寒いので火鍋が食べたいです。」

「わたしはどちらでも、お任せします!」

「なら両方頼んで分けるか。」

エリザとメルディとミラがトトマト、俺とアネットが火鍋。

二つずつ頼んでおけば余ることはあっても足りない事はないだろう。

六人掛けのテーブルに移動して一息つくも、扉が開くたびに冷気が足元を通り抜ける。

「う~さぶい。」

「なんだよお前も寒いんじゃないか。」

「だって、ひざ掛け忘れたんだもん。」

「エリザ様私の半分使いますか?」

「えへへ、メルディ助かる~。」

寒いのにそんな恰好で来るからだ。

そんなに膝出して、見てる方が寒いっての。

「シロウさん、飲み物どうしますか?」

「お、ファン。調子はどうだ?」

「変わんないよ。でも、新しい料理考えたんだぜ。ボア肉の揚げ焼き、また食べてくれよな。」

「じゃあそれも頼む。」

「え、でも鍋は?」

「それも食うんだよ。」

「まかせて!」

「だそうだ、飲み物はいつも通りで。」

「わかった!」

俺の財布を盗もうとした事もあったが、今では一人前の料理人になるべくイライザさんの所で修行中だ。

モニカの所を出てどうなるかと思ったがもう心配ないな。

そんな事を思っていると、また客が入ってきて冷たい風が足元を通り抜けていく。

うーさぶさぶ。

「鍋だったらやっぱりこたつだよなぁ。」

「なにそれ。」

「机の下に熱源があって、それを毛布で覆うんだ。そうすることで足元は暖かいし、なによりこたつで食うと鍋が倍美味く感じる。」

「え、そんなに!?」

「机の下に熱源ですか、でもかなり大きな毛布が要りますよね。」

「あぁ、床に座るからそこまでの大きさはいらない。空間が狭い分温まるのも早いしな。」

「床に座るんですか?」

「前はそれが普通だったんだよ。居住部には靴を脱いで入るのが当たり前だったし。」

この世界は土足が基本だ。

もちろん俺もそれに倣ってベッドの中以外は靴を履いている。

でもたまにはゆっくり床に座って足を延ばしたい気持ちもある。

こたつといえば畳。

掘りごたつもありだが、イ草の香りのする畳は外せないよなぁ。

「へぇ、そうなんですね。」

「屋敷の空き部屋に作ろうかなぁ。でも畳がないか。」

「畳ってのがいるの?」

「板間でもいいが、座り心地が違う。」

「面白そうね、お鍋が美味しくなるってのはポイント高いわ。作りましょうよ。」

「作るって言ったってなぁ・・・。」

「お待たせ、これ食べてあったまりな。」

と、間に割って入るようにイザベラさんとフールが順番に鍋を運んできた。

話はこれで一時中断。

良い匂いのする鍋を前にして無駄話なんてできるだろうか、いや出来ない。

とはいえ、一度考えてしまうと欲しくなってしまうんだよなぁ。

芯から温まり家に戻った後も俺はこたつの事を考えていた。

正直欲しい。

問題はどうやって再現するかだ。

必要なのは熱源と燃料とあとは耐熱素材か。

比較的丈夫でかつ熱に強い素材。

軽ければ軽いほどよし。

あとあまり大きくないのがいいよな。

夏場邪魔になるのは困る。

そんな事を考えているうちに夜は更け、気づけば眠ってしまった。


「ってな感じの物なんだが、西方とやらに似たようなのはあるか?」

「草の香りのする床材ですか。食べ物専門でしてそういったものはあまり詳しくないのですが、前に仕入れを行った時には靴を脱いで商談したことはあります。」

「ってことは可能性はゼロじゃないか。」

「その時は面倒だと思ったものですが、いつでもどこでも横になれるのは良いですね。」

「そうなんだよ。わざわざベッドに戻らなくても横になれるってのが良いんだよな。」

こっちに来て面倒だなと思った部分がまさにそこだ。

家の中で好きな時に横になれない不自由さ。

あれを再現できれば最高なんだけどなぁ。

「また探しておきますね。」

「あぁ、よろしく頼む。」

「それと、この前のお菓子ごちそうさまでした。小豆があんなに美味しいものだなんて知りませんでした。アンナも大喜びでしたよ。」

「そいつは何よりだ。また炊いたときはおすそ分けさせてもらうさ。」

「ぜひ、お待ちしています。」

思い立ったら即行動ってことでモーリスさんに相談してみたが、生憎と畳の情報はなかった。

仕方ないのでこたつだけでも開発するべく今度は図書館へと足を延ばす。

「耐熱素材?」

「あぁ、出来れば軽くてかといって熱伝導率の高くないやつがいい。」

「僕は素材の専門家じゃないんだけど。」

「だが知識としては知ってるかもしれないだろ?」

「まぁそうなんだけど・・・。」

アレン少年は何かを考えるように腕を組み、俯く。

しばらく待つと顔を上げ無言で図書館の書庫へと向かってしまった。

それからさらに待つこと五分。

「この本にそういった素材が載っていたはずだ、後は勝手に調べてくれ。」

「助かる。」

窓際に場所を移し、パラパラと本をめくっていく。

何かの設計図だろうか。

色々な図形が描かれ、線が引いてあり横に数字が書かれている。

えーっと。

これだな。

熱に強くただし触ってもあまり熱くない。

なるほど、アイストレントの素材を使うのか。

芯から凍っているので熱が通りにくく、触っても低温火傷を起こすほどではない。

これで作るとして、後は熱源と燃料か・・・。

「みつかったかい?」

「あぁ、助かったよ。」

「こたつ、だっけ?」

「知ってるのか?」

「これも知識だけだけどね。床に座って暖を取るらしいじゃないか、出来たら持ってきておくれよ。最近椅子に座るのがしんどくてね。」

「爺かよ。」

「そうさ、だからもっと僕を敬うべきだと思わないかい?」

「出来たらな。じゃあ、また。」

アレン少年にお礼を言って最後に向かったのは冒険者ギルドだ。

幸い熱源には心当たりがある。

問題はそれが手に入るか。

「あ、シロウさんいらっしゃい。」

「お、ニア丁度いい所に。」

「なによ、面倒ごとはごめんよ?」

「ヒートゴーレムの心臓って手に入るか?」

「そりゃ依頼を出せば手に入るけど・・・。っていうかエリザに頼めばいいじゃない。」

「あいつは別件だ。アイストレントから木材を取ってこさせる。」

エリザの斧があればすぐに手に入るだろう。

問題は場所だが、何度もいってるし問題ないはず。

「心臓を何に使うの?」

「こたつに入れるんだよ。あれってかなり高温になったよな?」

「動力を流せば熱くなるけど、触ると火傷するわよ。」

「その辺は何とかするさ。大きさってどのぐらいだ?」

「たしか・・・このぐらい?」

ニアはこぶしを握り俺に突き出す。

それぐらいなら許容範囲だ。

後は燃料・・・いや動力を確保すれば何とかなる。

いや、まずは加工か。

さすがにマートンさんに頼むのは気が引けるし、お弟子さんに木工が得意な人がいないか聞いてみよう。

「よし、とりあえず五個手配してくれ。」

「一個銀貨50枚はするんだけど?」

「それぐらいなら安いもんだ。」

「聞く人を間違えたわ。」

「納期は三日後、頼めるか?」

「その金額で断る冒険者はいないわよ。」

「よし、後は任せた。」

動力源は竜玉を流用すればいいだろう。

前に墓場から回収したやつだが小さすぎて使い道なかったんだよな。

接続方法?

そんなもんしらん。

魔導具と一緒でミスリルゴーレムの配線を上手く使えば何とかなるだろう。

この辺は実験していくしかない。

さて、後はエリザに木材を回収してもらうかな。

「これで俺の夢に一歩近づいたな。」

もちろん畳がなかったりするが、それでもこたつがあるだけで冬の快適さは全然違う。

こたつで食べる鍋、最高じゃないか。

そんな風に思っていた俺だったが世の中そんな簡単にいかないわけで。

「アイストレント?そんなんじゃヒートゴーレムの熱に耐えられるわけないでしょうが。」

「そうなのか?」

「相性最悪よ。いくら熱に強い素材だって言ってもヒートゴーレムの心臓に竜玉を使うんでしょ?足元に置いとけないわよそんな危ない物。」

「まじか。」

「まったく、使い道のない物五つも注文しちゃって。そういうのはちゃんと相談してよね。」

「・・・すまん。」

いけると勝手に思っていたのだが、速攻で却下されてしまった。

竜玉なんて魔力の塊と接続した日にはあまりの熱さに家が燃えてしまう可能性もあるらしい。

アレはゴーレムの魔力を含んだ石材だからこそカバーできている代物なんだとか。

うぅむ、素人考えだったか。

ってことで素材探しは振出しに戻ってしまったが、そこで思わぬ情報が出てきた。

「要は熱に強くて丈夫だったらいいんでしょ?なら火山帯にある木材を使えばいいじゃない、あの暑さの中で成長できるんだから熱には強いはずよ。」

「じゃあそれ宜しく。」

「え?」

言い出しっぺが取ってくるのは基本だよな。

うん。

そういうことで俺は俺で新たな熱源を考えなければ。

こたつ作りは一日にしてならずってね。

頑張るとしよう。
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