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480.転売屋はダンジョンで水を得る

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「そっち行ったわよ!」

「お任せください!」

「・・・はぁ。」

「そんな顔するなって、仕事だろ?」

「俺の仕事は買取屋だ、冒険者じゃない。」

これで何度目のダンジョンだろうか。

しかも初心者が潜るような場所じゃない、かなり奥深くに潜っている。

目の前では血飛沫をまき散らしながら犬と狼が魔物を切り刻んでいる。

二人とも、いや二匹とも楽しそうだ。

後ろを振り返ると無残な姿を晒した魔物の死骸が通路の隅に積み上げられている。

もちろん素材は剥ぎ取り済み。

後はダンジョンが吸収してくれるのを待つばかりだ。

「で、目的の場所はまだかかるのか?」

「そうだなぁ、あと一時間って所か。」

「随分と魔物が多いんだな。」

「この辺は誰も来ないから魔物がたまりやすいんだよ。俺みたいな冒険者はまず近づかないね。」

「だろうな、金になりそうな魔物じゃない。」

後ろで回収した素材もそんなに高価なものではなかった。

『ポイズンコボレートの皮。毒に侵されている為装備品などには使えないが、毒薬を包むと成分が変質しない。最近の平均取引価格は銅貨39枚、最安値銅貨27枚最高値銅貨41枚最終取引日は81日前と記録されています。』

毒に侵されながら生きているってどういう状況なんだろうか。

死に至る毒ではないが常に体力を削られていく。

最悪だな。

そこでしか生きられない理由も、この奥にあるわけだ。

「終わったわよ。」

「おうご苦労さん。」

「剥ぎ取りますか?」

「いや、予定数は確保できている。捨てておこう。」

「もったいないけど、荷物になっちゃうしね。」

「目的地はもう少しです頑張りましょう。」

小休止を経て再びダンジョンの奥へ。

予定通り一時間ほどかけて俺達は目的の場所へと到着した。

突然頭上が開け、ぽっかりと大きな空間に出る。

大きさは・・・とりあえずデカい。

天井は高く10m以上はありそうだ。

そして目の前に広がる巨大な水辺。

魔力の泉と呼ばれているらしい。

「あ~、今日もいっぱいいるわねぇ。」

「なんだあれ。」

「マジックワーム。魔力を吸って生きる芋虫よ。」

「うげ、アレ全部か?」

「そう、アレ全部。」

泉の中央部分に島らしきものが見えるのだが、その上を何かが蠢いている。

この距離で見えるんだなかなかの大きさなんだろう。

体長1m、体高50cmの芋虫とか絶対に近づきたくない。

「今回の依頼はここの水を回収する、そうだよな?」

「ここじゃないわよ。あの島の中に湧く小さな泉の方。こっちはただの水だもの。」

「マジかよ。」

「芋虫の処理は我々が致しますので、シロウ様はフール様と共に排水処理の準備をお願いします。手筈は覚えておられますね?」

「そこらに落ちてる石を鑑定しまくって当たりを見つける。見つけたら正しい場所に設置して周辺部の水を排出、溢れる魔物をそっちが排除しているうちに島の泉から魔力の水を回収。排水時間は30分だったか?」

「そう。他に魔物はいないから安心していいわよ。」

あの芋虫が襲ってくるとわかって安心していいもんなんだろうか。

まぁいい、金になるのならやるしかないだろ。

ちなみに俺が呼ばれた理由は時短の為だ。

鑑定スキルを用いて当たりの石を探す。

正確には相場スキルも併用して足元に転がる大量の石の中から見つけ出すわけだ。

そりゃ普通の冒険者が近づかないよなぁ。

金になるとわかっていてもこのギミックは面倒すぎる。

過去にポンプを設置して島に行かずに回収しようとしたことがあるようだが、残念ながら失敗に終わったそうだ。

魔力を食べるマジックワームがポンプ内を通る水に反応してつぶしてしまうのだとか。

金になるだけなら来なかったが他でもないアネットの頼みだ。

面白い物も買い取ったしちょっと使ってみたかってのもある。

さて、とりあえず仕事をしますかね。

「よし、始めるか。」

「オッケー!」

「無理はされないでくださいね。」

「大丈夫だろう、多分。」

おもむろに足元に転がる石を手に取ると即座にスキルが発動する。

『石。ただの石。微量の魔力成分を含んでいる。最近の平均取引価格は銅貨1枚、最安値銅貨1枚最高値銅貨3枚最終取引日は二日前と記録されています。』

スキルが発動すると同時にそこら中に数字の1が浮かび上がった。

相場スキルによって同種の素材の上に価格が表示される、その能力を使ってそうでないものを探すのが今回の作戦だ。

正直この光景は何度見ても頭が痛くなる。

ゲシュタルト崩壊とかいうんだったか?

ともかく視界を埋め尽くす1に脳みそがおかしくなりそうだ。

「うへぇ、気持ち悪い。」

「大丈夫かよ。」

「大丈夫なわけないだろっと。」

「だよな。」

「全部で何個あるんだ?」

「全部で四つ、四方の台座に捧げるようになっています。」

「四つかぁ・・・。」

足元に転がる大量の小石。

その中から目的の品を見つけるのは砂漠に落としたダイヤモンドよりかは簡単かもしれない。

とはいえ大変なことに変わりはないだよな・・・っと。

20分ほどあたりをうろついたところでやっと一つ目を見つけた。

「あったぞ、これだ。」

『西方の欠片。特定の場所に設置することで効果を発する。取引履歴はありません。』

さすがにこれを売買するやつはいなかったか。

「流石シロウね、こんなに早く見つかるなんて嘘みたい。」

「前に来たときは冒険者総出で30分だったか?」

「二時間よ。」

「全然違うじゃねぇか。」

ともかく一つ見つかったら後は簡単だ。

相場スキルを発動すると泉の周りにゼロの数字が浮かび上がった。

その数三つ。

これで泉の水は何とかなるだろう。

三つとも回収して台座の横に座り込む。

目を瞑っても1の数字が見えるようだ。

「シロウはそこで待ってて。」

「にしても面倒だよな、わざわざ水を抜かないといけないんだから。」

「綺麗に見えますが毒が含まれていますから、泳げば瞬く間に毒されるでしょう。」

「そうとわかって飲まざるを得ない魔物もいると。」

先程の魔物が毒されていたのもこの水が原因だ。

宝物を守る鉄壁の水というわけだな。

各自が欠片を持って台座の横に立ち、タイミングを合わせて欠片をはめ込む。

するとドドドドという地響きと共に、泉に巨大な渦巻きが現れた。

よく見ると底が割れ水が流れ込んでいるようだ。

あっという間に排水が完了し、島と陸続きになる。

「さぁ、ちゃちゃっと片付けるわよ!」

「どちらが多く片付けるか勝負しましょう。」

「勝ったほうがシロウのキスね!」

「望む所です。」

おい、何を勝手に決めてるんだ?

いつの間にか横にいたフールが残念そうな顔で俺を見てくる。

「兄さんも大変だな。」

「言うな。」

先程と違い緑色の血飛沫がそこらじゅうで舞う。

マジックワームって貴重な魔物じゃなかったっけか。

体液は魔力を豊富に含んでいるから薬にもなるはず。

でもそんな事を気にする様子もない二人。

まぁ、奥にもっと貴重な水があるんだから当然か。

あっという間に貴重な魔物は殲滅され、エリザとアニエスさんが戻ってくる。

ちなみに勝ったのはアニエスさんだ。

熱烈なキスを受けた後急いで泉へと向かう。

なんせ制限時間は30分しかない。

水が戻る前に急いでこっちの水を回収しなければ。

「それじゃあ実力拝見といこうじゃないか。」

「私達は横で瓶に詰めていくからフールは蓋していって。」

「りょうかいっす姐さん。」

三人は交代で持参した容器に水を汲んでいく。

その横で俺は古びたつぼを取り出した。

つぼといっても子供の頭ぐらいの大きさしかない。

だが、コレが中々の優れものなのだ。

『クラインの壷(小)。見た目以上の容量を有する壷。欠けている。その壷を入れれば海をも飲み干すといわれている。最近の平均取引価格は金貨3枚。最安値銅貨66枚最高値金貨120枚。最終取引日は2年と112日前と記録されています。』

見た目はともかく中に大量の液体を入れることの出来る壷。

そのレプリカとまでは行かないが、近い能力を持つ壷だ。

欠けていたため露天で安売りされていたのを買ってみたのだが、その能力は間違いなかった。

沈めるとドンドンと水が中に入るも、満たされることはない。

次第に泉の水位が下がり、あっという間になくなってしまった。

「なんだこれっぽっちか。」

「それがあればもうこんな事しなくてよさそうね。」

「普通はこの三分の一も汲めないものですが、流石シロウ様素晴らしいものをお持ちです。」

「用は済んだんだ、さっさと戻ろうぜ。」

長居は無用。

壷を持ち上げてみるもあの量が入っているとは思えない軽さだ。

質量保存の法則はどこに行ってしまったんだろうか。

とはいえ傾けるとちゃんと中身が出てくる。

不思議だなぁ。

元の場所に戻りしばらくすると地割れがふさがり泉の水が戻ってきた。

それを見てフールがぼそっとつぶやく。

「っていうかさ、その壷を沈めたらもう石集めしなくていいような。」

「そういえば。」

「でも途中で吸い込まなくなったら結局探しなおしでしょ?それに重たい思いして持ち帰るぐらいなら、石を探すほうがいいわ。」

「どっちもどっち。とはいえ、当分は水不足に悩むこともないだろう。」

「だな。」

「アネット様がお待ちです、急いで戻りましょう。」

「はぁ、またあの道を戻るのか。」

他に魔物がいないとはいえ、ここはダンジョン内だ。

地上に戻るためにはまた危険な道を進まなければならない。

家に帰るまでが仕事ってね。

中身をこぼさないよう壷にしっかりとふたをして、俺達は来た道を戻った。
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