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470.転売屋は使用人を選ぶ

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横一列に並んだ候補者達がそれぞれに自己紹介をはじめる。

それを聞きながらハーシェさんは時にうなずき、時に質問をしながらメモを取り続けた。

俺?

何もするわけないじゃないか。

ちゃんと話は聞いているものの、屋敷に常駐する使用人の良し悪しは俺にはわからない。

餅は餅屋じゃないけれど、経験者に選んで貰うほうが問題はない。

もちろん質問されれば答えるけどな。

「以上で紹介を終わります、質問はございますか?」

「いえ、話しながら聞かせていただきましたので。一度シロウ様と相談しても構いませんか?」

「もちろんです。では30分ほどしたら戻りますのでひとまず休憩といたしましょう。」

8人が深々と頭を下げて部屋を出て行く。

張り詰めていた緊張の糸が解けたのかハーシェさんは大きく息を吐いて姿勢を崩した。

「大丈夫か?」

「はい。でもちょっと疲れました。」

「あれだけの時間集中していたら無理もないだろう。」

「最初が肝心ですので、つい気を張ってしまいました。」

「それで、お眼鏡にかなう人はいたか?」

「3人は決まりましたが後一人をどうしようかと。」

四人中三人をあの一回で決めてしまったのか。

正直そこまで決まっているとは想像していなかった。

「ちなみに決定したのは誰だ?」

「侍女長として一番高齢の女性を。立ち振る舞いもそうですが、物怖じしない感じが印象に残りました。何度か出入りしているようですが、あの歳になっても呼ばれるということはそれだけ優秀なんだと思います。次に真ん中の男性ですね、お店をしていたそうですから料理をメインに動いて貰おうかと。もちろん、一度食べてからになりますが・・・。」

「最後は?」

「一番最初の若い女性を。」

「あの子か。だが、若い分あまり仕事が出来そうには見えなかったな。」

「確かに今の経験は少ないと思いますが、これから増やしていけば問題ないと思います。五年先十年先も含めてまじめに働いてくれると思います。それに、鳥人族は子沢山で有名ですから、子供達を見て貰う意味でも慣れた子にいてもらえると助かります。」

なるほどなぁ。

今ではなく五年後十年後か。

俺達の人生はまだまだ長い。

短いスパンで考えればベテランがいてもいいかもしれないが、時間をかけられるなら一から育てたほうがむしろいい場合もある。

他所は他所うちはうち。

他の家のしきたりに慣れていると軋轢を生むかもしれないしなぁ。

それに子供に慣れているのはでかい。

女達に言わせればコレからドンドン増える予定だ。

各々が仕事をしているので見ていてくれる人がいるのは非常に助かる。

「ならその三人は確定として、あと一人をどうするかだな。候補は?」

「最後の二人が気になるのですが、正直決めかねています。」

「最後の二人ってのはあの姉弟か。」

「どちらも仕事は出来そうですが、どちらかを決めればどちらかは断らないといけません。彼らもそれはわかっていると思うのですが・・・。」

「なら両方雇えばいい、別に四人じゃないといけないわけじゃない。」

「でも・・・。」

「何が気になる?」

「一人ならともかく二人で何かをする可能性はありますよね。」

確かにそうだが、それを言い出せば全員が怪しくなる。

奴隷なんだし隷属の首輪がある以上は害を与えてくることはないだろう。

信じるのもまた雇用主の勤めだ。

それに、今はハーシェさん一人だが今後は俺達も一緒に住む。

悪さをすれば誰かが気づくだろう。

「その時はその時だ、まぁ何とかなるだろう。パッと見悪さをしそうな感じじゃないし。奴隷落ちの理由は確か親の借金だろ?」

「たしか・・・そうですね、そう書いてあります。」

「なら本人たちに落ち度はない。売られた流れでレイブさんに買われたと言っていたし、念のために詳しい話をレイブさんから聞いておけばいいだろう。」

「わかりました、シロウ様にお任せします。」

何かあれば俺が責任を取ればいい。

金は・・・。

まぁ、何とかなるはずだ。

きっかり30分してレイブさんだけが部屋に戻ってくる。

そして俺達の顔を見て満面の笑みを浮かべた。

「気に入って頂けたようで。」

「おかげさまで。」

「さすがレイブ様です、素晴らしい人材をお持ちですね。」

「シロウ様にはお世話になっておりますので、せめてもの恩返しになればと揃えさせていただきました。」

「こわいこわい、それはつまり高いってことだろ?」

「さぁ、どうでしょうか。」

俺なら買える。

それをわかってるからこそ集められた人材というわけだ。

その分中身は非常に素晴らしい人ばかりなんだろうけども・・・。

ま、なるようになるだろう。

「では、誰を手配いたしましょうか。」

「この五名をお願いします。」

「・・・さすが、お目が高い。」

「あの姉弟だが、特に犯罪歴はないんだよな?」

「もちろんです。素直ですし姉は弟を、弟は姉を慕っております。シロウ様でしたら必ず二人一緒に引き受けてくださると信じておりました。」

「はぁ、それも想定済みか。」

「レイブ様はシロウ様がお優しいことをわかっておいでなんですよ。」

何故ハーシェさんがうれしそうな顔をするんだろうか。

人選を終え、レイブさんが何やら計算をし始める。

一分ほどで書き上げ、それをそっと俺の前に差し出した。

「こちらが五人の雇用料になります。」

「・・・安い、のか?」

「かなりお安いかと。これは一年分ですよね?」

「もちろんです。」

提示された金額は五人で一年間金貨24枚。

こっちの一年は24か月なので逆算すると一か月一人銀貨20枚程になる。

有能な人材と考えても格安だろう。

「この値段の理由は?」

「いずれ買い上げて頂ける事を期待しての金額でございます。普通であればこの倍は請求させて頂きます。」

「ちなみに購入した場合の金額は?」

「姉弟が共に金貨60枚。一番若い娘が金貨80枚、男が金貨100枚に一番年上の女が金貨40枚となっております。」

「全員で金貨340枚か。」

「一緒にご購入いただけるのなら金貨300枚にお値下げしますが?」

14年ほど雇えば購入するのと同じ金額を支払うことになる。

それならばいっそ買った方がいいよ、というのがレイブさんの作戦なんだろうな。

ミラが確か最初金貨100枚とか言われていたし、奴隷の金額で考えれば金貨50枚ぐらいが相場なんだろう。

若ければ若いほど値段が高く、逆に年を取っていけば値段が安くなる。

とはいえ、ここに集められたのは最低でもレイブさんに上物と認められた奴隷だ。

問題ないと言えるだろう。

「いかがでしょう。」

「購入に関しては少し考えさせてくれ、ひとまず一年ぐらい様子を見て仕事の頑張りに応じて買い上げさせてもらう。それでどうだ?」

「それがいいと思います。相性もありますから、合わなければ返却すればいいだけです。」

「とはいえ、たった五人でこの金額だ。本来であればもう少し必要だろう?」

「完璧に維持するには全部で10人は欲しい所です。」

全部で10人も?

マジかよ、この倍じゃないか。

金額で言えば正直一年で買い受けることが出来る。

だがなぁ、自分の家に他人が10人もいるんだぞ?

慣れ・・・なんだろうなぁ。

「残りの五人もお声がけいただければ最高の人材を手配いたします。」

「まぁ、その時はその時だ。じゃあまずはこの五人を雇用させてもらう。契約書を頼めるか?」

「すぐに作成いたします、今しばらくお待ちください。」

ともかく雇う必要があるのは間違いない。

ハーシェさんが言うように合わなければ契約を解除すればいいだけの話だ。

ウジウジしていたって始まらないよな。

本当に五分ほどで書類を持ったレイブさんが戻ってきた。

五人で年間24枚。

格安契約だが、それに伴って多くの責任も課せられることになる。

まず第一に、奴隷を雑に扱ってはならない。

食事、休息、休暇。

奴隷とはいえ人間として最低限の尊厳は守られるべきだ。

これはミラもアネットも同じように扱っているので問題ない。

次に住まいの提供。

住まいは屋敷になるし、給金は出ないが仕事の出来次第では小遣いぐらい渡してもいいだろう。

最後が殺してはならないという事。

これは雇用契約だからではない。

たとえ購入だとしても殺してはならない。

これは絶対だ。

「シロウ様には何度もご購入ただいておりますので問題ないと思いますが、今回はあくまでも雇用契約となります。所有権はこちらになりますので過度の労働強制や性行為の強要はご遠慮ください。なお、購入後であれば大丈夫です。」

「生憎とそっちは満たされてるんでね、心配ない。」

「そうでございましたね。」

「ここにサイン・・・っと、ハーシェさん再度契約書の確認を頼む。」

「お任せを。」

一人では気づかなくても別の人間ならおかしい場所に気づくこともある。

複数人での契約書確認は必要不可欠だ。

これは値段の高い安いではない、すべての契約に言えることだろう。

「問題・・・ありませんね。」

「ではこれにて雇用契約が締結されました。代金の支払いは24月に入ってからで結構です、今月は試用期間ということにいたしましょう。もちろんその間に解除された場合は代金を頂戴しません。」

「まさに至れり尽くせりだな。」

「シロウ様相手ですので当然です。」

「そういう対応をされると後が怖いんだよ。何事も普通が一番だ。」

「みなさん、お入りなさい。」

「失礼いたします。」

初老の女性を筆頭に五人がゆっくりと部屋に入り、先程のように一列に並んだ。

「先程シロウ様と雇用契約を締結いたしました。本日この時より、貴方達はシロウ様の奴隷として身を粉にして働きなさい。幸いにもシロウ様は奴隷に対して寛容です、よほどのことをしない限り無下に扱われることはないでしょう。また、屋敷に同じ奴隷が二名おりますが、そちらはシロウ様が購入された先輩奴隷です。さらに言えばシロウ様の大切な奥方と同じ存在でもあります。同じ奴隷だからと気の緩んだ態度をとらないように。では、私からは以上です。シロウ様お願い致します。」

「俺が?」

「はい、当面は私が主人となりますが本来の雇用主はシロウ様ですので。」

確かにそうかもしれないが、ここはハーシェさんが挨拶するべきじゃないんだろうか・・・。

まぁ今更それを言っても遅いか。

「シロウだ。今日からうちの屋敷で働いてもらうことになるが、現状はここにいるハーシェさんのみが住んでいる。彼女を主人と思い彼女の指示に従うように。レイブさんが言ったようによほどのことが無い限りは強くとがめる気はない、君たちの献身的な仕事ぶりに期待している。俺からは以上だ。」

「「「「「宜しくお願い致します。」」」」」

俺の言葉に深々と頭を下げる五人。

こうして屋敷の使用人が無事に決定した。
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