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468.転売屋は掃除道具を考える

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「なかなか落ちないなぁ。」

「仕方ありませんよ、あの量を買い取ったんですから。」

「よく見ればいたるところに砂やら小石やらが入り込んでるし。うーむ、いっそ全部取っ払って掃除してしまいたい。」

「さすがにカウンターを引っぺがすのは無理ですよ。」

「わかってるんだがなぁ・・・。」

薬草買い取り大作戦が終了して二日、俺たちはその後片付けに追われていた。

大量の薬草を買い取ったのはいいものの、どれも泥やら小石やらがついた状態だったので床が大変なことになってしまった。

店を出してそろそろ一年。

その間に積もった汚れなんかもあるんだろうけど、それでも汚れすぎじゃないだろうか。

よく考えればまともに掃除なんてしたことなかったなぁ。

せっかくの機会なので大掃除をしてしまおうということになった・・・のだが。

「あーもう!手が届かない!」

「床の汚れもなかなか落ちませんね。」

「血液やら体液やらよくわからないものもこびりついてるからなぁ。」

「いつもの洗剤じゃ太刀打ちできません。何かいいものはないでしょうか・・・。」

掃除を始めたものの、一向に作業が進まない。

よく見れば店の裏手、住居部分も結構汚れている。

それもそうだろう。

倉庫に行くためには住居部分を通ってさらに裏庭も横断しないといけないんだから。

晴れた日ならともかく雨の日だってそこを通る。

必然的に床は汚れるわけだ。

元の世界ならプロの掃除集団がいるのでお金ですべて解決できるのだが、あいにくとこの世界にそんなプロはいない。

自分のことは自分でやる。

それがこの世界の基本だからなぁ。

「ちょっと出てくる。」

「え、さぼるつもり!?」

「休憩だよ休憩、エリザたちも少し休め。一時間ぐらいで戻ってくるから。」

「本当でしょうね。」

「逃げたところで帰る家はここだけだっての。」

「屋敷があるじゃない。」

「そういえば。」

「いや、忘れないでよ。」

ハーシェさんが住んでるから自分の家って感覚がないんだよなぁ。

いずれ向こうに引っ越さないといけないんだろうけど、とりあえずはここをきれいにしてからの話だ。

気分転換を兼ねて向かったのは図書館だ。

素人がいくらやったってきれいになるわけがない。

ここはプロ・・・っというか、過去のすごい人たちの知識を拝借するべきだと考えたわけだな。

「いらっしゃい、今日はどうしたんだい?」

「掃除のプロが書いた本はないか?」

「なんて?」

「だから、掃除のプロが書いた本だよ。大掃除してるんだが全然はかどらなくてな、いい知恵がないかと探しに来たわけだ。ここはそういう場所じゃないのか?」

「ふむ、確かに過去の知恵を手に入れるには最適な場所だ。とはいえ掃除のプロかぁ・・・。魔物の素材を使った掃除方法の本ならあるけど、それじゃだめかい?血抜きした後の掃除とか書いてあるんだけど。」

ふむ、それはそれで面白いかもしれない。

汚れの半分は魔物の素材が原因だ。

それで半分でもきれいになればめっけもんだろう。

「片付くならなんだっていい、見せてくれ。」

「持ってくるからちょっと待ってて。」

アレン少年が書庫へと向かい、すぐに戻ってきた。

いつもなら多少なりとも時間がかかるのに珍しいな。

「早いな。」

「ちょっと掃除をしたんでね。」

「え、ここを?」

「失礼だなぁ。たまには掃除だってするよ。」

「だがこの本の山は変わってないぞ?」

「ゴールデンフォックスの毛はひと撫でするだけで埃をきれいに取ってくれるからね、おかげで掃除がはかどったよ。」

「ふむ、それも本に書いてあったのか?」

「君の望む本にね。」

なるほど、だから早かったのか。

手渡されたのは一冊の本・・・というかメモ帳だな。

だが中にはびっしりと書き込みがされており、ちゃんと掃除内容に応じて章立てするように分けられている。

確かに一冊の本といえるだろう。

それも専門書のような感じだ。

なになに・・・。

なるほど埃を吸着するのはフォックス系の毛皮がいいのか。

繊維が細かくさらに静電気を帯びやすいらしい。

特にブルーフォックスは静電気をため込む性質があるから吸着力がすごいと。

洗えばリセットできるうえに、干す時にちゃんと櫛で梳けば効果を持続できる。

なるほど。

血液や体液などの汚れはマッドスライムの核でこすると効果的。

水洗いできる環境ならスモールスパイダーの糸を水に溶いて、それを床に流してからブラシでこすると奥に入った汚れ事ごとからめとることができるらしい。

さらにはビッグスパイダーの糸を棒に巻き付けて濡れた床の上でくるくる回すと、溶けた糸を回収できるのであとは風の魔道具なんかで乾かせば終わり。

すごいな、この人そこまで考えてるのか。

ヴァンパイアポッドと呼ばれる吸血植物の樹液を血の付いた服につけると色落ちせずに分解できるとかも書いてある。

これを利用すれば返り血まみれの鎧とか毛皮とかきれいになるのでは?

やばい、この本は冒険者が知るべき情報が山のように記されている。

「なぁ、これ借りてもいいか?」

「書き写すのは構わないけど、持ち出しは困るなぁ。」

「そうか・・・。」

「でもほかでもない君の頼みだ、今日一日だけなら貸してあげてもいい。ただし汚すのは厳禁だよ。」

「助かる!」

「あ、こら、本は大切に!返却期限は守って!」

「わかったってまた明日な!」

「お代は甘いのでよろしく頼むよ~!」

何やら甘いものを頼まれた気がするが、そんなものでこの素晴らしい技術が手に入るのならば安いものだ。

店に帰って早速女たちと情報を共有する。

「なるほど、床の汚れはスパイダーの糸でからめとるのね。」

「汚れを取った後はマッドスライムの核でこすればきれいになるだろう。」

「ブルーフォックスの毛がなんでバチバチいうのかやっとわかった気がします。」

「確かにすぐに埃がついちゃうんですよねぇ。」

アネットが自分の耳を触りながら困った顔をしている。

確かに狐の亜人ではあるのだが・・・。

そこも一緒なのか?

「とりあえずはこれをもとに掃除をしてみよう。素材は・・・。」

「全部あります!」

「だ、そうだ。メルディ悪いが倉庫から運んできてくれ。」

「おまかせください!」

倉庫の中身はメルディがすべて把握している。

こういう時いちいち素材を買いに行ったりしなくてもいいのがこの仕事の利点だよな。

材料がそろったところで役割分担をして掃除を再開することにした。

床掃除は俺とエリザ。

棚掃除はアネット。

ミラとメルディには住居部分の掃除を任せることにした。

さぁ、いっちょやったりますか。

まずはバケツに水を入れてスモールスパイダーの糸を溶かす。

かなり細い糸なので、水に入れると溶けているかどうかすらわからない。

それを床にぶちまけて隅々にまでいきわたらせて、あとはブラシでひたすらこする。

「すごい!汚れが勝手にこびりついてくる!」

「よく見ると細かい糸がからんでいるな。そりゃ隅々まできれいになるわけだ。」

「ちょっとネバネバするのがいいのかもね。」

「だな、血液汚れは無視して泥汚れを中心にこするぞ。」

「オッケー!」

作戦開始だ。

さっきまでどう掃除していいかわからず途方に暮れていた俺たちだが、知識という武器を手に入れた後は非常にスムーズに事を進めることができた。

面白いようにゴミが取れていく。

砂も小石も細かな糸が絡んでくれるので、あとはもう一つの糸で絡めとればあっという間にゴミがなくなってしまった。

残った血液や体液なんかのどす黒い汚れも、マッドスライムの核でこするとまるで魔法のようにきれいになる。

エリザ曰く魔物でもなんでも食べてしまうような悪食タイプの魔物らしく、生きたまま取り込まれると数分で骨になってしまうそうだ。

そんな魔物の核だけに、そういった成分が含まれているんだろうか。

よく見ると素手で触らないようにと書いてあったので慌てて手袋を着用した。

気づけばもう夕方。

「終わった!」

「こちらもきれいになりました、見てください。」

「おぉ!台所の油汚れがなくなってる!」

「マッドスライムではなくブルースライムの核を使ってみたのですが、予想通りピカピカです。」

「そっか、ブルースライムは油に強いもんね。」

「あのパームボールですら食べるようなスライムですから。」

なるほどなぁ、ちゃんとその特性を生かした素材で掃除をしたわけか。

棚は埃一つなく、床もきれい。

これで安心して年末を迎えられるな。

「とりあえず皆ご苦労、今日はイライザさんの店でパーっとやるか。」

「やった!」

「え、私もいいんですか?」

「当たり前だろ、一人だけ仲間はずれにするわけないだろうが。」

「えへへ、頑張った甲斐がありました。」

メルディもうちの大切な従業員だ。

もっとも、手は出していないぞ?

片づけを済ませ、さぁ出発だという所でミラが先ほどのブルースライムの核を持ったまま固まっていた。

「どうしたんだ?」

「いえ、イライザ様の所も料理などで汚れていると思いまして。持って行っても構いませんか?」

「もちろん構わないぞ。」

「ありがとうございます。」

イライザさんにはいろいろと世話になっているからな、こういった道具で楽をしてもらえるのなら喜んで提供しよう。

ほかにもいろいろと使えそうな道具もある。

ビッグスパイダーの糸は粘着力が強いわりに家具とかにはくっつかない性質のようだ。

また、フォックスの毛皮もいい感じで埃を取る割に簡単に洗うことができる。

つまりお手軽に掃除ができる割に手入れは簡単。

この二つを組み合わせて某クイックル的なやつを作るのはどうだろうか。

それか、各家庭においてもらって月一で回収。

その際に新しいのを納品して使用料をとるやり方もある。

よそ様のやり方をマネしてもこの世界では怒られたりしないからなぁ。

マネできるところはマネさせてもらっていいだろう。

「ねぇシロウ行かないの?」

「どうやらシロウ様は何か思いついてしまったようです。」

「えぇぇぇぇ!早く行こうよぉぉ。」

「こうなったご主人様はすぐに動きませんからね、先に行って予約しておきましょうか。」

「そうね、先に始めましょ。」

「私は残って準備をしていきます、皆さま先に行ってください。」

「は~い。」

その後、俺がこっちの世界に意識を戻すまでミラは静かに準備を続けてくれていた。

さすが出来る女は違うな。

「考えはまとまりましたか?」

「あぁ、これは金になる。間違いない。」

「では、しっかりと稼がせていただきましょう。」

「あぁ。また大変になるがよろしく頼むな。」

「もちろんです。シロウ様の好きなようになさってください。」

これは金になる。

確信をもってそう思えた。

あとはこれをどう実行に移すかだ。

今年も残すところあと一か月とちょっと。

最後の仕込みを万全にするために、まずは腹ごしらえだよな。

お礼の代わりにミラを抱きしめ熱い口づけをたっぷりとかわしてから俺たちもイライザさんの店へと向かうのだった。

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