470 / 1,027
468.転売屋は掃除道具を考える
しおりを挟む
「なかなか落ちないなぁ。」
「仕方ありませんよ、あの量を買い取ったんですから。」
「よく見ればいたるところに砂やら小石やらが入り込んでるし。うーむ、いっそ全部取っ払って掃除してしまいたい。」
「さすがにカウンターを引っぺがすのは無理ですよ。」
「わかってるんだがなぁ・・・。」
薬草買い取り大作戦が終了して二日、俺たちはその後片付けに追われていた。
大量の薬草を買い取ったのはいいものの、どれも泥やら小石やらがついた状態だったので床が大変なことになってしまった。
店を出してそろそろ一年。
その間に積もった汚れなんかもあるんだろうけど、それでも汚れすぎじゃないだろうか。
よく考えればまともに掃除なんてしたことなかったなぁ。
せっかくの機会なので大掃除をしてしまおうということになった・・・のだが。
「あーもう!手が届かない!」
「床の汚れもなかなか落ちませんね。」
「血液やら体液やらよくわからないものもこびりついてるからなぁ。」
「いつもの洗剤じゃ太刀打ちできません。何かいいものはないでしょうか・・・。」
掃除を始めたものの、一向に作業が進まない。
よく見れば店の裏手、住居部分も結構汚れている。
それもそうだろう。
倉庫に行くためには住居部分を通ってさらに裏庭も横断しないといけないんだから。
晴れた日ならともかく雨の日だってそこを通る。
必然的に床は汚れるわけだ。
元の世界ならプロの掃除集団がいるのでお金ですべて解決できるのだが、あいにくとこの世界にそんなプロはいない。
自分のことは自分でやる。
それがこの世界の基本だからなぁ。
「ちょっと出てくる。」
「え、さぼるつもり!?」
「休憩だよ休憩、エリザたちも少し休め。一時間ぐらいで戻ってくるから。」
「本当でしょうね。」
「逃げたところで帰る家はここだけだっての。」
「屋敷があるじゃない。」
「そういえば。」
「いや、忘れないでよ。」
ハーシェさんが住んでるから自分の家って感覚がないんだよなぁ。
いずれ向こうに引っ越さないといけないんだろうけど、とりあえずはここをきれいにしてからの話だ。
気分転換を兼ねて向かったのは図書館だ。
素人がいくらやったってきれいになるわけがない。
ここはプロ・・・っというか、過去のすごい人たちの知識を拝借するべきだと考えたわけだな。
「いらっしゃい、今日はどうしたんだい?」
「掃除のプロが書いた本はないか?」
「なんて?」
「だから、掃除のプロが書いた本だよ。大掃除してるんだが全然はかどらなくてな、いい知恵がないかと探しに来たわけだ。ここはそういう場所じゃないのか?」
「ふむ、確かに過去の知恵を手に入れるには最適な場所だ。とはいえ掃除のプロかぁ・・・。魔物の素材を使った掃除方法の本ならあるけど、それじゃだめかい?血抜きした後の掃除とか書いてあるんだけど。」
ふむ、それはそれで面白いかもしれない。
汚れの半分は魔物の素材が原因だ。
それで半分でもきれいになればめっけもんだろう。
「片付くならなんだっていい、見せてくれ。」
「持ってくるからちょっと待ってて。」
アレン少年が書庫へと向かい、すぐに戻ってきた。
いつもなら多少なりとも時間がかかるのに珍しいな。
「早いな。」
「ちょっと掃除をしたんでね。」
「え、ここを?」
「失礼だなぁ。たまには掃除だってするよ。」
「だがこの本の山は変わってないぞ?」
「ゴールデンフォックスの毛はひと撫でするだけで埃をきれいに取ってくれるからね、おかげで掃除がはかどったよ。」
「ふむ、それも本に書いてあったのか?」
「君の望む本にね。」
なるほど、だから早かったのか。
手渡されたのは一冊の本・・・というかメモ帳だな。
だが中にはびっしりと書き込みがされており、ちゃんと掃除内容に応じて章立てするように分けられている。
確かに一冊の本といえるだろう。
それも専門書のような感じだ。
なになに・・・。
なるほど埃を吸着するのはフォックス系の毛皮がいいのか。
繊維が細かくさらに静電気を帯びやすいらしい。
特にブルーフォックスは静電気をため込む性質があるから吸着力がすごいと。
洗えばリセットできるうえに、干す時にちゃんと櫛で梳けば効果を持続できる。
なるほど。
血液や体液などの汚れはマッドスライムの核でこすると効果的。
水洗いできる環境ならスモールスパイダーの糸を水に溶いて、それを床に流してからブラシでこすると奥に入った汚れ事ごとからめとることができるらしい。
さらにはビッグスパイダーの糸を棒に巻き付けて濡れた床の上でくるくる回すと、溶けた糸を回収できるのであとは風の魔道具なんかで乾かせば終わり。
すごいな、この人そこまで考えてるのか。
ヴァンパイアポッドと呼ばれる吸血植物の樹液を血の付いた服につけると色落ちせずに分解できるとかも書いてある。
これを利用すれば返り血まみれの鎧とか毛皮とかきれいになるのでは?
やばい、この本は冒険者が知るべき情報が山のように記されている。
「なぁ、これ借りてもいいか?」
「書き写すのは構わないけど、持ち出しは困るなぁ。」
「そうか・・・。」
「でもほかでもない君の頼みだ、今日一日だけなら貸してあげてもいい。ただし汚すのは厳禁だよ。」
「助かる!」
「あ、こら、本は大切に!返却期限は守って!」
「わかったってまた明日な!」
「お代は甘いのでよろしく頼むよ~!」
何やら甘いものを頼まれた気がするが、そんなものでこの素晴らしい技術が手に入るのならば安いものだ。
店に帰って早速女たちと情報を共有する。
「なるほど、床の汚れはスパイダーの糸でからめとるのね。」
「汚れを取った後はマッドスライムの核でこすればきれいになるだろう。」
「ブルーフォックスの毛がなんでバチバチいうのかやっとわかった気がします。」
「確かにすぐに埃がついちゃうんですよねぇ。」
アネットが自分の耳を触りながら困った顔をしている。
確かに狐の亜人ではあるのだが・・・。
そこも一緒なのか?
「とりあえずはこれをもとに掃除をしてみよう。素材は・・・。」
「全部あります!」
「だ、そうだ。メルディ悪いが倉庫から運んできてくれ。」
「おまかせください!」
倉庫の中身はメルディがすべて把握している。
こういう時いちいち素材を買いに行ったりしなくてもいいのがこの仕事の利点だよな。
材料がそろったところで役割分担をして掃除を再開することにした。
床掃除は俺とエリザ。
棚掃除はアネット。
ミラとメルディには住居部分の掃除を任せることにした。
さぁ、いっちょやったりますか。
まずはバケツに水を入れてスモールスパイダーの糸を溶かす。
かなり細い糸なので、水に入れると溶けているかどうかすらわからない。
それを床にぶちまけて隅々にまでいきわたらせて、あとはブラシでひたすらこする。
「すごい!汚れが勝手にこびりついてくる!」
「よく見ると細かい糸がからんでいるな。そりゃ隅々まできれいになるわけだ。」
「ちょっとネバネバするのがいいのかもね。」
「だな、血液汚れは無視して泥汚れを中心にこするぞ。」
「オッケー!」
作戦開始だ。
さっきまでどう掃除していいかわからず途方に暮れていた俺たちだが、知識という武器を手に入れた後は非常にスムーズに事を進めることができた。
面白いようにゴミが取れていく。
砂も小石も細かな糸が絡んでくれるので、あとはもう一つの糸で絡めとればあっという間にゴミがなくなってしまった。
残った血液や体液なんかのどす黒い汚れも、マッドスライムの核でこするとまるで魔法のようにきれいになる。
エリザ曰く魔物でもなんでも食べてしまうような悪食タイプの魔物らしく、生きたまま取り込まれると数分で骨になってしまうそうだ。
そんな魔物の核だけに、そういった成分が含まれているんだろうか。
よく見ると素手で触らないようにと書いてあったので慌てて手袋を着用した。
気づけばもう夕方。
「終わった!」
「こちらもきれいになりました、見てください。」
「おぉ!台所の油汚れがなくなってる!」
「マッドスライムではなくブルースライムの核を使ってみたのですが、予想通りピカピカです。」
「そっか、ブルースライムは油に強いもんね。」
「あのパームボールですら食べるようなスライムですから。」
なるほどなぁ、ちゃんとその特性を生かした素材で掃除をしたわけか。
棚は埃一つなく、床もきれい。
これで安心して年末を迎えられるな。
「とりあえず皆ご苦労、今日はイライザさんの店でパーっとやるか。」
「やった!」
「え、私もいいんですか?」
「当たり前だろ、一人だけ仲間はずれにするわけないだろうが。」
「えへへ、頑張った甲斐がありました。」
メルディもうちの大切な従業員だ。
もっとも、手は出していないぞ?
片づけを済ませ、さぁ出発だという所でミラが先ほどのブルースライムの核を持ったまま固まっていた。
「どうしたんだ?」
「いえ、イライザ様の所も料理などで汚れていると思いまして。持って行っても構いませんか?」
「もちろん構わないぞ。」
「ありがとうございます。」
イライザさんにはいろいろと世話になっているからな、こういった道具で楽をしてもらえるのなら喜んで提供しよう。
ほかにもいろいろと使えそうな道具もある。
ビッグスパイダーの糸は粘着力が強いわりに家具とかにはくっつかない性質のようだ。
また、フォックスの毛皮もいい感じで埃を取る割に簡単に洗うことができる。
つまりお手軽に掃除ができる割に手入れは簡単。
この二つを組み合わせて某クイックル的なやつを作るのはどうだろうか。
それか、各家庭においてもらって月一で回収。
その際に新しいのを納品して使用料をとるやり方もある。
よそ様のやり方をマネしてもこの世界では怒られたりしないからなぁ。
マネできるところはマネさせてもらっていいだろう。
「ねぇシロウ行かないの?」
「どうやらシロウ様は何か思いついてしまったようです。」
「えぇぇぇぇ!早く行こうよぉぉ。」
「こうなったご主人様はすぐに動きませんからね、先に行って予約しておきましょうか。」
「そうね、先に始めましょ。」
「私は残って準備をしていきます、皆さま先に行ってください。」
「は~い。」
その後、俺がこっちの世界に意識を戻すまでミラは静かに準備を続けてくれていた。
さすが出来る女は違うな。
「考えはまとまりましたか?」
「あぁ、これは金になる。間違いない。」
「では、しっかりと稼がせていただきましょう。」
「あぁ。また大変になるがよろしく頼むな。」
「もちろんです。シロウ様の好きなようになさってください。」
これは金になる。
確信をもってそう思えた。
あとはこれをどう実行に移すかだ。
今年も残すところあと一か月とちょっと。
最後の仕込みを万全にするために、まずは腹ごしらえだよな。
お礼の代わりにミラを抱きしめ熱い口づけをたっぷりとかわしてから俺たちもイライザさんの店へと向かうのだった。
「仕方ありませんよ、あの量を買い取ったんですから。」
「よく見ればいたるところに砂やら小石やらが入り込んでるし。うーむ、いっそ全部取っ払って掃除してしまいたい。」
「さすがにカウンターを引っぺがすのは無理ですよ。」
「わかってるんだがなぁ・・・。」
薬草買い取り大作戦が終了して二日、俺たちはその後片付けに追われていた。
大量の薬草を買い取ったのはいいものの、どれも泥やら小石やらがついた状態だったので床が大変なことになってしまった。
店を出してそろそろ一年。
その間に積もった汚れなんかもあるんだろうけど、それでも汚れすぎじゃないだろうか。
よく考えればまともに掃除なんてしたことなかったなぁ。
せっかくの機会なので大掃除をしてしまおうということになった・・・のだが。
「あーもう!手が届かない!」
「床の汚れもなかなか落ちませんね。」
「血液やら体液やらよくわからないものもこびりついてるからなぁ。」
「いつもの洗剤じゃ太刀打ちできません。何かいいものはないでしょうか・・・。」
掃除を始めたものの、一向に作業が進まない。
よく見れば店の裏手、住居部分も結構汚れている。
それもそうだろう。
倉庫に行くためには住居部分を通ってさらに裏庭も横断しないといけないんだから。
晴れた日ならともかく雨の日だってそこを通る。
必然的に床は汚れるわけだ。
元の世界ならプロの掃除集団がいるのでお金ですべて解決できるのだが、あいにくとこの世界にそんなプロはいない。
自分のことは自分でやる。
それがこの世界の基本だからなぁ。
「ちょっと出てくる。」
「え、さぼるつもり!?」
「休憩だよ休憩、エリザたちも少し休め。一時間ぐらいで戻ってくるから。」
「本当でしょうね。」
「逃げたところで帰る家はここだけだっての。」
「屋敷があるじゃない。」
「そういえば。」
「いや、忘れないでよ。」
ハーシェさんが住んでるから自分の家って感覚がないんだよなぁ。
いずれ向こうに引っ越さないといけないんだろうけど、とりあえずはここをきれいにしてからの話だ。
気分転換を兼ねて向かったのは図書館だ。
素人がいくらやったってきれいになるわけがない。
ここはプロ・・・っというか、過去のすごい人たちの知識を拝借するべきだと考えたわけだな。
「いらっしゃい、今日はどうしたんだい?」
「掃除のプロが書いた本はないか?」
「なんて?」
「だから、掃除のプロが書いた本だよ。大掃除してるんだが全然はかどらなくてな、いい知恵がないかと探しに来たわけだ。ここはそういう場所じゃないのか?」
「ふむ、確かに過去の知恵を手に入れるには最適な場所だ。とはいえ掃除のプロかぁ・・・。魔物の素材を使った掃除方法の本ならあるけど、それじゃだめかい?血抜きした後の掃除とか書いてあるんだけど。」
ふむ、それはそれで面白いかもしれない。
汚れの半分は魔物の素材が原因だ。
それで半分でもきれいになればめっけもんだろう。
「片付くならなんだっていい、見せてくれ。」
「持ってくるからちょっと待ってて。」
アレン少年が書庫へと向かい、すぐに戻ってきた。
いつもなら多少なりとも時間がかかるのに珍しいな。
「早いな。」
「ちょっと掃除をしたんでね。」
「え、ここを?」
「失礼だなぁ。たまには掃除だってするよ。」
「だがこの本の山は変わってないぞ?」
「ゴールデンフォックスの毛はひと撫でするだけで埃をきれいに取ってくれるからね、おかげで掃除がはかどったよ。」
「ふむ、それも本に書いてあったのか?」
「君の望む本にね。」
なるほど、だから早かったのか。
手渡されたのは一冊の本・・・というかメモ帳だな。
だが中にはびっしりと書き込みがされており、ちゃんと掃除内容に応じて章立てするように分けられている。
確かに一冊の本といえるだろう。
それも専門書のような感じだ。
なになに・・・。
なるほど埃を吸着するのはフォックス系の毛皮がいいのか。
繊維が細かくさらに静電気を帯びやすいらしい。
特にブルーフォックスは静電気をため込む性質があるから吸着力がすごいと。
洗えばリセットできるうえに、干す時にちゃんと櫛で梳けば効果を持続できる。
なるほど。
血液や体液などの汚れはマッドスライムの核でこすると効果的。
水洗いできる環境ならスモールスパイダーの糸を水に溶いて、それを床に流してからブラシでこすると奥に入った汚れ事ごとからめとることができるらしい。
さらにはビッグスパイダーの糸を棒に巻き付けて濡れた床の上でくるくる回すと、溶けた糸を回収できるのであとは風の魔道具なんかで乾かせば終わり。
すごいな、この人そこまで考えてるのか。
ヴァンパイアポッドと呼ばれる吸血植物の樹液を血の付いた服につけると色落ちせずに分解できるとかも書いてある。
これを利用すれば返り血まみれの鎧とか毛皮とかきれいになるのでは?
やばい、この本は冒険者が知るべき情報が山のように記されている。
「なぁ、これ借りてもいいか?」
「書き写すのは構わないけど、持ち出しは困るなぁ。」
「そうか・・・。」
「でもほかでもない君の頼みだ、今日一日だけなら貸してあげてもいい。ただし汚すのは厳禁だよ。」
「助かる!」
「あ、こら、本は大切に!返却期限は守って!」
「わかったってまた明日な!」
「お代は甘いのでよろしく頼むよ~!」
何やら甘いものを頼まれた気がするが、そんなものでこの素晴らしい技術が手に入るのならば安いものだ。
店に帰って早速女たちと情報を共有する。
「なるほど、床の汚れはスパイダーの糸でからめとるのね。」
「汚れを取った後はマッドスライムの核でこすればきれいになるだろう。」
「ブルーフォックスの毛がなんでバチバチいうのかやっとわかった気がします。」
「確かにすぐに埃がついちゃうんですよねぇ。」
アネットが自分の耳を触りながら困った顔をしている。
確かに狐の亜人ではあるのだが・・・。
そこも一緒なのか?
「とりあえずはこれをもとに掃除をしてみよう。素材は・・・。」
「全部あります!」
「だ、そうだ。メルディ悪いが倉庫から運んできてくれ。」
「おまかせください!」
倉庫の中身はメルディがすべて把握している。
こういう時いちいち素材を買いに行ったりしなくてもいいのがこの仕事の利点だよな。
材料がそろったところで役割分担をして掃除を再開することにした。
床掃除は俺とエリザ。
棚掃除はアネット。
ミラとメルディには住居部分の掃除を任せることにした。
さぁ、いっちょやったりますか。
まずはバケツに水を入れてスモールスパイダーの糸を溶かす。
かなり細い糸なので、水に入れると溶けているかどうかすらわからない。
それを床にぶちまけて隅々にまでいきわたらせて、あとはブラシでひたすらこする。
「すごい!汚れが勝手にこびりついてくる!」
「よく見ると細かい糸がからんでいるな。そりゃ隅々まできれいになるわけだ。」
「ちょっとネバネバするのがいいのかもね。」
「だな、血液汚れは無視して泥汚れを中心にこするぞ。」
「オッケー!」
作戦開始だ。
さっきまでどう掃除していいかわからず途方に暮れていた俺たちだが、知識という武器を手に入れた後は非常にスムーズに事を進めることができた。
面白いようにゴミが取れていく。
砂も小石も細かな糸が絡んでくれるので、あとはもう一つの糸で絡めとればあっという間にゴミがなくなってしまった。
残った血液や体液なんかのどす黒い汚れも、マッドスライムの核でこするとまるで魔法のようにきれいになる。
エリザ曰く魔物でもなんでも食べてしまうような悪食タイプの魔物らしく、生きたまま取り込まれると数分で骨になってしまうそうだ。
そんな魔物の核だけに、そういった成分が含まれているんだろうか。
よく見ると素手で触らないようにと書いてあったので慌てて手袋を着用した。
気づけばもう夕方。
「終わった!」
「こちらもきれいになりました、見てください。」
「おぉ!台所の油汚れがなくなってる!」
「マッドスライムではなくブルースライムの核を使ってみたのですが、予想通りピカピカです。」
「そっか、ブルースライムは油に強いもんね。」
「あのパームボールですら食べるようなスライムですから。」
なるほどなぁ、ちゃんとその特性を生かした素材で掃除をしたわけか。
棚は埃一つなく、床もきれい。
これで安心して年末を迎えられるな。
「とりあえず皆ご苦労、今日はイライザさんの店でパーっとやるか。」
「やった!」
「え、私もいいんですか?」
「当たり前だろ、一人だけ仲間はずれにするわけないだろうが。」
「えへへ、頑張った甲斐がありました。」
メルディもうちの大切な従業員だ。
もっとも、手は出していないぞ?
片づけを済ませ、さぁ出発だという所でミラが先ほどのブルースライムの核を持ったまま固まっていた。
「どうしたんだ?」
「いえ、イライザ様の所も料理などで汚れていると思いまして。持って行っても構いませんか?」
「もちろん構わないぞ。」
「ありがとうございます。」
イライザさんにはいろいろと世話になっているからな、こういった道具で楽をしてもらえるのなら喜んで提供しよう。
ほかにもいろいろと使えそうな道具もある。
ビッグスパイダーの糸は粘着力が強いわりに家具とかにはくっつかない性質のようだ。
また、フォックスの毛皮もいい感じで埃を取る割に簡単に洗うことができる。
つまりお手軽に掃除ができる割に手入れは簡単。
この二つを組み合わせて某クイックル的なやつを作るのはどうだろうか。
それか、各家庭においてもらって月一で回収。
その際に新しいのを納品して使用料をとるやり方もある。
よそ様のやり方をマネしてもこの世界では怒られたりしないからなぁ。
マネできるところはマネさせてもらっていいだろう。
「ねぇシロウ行かないの?」
「どうやらシロウ様は何か思いついてしまったようです。」
「えぇぇぇぇ!早く行こうよぉぉ。」
「こうなったご主人様はすぐに動きませんからね、先に行って予約しておきましょうか。」
「そうね、先に始めましょ。」
「私は残って準備をしていきます、皆さま先に行ってください。」
「は~い。」
その後、俺がこっちの世界に意識を戻すまでミラは静かに準備を続けてくれていた。
さすが出来る女は違うな。
「考えはまとまりましたか?」
「あぁ、これは金になる。間違いない。」
「では、しっかりと稼がせていただきましょう。」
「あぁ。また大変になるがよろしく頼むな。」
「もちろんです。シロウ様の好きなようになさってください。」
これは金になる。
確信をもってそう思えた。
あとはこれをどう実行に移すかだ。
今年も残すところあと一か月とちょっと。
最後の仕込みを万全にするために、まずは腹ごしらえだよな。
お礼の代わりにミラを抱きしめ熱い口づけをたっぷりとかわしてから俺たちもイライザさんの店へと向かうのだった。
22
お気に入りに追加
328
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる