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467.転売屋は薬草をかき集める

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23月も半ばを過ぎ、寒さは日に日に増している気がする。

余り寒暖差のない地域のはずだが今年は寒くなるんだろ。

だって雪の妖精が二人も来たんだ可能性は十分にある。

寒いのは苦手なんだけどなぁ・・・。

そんなことを考えながらぼんやりと裏庭に降る雪を眺めていた。

手にはミルク入りの香茶。

懐には焔の石。

椅子に浅く腰かけて毛布をまく姿は完全にOFFモードだ。

年末が近いとはいえこの寒さの中で歩く人は少ないだろう。

朝から客はほとんど来なかったし。

たまにはこんな日があってもいいよな。

「シロウ様、ビアンカ様が来られました。」

「ビアンカが?まだ月末じゃないよな。」

「そのはずです、裏にお通ししますね。」

「あぁ。」

この雪の中やってくるなんて珍しい。

薬草が足りないとかならアイルさん経由でギルド協会に連絡は入るはずだし、わざわざ本人が来るということは何か個人的な用事なんだろう。

リラックスモードの思考を一気に引き戻し姿勢を正しているとビアンカが入ってきた。

「よく来たな、寒かっただろ。」

「すみません突然。」

「気にするな、香茶でいいか?新鮮なミルクもあるぞ。」

「ではそれをお願いします。」

ふむ、見た感じいつもよりも少しテンションが低そうだ。

何やら思いつめた感じがある。

なんていうか、借金に追い詰められていたころを見ているよう。

ふむ、何かあったのは間違いないな。

香茶にミルクを入れ、少量のはちみつをたらしてやる。

疲れた時には甘いものが一番だ。

手渡すと少しだけ顔を上げ弱弱しい笑顔を返してきた。

元の席に戻り俺もぬるくなった香茶に口をつける。

「で、何があった?」

「え?」

「何かあったからこんな雪の中飛んできたんだろ?」

「・・・はい。」

「とりあえず言ってみろ、出来る出来ないは俺が決める。」

俺は魔法使いでも神様でもないから、不可能を可能にすることはできない。

だが、そうでない事ならある程度出来るだけの財力と交友関係は持ち合わせているつもりだ。

ぼそぼそと話始めたビアンカの話を俺は何も言わずに聞き続けた。

なんていうかビアンカらしい考えと、悩み。

アネットが横にいたら抱きついて慰めているところだろう。

だがあいにくと本人は竜宮館へ納品中だ。

「話は分かった。ようは薬草を集めればいいんだな?」

「それも普通の薬草ではなく、突然変異したもので鑑定しないと判別がつかないものです。」

「見た目は普通なんですけど、成分が特殊なんです。それさえあればお婆ちゃんを助けられるのに・・・。」

「まぁそんなに思いつめるなって。薬さえあればなんとかなるんだ、不治の病とかに比べたらへでもない。」

「でも!」

「俺を誰だと思ってる?違うな、ここをどこだと思ってるんだ?ダンジョンだぞ?そしてここには大勢の冒険者がいる。彼らの力を使えば変異した薬草なんてすぐに見つかるさ。なぁ、エリザ。」

「え!?なんでわかったの!?」

「わからないはずがないだろうが。聞き耳立てるならもう少し静かに戻ってこい。」

本人は静かに帰ってきたつもりだろうが、防具や武器が触れるガチャガチャとした音が聞こえていた。

ほかの冒険者よりも装備がいいので、音も普通と違い少し高い感じなんだよな。

本人は気づいてないんだろうけど。

扉の横から顔だけを出してエヘヘと笑っている。

その顔を見てビアンカの表情が少しだけほぐれた気がした。

そうそう、いい女に暗い顔は似合わない。

ビアンカはアネットと一緒にじゃれて笑っているのが一番素敵だ。

「ともかくだ、冒険者を総動員してダンジョン中の薬草を集める。で、それを全部鑑定してその特殊な薬草を発見する。あとはアネットに頼んで特別な薬を作れば万事解決、そうだな?」

「はい。依頼をかければ二・三日で準備できるかと。」

「なら行動あるのみだ。余った薬草は全部渡すからしっかりポーション作って来いよ。」

「はい!」

「ってことでエリザはギルドまでひとっ走り頼む。それとミラはギルド協会に連絡して事情を説明してきてくれ。一時的にとはいえ薬草を買い占めるんだ、根回しはしておくべきだろう。」

「かしこまりました。」

「あの、私は?」

「ビアンカはそこで香茶でものんでろ。あぁ、アネットが戻ってきたらかまってやってくれ、最近ちょっと働きすぎだ、たまには気晴らししないとな。」

友人が少ないわけではないが、ビアンカが一番気を許せる相手であることは間違いない。

たまにはそういう人間とゆっくり話すのも良い人生には必要なのだよ。

もっとも、俺にはそういう人がいなかったから関係ない話だったけどな。

もちろん今は違う。

女たちに囲まれて幸せだとも。


「事情は分かりました、人命優先ですからジャンジャン買い取ってください。」

「随分と前向きな発言だな、裏はなんだ?」

「別に裏なんて・・・。」

「実は薬草の備蓄が減ってきていたのよ。基本はポーションが売れてるんだけど、新米が増えるとどうしてもね。」

「加えてポーションの原料も薬草ときたもんだ。なるほどな、農閑期になって新人が増えたもんなぁ。」

ぼかす羊男にかぶせるようにニアが事情を説明する。

別に隠すようなことではないと思うんだが、これはこいつの癖みたいなもんなんだろう。

馬鹿正直に話をしていたんじゃいいようにやられる世界で過ごしているんだ。

それを責めるつもりはさらさらない。

実際こうやってばらされてるわけだし。

「はぁ、ということです。」

なら買い取った薬草は一度そっちに流して残った分をギルド協会を通じてビアンカに製作依頼。ってないつもの感じで問題ないな?」

「シロウさん経由じゃないんですね。」

「わざわざ俺が動かなくても全部やってくれるだろ?ビアンカに金が落ちれば必然的に俺にも金が落ちるわけだし・・・どうだうらやましいだろう。」

「むしろあれこれ手を出しすぎて大変なのを目の前で見ているのでうらやましくはありません。」

なんだよ面白くないやつだな。

事実だけどさぁ。

ってことで、ギルド協会並びに冒険者ギルドの承諾を取り付けた上で『ダンジョン薬草回収大作戦』が開始されたわけだが・・・。

最初こそ特にすることもなくのんびりしていたわけだが、初心者冒険者が戻りだしてからの流れはなんていうか地獄だった。

もちろんわかっていたさ。

薬草なんて比較的簡単な素材を買い取るんだ、ものすごい数が集まるってことは。

『薬草。もっとも一般的な薬。切り傷打ち身擦り傷等軽微な物であれば患部に張り付ければ即座に効果が出る。ポーションの材料にもなる。最近の平均取引価格は銅貨28枚、最安値が銅貨24枚最高値が銅貨32枚、最終取引日は今日と記録されています。また各種ギルドにて銅貨15枚で買取銅貨30枚で販売されています。』 

『薬草。もっとも一般的な薬。切り傷打ち身擦り傷等軽微な物であれば患部に張り付ければ即座に効果が出る。ポーションの材料にもなる。最近の平均取引価格は銅貨28枚、最安値が銅貨24枚最高値が銅貨32枚、最終取引日は今日と記録されています。また各種ギルドにて銅貨15枚で買取銅貨30枚で販売されています。』 

この繰り返し。

延々と同じ鑑定結果を見せられる羽目になってしまった。

なので最後の方は相場スキルを切って鑑定スキルのみを表示している。

『薬草。もっとも一般的な薬。切り傷打ち身擦り傷等軽微な物であれば患部に張り付ければ即座に効果が出る。ポーションの材料にもなる。』 

気分はひよこの雄雌を仕分けする職人だな。

持ち込まれた薬草を手に取り状態別に分け、お目当ての薬草を探し続ける。

店に持ち込まれるだけならまだいいが、ギルドに持ち込まれたやつも鑑定しなければならないので正直かなりの量だ。

さすがにこの状況で仕事はできないので今日は臨時閉店することにした。

「あの、主様何かお手伝いを・・・。」

「こっちはいいから上でアネットの相手をしてやってくれ、あいつまた追加の仕事もらってきたんだろ?」

「そうみたいです。」

「出来ることは手伝ってくれると助かる。おい、これ薬草じゃないぞ!変なの持ってくるなよ。」

「あ、すみません・・・。」

「見た目似てるから気をつけろよ、食うと腹壊すぞ。」

「ういっす。」

『薬草もどき。薬草に似ているがただの草、食物繊維は豊富なので食べるとお通じの調子は良くなるかもしれない。』

見た目は薬草っぽいから間違えるのも無理ないんだが、これを使ってもけがは治らないんだよなぁ。

ま、新人にはいい勉強になるだろう。

ちなみに見極める方法は一部をちぎって食べるか、患部に塗り込んでみる。

薬草なら治るし、そうじゃないなら変化なし。

たまに一部ちぎれた薬草があるのはそういう見極めをしているからだ。

それでも買取価格は安くならないので安心してみんな試せるというわけだな。

「よし、次持ってきてくれ。」

「お願いします!」

また新人が薬草を手にやってきた。

全部で三つ。

えぇっと、普通の普通のふつ・・・ん?

『薬草。もっとも一般的な薬。切り傷打ち身擦り傷等軽微な物であれば患部に張り付ければ即座に効果が出る。ポーションの材料にもなる。変異が認められる。最近の平均取引価格は銅貨28枚、最安値が銅貨24枚最高値が銅貨32枚、最終取引日は今日と記録されています。また各種ギルドにて銅貨15枚で買取銅貨30枚で販売されています。』 

変異?

これか!

「ビアンカ!」

買取結果を伝える前に思わずビアンカを呼んでしまった。

ドタドタと階段を駆け下りてくる音がする。

「呼びましたか!?」

「変異種だ、これで間違いないか?」

「見せてもらえますか?」

薬草を受け取ったビアンカの手が白く光る。

魔力を通しているんだろう。

「間違いありません、これです。」

「あといくつ必要だ?」

「え?」

「一つじゃ足りないかもしれないだろ、余裕を見て何個いる?」

「・・・出来ればあと二つ、いえ三つあれば。」

「わかった、三つだな。」

まだまだ数はくるんだ、ここで止めてしまうのはもったいない。

ひとまず冒険者に金を渡して次の客を呼ぶ。

変異を見つけた冒険者には割増金を渡せない代わりに、別の買取品で上乗せしておいた。

あと三つ。

結局その三つがそろったのは二日後の昼間。

アネットの作った薬を大事そうに胸に抱えてビアンカは町へと戻っていった。

残ったのは大量の薬草。

これで当分は在庫に困ることないだろう。

もう当分薬草は見たくない。

小さくなっていく馬車を見つめながら、俺は大きく伸びをして店へと戻るのだった。
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