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466.転売屋はお使いを頼む

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「依頼の方はどんな感じだ?」

「焔の石は予定数確保、パームボールは現在精製中。白炭が少ないんだけど、マートンさんが使うみたいだし仕方ないわよね。」

「で、肝心のファットボアは?」

「カニまでは行かないけど、だいぶ出現数が少ないかも。ちょっと様子見ってことで禁猟令が出されてるわ。」

「となると、まともに用意できそうなのはパームボールぐらいなもんか。」

まだまだ冬はこれから。

ポポルの助言をもとに俺達は再度燃料の確保に精を出した。

が、元々街で使用している分に加えてさらに調達しようとするものだからなかなか手に入らない。

特に代替品として重宝されていたファットボアが手に入らなくなったのが痛いなぁ。

とはいえ、カニの件もあるから下手に乱獲できないし。

しかたがないので通常の燃料を仕入れることにしよう。

「私はもう一度ダンジョンに行ってくるから、シロウは?」

「俺は露店を回ってくる。」

「寒いから暖かい恰好でいきなさいよ?」

「言われなくてもわかってるっての。」

ダンジョンでの材料調達はエリザに一任してある。

なので俺はそれ以外の燃料を確保するとしよう。

ってことで、散歩もかねて久方ぶりに露店へと足を向けた。

「さぁさぁ、パームボールの精油が銅貨50枚、銅貨50枚だよ!まだまだ冬は長いんだ、今のうちに買いだめするのをお勧めするよ!」

「燃料を買うならうちだ!今なら一甕買うごとにこっちの小さい方をおまけするぜ!一甕銀貨3枚、銀貨3枚だよ!これで年末までは十分に持つぞ!」

既存燃料が値下がりしていると思いきや、元の値段とあまり変わっていない。

てっきり値下がりしていると思ったんだが、やはり需要があると値崩れしにくいなぁ。

そんな事を考えながらめぼしい物がないか露店を物色していく。

お、アレはなんだ?

「おっちゃんそれは?」

「こいつは魔法の笛だよ。強さに応じて風の強さが変わるんだ、どうだい試してみるかい?」

「あぁ、ちょっと貸してくれ。」

見た目にはクラリネット。

笛という割には色々なスイッチがついている。

『風寄せの笛。一吹きすれば風が舞い、二吹きすば木が暴れ、三吹きすれば嵐が来ると言われている。もっとも、ただ吹けばいいわけではなく、手順通りに吹く必要がある。最近の平均取引価格は銀貨8枚。最安値銀貨2枚最高値銀貨22枚最終取引日は710日前と記録されています。』

ふむ、ようはメロディに合わせて風が強くなるわけだな。

ってことはだ、その楽譜か何かが必要ってことだろう。

ただ吹くだけではそこまでひどい結果にはならなさそうだ。

「楽譜か何かはないのか?」

「そういうのはねぇなぁ。」

「いくらだ?」

「銀貨3枚だ。」

「高くない?」

「風呂沸かすには重宝するんだよ。」

「なるほどなぁ。」

良い感じの風が薪を程よく燃やしてくれるわけだ。

まさかこの笛もそういう使い方をされるとは思っていなかっただろう。

もしかしたら図書館に楽譜が記録されているかもしれない。

夏の涼みがてら買ってみるか。

「銀貨3枚だよな?」

「お、買ってくれるのか?」

「あぁ、面白そうだし。」

「いや~助かるぜ。今日は何も売れなくてよぉ、カカアに怒鳴られるところだった。」

「そりゃこの商品じゃなぁ。」

まるで廃墟から盗んできましたと言わんばかりの汚れっぷり。

他の品は買うに値しないようながらくたばかりのようだ。

一応念のために触ってみたものの当たりは無し。

代金を支払って次の店へと向かおうとしたその時だった。

「あ、あの・・・。」

「ん?どうした坊主。」

「買取屋さん・・・ですか?」

「ん?そうだが?」

まだ10にもなっていないような少年(ガキ)が俺を見上げていた。

その顔はおびえており、何とか勇気を出して声をかけたって感じだ。

俺が買取屋だって知ってるってことはこの街の住人だろう。

孤児ではないはずだ。

「これ、買い取れますか?」

「買取は店でやってるんだが・・・。」

少年がポケットから出したのは小さな石。

だが、普通の石じゃない。

この街ではありふれたものだが、この年のガキが持っていい物では無いものだ。

「魔石か。」

「これならお金になるって母さんが・・・。」

「冒険者か?」

「ううん違う。」

「じゃあどこでこれを?」

「・・・拾った。」

だよなぁ。

魔物を倒さなければ手に入らない結晶。

ダンジョンに行けば拾い忘れたやつが落ちていることはよくあるものの、街中でこれを手に入れるのは難しい。

おおかた冒険者が途中で落としたやつなんだろう。

それは別に構わないんだが・・・。

よく見ると服は薄く、このじきにきるようなものじゃない。

髪はぼさぼさで少しふけが見える。

はぁ、やなもん見てしまった。

「まぁどこで拾おうがこいつに罪はねぇ。クズ石だから銅貨50枚だな。」

「え、それだけ?」

「拾ったものが金になるんだ、良かったじゃないか。」

「う、うん・・・。」

「なんだ、もっと欲しかったのか?」

「燃料買ったらご飯が・・・。」

「金がないなら教会に行け、飯ぐらいは用意してくれるだろ。」

「でも燃料はくれないよね。」

「そりゃなぁ。」

生憎と生活保護的なセーフティーネットは存在しない。

食い物に関しては教会がしている炊き出しでありつけるが、燃料までは面倒見てくれない。

金がなければ死ぬだけ。

それがこの世界の常識であり、事実だ。

その点俺は金があるから、気まぐれで冬を越せるだけの燃料を買ってやることぐらい造作もないんだが・・・。

タダでやるのはなぁ。

孤児院のガキ共だって自分の足で稼いでいるんだ、それを知っていて金だけ渡す事は出来ないだろ。

「でも、それでお願いします。」

「もっと欲しいか?」

「え?」

「燃料買うんだろ?今年はまだ寒くなるからすぐになくなるぞ、俺の仕事を手伝うならもう少し金を出してやらんでもない。そうだな、銀貨2枚だ。」

「銀貨二枚も!?」

ガキが目を輝かせて大声を出す。

おいおい、そんな声を出したら周りの人が俺を見て来るじゃないか。

町の人は大丈夫だろうが、知らないやつはもしかしたら俺がこのガキを買っているように思うかもしれない。

ガキにも男にも興味はないっての。

「その代わり仕事はしんどいぞ、覚悟しろ。」

「う、うん。」

「死んでも文句言うなよ?」

「え、死んじゃうの?」

「それぐらいの覚悟があるかってことだ。」

「・・・うん。母さんが待ってるんだ、ダンジョンに行ったお父さんの分も僕が働くんだ。」

はぁ、やっぱりそんな感じだよなぁ。

父親は冒険者で、残念ながら戻ってこない感じ。

この街ではよくある話だ。

一応未亡人を保護、支援する婦人会もあるけれどまだ死んだってわけじゃないんだろう。

とはいえ金がなければ生きていけない。

本来なら関わらないんだが・・・。

あんな目で見られて何もしないわけにはいかないだろ。

「なら、まずはここを走り回ってパームボールを買い占めてこい。金はこれ、買ったら露店の東門に持ってこい。わかったな、全部だぞ?値段は決まってるからパクってもすぐわかるからな。」

「そんなことしないよ!」

「じゃあいってこい。」

「わかった!」

銀貨を5枚握らせて露店を中へガキを走らせる。

この時期のパームボールの実は期間限定の固定買取制が適用されている。

買い取り価格は10個で銅貨25枚。

それを精製して燃料を銅貨50枚で販売する決まりになっている。

ちなみに加工するのに賃金なども含めて銅貨15枚が加算されるので、それを踏まえて卸値が銅貨40枚。

最終的に燃料を売った販売利益は銅貨10枚となる。

僅か10枚しか儲からないのだが、数が出るのである程度の金さえあれば精油を転がすだけでその日の生活費ぐらいは稼げるわけだ。

よく駅前で売っていた雑誌と同じようなもんだな。

さっきのおっちゃんもよく見ると片腕がなかった。

冒険者を引退することになり生活費を稼ぐためにあの仕事をしているんだろう。

でだ、俺が何をさせているかというとだな・・・。

しばらくして袋いっぱいのパームボールの実をもったガキが戻ってきた。

とはいえ一度に運べるのはせいぜい20個。

銀貨5枚分は全部で200個。

あの一袋でもかなりの重さだろう。

「買ってきました!」

「よし、じゃあそれを東通りの製油工場に持っていけ。」

「はい!」

「落とすなよ、脂がすごいから大惨事になるぞ。」

「頑張ります!」

製油工場に10個持っていくと銅貨5枚加算された金額を支払ってもらえる。

200個持っていけば銀貨1枚。

一日死ぬ気で働けば400個ぐらいは何とかなるだろう。

それで銀貨2枚の儲けだ。

肉体労働して銀貨2枚か、出来上がったものを売ってそれに近い売り上げを上げるか。

燃料危機から始まったらこのパームボールが、まさか貧困対策に使われるとは考えもしなかった。

さすが羊男という所だろう。

加工には婦人会も関わっているらしい。

冬だけの期間限定とはいえ、長い冬を越せるだけの金が動くのは良い事だ。

「全部終わったら渡した金を返しに店まで来い。明日もやるならまた金を貸してやる、せいぜいがんばれよ。」

「ありがとうございました!」

だからそんなにデカい声を出すなと。

別に俺は何もしちゃいない、金を貸して返してもらっただけだ。

安定してパームボールが精製されればその分備蓄が増やせるというもの。

誰も損をしていない。

「シロウ様。」

「うぉぁ、ハーシェさんか脅かすなよ。」

「何やらうれしそうに笑っていましたので。」

「そうか?」

「はい。」

「気のせいだ。」

「ふふ、あの子の笑顔がうつった、そういうことにしておきます。」

後ろから声をかけていたのは買い物途中のハーシェさんだった。

マジか、まさかあのやり取りを見られていたとは。

恥ずかしすぎる。

「・・・誰にも言うなよ。」

「どうしてですか?」

「恥ずかしいからだよ、人助けなんて柄でもないことしたもんだ。」

「その人助けに助けられ、今はこうして宝物まで授かったのです。もっと自信を持ってくださいませ。」

「それはそれ、これはこれだ。それにハーシェさんは金を産むだろ?だがあいつは金を産まん。」

「でも未来は・・・。」

「未来は未来だ。ほら、荷物を持ってやるからさっさと帰るぞ。」

俺は金になることしかしない主義なんだ。

だから金にならない人助けなんてしない。

これまでも、そしてこれまでも。

だが、時にはこんなことをするかもしれない。

嬉しそうに左腕に腕を絡めてくるハーシェさんの視線を感じながら、俺は前だけを見て屋敷までの道を進むのだった。
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