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462.転売屋は酒を手向ける

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「ってことで、通訳を頼む。」

「任せるし!ベッキーちゃんにお任せだし!」

「自分の事チャン付けかよ。」

「そこはツッコム所じゃないし!」

幽霊に関西の漫才師宜しく素早く裏拳されると思わなかった。

もちろん実体はないので貫通するが、自分の体を他人の腕がすり抜けるのは非常に気持ちが悪い。

なんていうか、ぞわぞわする。

「で、またあそこまで行けばいいのね?」

「あぁ。素材もなかなかに美味しかったし今後も利用するならアレをどうにかした方がいいだろう。」

「別に何かしてくるようには見えませんでしたが。」

「今はな。だが今度は違うかもしれない。」

「シロウは今後の憂いを払っておきたいのよ。ほんと、真面目なんだから。」

別にそういうわけではないんだが、気になっているのは事実だ。

あの幽霊は何かを探すようにあそこをうろうろしていた。

そんな風に見えたんだ。

普通は放っておくんだが、さっきも言ったように今後も利用するのなら憂いは払っておきたい。

大量の牙を安全に回収できる貴重な場所だ。

今後を見据えて現場の環境はしっかりと整備しておかないとな。

「とりあえずシロウについていけばいいし?」

「あぁ。かなり深いからビビるんじゃないぞ。」

「ビビらないし!それに何かあってももう死んでるから大丈夫だし!」

「罠避けにぴったりですね。」

「なんせ死んでるからな。」

仮に落とし罠にはまっても落ちないし、毒矢が降ってきても刺さらない。

でも作動はさせることが出来る不思議な存在。

しっかし、死んでいるから大丈夫はパワーワード過ぎるだろう。

ベッキーにしか言えない言葉だな。

「さっさと行きましょ、今回は他の仲間もいないんだし出来るだけ戦闘は避けるからね。」

「その辺は任せる。」

「後ろはお任せください。」

「私は・・・下?」

「どこでもいい、とりあえず行くぞ。」

半分地面に埋もれるベッキーを連れてこの前よりも慎重にダンジョンの中を進んだ。

前は物量で押し切れたが、今回はそうじゃない。

その上非戦闘員を前以上にかばいながらになる。

無用な戦闘は避けるべきだろう。

「そろそろね。」

「墓場が見えてきました・・・やはりいます。」

「だよなぁ、そんな都合よくいくわけないか。」

やっとの思いで墓場へと到着した俺達だったが、予想通りというか残念な結果というか。

うっすらと見える例の空間に、ふわふわと浮かぶ幽霊が確認できてしまった。

前回同様何かを探すようにうろうろしている感じ。

ゆっくり近づくと、やはりこちらを認識するものの攻撃を加えてくる気配はない。

「さて、予想通りの結果だから頑張ってもらおうかな。」

「任せるし!ベッキーちゃんにお任せだし!」

「本当に大丈夫なの?」

「さぁ、死んでるんだから問題はないだろ。せいぜいもう一回死ぬだけだ。」

「死なないし!」

「ではベッキー様宜しくお願いします。」

ささ、どうぞどうぞとアニエスさんが手を伸ばしベッキーを誘導する。

ごくりと唾液をのむような動作をしてから、ふわふわと幽霊に向かって進みだした。

さぁ、いよいよファーストコンタクト。

向こうもさすがに驚いたんだろう、浮かんでいるベッキーを見てすかさず距離を取った。

見た目は大型の猫。

それに少女が近づいているような構図だ。

あ、お互いに近づいていく。

完全に触れる距離。

おぉ、触った!

しばらくそのまま一人と一匹は固まっている。

「大丈夫かしら。」

「襲われている様子はないし、まぁ大丈夫だろ。」

「あ、こちらを向きましたね。」

そんな事を話しているとベッキーが嬉しそうな顔でこちらを向いた。

「こっちに来ても大丈夫だし!」

「だそうだ。」

信じるよりほかはない。

ゆっくりと墓場の中を歩いていくと、上から猫とベッキーが下りてきた。

「この下に仲間の骨が埋まってるらしいし、それを探して浮いていたけど自分ではどうにもできないみたいだし!助けてあげるし!」

「何勝手に決めてるんだよ。」

「助けるし!」

「助けたらお宝のありかでも教えてくれるのか?」

そういうとベッキーが再び猫の方を向いた。

ミャアと小さく猫が鳴く。

なんだよ図体のわりにかわいい声だな。

「お宝あるらしいし!」

「マジかよ。」

「ねぇ、可愛そうだから手伝ってあげたら?あの感じだと害はないみたいだし。」

「犬なのに猫が好きなのか?」

「何の話?」

「雰囲気的に害はなさそうです。敵対していないことが分かった以上、友好的な関係を築く方がよろしいかと。」

「ふむ・・・。」

「この下を掘るし!ざっくんざっくんだし!」

「スコップなんてない、っていうか骨なんだから掻き出すしかないだろ。」

仕方ない、ここまで来て放置するわけにもいかないしな。

腕まくりをして、三人で足元の骨をひっくり返していく。

バケツリレー宜しくエリザの引っぺがした骨を俺が受け取り、アニエスさんに渡して、アニエスさんが遠くに投げる。

途中良い感じの牙が出てきたら回収。

お、ブルードラゴンの牙だ。

「それ、ドラゴンだぞ。」

「ほんとだ。骨確保する?」

「いや牙だけでいい。鱗とかないだろ?」

「な~い。」

「じゃあいいや。」

骨にも一応の価値はあるが今はそれ目的じゃない。

それに、骨が欲しければ竜の巣に行って直接肉入りを倒せばいい。

ドラゴンは余すことなく素材をつかえるからなぁ。

どれぐらい発掘しただろうか。

ある程度掘り返した所で猫が上から急降下してきた。

エリザの体を通り抜けたものだからエリザが自分の肩を抱いて震えてる。

わかる、わかるぞその感触。

なんか気持ち悪いんだよな。

「見つけたし!でもバラバラだし。」

「まぁ、これだけの骨に埋もれたらそうなるよなぁ。」

猫がまとわりついている骨は骨格がどうなっているかもわからないぐらいにバラバラになっていた。

それでもまだましな方で、そこよりも下はもう破片しか見えない。

「一足先に成仏したのか?」

「さぁ・・・。」

「ですがこれで本人も納得するでしょう。いなくなれば安心して採取に来れるというものです。」

「だな。」

本来の目的は定期採取のための環境整備だ。

ふわふわという謎の幽霊が出る場所になんて冒険者も行きたくない。

それがいなくなれば安心して仕事ができるというもの。

もっとも、納得してくれるかはわからないが・・・。

「悲しそうだし。」

「まぁ、自分も幽霊なんだから仕方ないだろう。」

「なんとかできないし?」

「何とかって言ってもなぁ・・・。」

何とも言えない顔をして俺を見てくるベッキーを見て、ふと或るものを持ってきたのを思い出した。

幽霊といればお清め。

悪霊だったら塩でも撒いてやろうかと思ったが、在庫が少なかったので代わりにこれを持ってきた。

「あ、お酒?」

「俺の所じゃ死者には酒を手向けるんだよ。」

蓋を開け、猫のまとわりついている骨に向かって酒をトポトポと注いでやる。

もちろんエールや琥珀酒じゃない。

モーリスさんに仕入れてもらった清酒もどきだ。

透明さはそこまでないが、味は良い感じ。

酒を注いだと手を合わせて祈ってやる。

成仏してくれよっと。

「ミャア。」

「ん?」

「ミャア。」

「なんだ礼でも言ってるのか?」

「そうだし!見つけてくれてありがとうって言ってるし!」

「魔物の言葉もわかるのか、流石だな。」

「お互い死んでるからわかるんだし!普通の魔物はわからないし!」

「使えねぇなぁ。」

「お宝はこっちだって言ってるし。」

お、マジでお宝に案内してくれるのか。

骨から離れた猫はそのまま別方向へと飛んでいき、ある場所で止まった。

「この下にドラゴンの骨があるし。いっぱいあるし。」

「お、マジか。」

「他にもあるけど、そいつは守られてるみたいだし。ぶっ倒すし!」

ん?

今こいつなんて言った?

ぶっ倒すだって?

「シロウ離れて!」

「先程の通路まで走ってください!振り返らないで!」

「アニエス!」

「わかっています、まずは安全確保、それから考えます。」

「上等!」

突然エリザが声を荒げたと思ったらアニエスさんに入ってきた通路の方へと押されてしまった。

いや、アレは投げられたの方がいいかもしれない。

骨の山に着地し、そのまま這うようにして通路へと逃げ込む。

そんな俺を守るように、ベッキーと猫が俺の前に立ちはだかってくれた。

半透明の体から向こうが見える。

何やらバキバキと大きな音を立てて、足元の骨が崩れ始めた。

「来るわよ!」

「これは・・・大きい!」

崩れた一角から現れたのは、巨大なスライム。

なんだろう大きすぎて感覚がバグってしまうが、3mはゆうに越える大きさがある。

まるで壁だ。

そしてそのスライムの体の中に、何やら浮かんでいるものがある。

「あれは・・・竜玉か?」

「そうだし!あいつが体にため込んでるし!倒したら大儲けだし!」

「倒すって言っても魔術師はいないぞ?」

「問題ないし!あの二人なら何とかするし!」

何とかするってお前なぁ。

基本は炎。

もしくは片栗粉が必要なスライムだが、生憎とこいつを固めるだけの片栗粉はない。

もちろん火の魔導具なんてものもないし魔術師もいない。

そんな状況でこいつを倒すなんて・・・。

「大きければ小さくすればいいだけの事、切り刻みます!」

「でぇぇぇぇ!りゃぁぁぁぁぁぁ!」

うん、何とかなりそうだわ。

目にもとまらぬ速さで巨大なスライムを切り刻むアニエスさんと、それを持ってきていた火の加護付きの斧でぶった切っていくエリザ。

細かくしては燃やし、細かくしては燃やし、あっという間に小さくなっていく巨大スライム。

あぁ、もう巨大でも何でもないか。

途中貯めこんだ竜玉がぽろりと落下するも、ベッキーがすかさずキャッチして戻ってくる。

あ、猫まで回収に加わりだした。

お前ら何で触れるんだよ。

「魔力があるから問題ないし!」

「あ、そ。」

「ミャア!」

あっという間に切り刻まれた、ダンジョンの掃除屋。

そしてついに核を叩き割られ絶命してしまった。

えっと、今後は誰が掃除するのかな?

そんな俺の疑問をよそにVサインを向けてくるエリザとアニエスさん。

何はともあれおまけまで手に入れたわけだ。

猫は・・・もう問題ないだろう。

こうして俺達は大量の牙と竜玉を手に地上へと戻るのだった。

次の日からダンジョンの最上階に猫と女の笑い声が聞こえてくるという噂も広がったのは言うまでもない。
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