上 下
461 / 1,027

459.転売屋は手紙を書く

しおりを挟む
牙のアクセサリーは、爆発的な流行は無い物のじわじわと売れ始めているようだ。

前みたいに売れてしまうと逆に素材の準備が大変だったのでこれぐらいでいいのかもしれないな。

そんな事を考えながら街を歩いていると、すれ違った冒険者の首に例のアクセサリーがぶら下がっているのが見えた。

あれはたしかオーガ種の牙だったはず。

効果は何だったかな・・・。

まぁいいか。

「あ、シロウだ!」

「こんなところにいた!」

「お手紙だよ、お手紙。」

と、今度は前から走って来たガキ共に一瞬にして囲まれてしまった。

ちなみに彼らの首にも小さな牙がぶら下がっている。

あれはウルフの牙だ。

本当はルフのやつが欲しかったようだが、中々生え変わらないのでそれはお預け。

だが、どうしても同じものが欲しいとのことでルティエに頼んで作ってもらったんだ。

なんでも勇気のお守りらしい。

「手紙?」

「うん!お手紙だよ。」

「すごい綺麗な奴!」

「渡したからね!」

グイッと手紙を押し付けてガキ共はあっという間にどこかに行ってしまった。

どうやら今日は郵便配達の仕事だったようだ。

デリバリーもそうだったがもう自分で仕事を探す事に抵抗はないらしい。

街の人も良く仕事を回してくれているようだし、孤児院も安泰だな。

って、手紙だったな。

えーっと、だれから・・・。

表には俺の名前だけ。

くるりとひっくり返すと見た事のあるものが目に飛び込んできた。

真っ赤な蝋に浮かび上がったリングさんの紋章。

これは道端で読むようなやつじゃなさそうだ。

開けずに懐にしまい、小走りで店へと戻る。

「ただいま。」

「おかえりなさいませ、先程子供達が探しに来ていましたよ。」

「あぁ、手紙を届けに来たようだ。さっき受けたとった。」

「手紙?誰から?」

「リングさんだ。恐らく出産祝いのお礼だろう。」

風の噂で無事に生まれた事は知っているんだが、その後については情報が入ってきていない。

カウンターをくぐり、女達に囲まれながら手紙を開けた。

「あ、良い香り。」

「香水か?」

「確か王都では手紙に好みの香りをしみこませて送るのが流行りだとか。」

「おっしゃれ~。」

「相手が自分と同じ香りをかぎながら手紙を読んでくれていると思うと、ドキドキしますね。」

そんなものなのか。

ぶっちゃけよくわからんが悪い気はしない。

でもなぁ、かなりきつい香水だったら逆に嫌かも。

今ぐらいのほのかに香るぐらいで十分だ。

「で、中身は?」

「まてまて今読むから。」

内容は予想通り無事に出産したことの報告と、お祝いの品への御礼だった。

奥様はたいそう喜ばれたそうで、今度お礼の品を送ってくれるのだとか。

もし王都に来たら是非顔を出してくれとの社交辞令も一緒だ。

行く機会があればもちろんお邪魔するが、残念ながらその機会はまだなさそうだなぁ。

「喜んでもらえてよかったですね。」

「だな。」

「早速お返事しなきゃ。」

「とはいえ何を書く?」

「・・・さぁ。」

「お前に聞いたのが間違いだった、手紙とか書かなさそうだもんな。」

「わ、私だって書くわよ手紙ぐらい!」

「じゃあいつ出した?」

「え~っと・・・。」

明後日の方向を向いて必死に思い出そうとするエリザだが、案の定思い出せるわけもなく。

だよな、国に残した親や旦那がいるならまだしも天涯孤独の流れの冒険者だ。

いや、親はいるかもしれんが疎遠だろう。

そもそもそう言う話を聞いた事が無い。

「ハーシェ様の妊娠について触れて、シロウ様も同じ父親になるとお伝えしては?」

「父親の先輩として助言を求めると喜ばれるかもしれません。」

「別に忖度しなくていいんじゃないか?」

「ソンタク?」

「いや、なんでもない。」

「近状報告でいいじゃない。それと、王都に行った時は是非とか書いておけばいいのよ。」

「適当だが、まぁそれが妥当だな。」

下手に凝った内容よりもあっさりしたほうが向こうも気楽だろう。

流石に今回も物を送るのはあれなのだが、手紙だけってのもあじけない。

流行の香水をまねする?

いやいや二番煎じはアレだろう。

リングさんは変な所で俺に期待しているからな。

何か特別な奴を考えないと・・・。

「とりあえず返事は後で書くとして、問題は中身だ。香水以外でなにかあるか?」

「え~香りつけないの?」

「あの人相手だからな、二番煎じよりも新しい物の方が喜ばれるだろう。」

「手紙に入る程度の何かよねぇ。」

「すみませんすぐに思いつきません。」

「私もです。」

「なら夕食までちょっと考えるか。」

三人寄れば文殊の知恵。

なら四人集まればもっといい案が浮かぶだろう。

一先ず昼食を済ませてミラの代わりに店番につく。

何故かは分からないが今日は客が多いなぁ。

「またどうぞ。」

やっと客足が途切れたようだ。

買い取った素材を足元の籠に入れて大きく伸びをする。

はぁ、疲れた。

「ただいま戻りました。」

「おぅおかえり。」

「その様子ですと忙しかったようですね。」

「まぁそんな日もあるさ。それよりもオバちゃん元気してたか?」

「おかげ様でただの風邪のようでした。」

「寒かったのに急に気温が上がったりしたから体がおっつかなかったんだろう、悪い病気じゃなくて何よりだ。」

オバちゃんが風邪をひいたと聞き、ミラに様子を見に行かせたが特に問題なかったようだな。

「アネットさんの薬もありますからじきによくなるかと。」

「また夕方様子を見に行ってやれ。」

「はい、そうさせていただきます。」

親孝行したいときに親はなしってね。

世話を焼けるときに焼いておく方が後悔しないものだ・・・ってもう親なんていないけど。

「御主人様香茶が入りました。」

「お、今行く。」

「片づけは私がしておきますのでどうぞごゆっくり。」

「そんじゃま任せた。素材が多いから適当に仕分けしておいてくれ。」

「はい。」

ミラに仕事を任せてちょっと休憩だ。

はぁ、香茶が美味い。

「何かいい案は浮かんだか?」

「すみません、なかなか思いつかなくて。」

「気にするな俺もだ。」

「香りみたいに見た目で喜んでもらえる物が良いなって思ったんですけど。手紙を開いたらそれが見えて、喜んでもらえる様なのです。」

「なるほどなぁ。となると、絵か?」

「残念ながら絵心はなくてですね。」

安心しろ、俺にもそんなものはない。

でもいい考えだと思う。

後はそれを何で代用するかだが・・・。

「シロウ様ちょっとよろしいですか?」

「ん?」

裏から顔だけ出すと、仕分けをしていたミラが不思議そうな顔をして何かを持っていた。

「どうした?」

「先程この花を買われましたか?」

「あぁ、マンイーターの花だろ?花弁が薬の材料になるからって・・・しまった!」

「潰れてしまったようですね。」

「だなぁ・・・。アネット、悪い潰れた。」

「あ!大丈夫ですよ、どうせ潰しますから。」

どうやら潰れても問題なかったようだ。

やれやれ、せっかく買った素材を無駄にするところだった。

忙しいとはいえちゃんと管理しないと罰が当たってしまう。

気をつけよう。

「あれ、でも良い匂いですね。」

「そういえば・・・。甘い果物のような香りがします。」

「そんなもの買い取ってないぞ?」

「じゃあどこから?」

キョロキョロと辺りを見回すも買い取った素材は鱗だの皮だので、むしろ血なまぐさい物ばかりだ。

あるとしたらミラの手にあるマンイーターの花ぐらい・・・。

「それは?」

「これですか?」

鼻を近づけてみるとやはり甘い香りがする。

「どうやら潰した事で匂いが出てきたようだな。」

「そう言えば調合中時々こんな香りをかいだ覚えがあります。そっか、これだったんですね。」

「潰すと匂いが出るのか、面白いな。」

大きさはあれだが、匂いは決して嫌な感じじゃない。

もしかすると他の花もこんな感じなんだろうか。

「探してみますか?」

「あぁ、普通の花じゃなくて魔物の花がいいだろう。・・・そんなのいるのか?」

「いるわよ。」

「って、いきなり顔出すなよ。」

「だって戻ってきたらカウンター下で何かしてるんだもん、気になるじゃない。」

突然上から顔をのぞかせたエリザに文句を言いつつ、先ほどの潰れた花を再度持ってみる。

うん、やっぱりいい香りだ。

「花の魔物ですか。それでしたらワイルドフラワーや、シャープバイトなんかがいますね。」

「他にもトレント系も花咲かすのよ、時期が決まってるけど意外に綺麗なんだから。」

「ふむ・・・植物系の魔物も該当するのか。」

「花がいるの?」

「手紙に押し花にして入れようと思うんだが、どう思う?見た目もいいし香りもあるとなったら喜んでもらえるだろう。」

わざわざ絵を描かなくても本物の花を添えればいいじゃないか。

それなら、誰でも簡単に楽しめる。

「それいい考えね。」

「いいと思います。」

「後はそのお花を見つけるだけですね。」

「ってことで、冒険者に依頼を出すぞ。魔物の花を集めて来い、ただし完全な形で種類も明記する事。こんな感じでどうだ?」

「新種には報酬を増やすってすれば、皆さん盛り上がってくれますよ。」

「さすがミラ、よくわかってるじゃない。」

「じゃあ決まりだな。」

折角の手紙なんだ、喜んでもらえる者が良い。

それもダンジョンのあるこの街ならではのやつで。

我ながら名案じゃないか。

後はそれを見つけるだけ。

そこはほら、冒険者の頑張りに期待するという事で。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...