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451.転売屋は引っ越しを手伝う

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「実は、家が売れまして。」

「早くないか?」

「そうですか?元々物件不足でしたからむしろ遅い方だと思います。特に大きな家は需要はあってもほとんど供給されませんから。」

「なるほどなぁ。」

カニ騒動も落ち着いたある日の事。

ハーシェさんが店にやってきて嬉しそうに報告してくれた。

確かにこの街で家を探すのは大変だ。

特に大きな家はめったに売りに出されることはない。

だからこの速さで売れてもまったくおかしくないのか。

なるほどなぁ。

「おかげさまで古い家でしたが金貨80枚で売ることが出来ました。支払いは引渡し後になりますが、これで借金をお支払いしたいと思います。」

「いや、別に構わないぞ?」

「それはダメです。」

「払うなって言ってるんじゃない、どうせ引越しやらなにやらで物入りなんだ。それが終わってから払ってくれればいい。そうだな、20年払いでどうだ?」

「ふふ、シロウはハーシェさんを引き止めたいのね。」

「うるさいな。」

別に金で縛るつもりはないが、せめて子供が大きくなるまではこのままでいい気がする。

うん、急ぐ必要はないよな。

「そんな事しなくても、私はずっとシロウ様の傍にいます。」

「あ、あぁ。そうしてくれ。」

「照れてるし。」

「エリザ、黙ってろ。」

「や~だよ~だ。」

さっきから駄犬が後ろでちゃちゃを入れてくる。

尻を叩いてやろうかと思ったが華麗によけられてしまった。

「それはともかく、かなり高値で売れるんだな。」

「むしろ安いほうです。もっと待てば高値で売れたでしょうけど、早く売ってしまいたかったので。」

「ちなみにシロウ様の屋敷はウィフ様が指名で販売されましたので価格は固定でしたが、市場に流せばもっと高値が付いたことでしょう。」

「つまり今売れば差益がかなり出るわけか。」

「売るんですか?」

「売らねぇよ。」

もちろん売るはずがない。

せっかく安く買ったんだ、子供もできるわけだし有効に使わせてもらおう。

しかし、家が売れたとなると・・・。

「そうとなれば引っ越しを早めなきゃならないな。」

「そうなんです。細々とはしていましたが、皆さんに止められてしまいまして。」

「とうぜんよ!お腹の子に何かあったら大変だもの。」

「荷造りなどは私達にお任せください、ハーシェ様は指示してくださるだけで結構です。」

「ってことで、急ぎ引っ越し準備を進めるか。店は・・・。」

「私頑張ります!」

「メルディが?」

「素材の買取だけであれば問題ないかと。」

ふむ、ミラがそういうのなら一度やらせてみるか。

この店に来てから数多くの素材を見てきたし、ミラの教育も受けている。

可愛い子には旅をさせよだったか。

まぁ、似たような感じでやってもらうとしよう。

「何かあればギルドに誘導しろよ。」

「はい!お任せください!」

「そんじゃま準備に取り掛かるか。」

やると決まったら即行動だ。

といっても今日は荷造りぐらいしか出来ないだろうけど。

人出が欲しいのでアニエスさんとフールにも手伝いを頼んで一気に片付けを進めることにした。

「それでは皆様宜しくお願い致します。」

家具などの大きな物は置いていくが、思った以上に他の荷物が多い。

まぁ、女性だし荷物が多いのは仕方がない。

女たちが梱包した箱を馬車に積み込み、ある程度たまったら屋敷に持って幾を繰り返すほど三回。

半日ほどかけてほとんどの荷物を運び出すことが出来た。

「まぁ、こんなもんか。」

「こんなに早く片付くなんて。」

「礼を言うのはまだ早いぞ、今度は持って行ったやつを仕分けするんだから。」

「そうですね、大方捨ててしまいましたがまだまだ仕分けしないと・・・。」

「いいんじゃないの?部屋はいっぱいあるんだし。」

「そういうわけにはいきません。着られなくなった服などもありますから、思い切って捨ててしまわないとまたすぐにものであふれてしまいます。」

ハーシェさんはなかなかに物持ちがいいタイプのようだ。

物は大事に使う。

でも、新しい良い物には反応が早い。

だからつい、物がたまってしまうんだろうな。

片付けをしながら断捨離も行ったが、それでもあの荷物だ。

家に置いた不用品も後日分別して処分しないとなぁ。

服なんかは売りに出すのがこの世界の基本なので、そういったものも梱包して売る必要がある。

本来であればちゃんと仕分けしてゆっくり売るもんなんだが、今回は時間もないので業者にまとめて引き取って貰うとしよう。

そういう業者がいるのはどの世界も同じのようだ。

「ま、時間はたっぷりあるんだ。おいおいやっていけばいいだろう。」

「そうします。」

屋敷に移動してからも仕事はまだ続けるようだし、子供が生まれるにはまだまだ時間がかかる。

焦ることはないのんびりやろう。

「ご主人様、ハーシェ様ちょっと来てください!」

そんな感じでのんびりと話をしていると、家の奥からアネットの慌てたような声が聞こえてきた。

呼ばれるがまま家の地下室へと移動すると、フールとアネットが壁の前でしゃがみ込んでいる。

「どうした何かあったのか?」

「その何かです。兄さんが何か変なのを見つけまして。」

「変なの?」

「地下室なのに風の動きがあったから調べていたらこの奥に何かありそうなんだ。家主に聞くのが早いかと思って呼んだんだが、知ってるか?」

「ここは物置にしていただけで特に何もなかったと思いますが・・・。」

「隠し通路か?」

「恐らく。そうか、知らないのか。」

ハーシェさんも知らない秘密の通路。

片づけをしているとこんなへんなものが見つかってしまった。

どうしよう。

ま、調べるけど。

「開けられるか?」

「いまそれをやって・・・っと。ここだな。」

壁をぺたぺたと触っていたフールがスイッチらしきものを見つける。

念のため離れた場所へ移動してから、それを押すと埃を舞い上げながら壁が横にスライドし始めた。

「ビンゴだな。」

「奥に別の部屋がありそうだ、トラップは・・・ないから来ていいぞ。」

こういうときフールがいると助かるなぁ。

普段は頼りないってアネットに馬鹿にされているけれど、冒険者になってからの実力はエリザも認めるものがある。

天職といってもいいかもしれない。

「かび臭いな。」

「ずっと閉めっぱなしだったんだろう。」

「みんな布を当てろよ、特にハーシェさん何があるかわからないんだから最後で頼む。」

「あの人はこんな部屋があるなんて一度も言ってなかったのに。」

「ってことは、本人も知らない部屋なのかそれともわざと隠したのか。」

「ここは新築したのか?」

「いえ、売りに出されていたのをあの人が買ったはずです。前は別の貴族の持ち物だったかと。」

ふむ・・・。

となるとなくなっただんなも知らなかった可能性が出てきたな。

さすがにコレだけの細工を作った後に施すのは難しいだろう。

どういうカラクリかは知らないが、普通は建築時に作るだろうし。

「中は・・・、なんだあまりものがないのか。」

「だな。金銀財宝って感じには見えない。」

木箱がいくつかあるだけで、宝箱とかそういった感じのものは置かれていなかった。

それにしても埃が凄い。

「単なる隠し部屋か。」

「おそらくそうだろうな。拷問器具なんかもないし。」

「お、この箱何か入ってるぞ。」

木箱を蹴ってみるとずっしりと重い奴が一つだけあった。

厳重に釘で封をされている。

コレは当たりかもしれないぞ。

「とりあえず外に持ち出すか。」

「うわ、結構重いぞコレ。」

フールと二人掛りで地下室の外へと運び出す。

動かしている最中も中からガチャガチャと音がしたので、複数何かが入っているようだ。

「ゆっくり降ろすぞっと、あー重かった!」

「ご苦労様でした。」

「随分古ぼけた木箱ねぇ。なんか厳重に蓋されてるし。」

「何やらまがまがしい雰囲気を感じます。」

「げ、呪いとかかけられてないよな。」

「前の家主が隠した代物だ、可能性はゼロじゃない。」

白日の下にさらされた不気味な木箱。

あのアニエスさんが警戒するんだ、可能性はあるだろう。

バールのようなものを使って一つずつ釘を外していく。

そのたびにおどろおどろしい何かが箱の中から出てくるような気配を感じるのは俺だけじゃないんだろう。

「エリザ。」

「わかってる、すぐ呼んでくるから。」

最悪の事態を考えたのは俺だけじゃないようだ。

とりあえずハーシェさんには離れてもらって、フールと俺で釘を外す。

アニエスさんには何かが出てくることを考えてミラとアネットを守ってもらうようお願いした。

「鬼が出るか蛇が出るか。」

「むしろそんなものの方が楽でよさそうだよな。」

「だな、殴れば終わる。」

軽口が叩けるぐらいにはビビっていない。

いや、ビビっているから軽口をたたくのか?

四方あるうちの向かって横二か所を外して援軍の到着を待つこと10分ほど。

「お待たせ、連れてきたわよ!」

「エリザ様降ろして、降ろしてくださいぃぃぃ。」

「確かに連れてきたな。」

「さすが姐さん、やることが豪快だ。」

急いでいるのはわかるが、まさかモニカを背負ってくるとは思わなかった。

なかなかの振動だったのか、軽く目を回したモニカの復活を待ってから俺達は最後の釘を外しにかかる。

「よし、行くぞ。」

「おそらくは開けてすぐどうにかなるような感じじゃありません、でもゆっくりお願いします。」

アニエスさんの勘は正しく、モニカも呪いのような何かを感じているようだ。

最後の釘を外してゆっくりとふたを開けた次の瞬間。

「うわ!」

僅かな隙間から黒い何かが飛び出し、俺にぶつかって霧散する。

あまりの速さに誰も反応することはできなかった。

「な、なんだったんだ?」

「さぁ。」

何かは霧のように消えてしまいひとまず俺の体に目に見える影響はない。

ならとりあえず目の前の物を確認するのが先だろう。

「とりあえず開けるか、油断するなよ。」

再度気を引き締めふたを開ける。

木箱の中に入っていたものを見て、全員がごくりと息をのんだ。
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