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442.転売屋は燃料を探す

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なんだかんだで23月になった。

ちなみに、先日の当番制はとりあえず新居に引っ越してからという事になっている。

さすがにこの狭い家でやるのはちょっときつい。

引越しはもう少し先になるだろうけど、それまでは今まで通り女達と楽しむだけだ。

「寒い!」

「寒いな。」

「なんでそんなに普通でいられるのよ。」

「だってほら、焔の石入れてるし。」

俺は首元から手を入れ、懐にしまっておいた焔の石を引っ張り出す。

23月ということは冬だ。

冬が来た。

今年の冬は寒くなると言われていたけれど、冬になった途端に寒波がやってきた。

何だこの切り替えの早さは。

昨日までまだ暖かいみたいな空気だしときながら、季節が巡ってきた瞬間にコレだよ。

念のためにこいつを用意しておいて本当によかった。

「あ、ずるい!」

「お前も持って来たら良かったじゃないか。」

「だってこんなに寒いとは思わなかったんだもん。」

「コレは俺のだ、お前にはやらん。」

「ケチ!」

「ケチで結構。風邪引くわけには行かないんでね。」

石を懐にしまいつつ吹き付ける北風に震えながら、エリザと共に畑へと急ぐ。

急な寒波の到来でルフたちは凍えていないだろうか。

「アグリどんな感じだ?」

「見ての通りです。用意はしていましたがまさか初日から降りだすとは思いませんでした。今総出で藁を敷いて回っています。」

「大雪になると思うか?」

「可能性は十分あるかと。一応燃料は多めに準備しているので埋もれることはないかと思いますが・・・。」

「焔の石を多めに準備したほうがよさそうだな。」

「可能であればお願いします。とはいえ、優先すべきは人間です。作物はそんなにやわじゃありませんよ。」

弱い奴は弱いが、今植えている奴らは寒くなることを見越してそういうのに強い品種を選んである。

一日や二日で枯れることはない。

「そうだ、シロウ様おめでとうございます。」

「なんだよ、ここにまで広がってるのか?」

「街で知らない人はいませんよ。あのシロウ様にお子さんが生まれるんですから。めでたいことです。」

別に言いふらしたりはしていないんだが、一体どこから漏れ出すんだろうか。

別に悪い噂じゃないからいいんだけど、どこに行ってもお祝いされるのは少々くすぐったい。

それに頑張っているのはハーシェさんだ、お祝いするなら本人にしてあげるべきだろう。

「まだ妊娠しただけだ、無事に産まれたら祝ってやってくれ。」

「そういたします。」

「それじゃあここは任せた、ちょっとギルド協会に行ってくる。」

「いってらっしゃいませ。」

「え、もう行くの?」

「このままここにいるか?」

「やだ。」

「じゃあついてこい。」

ルフとレイはこの寒さでむしろ元気になったように思える。

そりゃそうだ、分厚い毛皮を纏っているんだ寒いわけがないよな。

震えるエリザに巻いてきたマフラーをおすそ分けしながらギルド協会への道を急いだ。

「ちょっと、見せつけてくれるじゃないの。」

「ニア、どうしてここに!?」

「呼ばれたからに決まってるでしょ。」

「ねぇ、そもそもなんで呼ばれたの?」

「お前それも知らずについてきたのかよ。」

「だって・・・。」

出かけると言ったら急に付いてくると言い出したので、てっきり何をするのかわかっているものだと思っていた。

冒険者の意見も欲しいのでちょうどいいと言えばちょうどいいんだが。

「お待たせいたしました。」

「シープ遅いわよ、当てられちゃったじゃない。」

「それは不可抗力です。ですがエリザ様がいるのは好都合ですね、ささどうぞ奥へ。」

奥から羊男が書類を大量に持ってやってきた。

そのまま奥の会議室へと移動する。

「で、何かあったの?」

「何かあったという状況ではありません、非常事態です。」

「え?」

「これは街の存続にかかわる問題よ。エリザ、覚悟なさい。」

「え、あ、うん。」

おいおいあまりエリザをからかうんじゃないよ。

でも非常事態なのは間違いないな。

「今回お呼びいたしましたのは他でもない、燃料の在庫についてです。」

「冬が始まっていきなりこれだろ?みんなビビッて一気に燃料を買うもんだから在庫がつきそうなんだと。まったく、前々からわかっていたのになんで備蓄しておかないかね。」

「備蓄はしてましたよ?それに追加の発注も完了しています、寒くなるのが早すぎるんです。」

「それは単なる言い訳だ。」

「そうですけど・・・。」

羊男が何とも言えない顔をする。

そう、今日呼ばれたのは早速の燃料不足を解消するべく力を貸してほしいとの事だった。

俺もある程度の備蓄はしているが、流石に町中の在庫を賄える量は持っていない。

「俺が放出できるのは50甕分だ、それ以上は出せん。」

「そこを何とか。」

「なんとかっていうか、無いんだってマジで。俺だってここまで寒くなるとは予想してなかったんだよ。」

「本当に?」

「本当だ。」

なんでそこまで疑われなきゃならないんだ。

今まで何度も助けてきてやったっていうのに、それがギルド協会のやり方か?

と、昔の俺なら思うだろうが今の俺は違う。

大人だからな。

「目下の問題は在庫不足、一応追加は頼んでいるけど到着は一週間後か。それまで何とかして持たさないといけないわけだが・・・。」

「そこで私達の出番ってわけね。」

「え?」

「焔の石みたいな暖の取れる素材をみつけて、それで凌ごうってことよ。その為には冒険者の力が必要なの。エリザ、何か知らない?」

「いきなりそんなこと言われても。」

「なんだよ使えねぇなぁ。」

「失礼ね!思い出すからちょっと待って!」

俺の肩をバシッと叩きエリザがうんうんとうなり始める。

なんで俺は叩かれたんだろうか。

「そもそも代替品なんてあるのか?町中の燃料だぞ?」

「一番はダンジョンに流れてる燃える水だけど、あれって運搬が大変なのよ。すぐ燃えるし、引火したら手が付けれないし。」

「はいパス。」

「次は魔物の油ね、オイルスライムなんかは絞ればそれなりに使えるけど・・・。」

「けど?」

「数がいないのよ。」

「全然だめじゃねぇか。」

おい冒険者ギルド、お前らが頼りなんだぞ?

「そうだ!オイルスライム!」

「さっき言った。」

「じゃ、じゃあ燃える水!」

「それも言った。」

「えぇぇぇぇぇ・・・じゃあじゃあ・・・。」

「考えてから言えよ。」

無い頭で必死に考えたんだろうが、どちらも速攻で否定される哀れな駄犬。

それを見てニアも羊男も笑っている。

大変な事態のはずなのになんていうか暢気だなぁ。

「パームボール!」

「なんだそれ。」

「油っぽい実を投げてくる魔物よ。遠くからでもべとべとの実を投げてきてめんどくさいの!あいつら打ち止めって言葉を知らないのかしら。」

「あぁ、いたわねそんな面倒な魔物。」

「そいつの油は燃えるのか?」

「引火しやすいわけじゃないけど、油まみれになると火の魔法とか使えないのよね。」

「ふむ・・・。」

パームとえばアブラヤシの事だろうか。

恐らくは似たような奴だ。

確か実を絞って油を取り出した気がする。

それと引火性が低いのは嬉しいな。

体中べとべとになるぐらいの油量があるんだ、もしかするともしかするかもしれん。

「そいつはどこにいるんだ?」

「ダンジョンの中層ね。この前できた休憩所から少し行ったところよ。」

「え、もしかしてそれ使うの?」

「使えるかもしれないんならやるしかないだろう。このままだと全員凍死だぞ?それとも住民全員でダンジョンに引っ越すか?」

「う、それはそれでめんどくさい・・・。」

「なら決まりだ、エリザ仕事だぞ。」

「え、でもどうしたらいいの?」

「それを今から考えるんだよ。」

上手くいけば今後の燃料問題も解決するかもしれない。

燃料って結構高いんだよな。

灯油っぽいやつなんだけど、近くで取れないからどうしても輸入に頼ることになる。

それも需要の供給が絡んでくるから、今回みたいに寒くなると今後は一気に値上がりするだろう。

そうなれば街の財政は一気に悪くなる。

燃料が買えなくて住民から不満が出れば今後の運営にも支障が出るだろう。

これは大変なことなんだ。

随分と暢気なのは・・・何とかなるとか思ってるんだろうなぁ。

言っとくが俺は万能ロボットじゃないぞ?

「とりあえずそっちは任せた。俺は俺で燃料が手に入らないか探してみる。」

「お願いします。二割増しまででしたら何とかします。」

「といっても海まで取りに行くわけにもいかん、隣に聞く程度だが。」

「うぅ、ナミルに借りは作りたくないんですけど・・・。」

「悔やむなら備蓄を誤った自分を恨むんだな。」

もしもを考えて俺は俺で動かせてもらおう。

二割増しで買ってくれるって言質は取ったんだ。

コネを最大限利用して集めさせてもらおうじゃないか。

ハーシェさんにお願いするわけにもいかないので今回は俺の仕事だ。

久々の買い付け、腕が鳴るなぁ。
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