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436.転売屋は貴族から脅迫される

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レイブさんが店へと帰っていく。

その背中を見送っていると、後ろからエリザがやってきた。

「どうしたの?」

「なんでも面倒なことになりそうだ。」

「もう十分面倒じゃない。」

「ま、そうなんが・・・。そっちはどうだ?」

「随分とおびえていたけど何したの?」

「現実を教えてやったんだよ。」

逃げたらどうなるかを懇切丁寧に教えてやっただけだ。

それでビビってちゃ世話ないんだが、まぁ今後変な気を起こすことはないだろう。

「逃げ出したのは自分だし自業自得よね。いい気味だわ。」

「随分な言い方じゃないか。」

「せっかくシロウが助けてくれたのに恩を仇で返したのよ?当然じゃない。」

「お~こわ。」

「シロウは怒ってないの?」

「まだ現実を知らなかっただけだろ?それにウィフさんの手前、きつく出来ないってのもある。」

ウィフさんと全く関係なければ体に覚えさせてやろうか、なんてこともできるんだが。

でもまぁ、エリザ達がしっかりしているし歯向かうことはもうしないだろう。

問題があるとすればこの先の話だ。

「確かにそういう意味でも面倒よね。」

「それも含めての購入だからな、仕方ないだろう。当分は外出禁止で様子見だ。教育もここで行うことになるだろう。」

「教育って何するのよ。」

「いつまでも貴族気分でいてもらっても困るし、奴隷として最低限の生活が出来るようになってもらわないとな。おそらく身の回りの事もできないぞ、あいつ。」

「あ~・・・。」

「ウィフさんに引き取られればまたいい暮らしが出来るだろうが、それまでは自前で何とかしてもらうしかないからな。」

使用人もいるが、あくまでも屋敷を管理してもらう為だ。

イザベラの世話をする為じゃない。

っていうか、自分にも働いてもらうつもりだ。

働かざるもの食うべからずってね。

そうだ、それでいいじゃないか。

メルディがいるんだしわざわざ俺達の仕事を手伝わせる必要はない。

屋敷の事さえできるようになればそれで。

「まぁ、シロウの好きなようにするといいわ。とりあえず中に入りましょ。」

風が冷たくなってきた。

まだ昼間だというのに、今年の冬が寒くなるのは間違いなさそうだな。

ひとまず食堂へ移動して遅めの昼食にありついていると、ミラと着替えを済ませたアザベラが戻ってきた。

「お待たせいたしました。」

「こざっぱりしたじゃないか。」

「こざ・・・。」「イザベラさん。」

即座にミラの注意が入る。

この一時間の間にいったいどんなやり取りがあったんだろうか。

ミラを怒らせると怖いからなぁ。

「さ、先ほどは申し訳ありませんでした。もう二度と逃げ出すようなことは致しません。」

「わかればいい。今後はミラの言いつけを守って気持ちを入れ替えて働くように。二度目はない、あったとしてもそれはこの世にいない事だと思え。外よりも危険なダンジョンの中に置いて行ってやるからな。」

「に、逃げません!」

「そうは言うが前科があるからなぁ。当分は外出禁止だと思え。本来は隷属の首輪をつけさせるんだが・・・。」

「それだけはお断りします。」

「理由は?」

「身分上は奴隷でも心まで奴隷になるつもりはありません。私は誉れ高きファルト家の一人娘、そして太陽のティアラに選ばれた女です。家はなくとも心まで奴隷になるわけでは・・・。」

「イザベラさん。」

ミラが今の発言に注意をしても今度は屈することはなかった。

面白いじゃないか。

身分上は奴隷でもそれを認めているわけじゃない。

まったく何をばかなことを言うんだこの女は。

「貴女ねぇ、何をバカみたいなこと・・・。」

「いやいいさ、逃げないのなら別につける必要はない。無理やりつけさせて死なれたんじゃ商売あがったりだしな。逃げ出すことはしなくてもマジで死ぬぞ、こいつは。」

「イザベラさん、発言には気をつけなさい。シロウ様は寛大ですが私はそうではありません。奴隷としての基礎が貴女には足りなさすぎる。」

「ですから私は!」

「金貨1000枚で買われておいて何が奴隷じゃないですか。冗談も大概にしなさい。いくらあなたが否定をしても買われた事実は変わらないんです。あなたは奴隷です、もう貴族ではありません。これからはそうやって生きていくんです。シロウ様が許しても私は許しません。弁えなさい。」

「・・・くっ。」

ミラはかなりお怒りのようだ。

なんだっけ、激おこだったっけか?

表情は変わらなくとも、かなり怒っていることがビンビン伝わってくる。

エリザですら横でビビっているぐらいだ。

「ミラ、そのぐらいでいい。当面は外出禁止、隷属の首輪は不要だ。明日からはミラの指導の下で基礎から学べ、わかったな。」

「・・・わかりました。」

「よし、今日はこれで終わりだ。あ~疲れた、俺は先に戻ってるから。」

「夕方までには戻ります。」

「すまんが頼む、エリザ帰るぞ。」

「は~い。」

後の事はミラに任せよう。

一緒に連れて帰ることも考えたがそれではミラも納得しないはずだ。

かなり怒ってるからなぁ、ビシビシ指導するだろう。

ミラを怒らせると怖い。

それがよく分かった。

屋敷を離れてプラプラと店に向かって歩き出す。

朝から動き回っていたからそろそろ客がしびれを切らしていることだろう。

早く戻って店を開けてやらないと。

「ねぇ、さっきレイブさんなんて言ってたの?」

「よくわからんが、イザベラを買うつもりだった客が俺に売ったことに文句を言ってきたらしい。」

「え、何それ意味わかんない。」

「だろ?それも面倒そうな相手らしい。おそらくは貴族か何かだろうな、王都の貴族が狙ってるって前に話をしていたし。」

「貴族相手?最悪じゃない。」

「まぁ俺の後ろには王家がいるし、下手なことはしてこないと思うんだが・・・。」

そんな話をしながら大通りを曲がり商店街にはいると、店の前に大きな馬車が止まっていた。

それを見てエリザと共に顔を見合わせる。

まさか、いや、もしかして・・・。

「シロウ。」

「何も言うな。」

「でもあれって。」

二人で話していると、向こうもこっちに気づいたらしい。

従者らしき人がこちらを見た後、小さな窓を開けて中に声をかけていた。

その後馬車の戸が開き、中から初老の男性が出てきた。

どう考えてもそういう相手だよなぁ・・・。

「はぁ。」

「どうするの?」

「家の前なんだし逃げるわけにもいかないだろ。」

だって向こうはその気みたいだし。

仕方がないので覚悟を決めてその男性に向かっていく。

「失礼、貴方がここの主人ですか?」

「そうだが買取か?」

「いいえ、話があるのはあなたが買われた奴隷についてです。」

「奴隷ねぇ。」

「面倒なやり取りは好みません、貴方が買われた金額の倍出しましょう。それで奴隷を譲っていただきたい。」

「断る。」

「・・・即答ですか。」

「あぁ、譲る気はないんでな。」

やっぱりか。

予想通り相手は買うつもりだった噂の相手のようだ。

レイブさんに断られ直接うちに来たって感じだな。

「失礼ですがこちらが何者かわかっていますか?」

「知ってるわけないだろ、名乗られてもいないのに。客じゃないんだったらさっさとそのデカい馬車をどけてくれ、営業妨害だ。」

「今日は休みでは?」

「ここを読めよ、戻り次第営業しますって書いてあるだろ?今から仕事だ。」

「・・・そうですか。」

「わかって頂いて何よりだよ。」

思ったよりも簡単に身を引いたな。

てっきりあれやこれやといわれると思ったんだが・・・。

「では今日の所は引かせていただきます。ですが、譲っていただくまで私達は何度でも参りましょう。私達を敵に回したことを後悔させて差し上げます、お覚悟を。」

「客として来てくれるなら大歓迎だ、次は何か品を持ってくることだな。」

「では。」

その人は丁寧なお辞儀をして馬車へと引き上げていった。

土煙を上げながら馬車は街の中心部へと消えていく。

「何者かしら。」

「さぁなぁ、レイブさんは知ってるだろうけど教えてくれるかどうか。」

「あんな高そうな馬車どう考えても貴族でしょ。」

「見覚えのない紋章も書かれていたしな。」

「え、嘘。」

「ど真ん中に書いてあっただろうが。見たことないが紋章があるってことは貴族ってことだ。はぁ、厄介な相手に目をつけられたなぁ。」

最後のあの捨て台詞、まるで三流映画の悪党じゃないか。

何がお覚悟を、だ。

覚悟なんてしねぇよバーカ。

そんな俺の突っ込みもむなしく、それから毎日その男は店にやってきた。

もちろん客としてではない。

ただひたすら奴隷を譲れと言ってくる。

もちろん営業妨害なので丁重にお引き取り頂いているが、なんとなく嫌な予感がするんだよなぁ。

その予感が的中したのは男がやってきてからちょうど一週間が経った日だ。

「失礼します。」

「またアンタか、何度来ても無駄だぞ。俺は奴隷を手放すつもりはない、たとえ五倍積まれてもな。」

「もちろんわかっております、ですのでこちらをお持ちしました。」

「なんだこれは。」

「お読みいただければわかるかと。」

手渡されたのは、蝋封のされた上等な封筒だった。

ナイフを使って封をはがし中身を確認する。

「強制徴収命令・・・だと?」

「私共としましてもこのような方法をとるつもりはなかったのですが、当家の主人がしびれを切らしましてな。このような手段ととることとなってしまいました。つきましては23月までに徴収致しますのでご準備をお願い致します。では、失礼します。」

最初同様丁寧なお辞儀をしてその男は帰っていった。

残されたのは何やら大ごとになりそうな手紙が一通。

それを手にしたまま、働かない頭で呆然と外を見ることしかできなかった。
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