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430.転売屋は何気ない日々を満喫する

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子犬が旅立って三日。

ルフは気丈にふるまっているものの、もう一匹は落ち着かない様子だった。

だがまぁそれもすぐに収まるだろう。

時々遠くを見るルフの頭を撫でてやると、珍しく頭をゴンゴンとぶつけて甘えてくる。

辛いだろうがそれが親の宿命というやつらしい。

「そんじゃま店に戻るわ。」

ブンブン。

ひとしきり甘えた後は冷めたように、いつものルフに戻ってしまった。

もう一度強引に頭を撫でてから店に戻る。

「ただいま。」

「あ、おかえり。どうだった?」

「もうだいぶ落ち着いたみたいだな。」

「そっか、良かった。」

「母親ってのは強いもんだなぁ。」

俺には同じように振る舞える自信がない。

これが父親と母親の違いなんだろうか・・・。

「本当にそう思います。」

「私も同じようになるのかしら。」

「さぁな。そういえばアネットがいないな。」

「アネット様でしたらレイブ様の所に行かれました。」

「レイブさんの所?」

「なんでも至急お薬が欲しいとかで慌てて調合していかれました。」

「・・・安定剤か?」

「さぁ。ですが、使用されたのがスリープハーブでしたので近い物ではあるかと。」

つまりは例の女用の薬ってことだろう。

はぁ、めんどくさいめんどくさい。

出来るだけ考えないようにしてるんだけど、なかなかそういうわけにもいかないようだ。

「寒くなる前にそれ系の薬草を集めといた方が良さそうだな。」

「月末にはビアンカが来るし、頼んでおいたら?」

「それまで持てばいいがな。」

「でしたら冒険者に依頼を出しましょう、ダンジョン内に自生してるはずです。」

「なら一緒にエレキ茸も一緒に依頼したら?」

「なんだそれ。」

「スリープハーブのそばに生えてるキノコよ。ちょっとピリピリするけど食べると美味しいの。」

それは毒って言うんじゃないだろうか。

どう考えてもやばいだろ。

「美味しいですよね。」

「え、食えるの?」

「はい。毒もないですし刺激が癖になります。」

「本当に毒はないのか?」

「気になるなら食べてみたらいいじゃない。結構いけるんだから。」

「お、おぅ・・・。」

エリザはともかくミラがそう言うのなら大丈夫なんだろう。

モイラさんが毒のあるものを食わせるとは思えないし。

エリザはなぁ、多少毒でも美味しかったら食うタイプだ。

「シロウも戻ってきたし、私も行くね。」

「ん?ダンジョンか?」

「そそ、今日は巡回もないから久々にのんびり潜ってくるつもり。」

「ダンジョン内をのんびりってのは理解できないんだが。」

「そぉ?」

「エリザ様的には気晴らしになるんでしょう。どうぞお気を付けて。」

「は~い、行ってきます。」

いつもよりも軽装でエリザは出かけてしまった。

ダンジョンに行く装備とは思えない。

だって普通の長袖にちょっとした革の鎧をつけて、下はただのズボン。

一応靴はいつものやつだが、武器は手斧一本だけ。

ちょっと木を伐りに行ってきますって感じにも見える装備だ。

ダンジョンに行く感じじゃない。

もっとも、その手斧は買うと金貨20枚を超えるぶっ飛び性能を持ったやつだけどな。

「今日は久々にミラと二人か。」

「お出かけにならないんですか?」

「片付けはメルディがやってくれてるし、特に会う予定の人もいない。露店は・・・まぁ、明日でもいいだろう。」

「では二人っきりですね。」

「用事はないのか?」

「あっても明日にします、せっかくですので。」

「そうか。」

ミラが横に座り体を寄せてくる。

珍しく甘えたような感じだ。

まぁ、たまにはいいだろう。

良い感じの雰囲気になってきたが、もうすぐ仕事の時間。

流石にいたす時間はない。

仕方がないので尻の感触を楽しみつつ、開店作業を行った。

「いらっしゃいませ、どうぞこちらへ。」

「全部で銀貨11枚だ。よし、それならコレにサインをくれ、毎度あり。次の人。」

でな、せっかくの日なのにもかかわらずこの忙しさだよ。

開店と同時にひっきりなしに客が来る。

冒険者が多いのは当たり前だが、心なしか一般客も多い。

年の瀬ならまだしもまだ冬前だ。

特にコレといったイベントも無いはずなんだが・・・。

「すみません、コレをお願いします。」

次にやってきたのはまだ10にもなってなさそうな少年。

まぁ、子供も客だから俺は断らない。

「コレをどこで手に入れた?」

「・・・お外。」

「出て行くときは誰かと一緒に行け、わかったな。」

「はい!」

少年のポケットから出てきたのは小さな小石。

タダの小石と侮る無かれ、色を見た瞬間にそれだとわかった。

『隕鉄の欠片。空から飛来する鉱石は鋼よりも硬く丈夫である。最近の平均取引価格は銀貨1枚、最安値銅貨57枚、最高値銀貨1枚と20枚。最終取引日は31日前と記録されています。』

この前に空から降ってきた隕石。

それの破片を拾ってきたんだろう。

街からそう離れていないとはいえ、魔物も出るような場所だ。

ガキ共が時々クレーター付近で遊んでいるという話は聞いたことあるが、警備の連中に教えておいたほうがいいかもしれん。

「買取価格は銅貨70枚だ。」

「そんなに!?」

「ただしこの金額は今回だけな、次一人で持って来ても買い取ってやらん。」

「どうしても?」

「何か欲しいもんでもあるのか?」

「お母さんの誕生日にお花買いたいんだ。」

な、なんだって・・・。

なんて母親思いのいい子なんだ。

なんて俺が言うと思うのか?

「なら余計に外には行くな、悲しませたくないなら街の中で仕事を探せ。孤児院のガキ共なら何か仕事を知ってるだろう。わかったな?」

「わかった。」

「よし、コレ持ってさっさと帰れ。」

隕鉄の欠片を回収し、代わりに銀貨を1枚握らせてやる。

きょとんとした顔をする少年を、俺は唇に人差し指を当てて黙らせた。

「はい、次の人。」

まだまだ客はいるんだ、ガキに構っている時間はない。

結局昼過ぎまで客は途切れる事無くやってきた。

「お疲れ様でした。」

「ミラもな。何で今日はこんなに多いんだ?」

「さぁ・・・。」

「せっかくの二人きりだってのに悪いな。」

「いいえ、ご一緒にお仕事が出来ることが何よりの喜びです。」

「ワーカホリックはよくないぞ。」

「シロウ様に言われたくありません。」

まったく反論できない。

別に仕事が好きなわけじゃないんだが、ついそっちの事を考えてしまう。

違うな、俺は金が好きなのであって仕事が好きなんじゃない。

ついつい金儲けの事を考えてしまうだけだ。

「さて、この後はどうする?早めに閉めて露店でも行くか?」

「言ったじゃありませんか、ご一緒に仕事が出来れば十分です。」

「俺が休みたいんだよ。」

「嘘はダメですよ。」

「嘘じゃないって。」

俺はもう疲れたんだ。

今日はゆっくり休みたい。

いや、ミラと一緒にいれたらそれで・・・あれ?別に仕事でもいいか。

「ね?」

「その顔は反則じゃないか?」

「ふふ、そうですか?」

まるで子供をあやすような優しい笑顔だった。

この顔に落ちない男はいないだろう。

本当にいい女だよお前は。

恥ずかしそうはにかむミラのほほに手を当て、少し強引に唇を重ねる。

驚いた顔をしたがすぐに目を閉じ俺を受け入れた。

それどころか自分から舌を入れてきた。

こうなったらもう止まらない。

今すぐ裏に移動してお互いを貪りあ・・・。

『カランカラン』と音がして扉が開く。

「たっだいま~、見て見て、すっごいの見つけちゃった!ってあれ?」

元気な声と共にエリザがダンジョンから戻ってきた。

手には見たことのある魔物の首を持っている。

確かアレはアネットの薬に使う珍しい魔物だったはずだ。

血まみれの首を手に持ってるってのは中々にシュールな光景だな。

「お帰りなさいませエリザ様。」

「た、ただいま。ねぇ、もしかしてお邪魔だった?」

「そんなことありません。それはハーブホーンの首ですか?珍しい魔物に会いましたね。」

「そうなのよ。ばったり遭遇しちゃって、慌てて手を動かしたらこんなことに。」

「角さえ無事であれば問題ありません、アネットさんが喜びます。」

「とはいえ全身血だらけだぞ、さっさと風呂行ってこい。」

「う、うん・・・。」

ニコニコと笑うミラが血まみれの首を持っている。

あまりのギャップにエリザがかなり引いていた。

「ねぇシロウ。」

「なんだよ。」

「もしかして、ミラ怒ってる?」

「そんなこと無いと思うぞ。」

「そう・・・よね。」

怒ってないとは思う。

だがタイミングの悪さと滾ったままの性欲を必死に抑えているだけだ。

ちなみに俺も同じ状況ではある。

なんていうか、もっとゆっくり帰ってこいよな。

エリザが二階へと駆け上がる音を聞きながらミラのほうを振り返ると、頬を膨らませて拗ねるミラの姿があった。

「また夜にな。」

「我慢できそうにありません。」

「俺だって我慢できそうに無い、だが生首を持ったままってのは勘弁してくれ。」

「あ・・・。」

手に持ったものを見てミラが恥ずかしそうに笑う。

今日は随分と表情豊かだ。

たまにはそんな日があってもいいだろう。

『カランカラン』とと音を立てながらまた扉が開かれる。

「ただいまもどりました~って、ミラ様それハーブホーンじゃないですか!」

帰ってきて早々アネットが生首に食いついた。

はい、お預け確定。

「ご苦労さん、さっきエリザが取ってきた所だ。」

「ちょうど欲しかったんですよね!見せてください!」

「そんなに慌てなくても逃げませんよ。」

生首に群がる美人が二人。

たまにはこんな日があっても・・・いや、この光景はあまり見たくは無いな。

なんてどうでもいいことを思うのだった。
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