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414.転売屋は婦人会と手を組む

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それで、この前の店がどうなったかって?

大当たりだよ。

冒険者はそれはもう大喜びし、あっという間に用意した300食は完売した。

まさか足りなくなるとは思わなかったが、そこはミラが機転を聞かせて即座に追加を注文。

地上から炊いたコメを手配するという荒業で何とかその場を乗り切り、見事400食を売り切った。

え、唐揚げや容器はどうしたかって。

あそこはダンジョンだぞ?

現地調達に決まってるじゃないか。

幸いにもアングリーチキンの巣は近く、売る途中にトイボックスの生息地もあるのでそこで材料を調達することが出来た。

大変だったのは作り手のほうだ。

半日の約束のはずがほぼ一日料理し続ける羽目になったんだから。

流石に俺も買取だけしていればいいってわけにもいかないので、二人と交代しながら手伝ったさ。

エリザ?

巡回という名のサボりだよサボり。

まぁ、アングリーチキンの肉を抱えて戻ってきたから文句は言わなかったけどな。

「突然呼び出して悪かったわね。こちら、街の婦人会を取りまとめているヘレーネさんよ。」

「初めまして、直接お話しするのは初めてだけどお互いに色々とお世話になってるわね。」

「そういうことになるな。」

「この場を借りてお礼を言わせてもらうわ、いつもありがとう。」

「お礼を言うのはこっちの方だ、いつも急な要請になって申し訳ないとは思っている。」

「まぁまぁ、そういう話は終わってからでいいじゃないの。」

「あら、アナスタシアこれは大事な事よ?」

「だってヘレーネったら好みの人の前では話が長くなるんだもの。」

「当然じゃない。自分を知ってもらわずに気に入ってもらえるわけないでしょ?」

さて、店は成功した。

主に弁当の方がな。

買取の方はぶっちゃけ俺がいなくてもいいレベルで、結局はギルドに一任することになった。

買取金額の時と同じく冒険者が持ち込んだ装備をギルドが一時的に預かり、地上に戻ってきてから返してもらう。

それを自分で売るのかうちに持ち込むかは本人次第だが、重たい装備を持ち歩かなくて済むと冒険者には大変好評のようだ。

なので、買い取り屋としての出店は見送り。

店舗は弁当屋兼食事処として営業することにした。

それで、なんでこんなことになっているかって?

いきなりアナスタシア様に屋敷に来るように呼ばれたから来ただけだ。

まぁ、内容は色々と想像つくけどな。

「それで、ここに貴方を呼んだ訳はもう理解しているわよね?」

「弁当屋だろ?」

「えぇ、貴方のおかげでみんな喜んでいたわ。それで今までのお礼を兼ねてアナスタシアに呼んでもらったのよ。本当にありがとう。」

「別に礼を言われることじゃないさ。むしろ冒険者をがっかりさせなくて済んだと感謝している。」

店舗は残ることに決まったが、俺達は店があるので手伝うことは出来なくなった。

そこでいつものようにリンカを通じて街の奥様方に声をかけたというわけだ。

ダンジョンで弁当や食事を作りませんかってな。

日当銀貨2枚にダンジョン内の護衛付き。

出勤日は食材を当日の夕食として持ち帰ってもかまわないというオプション付きだ。

さすがに危険な場所なので人は集まらないだろうと思っていたのだが、予想以上の反響であっという間に枠が埋まってしまった。

その仲介をしたのが目の前にいる街の奥様を取り仕切る婦人会会長、イレーネさんというわけだな。

アナスタシア様は単なるつなぎ役。

聞けば街が出来てからの付き合いなんだとか。

類は友を呼ぶというかなんというか、どちらもなかなかのキャラしてるよなぁ。

「最初はダンジョン内の仕事って聞いて戸惑ったけど、街の女はそんなにやわじゃなかったわね。とはいえ、危険なことに変わりはないから今回は元冒険者の奥様に声をかけさせてもらったんだけど・・・。思ったよりも大丈夫そうね。」

「普段冒険者が良く通る道だけに魔物も近づかないそうだ。それに、もし出てきてもすぐに対処できる程度の魔物らしい。余程の事がなければ大丈夫だろう。」

「次回以降は別の人に任せたいんだけど・・・。」

「あぁ、それなんだがその辺は好きにしてくれ。」

「え?」

「店が回るのなら誰が働いたってかまわない。そっちの思うようにやってくれ。」

「でも、あなたのお店でしょ?」

「何を誤解しているかわからないが、俺は試験的に出店を依頼されただけだ。その流れで弁当屋兼食事処になったわけだが、従業員を頼んだのも冒険者をがっかりさせないためで、経営したいからじゃない。」

俺からしてみてば買取屋として利益が出ない以上さっさと手放してしまいたいのが本音だ。

だが冒険者ギルドは俺が企画したからという理由だけで、さっさと手を引いてしまった。

儲けが出る以上俺の好きにさせるべきとか何とか勝手に思ったのかもしれないが、依頼したのはそっちなんだから丸投げはやめてほしいよな、まったく。

「つまりあのお店を続ける気ははないってこと?」

「あれだろ、ここに俺を呼んだのも店を譲ってくれとかそんな大それた事をいうためだろ?そうじゃないとアナスタシア様を同席させる理由がないもんな。」

「アナスタシア。」

「何も言わないでヘレーネ。わかってはいたけど、想像以上だわ。」

「何の話だ?」

「貴方が普通じゃないってことよ。」

「それは褒められてるんだよな?」

「わかってると思うけどかなりの儲けが出る商売よ?それを一から考えて、準備をして、そしてちゃんと結果を残して見せた。それは簡単に手放せるようなものじゃないわ。でも、貴方はいとも簡単にそうしても良いと言っている。どう考えても普通じゃないわよ。」

普通じゃない。

確かに一般人からすればそういう考えになるんだろう。

この数日の利益から逆算して、一か月の想定収益は金貨6枚ほど。

内訳は、粗利銅貨7枚として400食で銀貨28枚。

四人で運営して人件費銀貨8枚とすると、残りが銀貨20枚。

これを30日で掛ければピッタリこの金額だ。

試験店舗なのでどうなるかはわからないが、業務委託という形でギルドから委託料を支払われるのか、それとも賃料を請求されるかで増減はするだろう。

それでも金貨4枚は固い。

俺はそう思っている。

年間で考えれば金貨96枚だ。

それを簡単に手放すんだから普通じゃないと言われても仕方ない。

「やっぱり褒められてないよな。」

「アナスタシアの口が悪いだけなの、悪気はないから許してあげて。」

「大丈夫だ、何とも思ってない。」

「私が言うのも変だけど本当にいいの?凄いお金が動いているのよ?」

「言い換えればそれだけの金が地元に落ちるだろ?いいじゃないか。」

「お金に厳しいって聞いていたんだけど、そうじゃなかったのね。」

「そういうわけじゃない。だが、この店は労力に見合うだけの収益を上げないんだよ。俺が求めているのは何もしなくても金を稼ぐ仕事、それに比べてこっちはやらなきゃならないことが多すぎる。仕入れに人の手配、その他管理業務まで全てだ。俺の本業は買取屋で飯屋じゃない。っていうか、そっちにまで手が回らないってのが本音だな。」

何もせずにお金が入ってくるのならば文句はない。

ハーシェさんもマリーさんもルティエもビアンカもみんな勝手に稼いで金を持ってきてくれる。

だがこいつは違う。

何かあるたびにアレやコレやとやることになるだろう。

そんなことならさっさと手放して自由になるほうが何倍も稼げるからなぁ。

「つまり手がかかるのがイヤなのね。」

「そういうことだ。だからそっちが好き勝手やってくれるなら喜んで店を手放そう。」

「わかったわ、じゃあこうしましょう。私達婦人会名義で貴方の店を買わせてもらうわ。その代わりに毎月金貨1枚納めさせてもらう、いかがかしら。」

「いや金は別に・・・。」

「こっちの都合で悪いんだけど、見返り無しで提供してもらうと世間体が悪いのよ。購入が悪いなら委託という形であなたの代わりに店を経営して、私達は売上の中から毎月決まった金額を支払う。こうすれば世間の目もごまかせるし貴方は何もせずにお金を得ることが出来る。悪い話じゃないと思うけど。」

まさかこんな展開になるとは思ってもみなかった。

確かにそのやり方なら俺は何もせずに金を得ることが出来る。

加えて向こうは世間の目を気にせず金儲けができるわけか。

両者win-winの関係。

流石婦人会代表、頭の切れ方がアナスタシア様並だな。

「いいのか?金貨1枚の利益を無駄にするんだぞ。」

「それで何人もの人が助かるんだもの、安い物よ。」

「人が助かる?」

「この街の特性上、旦那さんを亡くして女手一つで子供を育てている人は結構いるのよ。元々婦人会もそういう人を助ける名目で作られたんだけど、今回も働く人員を普通の奥様方から旦那さんを亡くした人に替えるつもりで相談に来たの。まさかこんなことになるとは思わなかったけど、おかげでたくさんの未亡人を救うことが出来るわ。」

「なるほどなぁ。確かにそういう人は他所より多いかもな。」

「毎月金貨5枚でも稼げたら殆どの会員に援助が出せるわ。皆、貴方に感謝するでしょうね。」

「お願いだから勘弁してくれ。これまで通り人手が欲しくなった時に手伝ってくれるだけで十分だ。」

そういう事なら喜んで手を放そう。

だが、感謝されたくて手放したんじゃない。

それはしっかりと言っておかないと。

ただでさえやることがいっぱいあるのに、それに加えて福祉事業に手を出すとか勘弁願いたい。

俺はただ金をもらうだけだ。

「相変わらず無欲な男よね、貴方って。」

「欲はあるさ。だが、さっきも言ったように今回の件に関しては労力に見合った収益が得られないそれだけの話だ。」

俺の答えを聞き、アナスタシア様とヘレーネさんがほぼ同時に微笑んだ。

どちらも年は40以上。

昔の俺ならそそられただろうが、どちらも既婚者だ。

生憎そういう相手に手を出すほど飢えちゃいない。

「ますますいい男に見えるわ。」

「都合のいい男じゃなくてか?」

「さっきの言い方が気に障ったのなら謝るわ。でも、私達からしたらこれだけの利益を見返りもなしにポンと手放す相手が信じられないの。女を金を稼ぐ道具としか見てない男ばかりのこの世の中で、いったい何人の女が助かるのかしら?」

「さぁ、興味ないね。」

くどいようだが金さえ入ってくるのなら後はどうでもいい。

後は煮るなり焼くなり好きにしてくれ。

「それじゃあ後日改めて契約書を持って伺わせてもらうわ。」

「悪いが店まで頼む、こう見ても忙しいんでね。」

「悪かったわよ、急に呼び出して。」

「ほんとにそう思ってるのか?」

「思ってるわよ?」

全然そんな顔してないけどなぁ。

ま、今に始まった話じゃないか。

にこやかに微笑みながら右手を差し出すイレーネさんの手を俺もしっかりと握り返す。

今後も仕込みの関係で急に人手が必要になることは十分にあり得る話だ。

その時の為にも婦人会とはいい関係を築いておきたい。

こうして婦人会との突然の会合は両者納得のいく形で終了するのだった。

まさか弁当屋がこんなことになるとは、さすがに思わなかったけどな。

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