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408.転売屋はキノコを探す
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キノコ!
キノコのシーズンが来た!
街は空前のキノコブーム。
いや、空前じゃないわ。
この前の秋も同じようなこと言ってたし。
ともかくキノコの美味しい季節がやってきた。
「準備できた~?」
「出来たぞ。」
「ビアンカへのお土産も大丈夫です。」
「火の元確認できました、後は出発するだけです。」
「あの、私も一緒に行っていいんですか?」
準備万端の俺達の横でメルディが不安そうな顔をしている。
「ビアンカへの紹介も兼ねてるしな。それに、人手は多い方がいい。キノコ、値上がりしてるんだろ?」
「ほとんどが値上がり中ですが、来週には逆に下がってしまいます。」
「つまり今が狙い目って事だ。」
「そう、なります。」
「なら稼がない手はないよな?行くぞ。」
「はい!」
どうやら納得してくれたようだ。
用意した馬車に飲み込み、いざビアンカのいる隣町へ。
もちろんいつものように売りに行く荷物も忘れていない。
アネットの薬を待っている人もいるわけだしな。
ゆっくりと馬車が動き出し、街の外へ。
街道に出ると一気に速度が上がり、心地よい風が通り抜けていく。
秋だなぁ。
「気持ちいいですね。」
「だな。」
「森の中はもっと気持ちが良いわよ。」
「たくさん採れるといいですね!」
「狙い目はロングマッシュルームとビッグアンブレラです。どちらも今が一番美味しいですよ。後高く売れます!」
「ぶれないな。」
「自分で採った分は売っていいって言ったじゃないですか!」
「あぁ、だからしっかり頑張れよ。」
俺達は自分達が食べる分を採るが、メルディはそうじゃない。
採れば採るだけ自分の懐が暖かくなるんだ、そりゃやる気も出るだろう。
もちろん俺達も沢山採れれば売るつもりだ。
高額でなくてもみすみす儲けを逃す手はないよな。
大きなトラブルもなく昼前には隣町へと到着した。
アイルさんに商材を引き渡し、その足でビアンカの所へと向かう。
トントンと扉をノックすると仕事の顔をしたビアンカが出て来た。
「ビアンカきたよ!」
「え、アネット!?それに主様!」
「こっちに用事があったんでついでにな。調子はどうだ?」
「おかげ様で順調にやっています。」
「それは何よりだ。で、今暇か?」
「一応作業はありますけど・・・なにをするんですか?」
「キノコ狩りだよ。」
ってな感じで街に着いて早々にビアンカをメンバーに加え裏の森へと分け入った。
最初は乗り気じゃなかったビアンカだが、久しぶりにアネットに会えたのが嬉しいのかいつの間にか笑顔に戻っている。
普段一人で仕事してるんだしたまには気晴らしも必要だろうという俺の気遣いであって、決して道案内させようとかそう言う理由で呼んだのではない。
「ここまで来ればそれなりの数が見つかると思います。」
「結構奥まで来たが大丈夫なのか?」
「この辺は魔物も少ないですし、人に慣れていないので向こうから近付いてくることは無いと思います。でも念のために魔よけの鈴は着けてくださいね。」
「言われずとも大丈夫だ。じゃあ始めるか!」
「ビアンカ行くよ!」
「ちょっと待ってよアネット。」
開始と同時にアネットビアンカペアは森の奥へと消えてしまった。
「じゃあ私は適当にウロウロしてるわ。」
「一応探せよ?」
「一応ね。」
「あ、私も一緒に行きます!」
「いいけど、手伝わないわよ。」
てっきりついてくると思ったがメルディはエリザと共に行くようだ。
いつの間にか仲良くなってるんだよなあの二人。
なんだかんだ言ってエリザも小動物が好きなんだろう。
「では私達も参りましょう。」
「とりあえず一本見つけてくれ、後はスキルで場所をみつける。」
「お任せを。」
相場スキルがあれば同種の素材がどこにあるかはすぐにわかる。
その為には何が何でも最初の一本を探し出さないといけないわけだが・・・。
「シロウ様ありました。」
「え、もう見つけたのか?」
「これはホワイトマッシュルームですね。」
「ダンジョンに生えているのとはちょっと違うな。」
「ブラウンマッシュルームよりも二回り程大きいのが特徴です。味は向こうの方がおいしいんですけど、こっちはコリコリとした食感が特徴です。」
『ホワイトマッシュルーム。同種のキノコの中では一番大きく食感が良い。最近の平均取引価格は銅貨13枚、最安値銅貨8枚、最高値銅貨18枚。最終取引日は二日前と記録されています。』
ミラからキノコを受け取りスキルを発動する。
すると、藪の向こうにたくさんの数字が浮かび上がった。
あるわあるわ。
こりゃ豊作だな。
「見つけたぞ。他にもあったら教えてくれ。それも探す。」
「まずはビッグアンブレラを探しますね。」
「了解した。」
回収は俺が、発見はミラが担当し、積み重なった葉っぱに足を取られながらも何とか奥へと進み、キノコを回収していく。
あっという間に持って来た籠は二つともいっぱいになり、収納袋もパンパンになってしまった。
「これ以上は無理だな。」
「一度置きに戻りましょうか。」
「そうしよう。えぇっと帰り道は・・・。」
「こちらです。」
夢中になって採取したもんだから一瞬来た道が分からなくなってしまった。
だがミラはそうじゃないらしい。
誘導されるがまま道を戻り、なんとか集合場所へと到着で来た。
「あ、もどってきた。」
「どうだった?」
「みてください!ロングマッシュルームがこんなにたくさん採れました!」
「まさか魔物の死骸を苗床にしているとは思わなかったわ。」
「げ、マジか。」
「でも美味しいですよ?」
「それは分かるが・・・。いや、気にしたら負けだな。」
「食欲には勝てません。」
「シロウ達もいっぱい採れたのね。」
「あぁ。だが肝心のビッグアンブレラが見つかってないんだよなぁ。」
白いのは山ほど採れたし他にも何種類か食用のやつを回収できた。
だが肝心のやつがまだ見つかっていない。
うーむ、残念だ。
「すみませんお待たせしました。」
「そっちも戻ったか。」
休憩がてらお茶を沸かして待っていると、奥からアネットとビアンカが戻って来た。
二人共籠から溢れるぐらいにキノコを見つけたようだ。
さすが地元民、森の生態を熟知している。
「色々探してみたんですけど、お目当ての品はほとんどありませんでした。ビッグアンブレラが一本だけです。」
「いや、一本でも見つけたら十分だろう。ご苦労だった。」
「もう一度行きますか?」
「そうしたいが、このキノコを何とかしないことには持って帰る物も持って帰れない。二手に分かれるか。」
「なら私が運ぶわ。見て回ったけどほとんど魔物がいないみたいだし。」
「それを聞いて安心した。」
「ではメルディ様一緒に参りましょう。」
「え、シロウ様は一緒じゃないんですか?」
「シロウ様は単独で探されるそうです、そうですよね?」
「あ、あぁ。」
さっきまで一緒に行動したのに何故かメルディと行動すると言い出すミラ。
一瞬何故かわからなかったが、視線の先にあるビッグアンブレラを見て理解した。
そうか、メルディはまだスキルの事を知らなかったな。
従業員とはいえまだ秘密にしておかなければならない内容だ、大人しくビッグアンブレラは諦めてもらおう。
各自休憩をした後、再び森へと分け入っていく。
俺はアネット達が見つけたビッグアンブレラをスキルを使って乱獲して回った。
あるのは巨大な木の根元とか、重なった落ち葉の下など普通は見つけられない場所に生えているようだ。
そりゃ見つけられないよな。
だが、俺にかかれば朝飯前だ。
『ビッグアンブレラ。肉厚な傘は小人の傘とも呼ばれ最大で20㎝を越える事もある。秋の初めにしか手に入らない。味が良いので季節の始まりに良く食べられている。最近の平均取引価格は銅貨25枚。最安値銅貨19枚、最高値銅貨30枚。最終取引日は昨日と記録されています。』
思ったよりも高値で売買されているらしい。
とはいえ目的は食べる方なので、メルディには我慢してもらうとしよう。
「ふぅ、こんなもんか。」
腰を伸ばし大きく深呼吸をする。
新鮮な森の空気を杯いっぱいに取り込むと疲れもどこかに吹っ飛んでしまうようだ。
「さぁ帰るか。」
籠を持ちなおしくるりと反転する。
が、来た道が分からない。
「あれ?」
首をかしげながら変な声が出てしまった。
なんとなく向こうだという事はわかるんだが、確信が無い。
街の中なんかは目印になるものが多いので初めての場所でも迷わないのだが、ここは森の中。
目印らしいものが無いためにここ!と決める事が出来ない。
とりあえずこっちだろうと思う方向に足を進めてみたが見た事のない場所に出てしまった。
こりゃまずいな、迷ったか?
キノコの入った籠を抱えどうしたもんかと知恵を巡らす。
迷子になった時は動かないのが鉄則だが、このままでは魔物に襲われかねない。
エリザは魔物はいないと言っていたが、ここは街の中じゃない。
魔物はいなくても獣はいる。
熊とかに襲われたら間違いなく死んでしまうだろう。
ぐぬぬ。
「お~い!」
とりあえず大きな声を出してみる。
人に慣れていない動物ならこれだけで近づいては来ないだろう。
だが、魔物は別だ。
気付いてもらえなければ魔物が寄ってくる可能性もある。
調子に乗って一人で動いたのが仇になったか・・・。
しばらく待つも誰も来る気配はなく、外はだんだんと暗くなっていく。
流石の俺もやばいと思ったその時だった。
ガサガサと少し離れた藪が音を立てる。
慌てて身を伏せ、腰に下げた短剣を手に取った。
何もせずに食われるなら抵抗ぐらいはしてやろう。
ごくりと息を飲みながら藪の方を睨みつけていると、ひときわ大きな音を立てて藪が動き何かが飛び出してきた。
「あ、いた!」
「シロウ様ご無事ですか!?」
飛び出してきたのはエリザとミラ。
俺を見るなりエリザは呆れたような顔をし、ミラは目にもとまらぬ速さで俺の横まで走って来た。
「とりあえず無事だ。」
「はぁ、いい年して迷子なんて勘弁してよね。」
「悪かったな、こいつを探して奥まで来過ぎたみたいだ。」
「何もなかったからいいものを、ミラにも謝りなさいよ。」
「すまん。」
「シロウ様がご無事ならば何も問題ありません。沢山採れましたか?」
「おかげさんで。」
「ミラ、もっと怒っていいのよ?」
「シロウ様が無事ならそれで十分です。さぁ帰りましょう。」
折角のキノコ狩りだったが、最後の最後でケチがついてしまった。
二人と共に集合場所へ戻り、心配した三人にも詫びを入れる。
「これからは単独行動禁止ね。」
「へいへい。」
「ぜったいだからね。」
「トイレもか?」
「当たり前じゃない。」
「いや、それは勘弁してくれ。」
流石にそれは嫌すぎる。
当たり前というエリザを見てさすがのメルディもドン引きしているようだ。
うん、普通はそう言う反応だよな。
俺もそうだよ。
「今日は遅いので泊まって帰ってください。と言っても何のお構いも出来ませんけど。」
「大丈夫だ、なんせこれだけキノコがあるんだからな。」
「今日はキノコパーティーですね!」
折角苦労して集めたんだ、新鮮なうちに楽しもうじゃないか。
って事で日帰りの予定が急遽一泊になってしまったが、終始ビアンカがニコニコしていたのでこれで良かったんだろう。
その証拠に夜遅くまでアネットと二人で話していたようだ。
奴隷の福利厚生を考えるのも主人の務め。
いい休暇になったという事にしておこう。
キノコのシーズンが来た!
街は空前のキノコブーム。
いや、空前じゃないわ。
この前の秋も同じようなこと言ってたし。
ともかくキノコの美味しい季節がやってきた。
「準備できた~?」
「出来たぞ。」
「ビアンカへのお土産も大丈夫です。」
「火の元確認できました、後は出発するだけです。」
「あの、私も一緒に行っていいんですか?」
準備万端の俺達の横でメルディが不安そうな顔をしている。
「ビアンカへの紹介も兼ねてるしな。それに、人手は多い方がいい。キノコ、値上がりしてるんだろ?」
「ほとんどが値上がり中ですが、来週には逆に下がってしまいます。」
「つまり今が狙い目って事だ。」
「そう、なります。」
「なら稼がない手はないよな?行くぞ。」
「はい!」
どうやら納得してくれたようだ。
用意した馬車に飲み込み、いざビアンカのいる隣町へ。
もちろんいつものように売りに行く荷物も忘れていない。
アネットの薬を待っている人もいるわけだしな。
ゆっくりと馬車が動き出し、街の外へ。
街道に出ると一気に速度が上がり、心地よい風が通り抜けていく。
秋だなぁ。
「気持ちいいですね。」
「だな。」
「森の中はもっと気持ちが良いわよ。」
「たくさん採れるといいですね!」
「狙い目はロングマッシュルームとビッグアンブレラです。どちらも今が一番美味しいですよ。後高く売れます!」
「ぶれないな。」
「自分で採った分は売っていいって言ったじゃないですか!」
「あぁ、だからしっかり頑張れよ。」
俺達は自分達が食べる分を採るが、メルディはそうじゃない。
採れば採るだけ自分の懐が暖かくなるんだ、そりゃやる気も出るだろう。
もちろん俺達も沢山採れれば売るつもりだ。
高額でなくてもみすみす儲けを逃す手はないよな。
大きなトラブルもなく昼前には隣町へと到着した。
アイルさんに商材を引き渡し、その足でビアンカの所へと向かう。
トントンと扉をノックすると仕事の顔をしたビアンカが出て来た。
「ビアンカきたよ!」
「え、アネット!?それに主様!」
「こっちに用事があったんでついでにな。調子はどうだ?」
「おかげ様で順調にやっています。」
「それは何よりだ。で、今暇か?」
「一応作業はありますけど・・・なにをするんですか?」
「キノコ狩りだよ。」
ってな感じで街に着いて早々にビアンカをメンバーに加え裏の森へと分け入った。
最初は乗り気じゃなかったビアンカだが、久しぶりにアネットに会えたのが嬉しいのかいつの間にか笑顔に戻っている。
普段一人で仕事してるんだしたまには気晴らしも必要だろうという俺の気遣いであって、決して道案内させようとかそう言う理由で呼んだのではない。
「ここまで来ればそれなりの数が見つかると思います。」
「結構奥まで来たが大丈夫なのか?」
「この辺は魔物も少ないですし、人に慣れていないので向こうから近付いてくることは無いと思います。でも念のために魔よけの鈴は着けてくださいね。」
「言われずとも大丈夫だ。じゃあ始めるか!」
「ビアンカ行くよ!」
「ちょっと待ってよアネット。」
開始と同時にアネットビアンカペアは森の奥へと消えてしまった。
「じゃあ私は適当にウロウロしてるわ。」
「一応探せよ?」
「一応ね。」
「あ、私も一緒に行きます!」
「いいけど、手伝わないわよ。」
てっきりついてくると思ったがメルディはエリザと共に行くようだ。
いつの間にか仲良くなってるんだよなあの二人。
なんだかんだ言ってエリザも小動物が好きなんだろう。
「では私達も参りましょう。」
「とりあえず一本見つけてくれ、後はスキルで場所をみつける。」
「お任せを。」
相場スキルがあれば同種の素材がどこにあるかはすぐにわかる。
その為には何が何でも最初の一本を探し出さないといけないわけだが・・・。
「シロウ様ありました。」
「え、もう見つけたのか?」
「これはホワイトマッシュルームですね。」
「ダンジョンに生えているのとはちょっと違うな。」
「ブラウンマッシュルームよりも二回り程大きいのが特徴です。味は向こうの方がおいしいんですけど、こっちはコリコリとした食感が特徴です。」
『ホワイトマッシュルーム。同種のキノコの中では一番大きく食感が良い。最近の平均取引価格は銅貨13枚、最安値銅貨8枚、最高値銅貨18枚。最終取引日は二日前と記録されています。』
ミラからキノコを受け取りスキルを発動する。
すると、藪の向こうにたくさんの数字が浮かび上がった。
あるわあるわ。
こりゃ豊作だな。
「見つけたぞ。他にもあったら教えてくれ。それも探す。」
「まずはビッグアンブレラを探しますね。」
「了解した。」
回収は俺が、発見はミラが担当し、積み重なった葉っぱに足を取られながらも何とか奥へと進み、キノコを回収していく。
あっという間に持って来た籠は二つともいっぱいになり、収納袋もパンパンになってしまった。
「これ以上は無理だな。」
「一度置きに戻りましょうか。」
「そうしよう。えぇっと帰り道は・・・。」
「こちらです。」
夢中になって採取したもんだから一瞬来た道が分からなくなってしまった。
だがミラはそうじゃないらしい。
誘導されるがまま道を戻り、なんとか集合場所へと到着で来た。
「あ、もどってきた。」
「どうだった?」
「みてください!ロングマッシュルームがこんなにたくさん採れました!」
「まさか魔物の死骸を苗床にしているとは思わなかったわ。」
「げ、マジか。」
「でも美味しいですよ?」
「それは分かるが・・・。いや、気にしたら負けだな。」
「食欲には勝てません。」
「シロウ達もいっぱい採れたのね。」
「あぁ。だが肝心のビッグアンブレラが見つかってないんだよなぁ。」
白いのは山ほど採れたし他にも何種類か食用のやつを回収できた。
だが肝心のやつがまだ見つかっていない。
うーむ、残念だ。
「すみませんお待たせしました。」
「そっちも戻ったか。」
休憩がてらお茶を沸かして待っていると、奥からアネットとビアンカが戻って来た。
二人共籠から溢れるぐらいにキノコを見つけたようだ。
さすが地元民、森の生態を熟知している。
「色々探してみたんですけど、お目当ての品はほとんどありませんでした。ビッグアンブレラが一本だけです。」
「いや、一本でも見つけたら十分だろう。ご苦労だった。」
「もう一度行きますか?」
「そうしたいが、このキノコを何とかしないことには持って帰る物も持って帰れない。二手に分かれるか。」
「なら私が運ぶわ。見て回ったけどほとんど魔物がいないみたいだし。」
「それを聞いて安心した。」
「ではメルディ様一緒に参りましょう。」
「え、シロウ様は一緒じゃないんですか?」
「シロウ様は単独で探されるそうです、そうですよね?」
「あ、あぁ。」
さっきまで一緒に行動したのに何故かメルディと行動すると言い出すミラ。
一瞬何故かわからなかったが、視線の先にあるビッグアンブレラを見て理解した。
そうか、メルディはまだスキルの事を知らなかったな。
従業員とはいえまだ秘密にしておかなければならない内容だ、大人しくビッグアンブレラは諦めてもらおう。
各自休憩をした後、再び森へと分け入っていく。
俺はアネット達が見つけたビッグアンブレラをスキルを使って乱獲して回った。
あるのは巨大な木の根元とか、重なった落ち葉の下など普通は見つけられない場所に生えているようだ。
そりゃ見つけられないよな。
だが、俺にかかれば朝飯前だ。
『ビッグアンブレラ。肉厚な傘は小人の傘とも呼ばれ最大で20㎝を越える事もある。秋の初めにしか手に入らない。味が良いので季節の始まりに良く食べられている。最近の平均取引価格は銅貨25枚。最安値銅貨19枚、最高値銅貨30枚。最終取引日は昨日と記録されています。』
思ったよりも高値で売買されているらしい。
とはいえ目的は食べる方なので、メルディには我慢してもらうとしよう。
「ふぅ、こんなもんか。」
腰を伸ばし大きく深呼吸をする。
新鮮な森の空気を杯いっぱいに取り込むと疲れもどこかに吹っ飛んでしまうようだ。
「さぁ帰るか。」
籠を持ちなおしくるりと反転する。
が、来た道が分からない。
「あれ?」
首をかしげながら変な声が出てしまった。
なんとなく向こうだという事はわかるんだが、確信が無い。
街の中なんかは目印になるものが多いので初めての場所でも迷わないのだが、ここは森の中。
目印らしいものが無いためにここ!と決める事が出来ない。
とりあえずこっちだろうと思う方向に足を進めてみたが見た事のない場所に出てしまった。
こりゃまずいな、迷ったか?
キノコの入った籠を抱えどうしたもんかと知恵を巡らす。
迷子になった時は動かないのが鉄則だが、このままでは魔物に襲われかねない。
エリザは魔物はいないと言っていたが、ここは街の中じゃない。
魔物はいなくても獣はいる。
熊とかに襲われたら間違いなく死んでしまうだろう。
ぐぬぬ。
「お~い!」
とりあえず大きな声を出してみる。
人に慣れていない動物ならこれだけで近づいては来ないだろう。
だが、魔物は別だ。
気付いてもらえなければ魔物が寄ってくる可能性もある。
調子に乗って一人で動いたのが仇になったか・・・。
しばらく待つも誰も来る気配はなく、外はだんだんと暗くなっていく。
流石の俺もやばいと思ったその時だった。
ガサガサと少し離れた藪が音を立てる。
慌てて身を伏せ、腰に下げた短剣を手に取った。
何もせずに食われるなら抵抗ぐらいはしてやろう。
ごくりと息を飲みながら藪の方を睨みつけていると、ひときわ大きな音を立てて藪が動き何かが飛び出してきた。
「あ、いた!」
「シロウ様ご無事ですか!?」
飛び出してきたのはエリザとミラ。
俺を見るなりエリザは呆れたような顔をし、ミラは目にもとまらぬ速さで俺の横まで走って来た。
「とりあえず無事だ。」
「はぁ、いい年して迷子なんて勘弁してよね。」
「悪かったな、こいつを探して奥まで来過ぎたみたいだ。」
「何もなかったからいいものを、ミラにも謝りなさいよ。」
「すまん。」
「シロウ様がご無事ならば何も問題ありません。沢山採れましたか?」
「おかげさんで。」
「ミラ、もっと怒っていいのよ?」
「シロウ様が無事ならそれで十分です。さぁ帰りましょう。」
折角のキノコ狩りだったが、最後の最後でケチがついてしまった。
二人と共に集合場所へ戻り、心配した三人にも詫びを入れる。
「これからは単独行動禁止ね。」
「へいへい。」
「ぜったいだからね。」
「トイレもか?」
「当たり前じゃない。」
「いや、それは勘弁してくれ。」
流石にそれは嫌すぎる。
当たり前というエリザを見てさすがのメルディもドン引きしているようだ。
うん、普通はそう言う反応だよな。
俺もそうだよ。
「今日は遅いので泊まって帰ってください。と言っても何のお構いも出来ませんけど。」
「大丈夫だ、なんせこれだけキノコがあるんだからな。」
「今日はキノコパーティーですね!」
折角苦労して集めたんだ、新鮮なうちに楽しもうじゃないか。
って事で日帰りの予定が急遽一泊になってしまったが、終始ビアンカがニコニコしていたのでこれで良かったんだろう。
その証拠に夜遅くまでアネットと二人で話していたようだ。
奴隷の福利厚生を考えるのも主人の務め。
いい休暇になったという事にしておこう。
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