転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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399.転売屋は新鮮な魚を買い付ける

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買い取り祭りも落ち着き、感謝祭の準備も終わりが見えてきた頃。

ふと、頭に浮かぶのはあいつの事だ。

一度手を出したらやめられない。

そう、魚だよ。

「魚くいてぇなぁ。」

「昨日食べたじゃない。」

「干物じゃねぇ、新鮮な刺身が食べたいんだ。」

「お刺身って・・・生のやつでしょ?」

「美味かっただろ?」

「最初は生ものを食べることに抵抗もありましたが、醤油との相性はばっちりでした。」

「プリプリでしたよね!」

「でも片道三日、どう考えても鮮度は落ちるわ。」

そうなんだよなぁ。

目下の問題はそこだ。

買い付けるのは簡単だが、この世界には冷凍輸送という概念が無い。

一応冷蔵はあるぞ?

大量の氷をぶち込んだ馬車を使うんだけどな。

それでも片道一時間が限界だ。

氷生成用の魔道具なんて高くて手に入らないし、量も作れない。

大型も魔導冷蔵庫という手もあるが、それを馬車に積み込むのも難しい。

小型なら何とかなるかもしれないが、やはり仕入れに見合わないので積み込んでいる馬車は皆無だろう。

いっそのこと自分で改造するか?

でもなぁ、そこまでして欲しいのが魚ってのはなぁ。

金はある。

だから出来る。

でも作るからには他の事にも流用したいじゃないか。

趣味で作るにはあまりにも高額すぎるだろう。

「やっぱり現地に行くしかないか。」

「行くのは良いけど、前回の二の舞になるわよ?ギルドだってまだ準備が出来てないんだし。」

「知ってる。」

「つまりまだ我慢が必要という事ですね、残念ですが。」

ミラが冷静に現実を突きつけて来る。

うぅ、刺身が食べたい。

「ほら、そんな顔してないで今日はハーシェさんとの打ち合わせでしょ?」

「っと、そうだった。ミラ後頼むな。」

「いってらっしゃいませ。」

ちゃちゃっと昼食を済ませてハーシェさんの屋敷へと向かう。

違うわ、今日は奥の倉庫に集合だった。

危ない危ない。

大通りを抜けて倉庫に向かうと、はやくも馬車が横付けされていた。

そうか確認してそのまま積み込めば効率良いもんな。

「こんにちはハーシェさん、仕事が早いな。」

「シロウ様、御足労頂いて申し訳ありません。」

「いいって、自分の倉庫なんだし。」

そんなにかしこまられても困る。

今回売りに行ってもらう品もほとんどが今回の騒動で買い取ったものだしなぁ。

「事前にお話のありました素材に関しては積み込みの準備が完了しています。今回の売却予想は金貨5枚ほど、買い付けに関してはいかがしましょうか。」

「海まで行くんだっけか。」

「はい、お話のありました魔糸を買い付けするつもりです。売却金に加えてお預かりした金貨5枚が今回の予算となりますが・・・。結構余りますよ?」

「そんなに安いのか?」

「この辺りでは確かに貴重ですが、生産国ではごくありふれたものですから。ものすごく安価というわけでもありませんが十分予算内に収まります。」

「塩の分割納品もあるし、あまり積み込めないよなぁ。それにしても海かぁ・・・。」

いいなぁ、海。

ハーシェさんの事だから豪遊はしないだろうけど、行った先で魚は食べるだろう。

My醤油を持っていることを俺は知っている。

いいなぁ、魚。

刺身食いたいなぁ。

食うからにはわさびも見つけたいよなぁ。

あるのかなぁ。

「どうされました?」

「いや、刺身が食いたくてな。」

「なるほどそれでですか。」

「持って帰ってもらうにも、三日じゃ絶対に痛むしなぁ。」

「この時期ですから。」

「やっぱり冬まで待つしかないか。はぁ、刺身が食いたい。」

「ご一緒できれば私もうれしいのですが・・・。」

「行きたいのはやまやまだが、また前みたいになるのはごめんだ。ミラに全部丸投げってわけにもいかない。」

無理をさせて前みたいに体調を崩されても困る。

その原因が俺のわがままとか精神衛生上非常によろしくないよな。

奴隷なんだからとミラは言うだろうが、働かせたまま自分はのうのうと刺身を食えるほど神経図太くないんでね。

「でしたら、前に雪の精霊に頂いたアレを使われてはどうでしょうか。」

「お?」

「大きなものは運べませんが、魚ぐらいでしたら鮮度を維持したまま運べるかと。」

「おぉ!」

そういえばそんなのあったな!

すっかり忘れてたよ。

「切り身にしてもらえば数も運べるな。」

「そうですね、内臓があるよりかは鮮度は維持できると思います。念のために向こうで氷も入れてもらえば大丈夫かと。」

「よし、決まりだ!」

「お刺身を追加ですね。」

「あぁ、ゾイルに言えばいいのを見繕ってくれるだろう。先にゴードンさんの店に行くのを忘れないようにな。」

「わかりました。」

「刺身が食べられるかもしれないのか、一週間。あと一週間の辛抱だ。」

「感謝祭までには戻れると思います。出来るだけ急ぎますね。」

「いや、帰りこそ気を付けてくれ。ハーシェさんに何かあったら困る。」

そういうと嬉しそうに微笑み、周りを見渡したのち抱き着いてきた。

相変わらず良い香りがする。

うーむ、ただの香水のはずなんだが・・・。

これが色気というやつか。

色々と致したくなるのはこの体が若いせいだろう。

いや、関係ないか。

この状況でそそられない男はいない。

我慢する代わりに、尻の感触をしっかりと堪能させてもらい最後に唇を重ねてからどちらからといわず体を離した。

「お魚、期待していてください。」

「よろしく頼む。」

「そうだ、お酒はどうしましょう。シロウ様のワインがありますから追加しない方がいいですか?」

「いや、安く手に入るなら買い付けてくれ。ここの酒飲みたちがいる以上無駄になることはない。」

「ふふ、そうですね。」

積み込みは終わっているし、買い付けについても確認が出来た。

刺身、あと一週間で刺身が手に入る。

いかんこの一週間ソワソワしてしまいそうだ。

最後にもう一度口づけをしてから店に戻ると、珍しくモーリスさんが来ていた。

「あれ、モーリスさんどうしたんだ?」

「シロウさん、ちょうどいいところに。」

「ん?」

「醤油を仕入れている業者から面白い物を仕入れましてね、シロウさんなら絶対に気にいると思い持ってきたんです。」

「面白い物ねぇ。」

「なんでも魚を食べるときに付けるんだとか。」

「っ!見せてくれ!」

魚を食う時に使う?

そんなの一つしかないじゃないか!

カウンターに駆け寄り、かばんから出てくるそれを凝視する。

緑色の根っこ。

間違いない、わさびだ。

まじか!

このタイミングでこれが手に入るのか!

神様ありがとう!

どの神様にお礼を言えばいいかわからないがともかくありがとう!

『ワッサビー。きれいな水の流れる場所でのみ自生する珍しい植物。頭に抜ける刺激が特徴で、主に薬味として利用されている。また、殺菌作用もあるので発酵食品にも用いられることがある。最近の平均取引価格は銀貨5枚、最安値銀貨1枚、最高値銀貨11枚。最終取引日は29日前と記録されています。』

「ワッサビーという西方でしか取れない珍しい野菜で、かなり刺激があるそうですがペペローンの実とはまた違う刺激だそうです。私もまだ食べたことないのですが、その様子だとご存じのようですね。」

「いくつある?」

「今回たまたま所持していただけですので、三つしか・・・。」

「全部くれ。」

「ちょっと高いですよ?」

「いくらでもいい、金ならある。」

「商売人が一番聞きたいセリフをシロウさんはさらっと言いますよね。」

「そのために金を稼いでいるからな。」

金があれば何でも買える、なんでも食える、欲しい物を欲しい時に手に入れることが出来る。

そのために毎日頑張ってるんだ。

刺身、そしてわさび。

この二つが手に入るなんて・・・。

もう一度言う、神様ありがとう!

「シロウ様がそんなに喜ぶとは、とてもすごい物なんですね。」

「すごいぞ。これがあれば刺身が何倍にも美味くなる。」

「そんなにですか?」

「刺身も手に入るし・・・。この一週間我慢できるだろうか。」

「え、お刺身が?」

「ハーシェさんに頼んだんだ。例の精霊の贈り物を使ってな。」

「そういえばそんなものもありましたね。」

「シロウさんよかったら私も・・・。」

「もちろんだ、アンナさんと一緒に食いに来てくれ。」

素敵なものを持ち込んでくれたんだ本人を呼ばないわけにはいかないだろう。

ふるまう代わりに日本酒もどきを持ってきてもらえばいい。

やっぱり刺身には日本酒だよな。

「さぁ、収穫祭もあるしもうひと頑張りだ。」

「頑張りましょう。」

そして一週間後。

ハーシェさんの乗った馬車を待って一日中門の前をうろつく俺が目撃されたとか。

仕方ないだろ、待ちきれなかったんだから。
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