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397.転売屋はワインを買う

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いつものように露店で買い取り品を捌いていた時だった。

この前買い付けた大量の品々も値引きという名の燃料を投下して無事に消化済み。

残るは売れにくそうなものばかりと来た。

まぁ、そういった奴は買い取り価格も安いので最悪ベルナの店に押し込めば・・・。

「なぁ兄ちゃん。」

「どうした?」

「あいつまだ居るぞ。」

「あ~・・・。」

おっちゃんがあごをクイクイと動かして視線を誘導した先には、大量の木箱に囲まれた露店があった。

なんでもワインを売りに来たんだとか。

だが冒険者好みの味ではないようで中々に在庫の山は捌けていない様だ。

味については俺が確認したわけじゃないのだが、エリザ曰く薄いらしい。

おそらくは軽いということなんだろう。

この街の連中は強い酒に慣れているから度数が薄いとお気に召さないんだよなぁ。

「どうするよ。」

「いや、どうするって言われてもしらねぇよ。」

「かなり安売りしてるぞ、利益出るんじゃないか?」

「安売りしても売れないんじゃ誰が売っても一緒だろ。それならおっちゃんが買ってみたらどうだ?」

「その金がねぇんだよ。」

「貸そうか?」

「いや、結構だ。」

賢明な判断だと思うね。

さっきも言ったように安売りしても売れないのには理由がある。

いくら金があるからってそんな危険な商材を買うほど金持ちではない。

「売り物はワインだろ?寝かせたら美味くなるんじゃないかい?」

「温度管理を徹底してまで飲むべき酒なのかによるよな。」

「なるほどねぇ。」

「おばちゃんも気になるのか?」

「あの落ち込んだ顔を見るとちょっとねぇ。」

「今にも死にそうだよな。」

「いや、そんなこと言われても俺には関係ないんだが?」

「薄情なやつだねぇ。」

「じゃあ助ければいいのか?」

「別にそうは言ってないさ。」

どっちなんだよと思いながら、仕方なくそのワイン売りのほうに視線を向ける。

大量の在庫に囲まれながら下を向き、背中には見えないはずの暗雲が見えそうな感じだ。

その雰囲気を感じてか余計に客が遠ざかってしまっている。

自業自得というかなんと言うか・・・。

「ともかく金にならないんなら興味はねぇよ。ちょっとギルド協会に呼ばれてるから行ってくる。客が来たら店に誘導してくれ。」

「お叱りか?」

「収穫祭が近いからその相談だろう。今の所関係は良好だよ。」

「そりゃなによりだ。」

もちろん冒険者ギルドとの関係も良好だ。

前回の返事はまだ貰えていないが、少しずつ改善の兆しがあるとエリザが言っていた。

変化があるだけでも俺としては十分だよ。

そんな事を考えながらギルド協会へと向かうと、外で羊男が俺の事を待っていた。

「わざわざ出迎えご苦労なこった。」

「いえいえ、ご足労いただいていますから当然の事ですよ。」

「そんなことを言うって事はまた面倒ごとがあるんだろ?帰っていいか?」

「まぁまぁそんな事言わないで話ぐらい聞いてください。」

「俺は買取屋であって便利屋じゃねぇ、もちろんそれはわかってるよな?」

「わかってますよ?」

これ以上は何も言うまい。

羊男に案内されていつもの応接室へ。

席に着くやいなや、すぐに冷たい飲み物が用意された。

なんだこの歓迎っぷりは。

絶対何かあるだろ。

「では早速はじめましょうか。」

「収穫祭についてだが、うちからは畑の野菜を提供する用意がある。それとアネットが二日酔いの薬を提供するそうだ。」

「アネットさんの薬はよく効きますからね、助かります。」

「本来は金を取るべきなんだろうが、材料費だけでいいそうだ。よかったな安くついて。」

「材料費といわず材料丸まるでもかまいませんが?」

「それはアネットに聞いてくれ。話はそれだけじゃないんだろ?」

「あはは、わかります?」

「この歓迎を受けてわからないわけが無いだろうが。」

気付けば飲み物の横に茶菓子まで置いてある。

一体俺に何をさせるつもりなんだろうか。

さっきも言ったように俺は買取屋、便利屋をやらせる気ならこっちとの関係も・・・。

「実はですね、お酒が無いんです。」

「は?」

「ですから、お酒がですね、ないんですよ。」

「すまん何を言っているか理解できない。酒が無い?そんなことありえるのか?」

「ありえるからこうやって相談してるんじゃないですか。このままじゃ収穫祭の開催すら危ぶまれる状態なんです。お願いします、助けてください!」

「いや、助けてくださいって・・・。」

おかしいな。

俺の前にいる男はギルド協会でもかなりの権力があり、かつそれなりに仕事のできる男のはずなんだが。

最近ずいぶんとポンコツになってきた気がする。

俺の気のせいではないはずだ。

収穫祭を目前して必要不可欠の酒がないだと?

普通に考えればそんなこと起こらないはずなんだが?

「どういう経緯なんだ?」

「実はですね・・・。」

羊男の話を聞く限り、酒はちゃんと用意してあったようだ。

だがここ数日の残暑もあって街中の飲食店から注文が殺到、何のミスが起きたのかはわからないが収穫祭用の酒に手を付けてしまったのだとか。

急ぎで注文するも少量ずつしか用意できず、そのほとんどが店からの注文で消えてしまうのだとか。

街の貴重な収入源だけに売るなとも言えず、ジリ貧になってしまったのだとか。

なんでもっと早く声を掛けないのか、とも思うのだが後の祭りだ。

そもそも俺ならなんとかできると思っている時点でどうかとおもうけどな。

「話は分かった。」

「本当ですか!?」

「いや、分かっただけで用意しているとは言ってない。っていうか買取屋が酒なんて持ってるわけないだろ。」

「ハーシェ様経由で手に入れるとか・・・。」

「この時期はどこも収穫祭だ、どこを探しても酒は出てこないだろう。」

「なんでもいいんです!お酒のない収穫祭なんて、収穫祭じゃありません。費用はいくらかかっても・・・いえ、それはさすがに言いすぎました。」

「なんだよ面白くないな。」

「ともかくそれなりの金額は用意させて頂きます、何とかしてもらえませんか?」

「酒なら何でもいいんだな?」

「出来れば美味しいものを・・・。」

「贅沢言うな。」

ともかく酒であればいいらしい。

それなら俺に心当たりがないわけじゃない。

もしかしたらなくなっているかもしれないが、手にはいればそれなりの金額で売れるだろう。

向こうも酒が売れ、俺には金が入り、街には酒が戻る。

三者win-win-winってわけだ。

ひと先ずその場を納め、俺は急ぎ露店に戻った。

えぇっとさっきの店は・・・あった!

大量の木箱に埋もれ、店主がさっき以上にうなだれている。

雰囲気は最悪、こんな人から誰が買い物をするっていうんだ?

あ、ここにいたわ。

「よぉ、まだやってるか?」

「え、あ、はい。」

「聞いた話じゃワインを売ってるそうじゃないか、試飲できるか?」

「も、もちろんです!」

店主の顔が急に明るくなり、慌てて後ろの木箱を開ける。

慌てていたもんだから取り出したばかりのワインボトルが手元から滑り落ちてしまった。

それをすかさず受けてお互いに大きく息を吐く。

「そんなに慌てるなって。まぁ、これだけ売れなきゃ落ち込むのも無理ないか。」

「あぁ、ご存じでしたか。」

「そりゃな。」

「味は悪くないはずなんですけど、どうもこの街の方には受け入れられなくて・・・。」

ボトルを開け、小さなコップに紫色の液体が注がれていく。

思ったよりも明るいな。

薄いわけじゃないが深い色合いではない。

この街でよく飲まれているのはかなり濃いボルドー色なので、見た目で嫌われたのかもしれない。

太陽にグラスをすかすと、向こうが程よく染まるぐらいの色。

ロゼまではいかないが、近いものはある。

ワイン通ってわけじゃないので感覚だけどな。

プロみたいにグラスを回しまずは香りから。

うん、ブドウの爽やかな感じだ。

味は・・・確かに少し薄いか。

ジュースまではいかないけど酸味よりも甘味が強いかもしれない。

アルコールもそんなに強くない。

酒飲みからしたら水と言われてもおかしくないな。

「美味いが、少し薄いな。だから売れないんだろう。」

「今年の新酒でして、街に戻ればもっと濃い物もご準備できるんですが。」

「戻るための金がないわけだな。」

「これが売れないことには戻るにも戻れません。あぁ、せめて半分でも売れれば・・・。」

そういってまたうなだれてしまった。

ふむ、味は悪くない。

むしろ俺は好きなぐらいだ。

甘味があるのも嫌われる要因だろうが、アルコール度数はそれなりにあるだろう。

エールよりかは濃いはずだ。

じゃあどうするか。

いっそ、水として飲めば女性も楽しめるかもしれない。

なにも冒険者向けに売る必要はないんだ。

客はほかにもたくさんいる。

サングリアのように発泡水やジュースで割ったり果実を入れると面白いかもしれないな。

よし、決まりだ。

「いくらだ?」

「え?」

「一本いくらで売ってる?」

「買ってくださるんですか!?」

「値段次第だな。」

「一本銅貨80枚と言いたいですが買ってくださるのなら60枚でも結構です!」

思ったよりも安いな。

いいものを安く買い高く売る。

商売の鉄則だ。

さらにこのまま売らず割って飲むことを考えればさらに量は増える。

問題はどうやって提供するかだが・・・。

ま、それはあとで考えるか。

「全部くれ。」

「え?」

「何度も言わせるなよ、ここにある在庫全部だ。商店街で買取屋をやってるからそこに全部持ってきてくれ。代金はそこで払う。買うんだからそれぐらいしてくれるだろ?」

「は、はい!」

膝に頭がつくんじゃないかって位に頭を下げるその人から目線を反らし、ふと横を見ると奥でおっちゃんとおばちゃんが笑っているのが見えた。

そういや店番頼んでたっけか。

やっぱり買った、そんな風に言われるんだろうなぁ。

まぁ買ったけどさ。

金になるなら何でも買う、それが俺のモットーだ。

さぁ収穫祭まであと少し。

色々と準備しましょうかね。
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