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392.転売屋は仕事をに追われる

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予定通りというか予想通りというか、一週間経ってやっと冒険者の流れが落ち着いた。

これでいつもの生活に戻れる・・・わけがないんだよなぁ。

買い取った品は山のよう。

それを自分で販売する分と出荷する分に仕分けして、さらに呪われている品は解呪しておかなければならない。

他にも素材の検品と仕分け、さらには化粧品や行商の手続きと報告。

もちろん客は冒険者だけでなく一般にもいる。

最近は貴族との関係も良好で、店に来ることのない貴族のために出張での訪問も行っている。

収穫祭もあるし、何より秋には例の祭りもある。

そう、俺が優勝した贈り物の日がやってくるんだ。

前回負けたこともあり、今回は俄然やる気と見える。

おそらく、というか間違いなくアナスタシア様が暗躍しているだろう。

そのための資金集めかどうかはわからないが、出張買取が多く来るようになった。

あくまでも冒険者向けの店なので待って貰っていたのだが、手が空きだしたのでそろそろ相手をしなければならない。

はぁ、貴族相手はあまり好きじゃないんだけど・・・。

でもまぁ仕事なのでそうはいえないよなぁ。

「じゃあ行ってくる。」

「行ってらっしゃいませ。」

「二件回ったらギルドに顔を出して、その後露店を見て夕方までには戻るつもりだ。何かあったら・・・いや、任せた。」

「任されました。」

子供じゃないんだから全部任せて問題ない。

ミラならうまくやってくれるだろう。

「今日はシロウのお守りなのね。」

「別に来なくてもいいんだぞ?」

「そういうわけにはいかないわよ。大金持って行くんだから護衛は必要でしょ。」

「それと荷物持ちな。」

「何も無いとは思いますが念のためです、よろしくお願いします。」

ミラに深々と頭を下げられ、ばつの悪い顔をするエリザ。

冗談のつもりだったんだが、って感じだな。

そんなエリザの尻を揉むと凄い目でにらまれてしまった。

冗談だったのに。

そんなエリザの背中を押して二人で店を出る。

「本当に悪かったな。」

「別に、冗談言っただけだし。」

「本当か?」

「もちろんよ。それに、一緒に居る間はシロウを独占できるでしょ?」

「確かにそうだが・・・。屋敷についたら手を放せよ。」

「ふふ、わかってるわ。」

うれしそうに俺の腕に自分の腕を絡めてくる。

さすがに取引先でベタベタされると困るが、道中は好きにしてくれ。

お守りなのは事実だし、本人からすればダンジョンで暴れたかっただろう。

自主的にとはいえ新人冒険者相手の仕事を増やしているので、どうしても前のような自由な時間が少なくなっている。

熟練冒険者も中々に大変だな。

右腕に感じる柔らかな感触を堪能した後はまじめなお仕事だ。

一件目は前にも買取をした貴族で、今回は結婚する娘の支度金を準備するための買取だった。

貴族の中ではあまり裕福な方ではないようで、現金の持ち合わせは少ないそうだ。

その割には骨董品が多かったんだが、原因はコレじゃないのか?

「じゃあまた何かあったら知らせてくれ。」

「今回は有難うございました。」

貴族にしては珍しく横暴な態度をとるわけでもない。

加えて買取理由が支度金ということもあり少し高めに買取してしまった。

行商も楽しいがやはりこうやって直接買い取りをするのも捨てがたいな。

「楽しそうだったわね。」

「そうか?」

「楽しくなかったの?」

「楽しかったかと聞かれればそうだな、楽しかったんだろう。」

「シロウはやっぱり買取屋が向いてるわ。海に行ってるときは商人みたいだったもの。」

「一応商人なんだが?」

「こっちの方が向いてるって事、分かりなさいよ。」

いや、それは理不尽じゃないだろうか。

それならそうといえばいいのに。

そんな事を思いながら二件目の貴族の屋敷へと到着した。

「次はここか。」

「え、ここ?」

「何かあるのか?」

「え~、あ~、うん。THE貴族って人だから頑張って。」

「なんとなくわかった。」

つまりは面倒な相手ということだ。

とはいえ呼ばれた以上行かなければならない。

致し方なくドアをノックして本人と面会したわけだが・・・。

うん、これ以上は何も言いたくない。

あえて一言いうのならば面倒だった。

「お疲れ様。」

「おぅ。」

「なんだかんだ言われてもちゃんと買い取るのね。」

「それが仕事だからな、物は悪くないし実際高く売れる。」

「確かに高く売れるけど・・・。」

「それ以上は言うな。さて、やることやったし後は露店に行くだけだな、エリザ商品を持って店に戻ってくれ。」

「え、一緒に行かないの?」

「こんな高価なもの持ったまま露店をうろうろするのはアレだろ、ミラに渡したら戻ってきてくれ。」

「つまり戻るのもめんどくさいのね。」

「色々疲れたんだよ。」

さっきの取引で体力をほとんど使ってしまった。

この後ギルドに寄る予定だったがもう明日でいいだろう。

別に急ぎの内容でもないし。

はぁ、まじで疲れた。

全員が全員同じじゃ面白くないが、さすがにあれは・・・。

「あ、シロウ様。お疲れのようですがどうされたんですか?」

「マリーさんか。ここで会うってことは貴族のところに?」

「はい。年末に向けての注文を受けてきました。」

「早いな。」

「年末のお祭りと、新年に合わせた特別性ですので今から仕込まないとだめなんです。」

「そりゃご苦労なことだ。」

「またカーラから素材の注文が来ると思いますので、手配のほどよろしくお願いします。」

まぁ、そうなるよな。

特別製という事は、素材にこだわるという事だ。

専用の素材を集めて、それを特別な入れ物に入れる。

期間限定。

こういう単語に弱いのはどこも同じだからな。

「わかった、注文が来たらすぐ手配する。」

「お忙しいのに申し訳ありません。」

「これも仕事だからな。」

「今日はもう終わりですか?」

「あとは露店を見て帰るつもりだ。今はエリザが商品を置きに店に戻ってる。ギルドにも行くつもりだったんだが・・・。まぁ、明日でいいだろう。」

「あまり無理をなさらないでくださいね。」

そうしたいのは山々だが、仕事は待ってくれないんだよなぁ。

いい加減どうにかしないと。

マジでどうにかしないと。

とはいえ、いい案はなにも思いつかない。

マリーさんと別れ、フラフラと露店を徘徊する。

別にすぐ店に戻ってもいいんだが、たまには何も気にせずブラブラしたいじゃないか。

「ちょいと、なんて顔してんだい。しゃきっとしなしゃきっと。」

「おばちゃんかぁ。」

「腑抜けた顔してんじゃないよまったく。」

「随分とお疲れだな、聞けば海まで行ったそうじゃないか。どうだった?」

「デカかった。」

「子供かよ。」

「綺麗だったし買い付けもうまくいった、また行きたいと思うが・・・やはり一週間ここを空けるのがなぁ。」

「店を再開してくれたおかげでこっちも売り上げが戻った、ありがとよ。」

ほらな、こんなことになってるんだよ。

俺が店を開けないと冒険者に金が落ちない。

冒険者に金が落ちないと、買い物が捗らない。

結果、売り上げが落ちる。

俺がいない時はどうなってたんだって気もするが、それとこれとは話が別だ。

喜んでくれるのは嬉しいが複雑な気分になるなぁ。

「いい加減新しい人を雇うなりなんなりしたらどうだい?ミラがまた倒れちまうよ。」

「わかってるんだが、誰を?」

「大金を扱っているだけによほど信頼できる人間じゃないとなぁ。それと鑑定スキルがあって客商売が出来るような奴、いるか?」

「いないなら買えばいい、奴隷ならいるだろうさ。悪さも出来ないしね。」

「奴隷しかないよなぁ。」

「金はあるんだろ?じゃあ時間を金で買えばいいのさ。」

「そういうのは簡単だが、実際に手配するとなると住む所やなんやらといるんだよ。はぁ、めんどくさい。」

「金持ちのくせに自分で何でもしすぎなのさ。働きすぎは体に毒だよ。」

おばちゃんにまで言われてしまった。

確かに働きすぎだ。

金があるんだからもっとゆっくりすればいいのに、周りがそれを許さない。

いや、許さないなんてことはないか。

それは俺が決めつけているだけで、さぼろうと思えばいくらでもさぼれる。

でもそうならないのは、仕事が向こうからやってくるからだ。

せめてそれが半分に減れば楽になるんだが。

「よし、決めた。」

「お、良い顔になったね。」

「なんだなんだ、何するんだ?」

「ちょっとギルドとケンカしてくる。」

「喧嘩ぁ!?おいおい悪いこと言わないから目を付けられない程度にしろよ。」

「それで話がまとまるならな。」

「モイラさんも何とか言ってやれよ。」

「私は別に構わないよ。ミラが元気でいられるなら文句はないさ。でもそうさね、町を出ていくのは勘弁願いたいね。会いに行くのが面倒だよ。」

「そうならないように頑張るさ。」

俺だってこの街が好きだ。

だから出来るだけここで商売するつもりではいる。

だが、もしそれを許してくれないのであれば。

出ていくことも考えよう。

金さえあればどこでも商売は出来る。

よし、決めた。

明日ギルドに喧嘩を売ろう。

そう思うとさっきまでのしんどさはどこへやら、とても気持ちが良くなった。

人間思いつめるのは良くないな。

気分が明るくなったのを良い事に、いつものようにおっちゃんおばちゃんから色々と買い付けて、店から戻ってきたエリザに商品を押し付ける。

久々の買い物だ。

さぁ、買うぞ!
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