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391.転売屋は自分の店に戻る

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色々あったが無事に店に戻ってきた。

本来であれば馬車の荷台いっぱいに荷物を積んで戻ってくるはずだったのだが、思いのほか干物系が良い値段で売れたために途中で捌いてしまった。

もちろん自分達の分は確保してある。

また、モーリスさんに頼まれていた分の塩も帰ってきて早々に納品済みだ。

分割納品の件も了承してくれたので、ひとまずはコレで終わり。

後はゆっくり片づけをして明日から営業、そのはずだったんだけども・・・

「シロウさん!待ってましたよ!」

「買取、買取お願いします!支払いが明日までなんです!」

「こっちが先だ!」

「いいや俺だ!」

ってな感じで俺達が戻ってきたことを知った冒険者が雪崩のように店に押しかけてきている。

なんていうかお祭り騒ぎだ。

「わかった、わかったから静かにしろ。こっちは疲れてるんだ。ってか素材の買取ならギルドに持っていけよ。」

「だってシロウさんの方が高く買ってくれるだろ。」

「同じものもあるって。」

「売ったついでにクーポンくれるだろ?」

「今はやってねぇよ。」

「久々にシロウさんの顔が見たいんですって。」

「恋人かてめぇは。」

何だよ最後の奴は。

俺の顔見て何の得があるんだよ。

こっちは長旅で疲れてるってのに、どうするかなこいつら。

「とりあえず急ぎのやつとそうじゃないやつで分けるからな、こっちで分けるから文句言うなよ。今日買い取れなかった奴には整理券を渡すからそれ持って明日以降に売りに来い。さっきも言ったがギルドと同じ買取金額のやつは向こうに持っていけ、わかったな!」

「「「ういっす!」」」

「ってことでミラ、アネット、緊急性があるかは二人の判断に任せる。エリザ、悪いが馬車の荷物は任せた。」

「仕方ないわね。」

「それと、帰りに冒険者ギルドに行って今後について話し合いがしたいとニアに伝えといてくれ。この状況を考えると一度しっかりと話し合うべきだ。」

「シープさんには言わなくていいの?」

「嫁経由で話が行くだろう。」

「りょ~かい。じゃ、頑張ってね。」

「どう考えても飯は無理だ、イライザさんの店で何か買ってきてくれ。」

「はいはいっと。」

荷物はこれで良しと。

まったく、こっちは疲れてるってのに困った連中だよ。

ひとまずトリアージ宜しく緊急性の高い買取だけを優先して対応して、他のやつらは明日以降に丸投げだ。

それでもかなりの人数が緊急性有りになってるのはどういう事だろうか。

普段は一人ずつしか買い取らないが今日はそうも言ってられない。

カウンターを半分に仕切って、俺とミラで同時に買取を行う。

匿名性とかそういうのは無視だ無視。

買い取った品はアネットが順次裏庭に積み上げてくれるので、俺とミラはただひたすら買取を行うマシーンになる。

「明日までに金払わないと宿を追い出されるんすよ。」

「そんなの知るか、さっさと出せ馬鹿野郎。」

「お願いしやす!」

カウンターの上にのせられたのは大きな牛の頭。

血抜きはしてあるようだが、しょっぱなから面倒だなおい。

『ミノタウロスの頭部。魔獣ミノタウロスの頭は調度品として飾られることもあり、特に三本角の亜種は人気が高い。最近の平均取引価格は銀貨20、最安値銀貨12枚、最高値銀貨40枚。最終取引日は83日前と記録されています。』

「銀貨15枚な。」

「え、安!」

「角が三本なら25枚だが、残念だったな。」

「そこを何とか!」

「ダメだ、それ以上は出せねぇ。無理ならベルナの店に行け。」

「うぅ・・・それでいいっす。」

「肉と皮も剥いだんだろ?」

「剥いだんすけど全部飯代に消えちゃって。」

「自業自得だ。ほら、次に替われ。」

銀貨15枚を握らせてシッシッと手で払い次の客を呼ぶ。

「シロウ様、これなんですけど。」

と、その前にミラが値段の相談をしてきた。

『ハーピィのマント。ハーピィの羽を縫いつけることで消音性を高めたマント。風の加護が付与されている。少し破れている。最近の平均取引価格は銀貨39枚、最安値銀貨27枚。最高値銀貨71枚。最終取引日は53日前と記録されています。』

なかなかの品だが修繕が必要だな。

「修繕費を考えて銀貨29枚。考えないなら33枚だ。」

「ありがとうございます。お待たせしました、当初の通り銀貨30枚になります。」

「それでお願いします!」

お、良い感じの値段をつけていたようだ。

ほつれ具合にもよるがその辺はミラがしっかりと確認しているだろう。

「おまたせ、何持ってきたんだ?」

「これだ。今日帰ってこなかったらカミさんに頭搗ち割られるところだったぜ。」

「そんな状況になるまでなんで待つんだよ。」

「俺はアンタに買ってほしいからだよ。」

そう言ってくれるのはありがたいが、それが買い取り値段に上乗せされるとは思うなよ。

馴染みの大柄な冒険者がカウンターに乗せたのは、小さなコインだった。

金色に輝くそれは全部で5枚。

表裏に不思議な文様が描かれている。

『運命のコイン。24枚あるといわれるそれをすべて集めると、新たな運命を切り開くことが出来ると言われている。ただし、新たな運命に抗えるかは本人次第である。最近の平均取引価格は銀貨50枚。最安値銀貨1枚、最高値銀貨90枚。最終取引日は218日前と記録されています。』

「ほぉ、面白いな。」

「だろ!?下層の宝箱から出てきたんだ、これは値打ちもんだぜ。」

「全部で金貨2枚だな。」

「そんなにするのか!これでカミさんに殺されずに済むってもんだ。」

「いったい何やったんだよ。」

「ちょいと竜宮館にな・・・。」

「そんなことするからだ。渡した金でルティエの所に行ってネックレスでも買って帰ってやれよ。俺の名前を出せば少しは値引きしてくれるだろ。」

「へへへ、恩に着る。」

それにしても運命のコインか。

願いの小石同様に集めたら集めたで大変なことになるんだろうなぁ。

今度調べておくか。

「よし、次!」

「次の方どうぞ。」

そんな感じで買取を続け、最後の客を返した頃には外は真っ暗になっていた。

流石にこの人数はきつい。

ミラも同じようで、魔力の使い過ぎだろう顔色があまりよくない。

「ミラ、後は俺がやっておくから先に休んどけ。」

「ですが・・・。」

「帳簿付けぐらいすぐに終わる。アネットから魔力ポーション貰っとけよ。」

「では、宜しくお願いします。」

前回の一件もあるので無茶をしてはいけないことはわかっているようだ。

疲れた時は休む。

それが一番だ。

「ただいま、こっちは終わったわよ。」

「こっちも終わったところだ。大変だっただろう。」

「ハーシェさんの指示で倉庫に運んだだけだから。とりあえず日持ちしそうにないやつだけ冷蔵庫に入れてあるから。後はハーシェさんがやってくれるって。」

「そりゃ助かる。とはいえ、塩がなぁ。」

「結構な量あるわよね。」

「マートンさんのところに半分持って行ってもまだ半分ある。街の消費が増えたとはいえ、それは全部向こうが売るだろうから、俺達は俺達で販路を考えなきゃな。」

「目星はついてるの?」

「そりゃ考えてあるさ。秋といえば収穫祭、それに合わせて色々とな。」

「そういえばそんな時期ね。」

「他にも冬に向けての仕込みを始めたいんだが・・・、この調子じゃ当分は買取に追われるだろう。はぁ、マジでどうするかな。」

色々とやりたいことはある。

だがそれをする為には街を離れていた分の買取をこなさなければならない。

そもそも俺がいなければ、ベルナの店に行くなりギルドに売りに行くなりすればいいだけなんだがなぁ。

困ったものだ。

「明日も一日かかりそうね。」

「明日で終わればな。今日来た奴は待てなかった連中だ。ってことは、行儀良く待っていた連中もいるってことだろ?むしろそっちの方が多いんじゃないか。」

「そんなに行儀良かったかしら。」

「金になるなら喜んで待つさ、冒険者ってのはそういうものだろ?」

「そうね、待ってお金が増えるなら別の事をして時間を潰すわ。」

「で、その別の事で手に入れた品も売ると。」

「三日で終わればいいわね。」

「一週間だろうなぁ。はぁ、気が重い。」

これから一週間、ひたすら買取し続けなければならない。

もちろんそれよりも早く終わる可能性もあるだろうけど、あまり自由は効かないだろう。

ルフにだって会いたいし、日課もこなしたい。

なにより疲れ果てたら女達と楽しくヤレないじゃないか。

薬を飲む手もあるが、あれは体力の前借りだ。

飲めば飲むほど反動がきつくなる。

救いは依存性がない事だけだな。

「今回の件はギルドも重く見ているみたいよ。」

「だといいけどな。」

「どうするつもり?」

「色々と考えちゃぁいるが・・・。根本的な解決にはならないだろうなぁ。」

「大変ね。」

「他人事だと思って気楽じゃないか。」

「だってそうだもん。あ、私明日からダンジョンに戻るから。」

「明日からか?」

「実戦の勘を取り戻さなきゃならないし、新人たちのお守りもあるしね。」

一週間も実戦から離れたんだ、すぐにでも勘を取り戻したいんだろう。

冒険者とはそういう生き物だ。

これは脳筋とかそういうのじゃ・・・、いや脳筋だわ。

エリザがダンジョンに戻るという事はその分の買取もする必要があるという事。

さらに、アネットも製薬の仕事が溜まっているだろうから今日のように手伝いをしてくれるとは限らない。

つまりは俺とミラだけで何とかしなければならないわけだ。

せめてあと一人自由に動ける奴がいれば色々と楽なんだが、ハーシェさんは忙しいしなぁ。

それに、増やすって言っても誰を増やすのかって話になる。

奴隷を増やすにしても住む場所はない。

高額な商品も扱っているだけに、誰彼構わず雇うわけにもいかない。

安心が出来てかつ仕事を任せられるような人なんてなかなかいるはずもなく。

あぁ、またこの問題が出てくるのか。

忙しくなる度に出てくる人手と住居の問題。

住居はぶっちゃけ用意できてしまう。

でも人は違う。

雇うとあればかなり厳選しなければならない。

レイブさんに言わせれば奴隷にしない理由はない!って事なんだけども。

奴隷、奴隷なぁ。

それしか選択肢はないんだろうなぁ。

「まぁ、無茶はするなよ。」

「それはシロウもでしょ。」

「無茶しなきゃ終わんねぇんだよなぁ。」

「せっかくの休暇だったのに、こんなことになるなんてね。」

「まぁこうなるだろうなって予想はしてたさ。」

でもここまでとは思っていなかった。

はぁ、とりあえずやることやって休むとしよう。

「飯は?」

「後で持ってきてくれるって。」

「そりゃ助かる。」

「じゃあ先に着替えて来るわね、食事の準備はしとくから頑張りなさい。」

「はいはい、頑張らせていただきます。」

とりあえずは目の前の帳簿を片づけなければ。

俺は両肩を回し気合を入れなおすと、数字の羅列が踊る帳簿とにらめっこするのだった。
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