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385.転売屋は塩を仕入れる

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「やっぱり塩だよなぁ。」

「何が?」

「味付けだよ。」

「それはこの前のフライドトポテでしょうか。」

「岩塩ももちろん美味い。美味いが、俺の求めている味とは少し違うんだよな。」

「真っ白いんだっけ?」

「確か海に行くと手に入るんですよね?海水を煮詰めて塩を作るとか。」

そう、俺が欲しいのは陸の塩ではなく海の塩。

どちらも塩だがやはり風味が違う。

岩塩は野趣あふれる感じだが海塩は上品な感じ。

俺の中ではそう言う認識だ。

もっとも、俺が知らないだけで実際はどちらも似ているのかもしれないが。

「モーリス様に聞いてみるのはいかがでしょうか。あそこでしたら扱っているのでは?」

「ん~、そうだなぁ。」

確かに昆布やら鰹節もどきやら海関係の素材をよく見かける。

その割に塩を見ないのは何故だろうか。

食事や保存食等日々の生活で塩は必要不可欠だ。

岩塩があるから仕入れないというのはちょっと不思議だなぁ。

「とりあえず行ってみるか。」

「あ、ついでにピクルスも!」

「お醤油が切れかけています、お願いできますか?」

「一緒に海苔もお願いします!あのパリパリのやつでご飯が食べたいです!」

まったく、うちの女達は。

立ってる者は親でも使えと言うが、主人をお使いに行かせるか?

行かせるなぁ。

だってついでだし。

財布を持ってモーリスさんの店へと向かう。

その道中食べ歩きをする女性冒険者二人組とすれ違った。

片方の手には大学芋、もう片方にはフライドポテト・・・もどき。

今この街で大流行している食べ合わせだ。

甘い物を食べるとしょっぱい物を食べたくなるらしく、この前代用品という感覚で作ったフライドポテトも無事に大当たりした。

おかげで初心者向けの依頼が増えたとニアは喜び、新人のおもりが増えたとエリザは嘆いた。

流石に深く潜らないと勘が鈍るらしく、最近は巡回と称して奥まで行っているようだ。

俺としてはその分良い素材が手に入るので文句はない。

生きて戻ればそれでいい。

っと、そうじゃない。

モーリスさんの店に行かないとな。

商店街を抜け大通りへ、しばらくすると目的の場所が見えて来た。

保存食と輸入?食品を扱うのがモーリスさんの店だ。

繁盛はしているものの、横の化粧品屋に比べれば随分と少ない。

それでも化粧品を買った客が興味本位で入るらしく前よりも客が増えたんだとか。

俺が醤油を広めたのも原因の一つかもしれないけど。

「いらっしゃいませ、あ!シロウさん!」

「アンナさん、モーリスさんはいるか?」

「今は裏の倉庫に、お買い物ですか?」

「あぁ塩が欲しかったんだが・・・。」

「岩塩でしたら右の棚ですよ。」

「それしかないか?」

「それしか?」

「あ~、うん。後で聞く。とりあえずピクルスと醤油、海苔を頼むよ。」

「はい!毎度ありがとうございます!」

アンナさんの担当は保存食、一応店内の商品は把握しているものの詳しく理解しているわけではない。

それにしても今日も元気だなぁ。

しばらく店内を物色していると裏からモーリスさんが戻ってきた。

「おや、シロウさんじゃないか。」

「ちょっと聞きたいことがあるんだが、かまわないか?」

「作業しながらでいいなら喜んで。」

手には一抱えもあるような木箱を片手で持っている。

うん、持っている。

見間違いじゃない。

さすがモーリスさん巨体だけに力も半端ないな。

俺がどう逆立ちしても今のように片手で持つことはできないだろう。

ましてやこんな風に会話なんて。

おもむろに木箱を床に置き、中身を開け・・・ずにその上に座るモーリスさん。

うん、どうやら中身は空っぽらしい。

それなら片手は無理でも両手なら持てるわ。

何事も決めつけは良くないよな。

木箱に座り何やら小さな木の実を剥き始めた。

「なんだそれ。」

「マンマロンです、ここじゃ珍しいかもしれませんね。」

「確かにこの辺じゃ見たことない木の実だな。」

「切れ込みを入れてから火にかけると殻が割れて中からホクホクの実が出てくるんです。甘くておいしいんですよ。」

「ちなみに切れ込みを入れないと?」

「爆発して辺り一面が大変なことになります。」

なんだその危険な食べ物は。

確かに栗をそのまま火にかけると爆ぜるのは間違いないが、爆発まではいかない。

ましてや辺り一面が大変なことにはならないだろ。

さすが異世界。

「そりゃ危ないわ。」

「それで、何をお探しです?」

「塩を探しているんだ。真っ白いやつ。」

「真っ白・・・つまりは海でできた塩ですね。」

「さすがモーリスさん、物知りだな。」

「いえいえ、そんなことないですよ。」

白い塩でそこまでわかればさすがだろう。

「それでしたら塩の棚にあるはずです。えぇっと確か右から四番目、そうそれです。」

指示を受けながらもう一度棚を見ると、同じようなパッケージながら中身の違う入れ物を見つけた。

光に透かしてみると色が違う。

許可を得て中身を確認すると、白い粉が掌に出てきた。

『塩。海水を蒸発させて作られた海塩。不純物はほぼなく純度が高い。最近の平均取引価格は銀貨3枚。最安値銅貨80枚、最高値銀貨5枚。最終取引日は昨日と記録されています。』

うん、塩で間違いない。

金額に差があるのは取引地域の問題だろう。

一応鑑定結果では海塩とでているが念の為に舐めてみる。

しょっぱい。

でも雑味は一切感じられない。

これ、これだよ俺の求めていた奴は。

「間違いない、こいつだ。」

「それでしたか、いやーよかった。」

「どのぐらいある?」

「申し訳ありません在庫はそれだけなんです。」

「まじか・・・。」

なんということだ。

せっかく目当ての品を見つけたというのに、コレしかないなんて。

塩の量はせいぜい100g。

何も考えずに使えばあっという間になくなってしまうだろう。

一度肥えた舌は中々元に戻らないし、手を出さないほうがいいだろうか。

でもなぁ、せっかくあるんだし買うべきだよなぁ。

腕を組み悩んでいる間にモーリスさんは木の実を全て剥き終えたようで、木箱から立ち上がった。

足元にこぼれたゴミをアンナさんがてきぱきと片付けていく。

相変わらず仲のいい二人だ。

「いっそのことご自身で買いにいかれてはどうですか?うちで色々と買ってくださるのはもちろんありがたいですが、直接買い付けるのもまた面白いものです。」

「それは海まで行くって事か?」

「ここからでしたら片道三日もあれば海に出ます、ちょうど街道沿いに港町がありますからあそこなら色々と買い付けも出来るでしょう。」

「三日、三日かぁ。」

「オークションも終わりましたし、秋のイベントを迎える前に行かれるのをお勧めします。」

「だよなぁ、これから忙しくなるもんなぁ。」

「ちなみに道中いくつか町がありますから、シロウさんでしたら色々と出来るのではないでしょうか。」

「というと?」

「宿場町では常に市が出ています、珍しい品々も売られていることでしょう。それに、各町には名産品もたくさんあります。不足しているものもあるでしょうから、持っていくと喜ばれますよ。」

つまり行商しながら買い付けもしたらどうかという提案だ。

その手の商売はハーシェさんに一任しているが、正直一度やってみたいとは思っていた。

俺の相場スキルがあれば基本損をすることは無い。

一回の行商でどれだけ儲かるのか。

一度そういうことを考えると、試してみたい気持ちがドンドンと大きくなってきた。

「で、モーリスさんの希望は?」

「いや~シロウさんには敵わないなぁ。」

「自分の仕事を俺に振るぐらいだ、何か目的があるんだろうって普通は思うだろ。」

「思わないと思いますよ。」

「そうか?」

「そういうものです。」

「で、何をすればいい?」

「干物がなくなってきたのと、うちも海塩を仕入れたいんです。仕入れ値の半分は出しますので折半しませんか?」

やはりそうなるよな。

フライドポテトモドキが俺の発案だというのは周知の事実。

大学芋が流行ったおかげで醤油も売れるようになってきた。

なら、フライドポテトモドキも流行るんじゃないかと考えるのが商売人だ。

俺が求める塩がそれ用だとは一言も言っていないのだが、モーリスさんはそれを感じ取ったんだろう。

普通に考えれば俺の儲けが減る。

でも、俺は塩を売るのが仕事じゃない。

自分用の塩が手に入るのであればぶっちゃけ残りをモーリスさんに任せたいぐらいだ。

うん、そうしよう。

それがいい。

「折半はかまわないが条件がある。」

「なんでしょう。」

「俺が塩を欲しがったときは分けてくれ。後は好きに売ってくれてかまわない。」

「つまりうちを倉庫にするわけですね?」

「本当に売れるかわからないリスクの高い商品だが、それでも乗るのか?」

「乗らない商人なんていないでしょう。」

「なら決まりだな。」

塩を売った分の利益には興味は無い。

俺は必要なときに必要な分を手に入れられればそれでいい。

よし、海に行こう。

いつかは行ってみたいと思っていたんだよな。

世界は広い。

せっかく異世界に来たんだからもっと他の地域も見てみたいと思っていたんだ。

今回はそのいい機会になるだろう。

海だ。

季節的にはまだ海には入れるかもしれないな。

その辺も含めて女達と相談するとしよう。

「期待してますね、シロウさん。」

「おぅ、任せてくれ。」

モーリスさんとがっちりと握手を交わして急いで店を出る。

っと、その前に貰うもんちゃんと貰わないとな。

慌てて店に戻りアンナさんに代金を支払った。

楽しみすぎて浮ついているなんて、俺もまだまだ子供だなぁ。

でも、楽しみなのは仕方がない。

世界が俺を待っている。

そうだ、せっかくだからあの本を読んでおこう。

なんて色々と考えながら、俺は急ぎ店に戻るのだった。
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