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383.転売屋は秋の実りで考える

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月になった。

長い夏が終わり、秋になった途端に気温が一気に下がる。

寝る時に毛布だけでは物足りなくなり、そう言う部分では少し夏が恋しくなるな。

で、何の話だっけ?

そうだ、秋が来たんだ。

秋と言えば実りの秋。

夏野菜が豊作だった我が畑は秋になっても平常運行。

この秋も多くの野菜が実っているが、その中でも一番の実りは例のブツだろう。

「これは・・・すごいな。」

「豊作だとお伝えはしましたが、まさかこれほどとは。」

「そりゃ値段も下がるわけだ。」

「今年はどこも豊作、利益は出ないかもしれません。」

畑の北側。

カニバフラワーに守られた一角は一面緑の蔓で覆われていた。

一本引っ張ると地面から大量の芋が連なって顔を出す。

まさに芋づる式だ。

「それは仕方ないだろう、アグリが悪いわけじゃないさ。」

「ですが・・・。」

「夏野菜と違って収穫したらそこで終わり、冬には値段も戻るだろう。幸い倉庫に空きはあるんだ、芋は寝かせた方が美味くなるからな。」

「それもそうですね。」

「とはいえ収穫しない事には始まらない。こりゃ大仕事になるぞ。」

芋畑の手前ではガキ共が協力して芋を引っ張りだしている。

それを大人が手押し車に乗せルフの待つ倉庫へ。

それを日の出頃から繰り返しているが、まだまだ終わる気配はない。

現物支給で奥様方を呼んでくるか、それとも冒険者に依頼するか。

悩むところだ。

「あ!シロウがサボってる!」

「さぼってる!」

「さぼってねぇ。」

「じゃあ手を動かして!」

「お芋さん埋めたのはシロウでしょ!」

「ははは、手厳しいですね。」

「まったくだ。」

ガキ共に注意され仕方なく手を動かす。

動かして動かして動かして、ようやく夕方に全ての芋を掘り起こすことが出来た。

倉庫の前にはぶっちゃけ信じられない量の芋が積みあがっている。

木箱の高さはゆうに2mを越え、総数は30を超えている。

これ全てに芋が入ってるんだろ?

たかだか個人の畑ひとつでこの量って豊作にもほどがあると思うんだが?

さっきは冬には戻るって言ったが、あれは嘘だ。

春になっても戻らないかもしれない。

まぁ自分達で食べるからいいんだけどさぁ。

「さて、どうするか。」

因みに今はイライザさんの店で打ち上げ中だ。

ガキ共は欠食児童のように料理を貪っている。

流石に今日の仕事はハードだったんだろう、あと30分もすると静かになりそうだ。

「おまたせ、おかわり出来たよ。」

「やっときたか。」

「まさかあんなに食べるとはねぇ、私も油断したよ。」

「俺も想定外だ。最近身体もでかくなってきたし成長著しいな。」

「いい事じゃないか。」

「良いのか悪いのか、モニカの困った顔が目に浮かぶようだよ。」

「食費はまぁ増えてるだろうねぇ。でも野菜を毎日持ち帰ってるんだろ?なら後は主食だけ・・・。」

「こいつらが野菜だけで満足すると思うか?」

「お肉も最近は安いんだよ?冒険者が頑張ってくれているんだねぇ。」

エリザが巡回するようになってからダンジョン内の巣と呼ばれる魔物のたまり場が減ったそうだ。

ゴミが溜まる様に多くの魔物が一か所に滞留する事で多くの被害が出ていたのだが、それが無くなったことで安全に魔物を狩れるようになったらしい。

そのおかげで素材も肉も潤滑に流通するようになっている。

極端な値下がりは起きていないが、今までよりも安く大量に手に入るようになったのは間違いない。

エリザが巡回するだけでこれほどの効果が出るとは俺も予想外だった。

「肉じゃなくて芋を食えよ芋を。」

「やだ!」

「お肉が食べたいの!」

「お芋だけじゃ力が出ないよ。」

余計なことを言ってガキ共から文句を言われてしまった。

まったく、誰のおかげでここの料理を・・・。

いや、何も言うまい。

言えばそのままブーメランになって帰ってくる。

その辺は空気の読める男なんだよ、俺は。

ちなみに、ここで言う芋はサツマイモだ。

厳密に言えばサツマイモっぽいものではあるのだが、甘みが強いのでそういうことにしている。

それとは別にちゃんとジャガイモも存在しているが、そっちもこの夏大量に収穫したので結果値崩れをしてしまった。

今やどちらも例年の三分の二、いや半値まで落ちているかもしれない。

これで生計を立てている農家は大打撃だろう。

幸いにもこの街では農業で生計を立てている人は居ないので特に問題は起きていないけどな。

「まったく、好き勝手言いやがって。」

「まぁまぁコレでも食べて機嫌直して。」

「これは・・・蒸かし芋か。」

「私は焼いたほうが好きなんだけどね。」

「奇遇だな、俺もだ。」

イライザさんが持ってきてくれたのはサツマイモを蒸した奴だ。

ほくほくして美味しいのだが、焼いた奴に比べると若干甘みが落ちる気がする。

調べたわけじゃないからなんともいえないけど。

一口食べると思ったよりも強い甘みが口いっぱいに広がり、ホクホクとした触感がなんともいえない。

これはおかずというよりももうお菓子だな。

「わ、甘い!」

「お菓子みたい!」

「ホコホコであまあまだねぇ。」

「おや、そんなに甘いのかい?」

横からつまみ食いした子供達の歓声をききイライザさんも一口頬張る。

すると飛び出るんじゃないかというぐらいに目を見開いた。

「こりゃ凄い甘いね!」

「蒸しただけでコレだと焼くとどうなるんだ?」

「お菓子になるんじゃないか?」

「お菓子ねぇ・・・。」

「あ、シロウが悪い顔してる!」

「悪い顔~。」

「顔わる~い。」

「誰が顔が悪いか!」

「キャ~シロウが怒った~!」

まったく好き放題言いやがって、一度どっちが上かしっかりと教育し直した方が良さそうだな。

「どうしたんだい?」

「いや、これだけあるんだし何かに使えないかと思ったんだよ。」

「焼くとか?」

「さすがにそれじゃ誰も買わないだろ。だが、もう少し手を加えたら売れると思うんだ。」

「手を加えたらねぇ・・・。でもコレだけ甘かったら料理には使えそうも無いね。」

「あぁ、だからお菓子にでもするさ。」

ガキ共がいるので早々に解散した後、店に戻って女達に事情を説明する。

芋を作ったお菓子が流行れば値段も上がり、結果として利益が出るんじゃないだろうか。

そう考えたわけだ。

「お菓子ねぇ。」

「確かにコレだけ甘いとあまり砂糖を入れなくても美味しくできそうです。」

「何を作ります?スイートトポテ?それとも焼き芋ですか?」

「蒸したり裏ごししたりすると時間がかかるだろ?だから今回は別の奴にしようと思う。」

「別のって?」

「とりあえず作ってみるから意見を聞かせてくれ。」

そう言いながら台所に向かい、昔よく作ったお菓子を思い浮かべる。

ホクホクのサツマイモにあめ色になるまで煮詰めた砂糖をかける料理。

醤油があるからこそできるんだよな、これは。

無ければ蜂蜜を入れるといいらしいが、生憎ここにそんなものは無い。

ってことで大学芋を作ってみた。

醤油がないのでこの世界にはなじみは無いはず。

女達の反応は・・・。

「美味しいです!」

「中はホクホク、外はとろりとした触感なのね。」

「醤油が香ばしく甘すぎない感じです、これもシロウ様の世界で作られていたんですね。」

「あぁ、大学芋っていうやつだ。」

「ダイガク?」

「名前については俺に聞くな。」

昔金の無い大学生が作ったお手軽レシピ。

そんな感じだったと思うが詳しく知らん。

「では早速明日露天に出しましょうか。」

「あぁ。もしコレが当たれば・・・。」

「当たりますよ。」

「その心は?」

「だってこんなに美味しいんですよ?流行らないはずがありません!」

「さよか。」

まさかそんな自信満々に言われるとは思わなかった。

たかが大学芋にそんなポテンシャルがあるとは思えないんだがなぁ。

ま、とりあえず明日になればわかるだろう。


っていう軽い感じで考えていたころもありました。

「いらっしゃいませ!」

「二人前お願いしま~す!」

「ちょっとまって、今火を入れてるから。五分、五分ください!」

試しに出してみた露店が大当たり。

アネットの宣言通り大流行となってしまった。

あまりに長蛇の列ができてしまったものだから警備が飛んできて交通整理をしている。

最初はすごい顔でやってきた警備員だったが、犯人が俺だとわかると何とも言えない顔になってしまった。

文句を言いたくても言えない、そんな感じだ。

もちろん注意しないわけにはいかないのでそれとなくお小言を言われたが、それでも今は快く交通整理を費い受けてくれている。

別に金を渡したとかじゃない。

ちょっと差し入れを入れただけだ。

大学芋のな。

「お待たせ、追加来たよ!」

「リンカでかした!」

「ねぇ蒸すだけで本当にこんなにもらっていいの?」

「いいから次を頼む、なんなら奥様方に声かけてもいいから。」

「わかった!ジャンジャン持ってくるね!」

「芋の在庫は畑にあるから向こうから持って行ってくれ。」

「は~い!」

流石に露店だけで需要を賄えなくなったので、芋を蒸す作業を外注することにした。

そのおかげで何とかバランスはとれているものの、このペースで行くと恐れていたことが起こりかねない。

まさかこんなに流行るとは、俺も想定外だった。

「お待たせしました二人前です!銅貨20枚、毎度ありがとうございます!次の方どうぞ~。」

販売価格は一人前銅貨10枚。

材料費は醤油と砂糖だけ。

外注費もあるが、10人前売れば元は取れる。

どう転んでも赤字にはならないだろう。

「シロウ手が止まってる!」

そんなことを考えているとエリザに怒られてしまった。

仕方ない、蜜を絡める作業に戻ろう。

その日、街中が甘い匂いに包まれ夜になっても列が途切れることはなかった。
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