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356.転売屋はその後の話を聞く
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例のオッサンが街を逃げ出してから一週間。
ギルド協会に呼び出されたので、ミラと共に向かうことにした。
「何でしょうね。」
「大方この前の件についてだろ。」
「お金は返していただきましたし、その他もいつも通り処理されています。思い当たる節がありません。」
「詫びじゃないか?」
「お互いに被害者という話では?」
「まぁそうなんだけどなぁ。」
今回の件はギルド協会も俺達もオッサンの被害にあったという立場だ。
だから弁済も保証も要求しない。
もちろんオッサンにはそれ相応の要求をするつもりだったのだが、色々と面倒なことになりそうなのでやめた。
監査役という人が一応は調査して帰ったので今回の件はそれで手打ち、ってはずなんだけどなぁ。
建物に入ると待ってましたと言わんばかりの顔をして羊男が出迎えてくれた。
「お待ちしていましたよ、シロウさん。さぁさぁ奥の部屋にどうぞ。」
「なんだよ気持ち悪い。」
「いいからいいから。ささ、ミラさんも一緒にどうぞ。」
「ありがとうございます。」
背中を押されて案内されたのはいつもの会議室ではなく、立派な応接室だった。
中には誰もいない。
これから来るんだろうか。
「堅苦しい話は勘弁してくれよ。」
「お気持ちはわかります、でもそういうわけにはいかない事情がありまして。」
「ってことはあのオッサン関係か。監査役が調べて終わったんじゃなかったのか?」
「一応は終わったんですけど、どうしても向こうが話をしたいと・・・。」
「げっやっぱりか。」
「私達が思っていた以上に話は大きかったようでして、向こうでは大変な騒ぎになっているようです。」
「俺達には関係ない話じゃないか。」
「関係ないんですけど、関係あるんですって。あ、こられましたね。」
ソファーに無理やり座らされると同時にドアがノックされ、羊男が出迎えに行く。
「お待ちしておりましたブランドン監査官。」
「うむ、出迎えご苦労。」
入ってきたのは筋骨隆々の男。
年はこの前のオッサンと同じぐらいだろうが、がたいがすごい。
背は俺よりも低いはずなのに、横の圧が半端ない。
ビール腹ではない、全て筋肉だ。
「呼び出して悪かったな、シロウ殿。」
「例のオッサンについてだって?」
「あぁ、終わった話なのだが思った以上に話が大きくなってな。一応貴殿の耳にも入れておくべきだと判断した。まったく、叩いて出てきたのは埃だけではなかったようだ。」
「よかったじゃないか、膿が少しは減っただろ。」
「まだまだ出し切ってはおらんがな。だが傷口は開いた、後は押し出すだけだよ。」
やれやれといった感じで前のソファーに腰掛けるブランドン監査官。
筋肉の重さに耐えかねてソファーが大きな悲鳴を上げる。
高そうなソファーなんだが・・・、まぁ俺のじゃないし。
「組織がでかいと大変だな。」
「大小の問題ではない、そもそも起きてはならんことだ。とはいえ、人というのは強欲なもの、致し方ないのかもしれんな。」
「耳が痛い。」
「では早速始めたいと思います、まずはこちらの資料をご覧ください。」
羊男がそれぞれに資料を配り始める。
渡されたのは二枚の用紙、さっと目を通した感じでは今回の時系列が記述されているようだ。
二枚目は・・・。
はい?
「なぁ、国外追放って書いてあるんだが?」
「被害の大きさを考えれば極刑でもよかったのだが、そこまではという恩情が出たのでそのような形になった。」
「なんとまぁ、大事になったもんだ。」
「時系列に沿ってお話しさせていただきます。まず、この街を出た後王都に帰還したバッカー様ですが、すぐに協会本部へと向かいシロウさん排除に向けた工作を始めました。表向きは不穏分子の処理との事でしたが、それよりも先にフェル=ジャン=メール氏がバッカー氏を告訴していた為に即座に捕縛されました。罪状は絵画の強制販売ならびに恐喝です。」
「これは奴が戻ってくるまでに道筋が立てられていた。フェル氏曰くこうなることは予期していたので事前に準備をしていたんだそうだ。」
「事前にねぇ。」
なんとなく察しがつく。
俺の絵はともかくカニバフラワーの絵をあんなにも簡単に手放したのは、こうなることを予期していたんだろう。
あのオッサンが自分を追って絵画を集めて回っているのを知っていたんだろうな。
で、俺を囮に使った。
なかなか強引なやり方だが、あの人らしいといえばあの人らしいのかもしれない。
「捕縛後は無実を主張しておりましたが、被害者が多数名乗り出た為にそれもかなわず、さらにシロウさんを不穏分子に祭り上げようとした偽証罪でも罰せられることになりました。コレに関しては王家がシロウさんの身柄を保証、不穏分子ではないと国王陛下直々の発言が出ております。」
「・・・話が飛躍しすぎじゃないか?」
「他にもリング氏やオリンピア王女もシロウさんの潔白を支持、コレだけの人間が動いて文句を言える人はこの国には居ませんね。」
「ロバート王子亡き今はそうだろう。」
「結果、数々の余罪を暴露されたバッカー氏は国外追放が決定、判決のでた翌日には国境へと追放されました。私財は全て没収の上、爵位も剥奪。没収された私財は被害者の皆さんに物品もしくは金銭にて還元されたとのことです。あ、シロウさんにも一部送られるそうですので御受け取りくださいね。」
「俺は何の被害も受けていないんだが?」
「切っ掛けを作った報奨金ということだろう。不要だと思うのならば適当に寄付でもすればいい。」
「そうさせて貰うよ。」
俺に関して言えば借金が少し割り増しされて帰ってきたのと、直接取引をした分が丸まる利益となっている。
何も損をしていないどころか、町の人が俺の重要性を再認識する機会になったようだ。
「以上がバッカー氏追放の流れとなっております。続きましてブランドン監査官、お願いします。」
「うむ。」
ここまでの話をするだけなら、別にこの人が出てくる理由は無い。
「私からシロウ殿にお願いしたいことが二つある、一つはこの件をおおっぴらにせずコレで終わりにしてほしいという事。先ほどの還元が口止め料と思って貰っても結構だ。次が重要だが、この街に王都直轄の監査官を配置することになった。」
「監査官?」
想定外の発言に思わずブランドン氏を見てしまう。
色々と思うところはあるが、とりあえず話を聞こう。
「そう怖い顔をしないでくれ。これに関しては国王陛下ならびにリング氏の強い要望で実現することとなっている。決して誤解しないでほしいのは我々には貴殿を監視するつもりは無い。」
「ではなぜ?」
「名前が売れすぎたのだよ。」
「シロウさんが思っている以上に国民の認知度が上がっています。世界の歩き方に載ってしまったのが一番の原因だと思いますが、ガーネットルージュや化粧品は王都でも高い評価を受けています。」
「つまり俺の成功を妬む、もしくは利用するために良くない連中が集まってくると考えているんだな。」
「貴殿は王家からも一目を置かれる商人、コレまでのようにただの買取屋で居られなくなるかもしれん。」
うーむ、それはちょっと遠慮したい。
俺はここでいつものように仕事がしたいだけだ。
変な勢力に目をつけられたり、それこそ命を狙われるなんてのは勘弁願いたい。
「ミラ、俺達も国外にいくか?」
「シロウ様がそれを望むのであれば。」
「ちょっと話が大事になりすぎだよなぁ。」
「それだけの事をしてるんだから仕方ないじゃないですか。」
「ガーネットルージュはルティエ達に全権を委譲してるし、化粧品を開発したのもカーラさんだ。俺は窓口として販売しているに過ぎない。フェルさんの絵だって偶然友人から買っただけなんだが?」
「世の中はそう思っていないのだよ。」
ますますめんどくさい。
こんなことになるのなら本気で移住を考えなければならないかもなぁ。
「で、そのために監査官が来ると?」
「先ほども言ったようにシロウ殿を監視するわけではなく、あくまでも不穏分子を排除するために設置する。それと、連絡役だな。」
「連絡役?」
「今後は王都との取引も増えてくるだろう、それに彼女を使えばいい。」
「その方は女性なんですね。」
「元はロバート様の侍女長をしていたのだが、今はオリンピア様についている。が、本人の強い希望で今回の監査役に任命されたそうだ。理由は聞くな、コレに関しては王家のどのような意見が反映されているか私にもわからぬ。」
「かなりの美人さんだそうですよ、ちなみに未婚です。」
「だからどうした。」
これ以上女を増やすつもりはさらさら無い。
っていうか、ロバート様の侍女長って完全にマリーさんのためじゃないか。
屋敷が出来たらいろいろと大変だろうから、その為に事前に手配したって感じだよな。
名目を監査官にした理由はそれを察知されないためか。
緊張して損した。
「お手つきにしてくれてもかまわないが彼女は強いぞ、気をつけるがいい。」
「だからその気は無いって。」
「それと不穏分子の件は本当に気をつけたほうがいい。聞けば護衛を置いていないそうじゃないか、大金を置いているのだから引越しを考えたらどうだ?そういう話も出ているのだろう?」
「まぁなぁ。」
「金が無いのなら王家からの援助も期待できる。もしシロウ殿に何かあれば国王陛下が何をしでかすかわからん・・・というのが私の本音だ。」
「私情ありありじゃねぇか。」
「あの人の事だ、軍隊を動かすと言いかねん。大変な人に気に入られたものだな。」
マジで勘弁してください。
俺が友人になったのはロバート王子だけで、その方はもう死んでしまった。
だから俺が王家に気に入られる理由は無いんだよ。
表向きはな。
まったく、あの親バカ国王め。
息子・・・じゃなかった娘が心配だからって少しやりすぎじゃないか?
「ともかく、話は以上だ。私は急ぎ王都に戻るが後の事はよろしく頼む。」
「お任せください。」
「ではな、シロウ殿。」
「気を付けて帰れよ。」
「はっはっは、心配してもらえるというのは気持ちがいいな。」
豪快に笑いながらブラントン監査官は去っていった。
残された俺とミラ、そして羊男が目を合わせる。
「・・・面倒なことになったな。」
「頑張ってくださいシロウさん。」
「はぁ、勘弁してくれよ。」
あのオッサン、国外追放されても俺に迷惑かけやがって。
次に会ったらただじゃ置かないからな。
まぁ会うこともないだろうけど。
ギルド協会に呼び出されたので、ミラと共に向かうことにした。
「何でしょうね。」
「大方この前の件についてだろ。」
「お金は返していただきましたし、その他もいつも通り処理されています。思い当たる節がありません。」
「詫びじゃないか?」
「お互いに被害者という話では?」
「まぁそうなんだけどなぁ。」
今回の件はギルド協会も俺達もオッサンの被害にあったという立場だ。
だから弁済も保証も要求しない。
もちろんオッサンにはそれ相応の要求をするつもりだったのだが、色々と面倒なことになりそうなのでやめた。
監査役という人が一応は調査して帰ったので今回の件はそれで手打ち、ってはずなんだけどなぁ。
建物に入ると待ってましたと言わんばかりの顔をして羊男が出迎えてくれた。
「お待ちしていましたよ、シロウさん。さぁさぁ奥の部屋にどうぞ。」
「なんだよ気持ち悪い。」
「いいからいいから。ささ、ミラさんも一緒にどうぞ。」
「ありがとうございます。」
背中を押されて案内されたのはいつもの会議室ではなく、立派な応接室だった。
中には誰もいない。
これから来るんだろうか。
「堅苦しい話は勘弁してくれよ。」
「お気持ちはわかります、でもそういうわけにはいかない事情がありまして。」
「ってことはあのオッサン関係か。監査役が調べて終わったんじゃなかったのか?」
「一応は終わったんですけど、どうしても向こうが話をしたいと・・・。」
「げっやっぱりか。」
「私達が思っていた以上に話は大きかったようでして、向こうでは大変な騒ぎになっているようです。」
「俺達には関係ない話じゃないか。」
「関係ないんですけど、関係あるんですって。あ、こられましたね。」
ソファーに無理やり座らされると同時にドアがノックされ、羊男が出迎えに行く。
「お待ちしておりましたブランドン監査官。」
「うむ、出迎えご苦労。」
入ってきたのは筋骨隆々の男。
年はこの前のオッサンと同じぐらいだろうが、がたいがすごい。
背は俺よりも低いはずなのに、横の圧が半端ない。
ビール腹ではない、全て筋肉だ。
「呼び出して悪かったな、シロウ殿。」
「例のオッサンについてだって?」
「あぁ、終わった話なのだが思った以上に話が大きくなってな。一応貴殿の耳にも入れておくべきだと判断した。まったく、叩いて出てきたのは埃だけではなかったようだ。」
「よかったじゃないか、膿が少しは減っただろ。」
「まだまだ出し切ってはおらんがな。だが傷口は開いた、後は押し出すだけだよ。」
やれやれといった感じで前のソファーに腰掛けるブランドン監査官。
筋肉の重さに耐えかねてソファーが大きな悲鳴を上げる。
高そうなソファーなんだが・・・、まぁ俺のじゃないし。
「組織がでかいと大変だな。」
「大小の問題ではない、そもそも起きてはならんことだ。とはいえ、人というのは強欲なもの、致し方ないのかもしれんな。」
「耳が痛い。」
「では早速始めたいと思います、まずはこちらの資料をご覧ください。」
羊男がそれぞれに資料を配り始める。
渡されたのは二枚の用紙、さっと目を通した感じでは今回の時系列が記述されているようだ。
二枚目は・・・。
はい?
「なぁ、国外追放って書いてあるんだが?」
「被害の大きさを考えれば極刑でもよかったのだが、そこまではという恩情が出たのでそのような形になった。」
「なんとまぁ、大事になったもんだ。」
「時系列に沿ってお話しさせていただきます。まず、この街を出た後王都に帰還したバッカー様ですが、すぐに協会本部へと向かいシロウさん排除に向けた工作を始めました。表向きは不穏分子の処理との事でしたが、それよりも先にフェル=ジャン=メール氏がバッカー氏を告訴していた為に即座に捕縛されました。罪状は絵画の強制販売ならびに恐喝です。」
「これは奴が戻ってくるまでに道筋が立てられていた。フェル氏曰くこうなることは予期していたので事前に準備をしていたんだそうだ。」
「事前にねぇ。」
なんとなく察しがつく。
俺の絵はともかくカニバフラワーの絵をあんなにも簡単に手放したのは、こうなることを予期していたんだろう。
あのオッサンが自分を追って絵画を集めて回っているのを知っていたんだろうな。
で、俺を囮に使った。
なかなか強引なやり方だが、あの人らしいといえばあの人らしいのかもしれない。
「捕縛後は無実を主張しておりましたが、被害者が多数名乗り出た為にそれもかなわず、さらにシロウさんを不穏分子に祭り上げようとした偽証罪でも罰せられることになりました。コレに関しては王家がシロウさんの身柄を保証、不穏分子ではないと国王陛下直々の発言が出ております。」
「・・・話が飛躍しすぎじゃないか?」
「他にもリング氏やオリンピア王女もシロウさんの潔白を支持、コレだけの人間が動いて文句を言える人はこの国には居ませんね。」
「ロバート王子亡き今はそうだろう。」
「結果、数々の余罪を暴露されたバッカー氏は国外追放が決定、判決のでた翌日には国境へと追放されました。私財は全て没収の上、爵位も剥奪。没収された私財は被害者の皆さんに物品もしくは金銭にて還元されたとのことです。あ、シロウさんにも一部送られるそうですので御受け取りくださいね。」
「俺は何の被害も受けていないんだが?」
「切っ掛けを作った報奨金ということだろう。不要だと思うのならば適当に寄付でもすればいい。」
「そうさせて貰うよ。」
俺に関して言えば借金が少し割り増しされて帰ってきたのと、直接取引をした分が丸まる利益となっている。
何も損をしていないどころか、町の人が俺の重要性を再認識する機会になったようだ。
「以上がバッカー氏追放の流れとなっております。続きましてブランドン監査官、お願いします。」
「うむ。」
ここまでの話をするだけなら、別にこの人が出てくる理由は無い。
「私からシロウ殿にお願いしたいことが二つある、一つはこの件をおおっぴらにせずコレで終わりにしてほしいという事。先ほどの還元が口止め料と思って貰っても結構だ。次が重要だが、この街に王都直轄の監査官を配置することになった。」
「監査官?」
想定外の発言に思わずブランドン氏を見てしまう。
色々と思うところはあるが、とりあえず話を聞こう。
「そう怖い顔をしないでくれ。これに関しては国王陛下ならびにリング氏の強い要望で実現することとなっている。決して誤解しないでほしいのは我々には貴殿を監視するつもりは無い。」
「ではなぜ?」
「名前が売れすぎたのだよ。」
「シロウさんが思っている以上に国民の認知度が上がっています。世界の歩き方に載ってしまったのが一番の原因だと思いますが、ガーネットルージュや化粧品は王都でも高い評価を受けています。」
「つまり俺の成功を妬む、もしくは利用するために良くない連中が集まってくると考えているんだな。」
「貴殿は王家からも一目を置かれる商人、コレまでのようにただの買取屋で居られなくなるかもしれん。」
うーむ、それはちょっと遠慮したい。
俺はここでいつものように仕事がしたいだけだ。
変な勢力に目をつけられたり、それこそ命を狙われるなんてのは勘弁願いたい。
「ミラ、俺達も国外にいくか?」
「シロウ様がそれを望むのであれば。」
「ちょっと話が大事になりすぎだよなぁ。」
「それだけの事をしてるんだから仕方ないじゃないですか。」
「ガーネットルージュはルティエ達に全権を委譲してるし、化粧品を開発したのもカーラさんだ。俺は窓口として販売しているに過ぎない。フェルさんの絵だって偶然友人から買っただけなんだが?」
「世の中はそう思っていないのだよ。」
ますますめんどくさい。
こんなことになるのなら本気で移住を考えなければならないかもなぁ。
「で、そのために監査官が来ると?」
「先ほども言ったようにシロウ殿を監視するわけではなく、あくまでも不穏分子を排除するために設置する。それと、連絡役だな。」
「連絡役?」
「今後は王都との取引も増えてくるだろう、それに彼女を使えばいい。」
「その方は女性なんですね。」
「元はロバート様の侍女長をしていたのだが、今はオリンピア様についている。が、本人の強い希望で今回の監査役に任命されたそうだ。理由は聞くな、コレに関しては王家のどのような意見が反映されているか私にもわからぬ。」
「かなりの美人さんだそうですよ、ちなみに未婚です。」
「だからどうした。」
これ以上女を増やすつもりはさらさら無い。
っていうか、ロバート様の侍女長って完全にマリーさんのためじゃないか。
屋敷が出来たらいろいろと大変だろうから、その為に事前に手配したって感じだよな。
名目を監査官にした理由はそれを察知されないためか。
緊張して損した。
「お手つきにしてくれてもかまわないが彼女は強いぞ、気をつけるがいい。」
「だからその気は無いって。」
「それと不穏分子の件は本当に気をつけたほうがいい。聞けば護衛を置いていないそうじゃないか、大金を置いているのだから引越しを考えたらどうだ?そういう話も出ているのだろう?」
「まぁなぁ。」
「金が無いのなら王家からの援助も期待できる。もしシロウ殿に何かあれば国王陛下が何をしでかすかわからん・・・というのが私の本音だ。」
「私情ありありじゃねぇか。」
「あの人の事だ、軍隊を動かすと言いかねん。大変な人に気に入られたものだな。」
マジで勘弁してください。
俺が友人になったのはロバート王子だけで、その方はもう死んでしまった。
だから俺が王家に気に入られる理由は無いんだよ。
表向きはな。
まったく、あの親バカ国王め。
息子・・・じゃなかった娘が心配だからって少しやりすぎじゃないか?
「ともかく、話は以上だ。私は急ぎ王都に戻るが後の事はよろしく頼む。」
「お任せください。」
「ではな、シロウ殿。」
「気を付けて帰れよ。」
「はっはっは、心配してもらえるというのは気持ちがいいな。」
豪快に笑いながらブラントン監査官は去っていった。
残された俺とミラ、そして羊男が目を合わせる。
「・・・面倒なことになったな。」
「頑張ってくださいシロウさん。」
「はぁ、勘弁してくれよ。」
あのオッサン、国外追放されても俺に迷惑かけやがって。
次に会ったらただじゃ置かないからな。
まぁ会うこともないだろうけど。
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