転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

文字の大きさ
上 下
345 / 1,415

343.転売屋は夏バテする

しおりを挟む
19月になった。

夏が始まって二ヶ月、まだまだ夏本番って感じで暑い日が続いている。

朝方はそうでもないのだが、日の出とともに一気に気温が上昇し、昼前には地面から陽炎が昇り始める。

つまりは暑い。

とてつもなく暑い。

さすがに昼過ぎにもなると出歩く人は減り、プールに入る人が多くなる。

つまり誰も仕事をしなくなるわけだ。

それぐらいにこの夏は暑かった。

「だるい。」

「なによ、そんな締まりのない顔しちゃって。」

「暑いんだよ。」

「わかってるわよ。でも氷も風の魔道具もあるでしょ?」

「あってなお暑い。っていうかだるいんだよなぁ。」

「シロウ様お食事の準備が出来ましたが・・・、顔色が優れませんね。」

呼びに来たミラが心配そうな顔で俺を見てくる。

心配されるほどよくないのだろうか。

いや、元はよくないんだけども。

「お疲れが出たのでしょう、今日は私が見ておきますので上で休んでください。」

「いや、そこまでじゃない。後は露店を見て回ってルティエの様子を見て、マリーさんと化粧品の打ち合わせをして、それから冒険者ギルドに行くだけだ。」

「だけって、やること多すぎよ。どれかにしなさい。」

「でもなぁ。」

「でもじゃない!シロウのそれはどう考えても働きすぎ、そんでもって夏バテね。」

「夏バテ?食欲も運動もしてるのに?」

「現にそんな状態になってるじゃない。食べても寝ても疲れが取れないってのはバテてるって事でしょ、今日だって朝にアネットから薬もらったの知ってるんだから。」

こそっと貰った筈なんだが、どこでバレたんだろうか。

でもなぁ、やらないといけない事はさっさと終わらせたいしなぁ。

「ともかく、今日はもう仕事は終わり。」

「せめて露店だけでも。」

「ダメったらダメ、そもそもこんな炎天下で外を出歩くとか自殺行為よ。魔導具のある部屋でゆっくりしなさい。」

「ルティエ様とマリー様は明日でも問題ないでしょう、冒険者ギルドへは私が行きますのでご安心を。」

「店は?」

「もちろん閉めます。」

「ちょっとダルイだけだぞ?」

「それでもダメ、アネット!シロウを二階に連れてって!」

「は~い、今行きま~す。」

まさかこんな大ごとになるとは。

こんなことなら無理してでも問題ないといえばよかった。

でもなぁ、それで無理して倒れたしなぁ。

「まぁ、俺も若くないしなぁ。」

「はぁ?何言ってんのよ。」

「シロウ様、そのような発言は外では慎まれたほうがよろしいかと。」

「そこまで?」

「はい。」

さすがにそれは・・・いえ、なんでもありません。

階段を駆け下りてきたアネットに引きずられるようにして二階へと上がる。

風の魔道具の前に氷が置かれ、いい感じの涼しさになっていた。

「今日はこちらでゆっくりなさってください、必要なものがあればすぐに用意しますから。」

「ベッドに縛り付けられないだけましか。」

「そのほうがいいですか?」

「勘弁してくれ。」

「私も含めてみんな心配なんですよ。」

「それは俺が主人だからか?」

「そんな心にも思ってないこといっても駄目です。聞かなくてもわかってるじゃないですか。」

どうやら作戦失敗らしい。

仕方がないので魔道具の風が少しだけ当たるソファーに寝転がり、目の前に置いてあった本を手に取る。

誰かが借りてきた本だろう仕事とは全く関係のない本だが、たまにはいいかもしれない。

その本はどこぞの恋愛小説だった。

こういう本はどこの世界でもあるんだな。

甘酸っぱいセリフにありきたりな展開。

とはいえ読んでいるうちについつい夢中になってしまった。

「おや、珍しいものをお読みになっていますね。」

「これはミラのか?」

「いえ、エリザ様が借りた来たものかと。」

「まじか。」

「お休みの日はよくお読みになっていますよ。」

「意外って言ったら怒られるだろうな。」

「私たちの中では一番乙女ですから。」

「いや、乙女って。」

「ふふ、冗談です。食欲はいかがですか?」

食欲なぁ。

まったく食べる気がないわけではないが、重たいものは勘弁願いたい。

さらさらっと食べるものがあればいいんだが、あいにくこの世界にそうめんはないんだよな。

いや、探せばあるかもしれないが今はない。

「米ってまだあったっけ?」

「申し訳ありません、この前食べたのが最後です。」

「だよなぁ、あれば茶漬けでもと思ったんだが・・・。軽くサラダとかでいいか。」

「ダメですよ、ちゃんと食べないと。」

「とはいえ肉はきついぞ。」

「そうおっしゃると思いまして、アングリーチキンのレレモン煮を用意しました。むね肉ですからあっさりしていますし、パンにはさんで野菜と一緒にどうぞ。」

「ん、もらおう。」

確かに小腹は空いている。

本を置きミラの用意してくれたパンにかぶりつく。

肉・・・ではあるが、レレモンの酸味で肉っぽい感じは一切感じられない。

これなら食べれそうだ。

「どうですか?」

「美味い。」

「それはよかったです。あとでエリザ様が来ますから、お相手してあげてください。」

それだけ言うとミラは満足そうに下に降りて行った。

俺の代わりにギルドに行ってくれるんだろう。

あまりゴロゴロするのは好きじゃないんだが、仕事すると怒られそうだしなぁ。

「あ、ちゃんと食べてる。えらいえらい。」

「俺は子供かっての。」

「男なんてみんなそんなもんでしょ。」

「どういう思考なんだよ。」

「そのまんまの意味よ、女の子が好きでエッチなことが好きで危ないことが好き。」

「今の感じだと一種類しか当てはまらないんだが?」

「え、一個だけ?」

「女は好きだが別に危ないことは好きじゃない。危ない橋を渡るぐらいなら堅実に稼いだほうがいいだろ?」

「エッチは好きじゃないんだ。」

それはおまけみたいなものだ。

誤解してもらいたくないが、別に女好きというわけでもない。

ただ単に女が好きなだけ。

目の前に好みの女がいたら触ったり抱きたくなるものだろう。

そういう感覚だ。

だから目の前ですねた顔をするエリザの胸も触りたくなる。

「今日もいい乳だな。」

「言っていることが矛盾してない?」

「そんなことないぞ。女は好きだ、だから揉んでいる。」

「まぁ、そうよね。」

「ちなみに尻も好きだぞ。」

「知ってる、いつも私たちのお尻見てるもんね。」

「わかるのか?」

「むしろわからないとでも思ってるの?」

それもそうか。

何も気にせず見てるもんな。

目線があっても見続けてるし。

あぁ、街の女はそこまで露骨じゃないぞ。

自分の女だけだ。

「とはいえ、今日は勘弁してくれ。」

「わかってるわよ、今日は勘弁してあげる。」

「今日だけかよ。」

「運動不足も夏バテの原因よ、しっかり食べてしっかり動いてしっかり休む。シロウは働きすぎなの、たまにはゆっくり休みなさい。」

「休んでるぞ?」

「休んでいるつもりになってるだけ。これから毎週こんな感じで押し込まれたい?」

「それは勘弁願いたい。」

「じゃあ大人しく休みなさい。」

毎週こんな感じで監禁されるとか勘弁願いたい。

でもなぁ、何もしないっていうのは性に合わないんだ。

さて、何をするか・・・。

「何するつもりよ。」

「それを考えてるんだよ。」

「じゃあちょっと私に付き合って。」

「だからそういうことは・・・。」

「違うわよ、ストレッチするの。一人じゃできないから押してってこと!」

「あぁなるほどな。」

てっきり某お笑いトリオのネタかと思ってしまったんだが違うようだ。

ヨガマット的な滑りにくいビッグフロッグの革を床にひき、その上に座るエリザ。

その後ろに回りいわれるがままに体を押す。

背中、腕、腰。

脳筋だといつも言っているが、思った以上に体は柔らかい。

いや、女なんだから当たり前なんだが根本的に体のつくりが違うんだよなぁ。

そんなムキムキというわけでもないのにあんなでかい武器を思いっきり振り回すとか、いったいどういう作りになっているんだろうか。

「ふぅ、すっきりした。ありがとうシロウ。」

「俺もいい運動になった。」

「言ったでしょ、適度な運動が大切だって。」

「それならルティエ達と一緒にしてるんだけどなぁ。」

「急激に動かすのとゆっくり動かすのは全然違うわ、たまにはこうやって休めながら動かさないと。」

「なるほどなぁ。」

「あとは、しっかり食べて今日は早めに寝ること。そしたら明日には元気になってるわ。」

「とはいえ飯の時間まではまだあるぞ?」

外はまだまだ明るい。

真昼間という時間だ。

それまで何をするか・・・。

「じゃあさ、お昼寝しましょう。」

「あ~、いいなぁ。」

「ね、涼しい部屋でお昼寝、最高じゃない。」

「まぁ、そうだな。」

普段なら時間がもったいなくてそんなことしないが、今日ぐらいはいいだろう。

「じゃあちょっとシャワー浴びてくるから。」

「はいはい。」

「ちゃんと待っててよ?」

「なんでだよ。」

「もぅ!最後まで言わせないでよね!」

だからそういうことはしないんじゃなかったのか?

そういう突っ込みをする間もなく、エリザは浴室へと消えていった。

その後どうなったかって?

そりゃしましたよ。

でもまぁ激しくもなく、程よい感じだったので疲れはない。

むしろすっきりした感じだ。

たまにはこういうのもいいかもしれないな。

もちろん、休日的な意味で。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

処理中です...