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340.転売屋はジンギスカンを売りまくる

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一週間漬けこんだ肉は想像以上の味に仕上がった。

試しに露店で売ってみたのだがまさかの二時間ほどで完売してしまった。

あまりの売れ行きに若干ビビってしまったが、仕込みは十分にしてある。

満を持して迎えた夏祭り・・・の前日。

俺は何故か真昼間から働いていた。

「暑い。」

「文句はいいから次のお肉出して!」

「シロウ様、右の壺は空です。左奥のをお願いします。」

「お皿はこっちにお願いしますね~!はいありがとうございます!」

鉄板から上がる香ばしい匂い。

甘辛いタレに漬け込んだ肉が白い煙を上げながら焼かれていく。

朝から焼き始めて何時間たった?

もう体中に肉の匂いがしみ込んでしまったようだ。

そんな事を考えていても手は勝手に肉を焼き続け、いい感じになった所でエリザがそれをかっさらっていく。

肉を焼くのは俺、仕上げはエリザ。

会計をして皿を渡すのはミラの仕事だ。

アネットは客の持って帰ってきた皿を受け取って裏の水桶に放り込んでいる。

ちなみに放り込まれた皿はその後ろで奥様方が洗って拭いて再びこっちに運んできている。

完全なる流れが出来上がってしまった。

この流れを止める事は出来ない。

俺はこの後もただ肉を焼いて焼いて焼きまくるしかないんだ。

「あれ、肉が無い。」

「うそ!」

「いやマジで壺が無い。」

「という事はまだ届いていないんですね。」

「どうするのよ、まだまだお客さん並んでるのよ?」

「文句はあの男に言え・・・。」

「お待たせしました!」

「待ってねぇよ。」

肉の入った壺が無くなり喜んだのもつかの間、すぐに羊男とニアさんが新しい壺を持って戻って来た。

引っ張ってきた荷台の後ろには壺が六つ並んでいる。

はぁ、在庫はまだまだ潤沢にあるわけね。

俺の仕事はまだまだ終わりそうにない。

「空いた壺貰って行きますね。」

「おねが~い、在庫はまだある?」

「まだまだあるよ、仕込みの甘い奴も熟成したやつと混ぜて馴染ませてるから。」

「さっすがニア!」

「まぁイライザさんのおかげだけどね。明日のお肉は別に保管してるから、残り四時間しっかり頑張って。」

「四時間もあるのかよ。」

「そうよ。言い値で買い取ってもらったんだからその分働かないとダメだからね!」

「こんなことになるのなら売らなきゃよかった。」

「それをわかってのあの値段でしょう。シロウ様の事をよく理解しておられます、さすがシープ様ですね。」

「解せぬ。」

そう、俺がこんな炎天下で働かされている理由はただ一つ。

仕込んだ羊肉をギルド協会に売ったんだ。

最初の露店が成功した後、羊男が気持ち悪いほどの笑顔でやって来た。

『シロウさんの仕込んだ羊肉をギルド協会で買い取らせてもらえないか。』

最初はまた馬鹿なこと言ってるのかと思ったんだが、予算がないとのことだったのでそれなりの金額吹っ掛けてやったんだがまさか首を縦に振るとは思わなかった。

契約は今回大量発生したウールウールの肉全てを一度俺が買取り、それを仕込んだのちギルドに放出する。

肉の仕入れ値は銀貨80枚。

それを金貨2枚で売りつけてやったんだが、まさかこんな事になるとは。

仕込んだ肉は夏祭りのメイン食材として大々的に告知、さらに販売を作り手である俺達に丸投げして来た。

人件費込みの買取価格とわかったのは今日の朝一。

その結果がこれっていうね。

「いいじゃない、賄いで肉は好きなだけ食べていいって言われたんだから。」

「焼き過ぎて食欲もでねぇよ。」

「でも、お米と一緒に食べると美味しいですよね。」

「私はエールと一緒が好きよ。それか、琥珀酒の発泡水割ね。」

「これだけ焼き続けてよくそんな気になるよな。」

「それだけシロウ様のお料理がおいしいという事です。」

「街の奥様方からどうやって仕込んでいるのか、しきりに聞かれました。断るの大変だったんですから。」

「これが終わったらまた仕込みをするか。」

「また大量繁殖すると良いわね。」

「それか直接買い付けるかのどちらかだ。仕込めば日持ちするから場所次第では商売になる。」

とはいえ、それをするためには定期的に卸す場所を探さなければならない。

普通は自分で仕込んで自分で売るから、わざわざ他所の味を自分の店で売ることはしないだろう。

そうなると買い手は一般家庭になるわけだが・・・。

売れないと廃棄になるからその辺が難しいんだよなぁ。

いっそレシピを売るか、それとも店を出すか。

これ以上手広くやってどうするんだよって感じだな。

「ほらシロウ手が止まってるわよ、次のお肉お願い。」

「はいはいわかったって。」

考え事は目の前の客を捌いてからだな。

それから四時間、休むことなく客を捌き続けた。

ギルド協会の告知の甲斐もあってか途絶えることなく客が訪れ、用意した肉は壺一つを残して完売した。

売り上げは・・・金貨1枚。

普通に考えれば多いが、仕入れ値から考えると大赤字。

でもそれに合わせて酒類が飛ぶように売れていたので結果として黒字化したと言えるだろう。

何よりみんな喜んでいる。

俺達はボロボロだけどな。

「おわったぁぁぁ!」

「お疲れさん。」

「はぁ、これでもう解散していいのよね?飲みに行っていいのよね?」

「後片付けは他の方がやってくださるそうです、どうぞ遠慮なく。」

「って事で行くわよシロウ!」

「俺は帰って寝たい。」

「ダメよ!明日は夏祭り本番なんだから今日のうちに飲んどかないと!」

「別に明日でもいいだろ。」

「明日じゃいつもよりも高いんだもの。」

普段それなりに稼いでいるというのにそう言う所はしっかりしてるよなぁ。

「っていうか、なんで夏祭り本番でこれを売らないんだ?」

「それはですね・・・。」

「いきなり出てくるなよ。」

「折角労いに来たというのにひどい仕打ちです。」

「疲れてシロウも気が立ってるのよ。で、なんでなの?」

突然後ろから羊男が姿を現した。

相変らず神出鬼没のやつだ。

労うだって?

これだけ働かせておいてどの口が言うんだよ。

「簡単です、これだけの人が一か所に集まると危険だからですよ。」

「混雑緩和の為ってか?」

「その通りです。この前の市場も大変だったんですから、これが夏祭りになると収拾がつかなくなるんです。」

「でもそれだけじゃないでしょ?」

「あ、わかっちゃいます?」

「今日味を広めとけば明日になればもっと売れる。わざわざ時間を制限してかつ肉の在庫を残してるんだ、それが狙いだろう。」

「あはは、シロウさんには敵わないなぁ。」

そもそも肉を仕込んだのは俺だぞ?

仕込んだ肉の量ぐらい覚えてるさ。

だがそれをせこいとは思わない。

それなりの金額で買ったんだ、買った以上利益を出すのが基本だよな。

「明日は祭りを堪能するんだ、俺は売らないぞ。」

「さすがにそこまでは言いませんよ。販売はこちらで何とかします。」

「まぁ焼くだけだし誰でもできる。」

「あぁそれとですね、一つお知らせが。」

「なんだよ。」

「先程、新たに見つかったダンジョンの閉鎖区画が無事に開通したそうです。」

「・・・それ以上は言うな。」

「なんでもそこでもウールウールが大量繁殖していたとか。良かったですね、夏祭りの後も大忙しですよ。」

全然嬉しくない。

毛玉は場所を取るし肉は、肉は仕込めばいいか。

この前の材料が残ってるはずだが、しまった醤油が無い。

後で在庫を聞きに行かないと。

当分はジンギスカン祭り継続だな。

まじでどこかに店を出すか?

それとも隣町に売り込むか?

売り込んだほうが早そうだなぁ、この距離なら痛むこともないだろう。

向こうも祭りぐらいあるだろうし、なんなら一度露店で販売してから売り込んでやってもいい。

あの女豹のことだ、すぐに気づいて飛んでくるぞ。

味付き肉ってなかなかなじみがないみたいだし、これを機にブームを作るとするか。

もちろん味付けは企業秘密だ。

一緒に毛玉も売りつければ在庫もはける。

あそこなら職人たちが何かに使ってくれるに違いない。

よし、決まりだ。

「はぁ、頑張るしかないか。」

「当分お肉には困らないわね。」

「お前は食えたらなんでもいいんだろ?」

「そんなことないわよ、シロウが作ってくれたご飯がいいの。」

「はいはい、ありがとう。」

「もぉ!本当なんだから!」

横で吠えるエリザをなだめながら明日からの動きをシミュレートする。

まだまだ夏は長い。

肉でも食って元気をつけないとやっていけないよな。

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