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333.転売屋は彗星をみる

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「ねぇ、今日の夜ほうき星が見えるそうよ。」

「ほうき星・・・あぁ彗星な。」

「シロウ様は見た事があるのですか?」

「流星群ならちょくちょく見たが彗星は一度だけだな。」

ハレー彗星か何かを見た記憶がある。

確かそれが来た後は人類が滅亡するだの未知のウイルスが蔓延するだの色々噂になったなぁ。

こっちでもそういうのはあるんだろうか。

「ねぇどんなのだった?」

「別に、ちょっと流れるのが遅い大きな星だし。こっちに落ちてくる訳でもないだろ。」

「え?」

「え?」

なに、こっちの世界は落ちて来るの?

「確かに近くに落ちるのは滅多にありません。もし落ちてきたのなら大儲けでしょう。」

「どういうことだ?」

「だから、隕鉄の塊が落ちて来るのよ?拾ったら大儲けできるねって話じゃない。」

「あぁ!」

そうか、隕鉄な。

隕石の鉄で隕鉄。

つまりは流れ星に乗ってきた鉱石だ。

てっきりダンジョンの中でしかてにはいらないとおもっていたが、そうか降って来るのか。

そりゃそれなりの数が出回ってるのも納得だ。

「あんなでかいのが落ちてきたら大変だろうなぁ。」

「そっかぁ、やっぱり大きいのね。」

「そりゃ肉眼で見えるぐらいだからな。」

「さぞ綺麗なのでしょう。」

「今晩だから、倉庫の上に集合ね。」

「わざわざあそこまで行くのか?」

「だってあそこが一番よく見えるんだもの、他の明かりも少ないし。」

「それなら街の外に出たほうが良くないか?」

「彗星が降る夜は魔物が暴れるのよ、知らなかったの?」

「聞いた事もないな。」

「え~嘘だぁ、ミラは知ってるわよね?」

「はい。外に出るなと聞いた事があります。」

じゃあ大人しく家に居ろよという話にはならないらしい。

「だから倉庫の上に集合ね、鍵はシロウが持ってるんだから早めに開けといてよ。ご飯とかお酒はこっちで準備するから。」

「はいはいわかったよ。」

「毛布類は私が持って行きます。夏とはいえ夜風は冷えますから。」

「最悪そのまま泊まる感じで行こう。何なら天幕をはるか?」

「いいわね!」

「焚き火は流石に無理だが火の魔道具をコンロ代わりにすれば湯ぐらい簡単に用意できる。確かこの前、川に行った時のやつが倉庫にあったな。」

「一応掃除はしてありますのですぐに使えるかと。」

街中での簡易キャンプだ。

彗星を見ながら一杯やるのも乙なもの。

決まりだな。

まだ営業時間なので飲み物や食べ物をエリザに任せ、ミラとアネットに道具の準備を任せる。

持って行くのは俺だけどな。

そしてあっという間に時間は過ぎ、夕刻。

オレンジ色に空が染まる頃、俺達は倉庫の前に立っていた。

「お招きいただきありがとうございます。」

「ありがとうございます。」

「悪いな急に呼び出して。」

「シロウ様のお誘いなら喜んで、ねぇハーシェさん。」

「はい、何よりも優先しますよ。」

いやいやそれは流石に言い過ぎでしょ。

俺達だけで楽しむのもあれなので、ハーシェさんとマリーさんも呼んでみた。

本当はモニカやルティエ達にも声をかけたのだが、モニカは子供達の世話、ルティエは工期が押しているとのことで辞退との事だ。

職人通り全体での企画だけに失敗できないというプレッシャーもあるんだろう。

気晴らしの意味も兼ねていたんだが、今度はそれも含めて強引に誘ってみるか。

「お待たせ!」

「混んでたか?」

「うん、皆彗星を見る為に買い込んでるみたい。早めに動いて正解だったわ。」

「良くやった。それじゃあ上に上がって準備するか。」

倉庫の鍵を開けゾロゾロと中を進む。

屋上への隠し扉を開ければ街が鮮やかなオレンジ色に染まっているのが目に飛び込んできた。

「うわぁ!」

「すごい、街が一望できます。」

「よそ見して落ちないでくれよ。」

「一応私が最後に行くから。」

「あぁ、よろしく頼む。」

俺が最初に上がる理由は一つしかない。

エリザを除いた四人がスカートだからだ。

下から覗けば色々と見えてしまう。

男からしたら幸せな光景だが、さすがにそれ目当てで最後に行くほど飢えてはいない。

マリーさんを除いた全員と関係があるわけだし、そこまでしてみたいわけでも・・・。

いや、見たい。

それが男という生き物だ。

でもまぁ今日じゃなくてもいいよねって話だよ。

屋上に上がり荷物を置く。

あぁ重かった。

「すごい、ここからの景色も綺麗です。」

「こんな場所があったんですね。」

「さて、感動するのもいいが今は時間が無い。日暮れまでに色々と設置したいから手伝ってくれ。エリザ、天幕は任せた。固定はできないから隠し倉庫から重しになる物をぶち込んどいてくれ。」

「了解。」

「ミラとアネットはテーブルと椅子をよろしく、マリーさんとハーシェさんは持って来た飲み物なんかを用意したテーブルに並べてくれ。俺は一度下に降りて残りの荷物を運んでくる。」

上は任せて再び倉庫の下へ。

流石に毛布類は運べなかったので下に置いて来た。

上にいると何かと気を使うのでこうやって何も考えずに体を動かす方が性に合ってる。

何往復かして毛布を運び、再び上に上がると準備がほぼ完了していた。

って。

「なぁ、火気厳禁だよな?」

「大丈夫よその為の焚き火台だから。」

いや、そうじゃなくて。

置いてあるものに引火したりするからやめようって話じゃなかったっけ。

なんでど真ん中に焚き火が設置してあるんだよ。

確かに直ではなく台の上で燃やしてるようだけど、危険なのはここだけじゃないんだぞ。

「火の粉が飛んだらどうするつもりだ?」

「そん時はその時よ。」

「・・・俺は責任取らないからな。」

「大丈夫だって、そういうのを防止する機能がついてるから。」

「謎機能だな。」

「シロウ様、準備が出来ましたのでお席へどうぞ。エリザ様そろそろよろしいですか?」

「ん~、おっけ。じゃんじゃんやっちゃって。」

エリザが焚き火台の薪を綺麗にならしていく。

パチパチと火の子がはじける音はするが、左右にではなく上に向かって飛びあがりそしてまた戻って来た。

どういう原理かはわからないがそういう物なんだろう。

熱気はこっちにも伝わっているのに、不思議なものだ。

台の上に網を置き、ミラが素早く肉を並べていく。

どうやら今日はバーベキューになったようだ。

ハーシェさんとマリーさんが目を輝かせてそれを見つめている。

「二人ともこういうのはあまり食べないのか?」

「そうですね、野営の経験はありますがこういうのは。」

「私もです。」

まぁ二人ともこういう豪快な食事に縁なさそうだもんなぁ。

いつのまにか日は沈み静寂と闇が支配する時間。

しかし街を一望する倉庫の上だけはまだ、オレンジ色の明かりで色づいていた。

「あ~食べた食べた!」

「後は彗星を待つだけですね。」

「日が暮れてしばらくしたらって話だからもうすぐじゃないかしら。」

空には星が瞬いている。

元の世界と違いここには明かりが少ないので街中でも星が良く見える。

夜風が冷たくなってきたので、全員毛布にくるまりながら上を見上げていた。

「で、今更なんだが彗星を見ると何かいいことがあるのか?」

「ないわよ?」

「無いのかよ。」

「最初にお話ししたように近くに落ちれば儲かるかもしれませんが、見るだけです。」

「でも子供の頃は願い事をするとかいいませんでした?」

「言った気もするわねぇ。でも大分小さい時よ?」

「夢のない奴だな。」

「うるさいわね、いいじゃない!」

まぁまぁとアネットが間に入りエリザをなだめる。

最近は随分とエリザのあしらいがうまくなったなぁ。

引き続き頼むぞ。

「あ、見えましたよ!」

一番最初に気付いたのはハーシェさんだった。

全員がハーシェさんの指さす方に目を向ける。

そこには、瞬く星々の間に白い筋をつける何かがあった。

俺が思っているよりも大きい。

まるで巨人の指か何かがが空をなぞっているようだ。

「大きい。」

「すごいですね!」

「こんなに大きいとは思いませんでした。」

「話に聞いていたよりもずっと大きいわ、落ちてきそう。」

エリザがそう言うのもわかる。

動きが見えるんだ。

彗星がゆっくりとだが確実に高度を落としながら大きな筋を作っている。

「綺麗ですね。」

「あぁ、これは良い物を見た。」

「今回の彗星の様に大きい物は30年に一度しか見れないと言われています。」

「ってことは今回が最後かもしれないわけか。」

「はい。これをシロウ様と見る事が出来て幸せです。」

「あ、ずるい!私も御主人様と見れて幸せです。」

「ちょっと、何いちゃついてるのよ。今は彗星を見る時間でしょ!」

アネットとミラに挟まれていると、エリザが文句を言ってきた。

そしてハーシェさんとマリーさんが羨ましそうな目でこちらを見て来る。

いやいや皆さん彗星を見ようよ。

エリザもそう言ってるだろ。

結局その後は全員で床に寝そべり、真上に輝く星と彗星を見ていた。

焚き火はとうに燃え尽きたがそれでも女達の話は尽きない。

俺は睡魔に負けて今にも寝落ちしそうだ。

そろそろ天幕に入ろうか。

そう思ったその時だった。

突然の閃光に目の前が真っ白になる。

「キャ!」

「見えない!」

「何ですか!?」

横にいる女達も慌てているようだ。

俺はたまたま目を瞑っていたが、それでも目の前が真っ白になる程の閃光だった。

恐る恐る目を開けると先ほどと同じく星が輝いている。

だが、もう一つ、本来そこにあるはずのものが無い。

「彗星が。」

「消えた?」

先ほどまで白い筋を作り輝いていたはずの彗星が無い。

何処を見てもない。

あんなに大きなものが無くなる?

そんなバカな。

そう思って辺りを見渡していると、今度は何か白いものが街の向こうから迫って来るのが見えた。

ヤバイ。

それだけは分かった。

「走れ!」

「え?」

「いいから早く、隠し部屋まで走れ!」

毛布を蹴飛ばし両サイドのミラとアネットの手を引っ張って強引に起こす。

即座に反応したエリザも同様にマリーさんとハーシェさんの手を引っ張って走り出していた。

あれはほとんど引きずっていたと言ってもいい。

ともかく大慌てで隠し部屋の階段を下り、ふたを閉める。

と、同時に倉庫が大きく揺れた。

そして聞こえて来る轟音。

女達の悲鳴を聞きながら俺は両手で女達を包んだ。

何が起きた?

音が止んでしばらくしてから恐る恐るふたを開ける。

まず見えてきたのは満天の星空。

だが顔を出して愕然とする。

本来そこにある物が無い。

そう、先ほどの彗星の様に、先ほどまでそこにあった天幕やらなんやらが全て無くなっていた。

一体何が起きたというんだろうか。

呆然と全員で顔を見合わせる。

何が起きたのか、それが分かったのは翌朝になっての事だった。
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