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313.転売屋は王都とのコネを作る

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マリーさんが妹から聞き出した情報はすさまじい物だった。

商人であれば喉から手が出るほど欲しい物ばかり。

王都に属する貴族の家族関係に始まり、誰がどんなものを欲しているかとか、何が好きかとかその手の情報が10枚の紙にまとめられた。

そしてそれが今、俺の手元にある。

これを売ればどれほどの金を生み出すだろうか。

いや、金を得る前に殺されるかもしれない。

まさに門外不出。

恐ろしいものを手に入れてしまったものだ。

「では、これを元に仕入れを?」

「いや、いきなり自分の好みの物を送られても困るだろう。しばらくは様子見・・・と行きたい所だがこれを活かさない手はない。とりあえずは奥様をターゲットに化粧品を売り込むつもりだ。」

「妙齢の娘さんがいる所も狙い目ですね。」

「あぁ、結婚適齢期の女性はそういうのを気にするからな。リノンに頼んで特注の容器を何種類か用意してもらうか。」

「あぁ、また悲鳴が聞こえそう。」

「嬉しい悲鳴だろ?」

「その通りです。自分の作品が売れて喜ばない職人はいませんよ。」

ミラの言う通りだ。

若干、いやかなり大変かもしれないが、あそこは個人工房じゃないし最近は仲間にも仕事を振っているそうなので周りも大喜びしているはずだ。

うん、きっと、メイビー。

「職人で言えばルティエもそうだな。あいつのアクセサリーは王都でも売れる、俺が保証する。」

「涙貝はそれなりに知れ渡ったはずですが、王都となるとまだ手に入れていない人もいるはずです。それと、冒険者向けの品も売れそうですね。」

「ダスキーに言って多めに手配してもらうか。」

「それよりも直接仕入れられてはどうですか?」

「直接?」

「鉱山を紹介してもらって屑石を買うんです。駄目でしょうか。」

「あの妹なら出来そうだが、ちょっとなぁ。一応頭の片隅に入れておく。」

金があるとはいえ無限ではない。

特にアクセサリーなんてものは流行によって左右されるから、下手に在庫を抱える可能性もある。

やはり身の丈に合った商売が一番だろう。

「では化粧水とアクセサリーですね。」

「それと、滋養強壮剤と避妊薬もだ。」

「娼館に売り込むのですか?」

「いや、貴族相手に売る。前にノワールエッグを売った時にレイブさんが言ってたんだ、夏は色々と大変だってね。」
一夏の恋じゃないが、その時のお楽しみで子供を授かるのはまずいだろう。

それこそ適齢期の女性は気にするだろうし、楽しみたい男性にも売れるはずだ。

別に数が売れなくてもいい、名前が売れれば次に繋がる。

地道にコツコツが良い商売の基本ってね。

そんなことを話していると扉が開き、マリーさんが顔を覗かせた。

「失礼します、シロウ様はおられますか?」

「マリー様丁度いい所に。」

「さぁ、入って入って。」

「あの、実は・・・。」

「どうしたの?」

「オリンピアも一緒なんです、大丈夫でしょうか。」

ピタッと女達の動きが止まった。

違う止まったのは俺か。

大丈夫かと言われて大丈夫じゃないと言えるだろうか。

いや、言えない。

この炎天下に王族を外で待たせるとか、恐ろしくてできるはずがない。

とはいえここは小汚い街の買取屋。

そこに王族を招くのはどうかと思うはなぁ・・・。

いや、小汚いは言いすぎか。

「どうぞお入りください。」

「エリザ、二階に案内してくれ。」

「分かったわ。」

「そんな、下で結構です。」

「違うんですマリー様、他のお客様が来られると面倒なので。」

そういう事なんだよ。

アッと何かを察してくれたようで申し訳ない顔をするマリーさん。

そしてその後ろからあの小娘が顔を出す。

今はマリーさんの大切なご友人。

オリンピア・・・様だ。

「こんな場所までわざわざどうも。」

「マリーさんに呼ばれたから来ただけです。」

「もぅオリンピアったら、恥ずかしがらないの。」

「とりあえず上に行ってくれ、アネット香茶を頼む。一番良い茶葉でな。」

とりあえず店の戸を開けて閉店の札を出す。

これで余程の事がない限り邪魔者は来ないはず。

ちらっと扉の横を見ると、頑丈な鎧を身に着けた兵士が俺を睨んでいた。

大丈夫だって何もしないから。

暑い中ご苦労な事だ。

二階に上がろうと階段に足をかけると、何やら上から楽しげな声が聞こえてくる。

女五人、姦しいを通り越して騒がしいだなこれは。

「何を盛り上がっているんだ?」

「オリンピア様が実は大の冒険者好きだという事が判明したんです。」

「しかもエリザ様の大ファンなんですって。」

「大ファン!?」

「あぁ、ご本人に会えるとは思っていませんでした。あの、サイン頂けますか?」

「サインなんて無いんだけど、ねぇ何で私のこと知ってるの?」

「えぇ、エリザ様はご存じないんですか?これですよ、これ!」

興奮気味にカバンから取り出したのは随分とボロボロになった雑誌だった。

なになに、凄腕冒険者特集?

「ギルドの出されてる雑誌ですね。」

「え、そんな事やってるの?」

「二・三年に一度出されていたと記憶しています。」

「この雑誌に載れるのはごく限られた冒険者だけなんです!」

「だ、そうだ。良かったなエリザ。」

「なんでエリザ様を呼び捨てなんですか!?」

「え、だってシロウの女だし。」

「え?」

「え?」

恐ろしい目で俺を見てくる妹と、それを見て驚いた顔をするエリザ。

もう知らん。

好きにしてくれ。

「ちなみにミラ様とアネット様はシロウ様の奴隷です。ミラ様は鑑定スキル持ち、アネット様は銀狐でありさらには凄腕の薬師でもあります。他にも、錬金術師の奴隷をお持ちなんだから。」

「いや、何でそんなに自慢げなんだ?」

「シロウ様のすばらしさをオリンピアにも知ってもらいたくて。」

「どう考えても逆効果だと思うぞ。」

怒るどころかむしろ引いている。

俺は一体どういう風に思われているんだろうか。

別に構わないんだけどさ、向こうで変な事を言われないかが心配だ。

まぁエドワード陛下は全部知っているのでそれだけが救いだな。

「あのね、私はシロウに助けられたの。だからその恩を返しているだけ。まぁ、惚れたってのもあるけどね。」

「私もお母様を助ける為に買って頂きました。」

「私もオークションで売られた所を助けてもらったんです。友人のビアンカも、非合法の連中に売られるところをご主人様が買ってくれたんですよ。」

「ようは人助けをしたって事ね。私達は誰も無理強いされてここにいる訳じゃない、それは覚えておいてよね。」

「ちなみに私はシロウ様の用意してくださった化粧品のお店で働かせて貰っているの。働くってとっても楽しいんだから。」

「てな感じなんだが、誤解は解けたか?」

「エリザ様とお姉様がそういうのなら。」 

つまり誤解は解けても信じた訳じゃないってことね。

もうそれでいい。

「で、そもそも何しにここに来たんだ?」

「そうでした。オリンピアが明日の朝王都に戻るのでご挨拶に。」

「もう帰ってしまわれるんですか?」

「お兄様の亡くなった場所を見に行くという言い訳でここまで来ましたもの。それに、早く戻って新鮮な情報をお届けしないといけませんわ。」

「最新情報はオリンピアから随時送ってもらう事になりました。これで、流行に乗り遅れる事もありません。」

「ついでに、貴族からの注文にも対応できるわけか。すごいコネだなこれは。」

「王族直々の依頼もいただけるわけですしね。」

それはあまり頂きたくないが、まぁ金になるならいいか。

「いっそのことお姉様がこちらに来るのはダメですの?」

「私はシロウ様のいる所にいます。」

「俺は当分この街から出ないつもりだ、まぁ、観光にはいくかもしれないけどな。」

王都は遠いからなぁ。

よほどの用事がなければ行くことは無いだろう。

この街でやりたいこともできる事もまだまだある。

出かけるとしても隣町ぐらいなものだ。

「つまり当分はここって事ね。」

「そう・・・。」

「悲しまないでオリンピア、貴女が来てくれる分には大歓迎よ。次に来るときまでにお屋敷が出来ていると良いんだけど。」

「足りないものがあったらいつでも私に仰って、お姉様!」

「えぇその時はお願いね。」

普通はお屋敷の部分にツッコミをいれるものだが、さすが王族何とも思っていないようだ。

足りない物の単位がおかしいとは思わないのか?

思わないんだろうなぁ。

「この後はどうするんだ?」

「一緒に露店を見て回ります、それと時間があれば冒険者ギルドに。」

「それなら私も一緒に行くわ。あの場所にこんな美人が行ったら大変な事になるのは目に見えてるしね。」

「そうしてくれ。ついでにこの前の依頼も確認してくれると助かる。」

「はいはい、ボンバーフラワーね。」

「なんですか、それは。」

「まぁ見てのお楽しみ。というか、そもそも持って帰れるかもわからない。」

「楽しみにしていますね。」

「お姉様!」

「ふふふ、やきもち焼いちゃってオリンピアったら可愛いんだから。」

だからそういうのは俺のいない所でやれと。

はぁ、コネが出来たのは良いが随分と大ごとにもなりそうだなぁ。
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