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311.転売屋は商才を見出す

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化粧品の再販が始まって一週間。

もうすぐ18月になる。

マリーさんが担当している化粧品の販売はなんていうか絶好調、毎日完売が続いていた。

いや、もともと売れる商品なんだから当たり前なんだけど、普通は買えない人から不平や不満が出るものだ。

しかし、客からそれが聞こえることは無く皆ニコニコとして帰っていくのだから不思議だよなぁ。

「ありがとうございました。」

深々とお辞儀をして最後の客を見送ったのはまだ夕方前。

陽がどんどん長くなっているだけに日中と言ってもいい時間だ。

「今日も早いな。」

「あ、シロウ様。おかげ様で今日も完売できました。」

「こんなにも喜んでもらえてカーラも作った甲斐があっただろう。楽しいか?」

「はい!前の自分はとても窮屈な思いをしていましたから。それに比べると自由で、やっと本当の自分になれたように思います。」

マリーさんの視線の先には黒い旗。

昔の自分が死んだことを表す旗だ。

「そいつは何よりだ。案外商人が向いているのかもな。」

「え、私がシロウ様と同じ商人に?」

「俺だったら客の何人かを怒らせて帰らせていただろうしな。」

「でも、私では冒険者の皆さんを相手にするのは荷が重いですよ。」

「適材適所ってやつだな。今日はどうするんだ?」

「時間もありますので露店を見て回ります。足りないものがいくつかあるので買い足したくて。」

「日差しが強いから日焼けに注意しろよ。じゃあ俺は戻るから。」

「はい、わざわざありがとうございました。」

マリーの店を出てまた露店へと戻る。

決して心配して見にいったんじゃないぞ?

荷物を取りに行くついでに寄っただけだ。

「ただいま。」

「おぅ、おかえり。」

「遅かったじゃないか。」

「別の店を見に行ってたんだよ。」

「かぁ~、二店舗ももつと大変だなぁ。いや、ここを入れたら三つか?」

「別に大変でもないさ、俺が行かなくても繁盛しているみたいだし。いや、むしろいない方がいいか?」

「・・・そんな寂しいこと言うなよ。」

「いやいや、事実だって。俺が化粧品を売るよりも同性に売ってもらう方が安心だろ?」

よっぽど安心感があるってものだ。

むしろそれが繁盛している理由かもしれないな。

「物が物だけにその方がいいだろうねぇ。」

「だろ?な、おばちゃんも言ってるじゃないか。」

「適材適所ってやつか。」

「まぁ、冒険者でもない奴がこんなもの売っている時点でどうなんだって話もあるが、その辺は気にしないでくれ。」

「いいんだよ、アンタはアンタにしかできない事をやってるんだ。ほら、客が来たよ。」

おばちゃんに促されて前を見ると馴染みの冒険者が商品を覗き込んでいた。

えーっと、確かこの間中層に潜りだしたって言ってたよな。

「いらっしゃい、新しい武器か?」

「中々いいのが無くってさぁ。」

「中層を行くなら硬さを重視した方がいいぞ、鉄程度じゃすぐに刃が欠けるからな。隕鉄、もしくはダマスカスがお勧めだ。」

「でもな~高いんだよな~。」

「これなんてどうだ?」

『隕鉄の両刃斧。重量はあるが丈夫な隕鉄を使っているため、少々の事では刃こぼれしない。軽量化と硬化の効果が付与されている。最近の平均取引価格は銀貨72枚、最安値銀貨50枚最高値銀貨88枚。最終取引日は32日前と記録されています。』

取り出したのはかなり巨大な斧だ。

子供なら後ろに隠れることが出来るぐらいに両刃の部分は大きい。

これを振り回すにはかなりの筋力を必要とするが、まぁこの人なら問題ない。

背丈は2mを超え、ラグビー選手も真っ青な上半身をしている。

まるで歩く戦車だ。

「隕鉄で軽量化と硬化の効果がついているからかなり使いやすいぞ。確か、盾役も兼ねてるんだったよな?」

「え、シロウさんそんなことまで覚えてるのか?」

「けが人が出たって泣きながら古い武器を売りに来たじゃないか。」

「な、泣いてねぇし!」

「まぁそういう事にしておいてやるよ。こいつなら振り回しても問題ないし、少々の攻撃なら十分に防げる。そうだな、銀貨70枚・・・と言いたい所だが特別に銀貨50枚でいいぞ。」

「えぇ、無茶安い!いや、でも高いかぁ。」

「なんだ、まだ入院してるのか?」

「そうなんだよ。治療費だって馬鹿にならないし、でも深く潜らないと稼ぎもなぁ・・・。」

基本冒険者は一人で潜らない。

複数人でチームを組んで役割分担しながら探索をしている。

ここのチームはこの前盾役が怪我をしてしまい、それ以降深い所には潜れていなかったはずだ。

「それなら銀貨40枚で譲ってやる。」

「え!マジで!」

「ただし中層に潜った時にトレントの古木を持ってきてくれ。その斧で思いっきり振りぬけば簡単だろ?
?」

「いや、簡単だろって無茶言うなぁ。」

「出来るよな?」

「まぁ、出来るけど。何本もってきたらいいんだ?」

「古木なら10本、若木なら8本でいいぞ。」

「うへ~、めんどくさ。でもその金額なら仕方ないかぁ。」

「じゃあ交渉成立だな。ほら、銀貨40枚さっさと出しやがれ。」

渋々と言った感じで銀貨を出した冒険者から代金をふんだくり、代わりに斧とポーションを渡してやる。

「え、これは?」

「この前のお祭り騒ぎで残った奴だよ。どうせ自分達の回復薬もケチってんだろ?怪我したら意味ないから慎重に行けよ。」

ビアンカたちが頑張って作った奴だが、些か在庫が余ってしまった。

大半は冒険者ギルドに買い取ってもらったんだが、向こうにも予算というものがある。

流石の王家も備蓄分の金は出してくれなかったんだよな。

「有難うございます!」

「納期は一ヵ月、18月の終わりまでによろしくな。」

「任してくださいよ!」

ちなみに両手斧は銀貨40枚で買った。

利益は出ないが、古木と若木分は稼げるだろう。

トレントはすぐ放置されるから中々素材が出回らないんだよな。

あの武器ならそんなに苦労なく倒せるだろうし、若木が手に入ればエルロースが喜ぶ。

一石二鳥というわけだ。

去っていく冒険者を見送ると、視界の端に見覚えのある人がいる。

そうか、露店を見に来るって言ってたな。

「マリーさん、どうしたんだ?」

「すみません覗くつもりは無かったんですけど。」

「別に見られて困るもんじゃないしな。」

「おいおい、誰だよこの美人。」

「また手を出したのかい、この節操無し。」

「人聞きの悪いこと言うなよ、この人が化粧品を販売してくれているマリアンナさんだ。」

「初めまして、マリアンナと申します。マリーとお呼びください。」

深々と頭を下げるマリーさん。

おいおいおっちゃん、胸に目が行くのは仕方ないが見過ぎだぞ。

「なんだい、いい子じゃないか。」

「ミラ様のお母様ですよね、いつもお世話になっております。」

「手の早い男だからアンタも気を付けるんだよ。何かあったらミラか私にすぐ言いな。」

「ふふふ、有難うございます。」

「おっちゃんは保存食と乳製品の販売、おばちゃんは日用品を売ってる。そういや足りない物を買いに来たんだって?」

「はい。ちょうど調理道具を探していたんです。見せて頂けますか?」

「もちろんだよ。ここにない物もあるから欲しいものがあったら言うんだよ。」

はやくもおばちゃんを味方につけたマリーさん。

こういう所が凄いんだよなぁ。

人心掌握っていうのか?初対面の相手にも好かれるってすごい事だともう。

「こんな美人と仕事してるのかよ。」

「いやだから店を任せてるだけだって。」

「はぁ、俺にもそんな人来ねぇかなぁ。」

「嫁さんに怒られるぞ。」

「うちのはいいんだよ。」

口ではこんなこと言ってるが奥さんにベタぼれしてるからなぁおっちゃんは。

まだ挨拶したことないが、機会があればあってみたいものだ。

しばらくマリーさんとおばちゃんが楽しそうに商談しているのを眺めていたのだが、ふと足元に置かれた荷物に目が行ってしまった。

何だろうあの長いやつ。

武器・・・じゃなさそうだな。

「なぁ、それはなんだ?」

「これですか?ロングカプラの角です。」

「じゃあそっちは?」

「これはジャイアントフロッグの脂ですね。」

「その四角いの。」

「ブロックロックです。レンガの代用品になるんですよ。」

魔物の素材ばかりだな。

何でそんなものを買ってるんだろうか。

「そんなものどうするんだい?」

「シロウ様、願いの小石を覚えていますか?あれってここではそこまで高くないのに王都だとかなり高値で取引されているんです。それと同じくこれらは向こうでは結構珍しいものなんですよ。」

「へぇ、そいつは知らなかった。」

「ブロックロックなんて邪魔なだけの魔物だろ?それが高値で売れるのか?」

「家を建てるのには使えませんけど、ちょっとした家具にするには加工がしやすいので今人気なんです。品質を確認して、問題なければ向こうで売ろうかな~と。」

「兄ちゃん、商売敵現るって奴だな。」

「そのようだ。」

「待って下さい!そんなつもりは!」

「いや、儲かるのならば何でもするべきだ。この辺の事は分かっても王都とかそっちの事は全然知らないからな、しっかり稼いでくれ。」

「何拗ねてんだい。」

「拗ねてないし。」

まさかマリーさんにそんな才能があったとは。

いや、商才?

聞けば王都でも今回の化粧品は話題になっているらしい。

これは土地を跨いで新しい商売が出来るかもしれないな。

そんな事を思ってしまった。
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