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296.転売屋はジムをプロデュースする

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エリザブートキャンプは無事に終わりを迎えたが、一度体を動かす癖がつくと何もしないのが不安になる。

ウォーキングという名の散歩は継続。

腹筋背筋なんかは風呂の前にボチボチやる程度。

それではちょっと物足りないんだよなぁ・・・。

って事で始めたのがこれ。

「重くない?」

「いや、いい感じだ。」

「まさか魔物の素材をこんなことに使われるとは・・・。」

「物は使い様ってな、水さえあれば簡単に作れるのが良いよな。」

「ただ重たいだけの素材も使い方によっては筋肉を鍛えるのに使えると。ビックボーンもまさかこんなことに使われるとは思わなかったでしょうね。」

作ったのは二つ。

一つはビックボーンと呼ばれる巨大な骨の魔物。

そいつの上腕骨が良い感じの重さと長さだったので両サイドに錘をぶら下げてベンチプレスもどきを作ることが出来た。

もう一つは大蛙の頬袋を使った水ダンベル。

入れる水の量で重さを変えられるので負荷をかけたければ重くすればいい。

水を入れても漏れず、かつ滑りにくいのでそれを持ってスクワットをするとかなり効く。

簡単に言えば水の入ったボールだ。

いい感じなのは空気がほぼ入らないので無駄に水が動き回らず重心が安定しやすい。

「材料費が安いのが良いよな。」

「どれも銅貨30枚以内ですから。」

「ビックボーンが手に入りにくいけど、ここまで大きいのは使い辛いでしょ。」

「いっそのことジムでも作るか?」

「ジム?」

「鍛えるための場所だよ。家に置くには邪魔だが使うと効果のある機器なんかをいくつか設置して、使いたい人に使ってもらうんだ。」

「使用料を取るんですね。」

「そこそこの広さがあれば、壁際をウォーキングやジョギング用のコースにして、中央でトレーニングをすればいい。そういや、ダンジョンはあるのに鍛える場所が無いっていうのも面白いな。」

普通はありそうなものだが、土地の問題だろうか。

「そんな所で鍛えなくても、実戦で強くなればいいじゃない。」

「だがそれだと怪我をするだろ?この前のエリザみたいに安全な場所で基礎を作るってのも大事だと思うがなぁ。それに、住民の中には体は動かしたいが場所がないみたいな人がいるかもしれない。ん、待てよ?」

「あ、またスイッチが入った。」

「ですね。」

「家庭用にはダンベルを売って、本格派には場所を提供すればいいのか。暇な冒険者、違うな基礎が分かっている冒険者にトレーナー教師役をやらせれば初心者でも入りやすい。加えて冒険者には金が入る…と。」

「シロウ、とりあえずギルドに相談したら?」

「それとギルド協会ですね。大蛙の頬袋は在庫がかなりありますから追加は必要なさそうです。」

さすが俺の女達だ、考えていることが手に取るようにわかるらしい。

よし、そうとなればさっそく行動だ。

「エリザ行くぞ。」

「はいはい。」

「「いってらっしゃいませ。」」

金儲けの匂いがする。

こりゃひょっとしたらひょっとするかもしれないぞ!

「あ~、王都で流行っている奴ですね聞いた事があります。」

「なんだ、他ではもう作られてるのか。」

ギルド協会で羊男がいたので早速拉致して話をしてみたのだが・・・、俺が最初かと思ったがどうやらそうではないらしい。

まぁ、当然か。

「今度は体を動かす環境を提供してお金を稼ぐんですね。確かに運動不足を嘆く声はよく聞きますし、街の奥様方には喜ばれるかもしれません。一人なら難しいですが何人か一緒にやれば重たい腰も上がるでしょう。何より教師がいるのが良いですね、正しいやり方をすれば身体も痛めにくい。シロウさん嵌っちゃいましたね?」

「エリザ程じゃないがな。で、良さげな場所はあるか?」

「ん~・・・運動後のシャワー室がネックですねぇ。」

「そう言えば風呂屋もないんだな。」

「燃料がないんですよ。周りに森があれば別ですけど、その為だけに大量の薪を仕入れるなんて無駄が多すぎます。」

「儲からなくて誰もやらないと、なるほどな。」

儲かるなら聡い奴がもう作っているだろう。

それが無いという事は、そういう事だ。

「それと場所ですけど、良さげな場所はないですね。シロウさんが良く知ってるように物件難ですから。」

「いっそ外に作るか?」

「この前の様に襲われるたびに作り直すんですか?」

「・・・倉庫は?」

「空き倉庫はありません。あ、いや、待ってくださいよ。確か・・・。」

何かを思い出したかのように立ち上がり、手に持っていた資料をめくり始める羊男。

「出来たてホヤホヤの物件です。あれ、古いからホヤホヤじゃない?」

「冗談は良いから。」

「最近真面目な話ばかりで冗談言えないんですよね、ってそんなに怖い顔しないでくださいよ。冗談ですって。」

「シロウ抑えて。」

「はぁ、わかったよ。」

「この前の長雨で天井が雨漏りした倉庫がありましてね、古いから取り壊そうって話になってるんですよ。でも、悪いのは雨漏り箇所だけで他は結構しっかりしてますから、そこさえ直せば使えると思うんですよね。」

「ってことは街の管理物件か。」

「はい。置いといても壊すだけですし、何かに使うならお貸ししますよ?ただし修繕費は自腹でお願いします。」

自腹かぁ。

そもそも儲からない事に金をかけたくはないんだが、値段次第って感じかな。

俺的には儲かると思うんだが、もう少し情報収集したほうがいいだろうか。

「賃料は?」

「一か月銀貨50枚でどうです?」

「微妙だな、まずは場所を見てからだ。」

「じゃあ早速行きましょう。」

「なんだよ随分急ぐな。」

「・・・次の会議に出たくないんですよ。」

「だからさっきもほいほいついて来たんだな?」

「何のことでしょう。ほら、善は急げと言いますから。」

最近サボりすぎな気もするが、どこかで天罰が下るだろう。

どちらにしろ俺の知ったこっちゃない。

羊男に引きずられるように倉庫街へと足を向ける。

そこは俺が借りている倉庫の二つ隣だった。

そういや古ぼけた倉庫があったなぁ。

まさかそいつだとは思わなかった。

大きさはうちの倉庫と同じかちょっと低いぐらい。

中は二階建てになっている。

天井までは5mぐらいありそうだ。

一階を大きく、二階は小さくしているんだろう。

「結構な広さね。」

「あぁ、それなりの人数が入っても問題なさそうだ。」

「20人ぐらいは常時使用できると思いますよ。奥に水場もあるので、裏に火の魔道具を設置すればシャワー室も作れます。」

「ふむ、可動式の壁で仕切れば目隠しにもなるか。二階は?」

「雨漏りであまり綺麗な状態じゃないですけど・・・。」

わざわざ言うってことはかなりの状況なんだろう。

そう覚悟して上に上がったのだが、思ったよりもひどくない。

いや、むしろ綺麗?

「おい、何を隠してる。」

「何のことですか?」

「雨漏り被害はほとんどなし。なのにこれだけの倉庫が急に空くはずがないよな。おい、何が目的だ?」

「あははは・・・。」

目線が泳ぐ羊男。

これはあれか?

あの人が裏にいるのか?

「はぁ、ローランド様か。」

「絶対に私が言ったって言わないでくださいよ。無茶苦茶怒られるんですから。」

「今度はなんだよ。店の件でチャラになっただろ?まさか!」

「そのまさかです。表には出してませんでしたが街の水不足って結構深刻だったんですよね。そんな時にシロウさんが雨乞いするとか言い出して、かつ成功させちゃうもんだから。」

「だからあの時急についてくるとか言い出したんだな。」

「そのまさかです。成功するか見極めて、もし本当なら褒美を出すと。」

「それがこれ?」

エリザまで呆れた顔をしている。

わかる、わかるぞその気持ち。

俺の気持ちを代弁してくれて助かるよ。

「前々からこの倉庫の老朽化は指摘されていたんです。なのでそろそろ建て直しをしようって話も出ていたのは本当です。そんな時にこの前の一件が起きたものだから、いっそのこと倉庫ごとあげちゃおうって話になったんです。仕事柄倉庫がもう一つあっても困りませんよね?」

「そりゃ困らないが、なんで賃貸なんだ?」

「タダで渡すとシロウさん勘づくじゃないですか。」

「そうじゃなくても勘づくだろ。はぁ、まったく・・・。あの人は俺に何を求めてるんだ?どこぞの猫型ロボットじゃないだぞ?」

「なんです、それ。」

「こっちの話だよ。」

困った時に役に立つ道具を出すロボット。

何でもかんでも俺にやらせればいいとか思ってるんだろ。

勘弁してくれ。

「で、どうです?悪い話じゃないと思うんですけど。」

「確かに使えたらありがたいが、上手くいくともわからない。とりあえず保留でいいか?」

「ですよねぇ。」

「とはいえ、前向きに検討したい。水場の横にすぐ階段があるのもいいよな、シャワー室は下で二階を更衣室にすれば広く使える。ロッカーも欲しい所だ。器具はこっちで準備するとして・・・。」

「じゃあ可動式の壁も一緒に見積もりますね。」

「あぁ。それなんだが、見積もりは隣町にも声をかけてやってくれ。複数の方が安く上がるだろ?」

というのは建前で、本音は前にアラクネの糸を卸した会社に仕事を回したい。

荷物を持って行く度に色々世話になっているから、そろそろ恩返ししないとな。

「わかりました、ひとまずうちで見積もりを作って確定してから見積もりを流します。いや~、これで肩の荷が下りました。」

「どうやって言い出すか悩んでいたわけか。」

「まさに渡りに船です。それと、今回の件は本当に良い企画だと思うので前向きに検討して下さいね。なんならアンケートもうちで取りますよ。」

「やる気満々じぇねーか!」

「いいじゃない、勝手にやってくれるんだし。そう言うの面倒でしょ?」

「ついでに嫁さんの所で教員出来るやつがいるかどうかも調べといてくれ。」

「もちろんです。」

まさかまさかの展開になったが、悪い話じゃないはずだ。

これがうまくいけば・・・。

いや、決めつけるのはまだ早い。

羊男のアンケートを見てからでも遅くないだろう。

さて、どうなることやら。

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