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287.転売屋は故郷の味を再現する

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米があれば何でもできる!

あれもこれもそれも作り放題!

という事で久方ぶりに朝から台所に張り付くのだった。

「ねぇそれは?」

「カツ。」

「じゃあこっちは?」

「みそ汁。」

「じゃあじゃあこっちは?」

「魚の干物。」

その後ろからエリザが逐一質問してくる。

ぶっちゃけ邪魔だが・・・今はそれどころじゃない。

「どれもお米に合う料理なのですね?」

「あぁ、味は昨日確認しただろ?」

「とっても美味しかった!」

「もっちりとしてでもふっくらでした。」

「噛めば噛むほど甘い味が口いっぱいに広がりました。」

「本当はもっと美味しいんだけど、古米だったからなぁ。」

「コマイ?」

三人が不思議そうに首をかしげる。

「収穫してから時間が経った米だ。新米に比べるとどうしても甘みは落ちる。でも使い方次第ではこっちの方がいい場合もあるな。」

チャーハンや炊き込みご飯には新米よりも古米の方がよく合う。

でも今日はカツだ。

「あんなに美味しいのに、まだ美味しくなるの?」

「あぁ、その為に醤油と味噌そしてダシがあるんだ。」

「あの硬い奴ね。」

「昆布はゆっくり煮出してるし、鰹節もどきも一番出汁は回収済み。あれは色々な事に使えるからな、冷めたら冷蔵用の魔道具に入れておこう。」

「何かお手伝いする事は?」

「そうだな・・・。」

やってほしい事は沢山ある。

揚げ物は俺がするとして下準備をお願いするか。

「まっかせといて!」

エリザが包丁でキャベツの千切りを作り、ミラが横でパン粉を細かくする。

アネットには卵を溶いてもらおう。

「油の温度よし。」

「出来たわよ!」

「こちらも出来ました。」

「じゃあ小麦粉卵にパン粉の順番で衣をつけて・・・っと。」

タネができたらそれを一気に油の中へ滑らせる。

ジュワジュワといい音を立てながら衣が揚がっていく。

「良い音、そしていい匂い。」

「高温の油で一気に火を通すのですね。」

「狩りたてとはいえ生で食うわけにはいかないからなぁ。焼くのには飽きたし。」

「唐揚げと同じ作り方のはずなのに、仕上がりが全然違いますね。」

「本当はソースがあると良いんだが、俺は醤油派なんだ。」

「ソース?」

「調味料だよ。確か自前でも作れたはずなんだが・・・また思い出しておく。」

「うん、楽しみにしてる!」

いつも完成品しか買ってないからなあ。

マヨネーズはなんとなく覚えているけど、ケチャップとかソースはまるで分らない。

誰か知っている人がいると良いんだけど。

そんな事を考えているうちにカツがきつね色になってきた。

うーん、この時点で旨そう。

せっかく米があるんだし、ここはひとつかつ丼という手もありではないだろうか。

えーっと確かあれは酒とダシと醤油と・・・みりん?

そうだ、みりんが無いわ。

仕方ない砂糖でごまかすか。

とりあえず少量ずつ混ぜて、そこにお水を足してっと。

「こんなものか。」

「これは何でしょう。」

「米があるのにかつ丼を食わない理由がないからな。」

「いや、よくわからないわ。」

「まぁまぁ見てろって。」

カツを揚げつつ、横でカツとじの準備をする。

小さめの鍋にさっきのわりしたとオニオニオンを少しだけ入れて、ざく切りにしたカツを投入。

そのまま火にかけてぐつぐついってきたら溶き卵を回しかけして、コメの上にのせれば・・・。

「これがかつ丼だ。」

「お米の上にのせるんですね。」

「米が少し硬いから、汁気を吸っていい感じになる。個人的にはひたひたが好みだ。」

「とにかく美味しそう!」

「俺はカツを揚げていくから先に食べていいぞ。」

「え、いいの!」

「熱々を食うから美味いんだよ。」

俺も食べたいがこれを揚げきってしまわないと飯が食えない。

おっと、塩焼きもいい感じだ。

味噌汁も・・・、うん美味い。

それから30分ほどで全ての料理が出来上がった。

カツと魚の干物とみそ汁。

最高の昼飯だな。

「さて、俺も食うか。」

「お先に頂いています。」

「美味しいですご主人様!」

「そいつはよかった。エリザは・・・いや、何も言うな顔でわかる。」

かつ丼がかなり気に入ったようで早くも二杯目だ。

米を少なくしているのでほぼカツとじだが、まぁ気に入ってくれたのならなによりだよ。

どれどれ・・・。

サクサクのカツにしょうゆをかけて、キャベツと一緒に口の中へ。

さらに米を投入して・・・。

「あぁ、これだ。」

「美味しいですか?」

「我ながらよくできたと自画自賛しよう。久しぶりに食うと美味いな。」

「これがシロウ様の故郷の味なのですね。」

「まぁそういう事になる。醤油と米さえあれば何でもありって文化だけど。」

「このお味噌汁も美味しいです。具材一つで味が変わるのってすごいですよね。」

「干物のはずなのに身はホロホロで、塩加減が絶妙です。お米が進みますね。」

エリザはカツ、ミラは干物、アネットは味噌汁がお気に召したようだ。

俺はもちろん全部だけどな。

あれだけあったカツがあっという間に無くなってしまった。

「ふぅ、ご馳走様。」

「美味しかったです。」

「シロウ夜も食べたい!」

「夜は勘弁してくれよ。」

「え~、シロウの料理もっと食べたい。」

「俺だって食べたいが、コメに限りがあるからな。当分はお預けだ。」

「ハーシェさんに頼まないといけませんね。」

そうなんだよ!

朝行ったら留守だったからまた時間を見てお願いしに行かないと。

「西方かぁ・・・あまり行った事ないのよね。」

「そうなのか?」

「うん、向こうはダンジョンが少ないから。」

「そりゃ行く必要もないか。」

「私は生まれがここですので。」

「私も東の生まれなので西方には全く。でも、珍しい薬草とかは多いと聞きます。」

「いつか行けるといいなぁ。」

「そうですね。」

〆めの緑茶を飲みながら思いをはせる。

この世界ではどんな感じなんだろうか。

魔道具などがあるとはいえ、文化的には江戸時代より前って感じだと思うけどなぁ。

「そのためにはいっぱいお金稼がないとね。」

「あぁ。何もしないでも税金を払えるようになれば考えるつもりだ。」

「それってどのぐらい先?」

「化粧品の売れ行きにもよるが、5年かそれとも10年か。」

「シロウ様でしたら来年には達成できると思いますが?」

「いやいや、いくら俺でもそれは無理だろう。」

「そうでしょうか。」

「今の稼ぎのほとんどがアネットの薬と店の利益だ。それを二つともやめて見ろ、全く足らなくなるぞ。」

その二つを除けばビアンカの薬とハーシェさんの行商、それと化粧品しかない。

いくら化粧品が大当たりでも、限界はあるだろう。

さすがに買取業よりかは利益は出ないはずだ。

畑だって遊びみたいなものだし、まだまだ難しいだろうな。

「誰かにお店を任せないといけませんね。」

「安心して全部任せることが出来る人なんているか?」

「奴隷なら問題ないんじゃない?持ち逃げも出来ないし。」

「住む場所がねぇよ。」

「あ~そっか、これ以上は無理ね。」

「今は何も言われていないが化粧品用の店舗も税金は要求されるだろうし、奴隷を買うにもカネがかかる。加えて住む場所も用意するとなると・・・。」

「うん、私も頑張るわ。」

「引き続きよろしく頼む。」

エリザの当たりもうちの貴重な収入源だ。

本人が金にうるさくないので、いい物を拾ってきても俺の言い値で買い取らせてくれる。

隠れたうちの稼ぎ頭だな。

「この四人で移動するとなると、五年は必要だろう。」

「五年かぁ・・・。」

机の上の計算機を叩いてみる。

前の俺だともう50代。

老い先短く、老後をどうやって乗り切るか。

そんな不安にさいなまれていたことだろう。

だが今は違う。

30になったばかりでこれから脂がのって来る。

出来る事も増え、金も・・・このままいけば増えるはずだ。

どうなっていくのかは全くわからないが、よほどの事をしない限りは悪い方に転がることは無いだろう。

それこそ犯罪とかな。

むしろその辺にさえ気をつけていれば順風満帆というわけだ。

客は向こうからやって来るし、金儲けの手段も去年一年である程度把握できた。

後はそれに加えて新しく儲ける手段を探せばいいだけだ。

簡単だろ?

「ま、今まで通りやれば金は貯まる、そして美味い物も食える。」

「そこ重要よね。」

「あぁ、生きる上での一番の楽しみだ。」

「あら、お楽しみはそれだけ?」

「あえて言わなかったことを言うなよな、まったく。」

「よろしければ久しぶりに三人同時でも構いませんよ?」

「ありがたいお誘いだが体がもたない。」

「その分食べればいいじゃない。シロウお代わり!」

「いや、元気になるのはお前じゃない。」

こっちは三人分頑張らないといけないんだぞ。

まったく・・・。

「私が代わりに揚げますね。」

「横の砂時計を使え、おおよそ三分だ。油の温度が下がってるから上げてから揚げる様に。」

「なかなか難しいんですね。」

「唐揚げと同じ要領だ。」

「あ、唐揚げも食べたくなってきた。」

「じゃあ私が仕込みます。」

どうやら今日は一日喰い倒すらしい。

じゃあ俺は次の料理に取り掛かるとするかな。
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