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280.転売屋は化粧品の完成を見守る

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「でき・・・た?」

「出来た!出来ましたよカーラさん!」

三階からそんな声が聞こえてきたのは夕食前。

丁度飯だぞと呼びに行こうとした時だった。

急いで階段を上り下から顔を出すとアネットがカーラに抱きついていた。

「出来たのか?」

「御主人様できました!完成しました!」

「よかったな、おめでとう。」

「ありがとうシロウさん。」

階段を上り二人に近づくとアネットが嬉しそうに抱き着いてきた。

ここまでテンションの高いアネットを見るのは初めてかもしれない。

いつも一人で作業しているから誰かと一緒に何かを作るっていうのが嬉しかったのかもしれない。

ビアンカと一緒の時にいる時も楽しそうにしていたなぁ。

これからはちょくちょく顔を出してあげた方がいいかもしれない。

カーラの方を見ると感無量と言った顔でこちらを見ている。

アネットを引っぺがして手を差し出すと嬉しそうに手を握り返してきた。

「途中はどうなる事かと思ったが、無事に仕上がってよかった。予定では二つって話だったが、四つも出来ちまったな。」

「ほんとどうなるかわからないものね、まさかトレントの樹液が使えないとは思わなかったわ。でも、アネットが提案してくれたアロエロエのエキスは大当たりだった。」

「昔、やけどをした時に着けてもらった覚えがあったから。」

「確かに昔から言われていたけど、今回抽出したエキスとの相性が抜群だった。匂いもいいしね。」

「予定通りレレモンとボンバーオレンジ、そしてアロエロエ。最後に濃縮エキスを使った無添加。濃縮エキスに三種類の匂いもつけられるんだよな?」

「もちろん。でも、敢えて無添加を謳った方が反応が良いと思う。ほら、最近はそういうブームだから。」

どの世界も無添加、オーガニック的な流れがあるのか。

そして金持ちはそれに弱いと。

金持ちっていうか身分の高い人というか、まぁどっちでも一緒か。

「まぁ、おかげで用意した容器が無駄にならなくて済んだよ。」

「あの容器も素敵ね、絶対に売れるわ。」

「はい、ものすごく綺麗でした。使い終わった後も飾りたくなります。」

「大成功するとリノンも喜ぶだろう。いや、悲鳴かな?」

「数に限りがあるんだっけ?」

「あぁ、とりあえず初回分として各色100個用意してもらっているが・・・足りるか?」

「たぶんというか間違いなく足りないわね。特注分は?」

「取り急ぎ10個だ。あっちは量産がきかないからなぁ。」

持って行かないといけない人はまだ少ないから大丈夫だと思うが・・・。

間違いなくこっちも足りなくなるだろう。

「こっちも量産は難しいからそのぐらいでちょうどいいかも。やっぱりここの設備だけじゃ限界があるわね。」

「まぁアネットの機材を流用しているからなぁ。他の薬を作る必要もあるし仕方ないだろう。」

「アネットの迷惑になるから、早く場所を見つけたいんだけど・・・。」

「街は物件難だからなぁ、いい感じの場所がなかなかないんだ。」

「私は別に構いません!」

「気持ちはありがたいんだけど、量産するためにはやっぱりね。」

「そう・・・ですよね。」

「そんなに悲しい顔しないでアネット、また手伝いに来てくれなきゃ私が困っちゃう。」

短い時間とはいえ苦楽を共にした仲だ、お互いに悲しくなるのは致し方ないだろう。

しかし、本当に出来てしまうとは。

女豹の悔しそうな顔が目に浮かぶようだ。

ざまぁみろ・・・てね。

「とりあえず出来上がった化粧品を一揃え、それを二つ用意してくれ。明日アナスタシア様に届けてくる。」

「明日すぐですか?」

「あぁ、約束の時間が迫ってるからな。完成の報告をした後に隣町へ持って行くつもりだ。」

「話に聞いていた新素材との交換条件ね。」

「あぁ、期限が今月末だから何とかギリギリ間に合ったよ。カーラとアネットには本当に感謝している。」

「お礼を言うのはこっちの方よ、これでお肌の問題から解放されるんだから。しかも今後はお金もかからないしね。」

「十分綺麗な肌だと思うが?」

「そう見えるだけよ、女って生き物は大変なんだから。ねぇアネット。」

「はい、カーラ様。」

そういうものか。

これ以上は墓穴を掘りそうなので準備を任せて下に降りる。

「出来上がったようですね。」

「あぁ、完成したそうだ。明日アナスタシア様の所に持って行く。エリザ、暇か?」

「明日?別に用事は無いけど・・・。」

「アナスタシア様の所に行ったらその足で隣町に行く、護衛を頼めるか?」

「そういう事なら喜んで。泊まりで行くのよね?」

「時間的にそうなるな、時化の中を走るのはごめんだ。」

「じゃあその流れで準備をするわ、馬車の手配は任せといて。ミラ、荷物はいつもの量でいい?」

「はい。今からでしたらそんなに数は準備できないでしょうからいつもの馬車で大丈夫です。」

「わかった。」

エリザもミラもすっかり俺の考えに染まったようだ。

空の馬車で行き来するぐらいなら少しでも荷物を積み込んで、向こうでお金を稼いでくる。

そして、向こうでまた荷物を積んでこちらに戻る。

隣町に行くという言葉だけで即座に動くようになるなんて・・・。

さすが出来る女は違うね。

「仕込みは任せる、ついでにギルド協会に行ってアポを取っといてもらえるか?」

「かしこまりました、エリザ様参りましょう。」

「オッケー!」

テキパキと荷物を纏えてあっという間に二人は店を出て行った。

さて俺はのんびり店番をして女達の帰りを待つとしよう。

「って、思っていたはずなんだけど?」

「申し訳ありません。ギルド協会に行きましたらちょうどアナスタシア様もおられまして。」

「噂の化粧品が出来たと聞いて明日まで待てるはずがないでしょ?」

「はずがないって・・・いや、何でもない。女とはそういう生き物だったな。」

「今日は随分と大人しいじゃない。」

「色々と諦めたんだよ。」

二人が出て行ってまだ30分もたっていない。

あのアナスタシア様が息を切らせて走ってくるとか、明日は雨でも降るんじゃないだろうか。

「こちらが完成品です。」

「綺麗な入れ物・・・。貴女がカーラさんね、本当によくやってくれたわ。」

「お褒めに預かり光栄ですアナスタシア様。ですが、私一人で開発できたわけではありません、アネットさんそしてシロウさんのバックアップがあってこそです。」

「まぁまぁそういう話は後にしよう。商品は四つ、手前の三つは一般向け。黄色の瓶がレレモン、橙色の瓶がボンバーオレンジ、緑の瓶がアロエロエの香り付き。で、奥の青色の瓶が無添加の高級品だ。16月の初日に一般向けに販売を開始する。といっても準備が出来るのは各色100個と高級品は20個まで、今日はこっちを納めさせてもらう。」

「二種類用意したのはいいわね。試していいかしら。」

「もちろんです。一度手の甲に塗り込んでいただき、問題が無ければ全身ご使用して頂けます。安全には配慮していますが、合う合わないがどうしてもありますので。」

アナスタシア様は青色の瓶を開けての上で二度ほど瓶を振る。

「本当になんの匂いもしないのね。」

「そちらは高濃度の成分を配合しています。必要であれば香りづけも致しますので仰ってください。」

「オーダーできるっていうのもまたいいわね、貴族はそういうのが好きだから売れるわよ。」

何度も手になじませてからしばらく待つ。

すると、アナスタシア様の目がどんどんと見開かれていくのが分かった。

「すごいわ、この短時間でこんなにしみこむなんて。」

「すぐ皮膚に吸収され、潤いを取り戻します。持続力もありますので基本は朝晩、必要であれば日中と使い分けて頂ければ。」

「もうお肌がサラサラ、本当にすごいわ。それで、いくらで売り出すの?」

「一般向けが銀貨2枚、高級品は銀貨20枚を予定しています。」

「少しお高いのね。」

「瓶がどうしてもな。」

「この仕上がりだもの仕方ないわ、それに一度効果を試せば決して高く無い買い物だともわかる。絶妙な価格設定ね。」

よし、値段の方でも了承を得られたぞ。

後は・・・。

「最後に販売方法だが、一般向けは量産体制が出来るまでは予約制をとらせてもらう。貴族はいつものようにお任せして構わないか?」

「もちろんよ。我先にと群がってくるのは目に見えているもの。」

「適当に振り分けてくれ、報酬として毎月一本持って行かせてもらおう。」

「あら、いいの?」

「くれぐれも無茶を言わないように指導してくれ、今の生産体制では量産は難しいんだ。」

「どのぐらい作れそう?」

「一般向けは月に400本、高級品は月40本が限界だ。うちの施設だとどうしてもな。」

「少ないのねぇ。」

「街に空き物件が無いんだよ、察してくれ。」

「必要なら接収してもいいのよ?」

「恨まれそうだからお断りする。」

あとあとでイチャモン付けられるのは勘弁願いたい。

「わかったわ。それでやって頂戴。」

「税金はどうするんだ?」

「本当は一本当たり1割と言いたい所だけど、冒険者用の新素材との交渉があるのでしょう?後はシープに任せるわ。」

「大盤振る舞いだな。」

「街長にも言われているのよ、貴方のやる事にあまり口を挟むなってね。」

「はい?」

「気をつけなさい、一度目をつけられたら大変なんだから。二度と他の街に行けなくなるかもしれないわよ。」

「勘弁してくれよ・・・。」

そんな事になるのなら大人しく税金を納めた方がマシだ。

完成して嬉しいような面倒なような。

はぁ、先が思いやられる。
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