転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

文字の大きさ
上 下
281 / 1,415

280.転売屋は化粧品の完成を見守る

しおりを挟む
「でき・・・た?」

「出来た!出来ましたよカーラさん!」

三階からそんな声が聞こえてきたのは夕食前。

丁度飯だぞと呼びに行こうとした時だった。

急いで階段を上り下から顔を出すとアネットがカーラに抱きついていた。

「出来たのか?」

「御主人様できました!完成しました!」

「よかったな、おめでとう。」

「ありがとうシロウさん。」

階段を上り二人に近づくとアネットが嬉しそうに抱き着いてきた。

ここまでテンションの高いアネットを見るのは初めてかもしれない。

いつも一人で作業しているから誰かと一緒に何かを作るっていうのが嬉しかったのかもしれない。

ビアンカと一緒の時にいる時も楽しそうにしていたなぁ。

これからはちょくちょく顔を出してあげた方がいいかもしれない。

カーラの方を見ると感無量と言った顔でこちらを見ている。

アネットを引っぺがして手を差し出すと嬉しそうに手を握り返してきた。

「途中はどうなる事かと思ったが、無事に仕上がってよかった。予定では二つって話だったが、四つも出来ちまったな。」

「ほんとどうなるかわからないものね、まさかトレントの樹液が使えないとは思わなかったわ。でも、アネットが提案してくれたアロエロエのエキスは大当たりだった。」

「昔、やけどをした時に着けてもらった覚えがあったから。」

「確かに昔から言われていたけど、今回抽出したエキスとの相性が抜群だった。匂いもいいしね。」

「予定通りレレモンとボンバーオレンジ、そしてアロエロエ。最後に濃縮エキスを使った無添加。濃縮エキスに三種類の匂いもつけられるんだよな?」

「もちろん。でも、敢えて無添加を謳った方が反応が良いと思う。ほら、最近はそういうブームだから。」

どの世界も無添加、オーガニック的な流れがあるのか。

そして金持ちはそれに弱いと。

金持ちっていうか身分の高い人というか、まぁどっちでも一緒か。

「まぁ、おかげで用意した容器が無駄にならなくて済んだよ。」

「あの容器も素敵ね、絶対に売れるわ。」

「はい、ものすごく綺麗でした。使い終わった後も飾りたくなります。」

「大成功するとリノンも喜ぶだろう。いや、悲鳴かな?」

「数に限りがあるんだっけ?」

「あぁ、とりあえず初回分として各色100個用意してもらっているが・・・足りるか?」

「たぶんというか間違いなく足りないわね。特注分は?」

「取り急ぎ10個だ。あっちは量産がきかないからなぁ。」

持って行かないといけない人はまだ少ないから大丈夫だと思うが・・・。

間違いなくこっちも足りなくなるだろう。

「こっちも量産は難しいからそのぐらいでちょうどいいかも。やっぱりここの設備だけじゃ限界があるわね。」

「まぁアネットの機材を流用しているからなぁ。他の薬を作る必要もあるし仕方ないだろう。」

「アネットの迷惑になるから、早く場所を見つけたいんだけど・・・。」

「街は物件難だからなぁ、いい感じの場所がなかなかないんだ。」

「私は別に構いません!」

「気持ちはありがたいんだけど、量産するためにはやっぱりね。」

「そう・・・ですよね。」

「そんなに悲しい顔しないでアネット、また手伝いに来てくれなきゃ私が困っちゃう。」

短い時間とはいえ苦楽を共にした仲だ、お互いに悲しくなるのは致し方ないだろう。

しかし、本当に出来てしまうとは。

女豹の悔しそうな顔が目に浮かぶようだ。

ざまぁみろ・・・てね。

「とりあえず出来上がった化粧品を一揃え、それを二つ用意してくれ。明日アナスタシア様に届けてくる。」

「明日すぐですか?」

「あぁ、約束の時間が迫ってるからな。完成の報告をした後に隣町へ持って行くつもりだ。」

「話に聞いていた新素材との交換条件ね。」

「あぁ、期限が今月末だから何とかギリギリ間に合ったよ。カーラとアネットには本当に感謝している。」

「お礼を言うのはこっちの方よ、これでお肌の問題から解放されるんだから。しかも今後はお金もかからないしね。」

「十分綺麗な肌だと思うが?」

「そう見えるだけよ、女って生き物は大変なんだから。ねぇアネット。」

「はい、カーラ様。」

そういうものか。

これ以上は墓穴を掘りそうなので準備を任せて下に降りる。

「出来上がったようですね。」

「あぁ、完成したそうだ。明日アナスタシア様の所に持って行く。エリザ、暇か?」

「明日?別に用事は無いけど・・・。」

「アナスタシア様の所に行ったらその足で隣町に行く、護衛を頼めるか?」

「そういう事なら喜んで。泊まりで行くのよね?」

「時間的にそうなるな、時化の中を走るのはごめんだ。」

「じゃあその流れで準備をするわ、馬車の手配は任せといて。ミラ、荷物はいつもの量でいい?」

「はい。今からでしたらそんなに数は準備できないでしょうからいつもの馬車で大丈夫です。」

「わかった。」

エリザもミラもすっかり俺の考えに染まったようだ。

空の馬車で行き来するぐらいなら少しでも荷物を積み込んで、向こうでお金を稼いでくる。

そして、向こうでまた荷物を積んでこちらに戻る。

隣町に行くという言葉だけで即座に動くようになるなんて・・・。

さすが出来る女は違うね。

「仕込みは任せる、ついでにギルド協会に行ってアポを取っといてもらえるか?」

「かしこまりました、エリザ様参りましょう。」

「オッケー!」

テキパキと荷物を纏えてあっという間に二人は店を出て行った。

さて俺はのんびり店番をして女達の帰りを待つとしよう。

「って、思っていたはずなんだけど?」

「申し訳ありません。ギルド協会に行きましたらちょうどアナスタシア様もおられまして。」

「噂の化粧品が出来たと聞いて明日まで待てるはずがないでしょ?」

「はずがないって・・・いや、何でもない。女とはそういう生き物だったな。」

「今日は随分と大人しいじゃない。」

「色々と諦めたんだよ。」

二人が出て行ってまだ30分もたっていない。

あのアナスタシア様が息を切らせて走ってくるとか、明日は雨でも降るんじゃないだろうか。

「こちらが完成品です。」

「綺麗な入れ物・・・。貴女がカーラさんね、本当によくやってくれたわ。」

「お褒めに預かり光栄ですアナスタシア様。ですが、私一人で開発できたわけではありません、アネットさんそしてシロウさんのバックアップがあってこそです。」

「まぁまぁそういう話は後にしよう。商品は四つ、手前の三つは一般向け。黄色の瓶がレレモン、橙色の瓶がボンバーオレンジ、緑の瓶がアロエロエの香り付き。で、奥の青色の瓶が無添加の高級品だ。16月の初日に一般向けに販売を開始する。といっても準備が出来るのは各色100個と高級品は20個まで、今日はこっちを納めさせてもらう。」

「二種類用意したのはいいわね。試していいかしら。」

「もちろんです。一度手の甲に塗り込んでいただき、問題が無ければ全身ご使用して頂けます。安全には配慮していますが、合う合わないがどうしてもありますので。」

アナスタシア様は青色の瓶を開けての上で二度ほど瓶を振る。

「本当になんの匂いもしないのね。」

「そちらは高濃度の成分を配合しています。必要であれば香りづけも致しますので仰ってください。」

「オーダーできるっていうのもまたいいわね、貴族はそういうのが好きだから売れるわよ。」

何度も手になじませてからしばらく待つ。

すると、アナスタシア様の目がどんどんと見開かれていくのが分かった。

「すごいわ、この短時間でこんなにしみこむなんて。」

「すぐ皮膚に吸収され、潤いを取り戻します。持続力もありますので基本は朝晩、必要であれば日中と使い分けて頂ければ。」

「もうお肌がサラサラ、本当にすごいわ。それで、いくらで売り出すの?」

「一般向けが銀貨2枚、高級品は銀貨20枚を予定しています。」

「少しお高いのね。」

「瓶がどうしてもな。」

「この仕上がりだもの仕方ないわ、それに一度効果を試せば決して高く無い買い物だともわかる。絶妙な価格設定ね。」

よし、値段の方でも了承を得られたぞ。

後は・・・。

「最後に販売方法だが、一般向けは量産体制が出来るまでは予約制をとらせてもらう。貴族はいつものようにお任せして構わないか?」

「もちろんよ。我先にと群がってくるのは目に見えているもの。」

「適当に振り分けてくれ、報酬として毎月一本持って行かせてもらおう。」

「あら、いいの?」

「くれぐれも無茶を言わないように指導してくれ、今の生産体制では量産は難しいんだ。」

「どのぐらい作れそう?」

「一般向けは月に400本、高級品は月40本が限界だ。うちの施設だとどうしてもな。」

「少ないのねぇ。」

「街に空き物件が無いんだよ、察してくれ。」

「必要なら接収してもいいのよ?」

「恨まれそうだからお断りする。」

あとあとでイチャモン付けられるのは勘弁願いたい。

「わかったわ。それでやって頂戴。」

「税金はどうするんだ?」

「本当は一本当たり1割と言いたい所だけど、冒険者用の新素材との交渉があるのでしょう?後はシープに任せるわ。」

「大盤振る舞いだな。」

「街長にも言われているのよ、貴方のやる事にあまり口を挟むなってね。」

「はい?」

「気をつけなさい、一度目をつけられたら大変なんだから。二度と他の街に行けなくなるかもしれないわよ。」

「勘弁してくれよ・・・。」

そんな事になるのなら大人しく税金を納めた方がマシだ。

完成して嬉しいような面倒なような。

はぁ、先が思いやられる。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

Age43の異世界生活…おじさんなのでほのぼの暮します

夏田スイカ
ファンタジー
異世界に転生した一方で、何故かおじさんのままだった主人公・沢村英司が、薬師となって様々な人助けをする物語です。 この説明をご覧になった読者の方は、是非一読お願いします。 ※更新スパンは週1~2話程度を予定しております。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...