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276.転売屋は化粧品を考案する

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文献を漁って発見した素材は四つ。

ワイルドカウの眼球と足、それとレレモンとボンバーオレンジ、最後にダイヴシャークの革だ。

どれもダンジョンで採取できる素材で、かつ常時買取を行う事が出来る程度のものだ。

レレモンは栽培も出来るが、ボンバーオレンジは爆発するのでダンジョン内の物に限る。

文献によるとかなりの範囲に被害が出るので屋外での栽培には向いていないそうだ。

そんな危険な果物だが、お肌にはかなりいいらしい。

冒険者の中には果汁を塗っている人もいるそうなので効果は間違いないだろう。

だが、直接塗るとべたべたしてやってられない。

なので、次に出て来るのが魔科学。

つまり抽出作業という事になる。

幸いにもアネットの機材を使用すれば問題なさそうなので、空いている時に使わせてもらうつもりだ。

出来るかどうかはまた別の話だけど・・・。

もし今後必要であれば機材を新たに追加すればいいか。

高いけど。

ともかく今は抽出作業に向けて素材を集めないとな。

「ただいま戻りました。」

「同じくただいま。」

「おぅ、二人ともお帰り。」

「取引所への依頼は完了しました、明日には手に入ると思います。」

「ギルドにも依頼を出したわよ。ワイルドカウとミノタウロス、それとダイヴシャークで良かったのよね?」

「あぁ、目玉と足。どうせ他の部位も一緒に持ってくるだろう。肉が余ったら焼肉でもするか。」

「ワイルドカウはともかくミノタウロスは少し時間がかかるかもね。」

「やっぱり強いのか?」

「中級以上でなら問題ないけど下層の方に出るから。まぁ今回の買取価格なら興味を持つ冒険者も多いはずよ。」

通常の三割増し。

目玉なんて珍しい物を頼むからそれぐらいしないとって思ってたんだが、少し高すぎたか。

でもまぁこれも研究の為だ。

致し方あるまい。

「レレモンはともかくボンバーオレンジねぇ。確かに倒した後になんとなく手がすべすべした記憶はあるけど、本当なの?」

「知らん、だからそれを調べるんだ。」

「べとべとしないなら使いたいわ。」

「恐らくはビタミンCがお肌にいいんだろうな。」

「何それ。」

「そういう成分が入ってるんだよ。あと、風邪を引きにくくなる。」

冬場は風邪予防にみかん食えって言われたし、あながち間違いじゃないんだろう。

文献があるってことはある程度の効果があるって事だ。

問題はそれがなぜ埋もれてしまったのか。

実用化できない理由があるのか、それともコスパが悪いのか。

理由は色々とあるんだろうなぁ。

「確かにレレモン水は風邪をひいた時に飲みますね。」

「引いた後なのか。」

「さっぱりしますので熱があるときは飲みやすいんです。」

「あぁ、なるほど。」

「それに少量の塩を混ぜるのがうちのレシピでした。」

「うちははちみつだったわ。」

「はちみつレモンか、こっちにもあるんだな。」

「甘酸っぱいのがくせになるのよね。」

各家庭に伝わる民間療法ってやつだな。

そういうのを調べて回ると面白いんだろうけど・・・。

まぁ、俺は買取屋で学者じゃない。

そう言うのはプロに任せるよ。

「あの~。」

っと、さっそくお客が来たようだ。

「いらっしゃいま・・・せ?」

店にいたのは白衣を着た女性だった。

胸には試験管が何本も刺さっていて絵に描いたような学者、いや科学者のような感じだ。

「ここに図書館の本があると聞いてやってきたんですけど・・・。」

「本?あぁ、アレンから借りてるやつか。」

「もしよろしければ少し拝見できませんか?ちょっとでいいんです、確認したい項目がありましてその本にしか載っていないんです。」

「構わないぞ。っていうか無理言って貸してもらっているのは俺だからな。」

「すみません助かります。」

本来であれば図書館の本は持ち出し禁止だ。

だから大量の本を積み上げて必要な部分を書き写していたんだけど、あの本だけは貸し出ししてもらったんだよな。

そのまま待ってもらって二階から借りていた本を取って来る。

「これで間違いないか?」

「はい!『グリムモアの美容大百科』間違いありません!」

「美容について調べてるのか?」

「そうなんです!原料の抽出方法はこの本にしか書かれていなくて、かなり古い本なので王都にもなくて!ここにあるって聞いた時は本当に驚いて飛んできました!」

まるでマシンガンのようにしゃべるしゃべる。

夢中になると周りが見えなくなるタイプだろうか。

見た目は真面目そうなんだけど、人は見かけによらないものだな。

さらに、ひとしきりしゃべると満足したように渡した本を読みだしてしまった。

マイペースというか自己中というか。

声をかけても反応しない。

こりゃ無理だ。

「どうするの?」

「どうするも何も放っておくしかないだろう。読み終わればどこかに行くさ。」

「でも、美容関係について調べてるみたいだし話を聞いてみたら?」

「ん~、他人を噛ませると面倒な事になるかもしれないしなぁ。」

もちろん成功したらの話だが、利権とか利益とか色々とあるだろ。

っと、そんな事を話しているとまたドアが開き今度は冒険者がやってきた。

「シロウさん見ましたよ!これ、ボンバーオレンジッス!」

「お、早速持ってきてくれたのか。」

「昨日採ったばかりのやつっす、マジであの価格で買い取ってくれるんすか?」

冒険者が腕一杯に抱いていたのは鮮やかなオレンジ色の果実。

大きさはグレープフルーツ程あるかなり大きな奴だ。

これが弾けると・・・、確かに大惨事になるな。

『ボンバーオレンジの果実。巨大な柑橘で中には水分が多く含まれているため携行品として重宝される。ただし、収穫時期を延ばすと爆発し、周りに大きな被害を及ぼす危険もある。主にダンジョンの中から持ち帰られることが多いが、地域によっては厳重な管理の下で栽培もされている。最近の平均取引価格は銅貨50枚、最安値銅貨35枚、最高値銅貨70枚。最終取引日は二日前と記録されています。』

いつも以上に説明が長かったのは気になるが、ともかくどういう品かはわかった。

中々美味しそうなのでいくつか自分達用に置いておくとしよう。

「あぁ、一つ銅貨70枚だから全部で銀貨7枚だな。」

「また採って来るっす!」

冒険者は代金を受け取ると大喜びしながら店を出て行った。

その後もひっきりなしに買取が舞い込み、てんやわんやだったのだが、横で本を読む学者はそんなこと気にする様子もなくただひたすら読み続けていた。

「はぁ、終わった。」

「ふぅ、面白かった。」

ほぼ同時に息を吐き顔を上げる。

どうやら向こうも終わったようだ。

「もういいのか?」

「はい!一度読んだら忘れないのでもう大丈夫です。でもすごいですよね、必要な成分だけを抽出するなんて魔科学はほんと奥が深い。」

「何がどう家庭で使われるのか俺にはよくわからないが、わかって何よりだ。」

「これでまた一歩夢に近づきました!」

「夢?」

「はい!自分のお肌に合う化粧品を自分で作るんです!実は、かなりの敏感肌で普通の化粧品が合わないんですよ。」

「で、自分で作ろうって?普通そこまでするか?」

「します!お肌の調子が良ければそれだけで何でも出来るような気になるんです!」

うんうんと後ろの女達が頷いている気配がするがあえてスルーしておこう。

女ってのは大変だなぁ。

「って!なんですかこれは!」

「なんだって買取品だよ。ここは買取屋だからな。」

「そうじゃなくて!これ全部化粧品を作る素材じゃないですか!」

「作るつもりで仕入れたからなぁ。」

「作る?もしかして貴方が作るんですか!?」

いちいちテンションの高い女だなぁ。

もう少し落ち着いて話せないのか?

折角の美人が台無しだぞ。

黙ってたらクールビューティーっていうのか?そう言う感じなのに、しゃべるとただのおしゃべり女だもんなぁ。

「その為にこの本を借りてきたんだ。ちょいと面倒な約束をしちまったんでな、それを達成するために化粧品を作ろうとしてるんだよ。幸い機材はあるから後は道具を集めて、研究するつもりだ。」

「やらせてください!」

「はぁ?」

「お願いしますお手伝いさせてください!」

「いや、手伝うって名前も知らないしそもそも何が出来るかも・・・。」

「カーラです!専攻は魔科学、特に成分分析を得意としています!よろしくお願いします!」

いや、よろしくお願いしますって・・・。

慌てて後ろを振り返ると、女達が何とも言えない顔で俺を見ていた。

それは9割が諦め、1割が驚きと言った感じで、助けてくれる気配は一つもない。

店のど真ん中で何度もお願いしますと頭を下げる学者女を見ながら、俺は大きなため息をつくのだった。

まさかこんなことになるとは。

俺が化粧品を作るだって?

マジで言ってるのか?
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