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272.転売屋は昼寝をする

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小春日和。

ポカポカとした陽気が街全体に降り注ぎ、皆どこか眠そうな顔をしている。

それも仕方ないだろう。

こんな日に昼寝をしない手はない。

「ちょっと出て来る。」

「どちらへ?」

「天気が良いからな、飲み物と軽くつまめるものを買って日向ぼっこだ。」

「全然ちょっとじゃないじゃない、私も連れて行ってよ。」

「良いぞ。」

「え、いいの?」

「なんならミラとアネットもどうだ?と言っても場所は決まってないけどな。」

せっかくだ、サボるなら全員でサボってしまえ。

どうせこんな日に客なんて来ないだろう。

来たとしても待たせておけばいいさ。

閉店の札をかけて四人で市場へと向かう。

エリザとアネットが軽食を、俺とエリザで飲み物を探す。

「お、なんだこれ。」

「いらっしゃいませ、レレモンの果汁を入れたアッサリとした水です。綺麗なボトルでしょ?」

「あぁ、中々の細工だな。どう見ても中身より高そうだ。」

「あはは、そうかも。」

「おいくらですか?」

「一本銅貨20枚、今なら5本買ってくれると一本おまけしちゃう。」

高い。

六本で三日月亭一泊分だぞ?

でもなぁボトル代だと思えば仕方ないか。

切子細工のようにガラスに細工が施してあり、中の水が光り輝いている。

中の味は・・・。

まぁ、想像通りだろう。

「わかった、五本頼む。」

「わ!ありがとう!」

「こちら代金です、このボトルだけの販売はされていないのですか?もしくは大きな花瓶など。」

「花瓶なら家にあるよ。」

「いくらだ?」

「えっとねぇ・・・銀貨10枚でどうかな。」

「細工を見てからになるが、今度来たときに買取屋まで持ってきてくれるか?」

「わかった、今度持って来るね!」

この感じなら花瓶もなかなかいい感じの品物だろう。

水を買うはずだったがなかなか良い物が見つかったな。

「お待たせ。」

「いいのあった?」

「あぁ、そっちは?」

「えへへ、見てよ!」

「あ、プリン!」

「ドルチェさんの新作が出ていたんです、思わず買ってしまいました。」

「それと、お肉と、サラダと、パンと・・・。」

何処が軽食なんだろうか・・・。

それはガチ飯だろ?

まぁいいけどさぁ。

「後はどこでこれを楽しむかです。」

「主だったところはもう抑えられているだろうしなぁ。」

辺りを見渡すと、日当りのいいベンチなんかは全て先客がいた。

仕方がないので畑の方に向かってみる。

「あ、シロウだ!」

「シロウだ!」

「すみませんシロウ様、お邪魔しています。」

「モニカまでいるのか。なにしてんだ、こんな所で。」

「えっとねぇ、お昼寝!」

「昼寝?」

「うん!天気が良いからってお外でご飯食べてたの!」

「このまま寝るんだ!」

いや、このまま寝るって、一応ここは街の外なんだけど?

「すみません言う事聞かなくて。」

「ご安心くださいシロウ様、我々もルフもいますので。」

「ま、そうか。」

「シロウも寝る?」

「寝る?」

「いや、俺達は別の場所を探すよ。どこかしらないか?」

「う~ん・・・。」

「何処も人でいっぱいだったよね。」

「ね。」

子供達が顔を見合わすもいい案は出てこなかった。

ふむ、仕方あるまい。

「じゃあな。」

「「「「ばいば~い。」」」」

ガキどもの邪魔をするわけにもいかないのでまた街に戻って場所を探すも、残念ながらよさげな場所はなかった。

気が付けば大きな倉庫の前。

流石に倉庫の中ってのはなぁ。

「良い場所なかったわね。」

「そうですねぇ。」

「別にここでもいいんだが、なんか殺風景なんだよなぁ。」

「仕方ありません。ですがここでしたら誰にも邪魔されませんよ。」

「それもそうか。」

倉庫街なので人が来ることはほとんどない。

少し埃っぽい所はあるのだが・・・。

ん?

「なんだあれ。」

ふと自分の倉庫を見上げると、外壁に梯子があるのが見えた。

「梯子じゃない?」

「いや、それはわかるが何であんな所に?」

「上に昇る為でしょ。」

「窓もないのにか?」

窓のない場所から上に向かって梯子がつけられている。

上に昇れそうなかんじはあるが、かなり長い梯子をつけなければならないだろう。

うーむ。

「シロウ様、中から探して見られてはどうでしょう。」

「窓をか?」

「はい。入り口同様に鍵を差し込めば開くのかもしれません。」

「なるほど、なくはないか。」

「探検ね!」

「前に一度探し回っただろ?」

「でも窓は見てないわ。」

「・・・まぁ余興にはちょうどいいか。」

「アネット!いくわよ!」

「はい!エリザ様!」

魔導鍵をふんだくる様にして俺から奪うと、エリザとアネットが真っ先に倉庫に突入した。

最初と違って中には様々な物が積み上げられている。

大騒ぎして怪我しても知らないからな。

「随分と増えましたね。」

「そうだなぁ、まぁほとんどはグリーンスライムの核だけどな。」

「これ全てがお金に変わる、夢のような話です。」

「変わるには最低でも6ヶ月、最長で11か月だ。先の長い話だよ。」

「でも置くだけでお金がお金を生むんですから、シロウ様にしかできないやり方ですね。」

「金さえあればとはよく言ったものだが、実際には金も場所も時間もかかる。金儲けは一筋縄ではいかないものだよ。」

「まるで年配の方みたいな言い方ですよ、シロウ様。」

俺は十分年配だよとは言えなかったが、確かに古臭い感じはある。

折角若返ったんだから気分もフレッシュに行かないとな。

「シロウあったわよ~!」

「マジか!」

「ほら、早く来て!」

二階へ上る階段の上からエリザが顔をのぞかせている。

ミラと二人で顔を見合わせ、急いで二階への階段を上った。

「ほら見て、あの場所にやっぱり鍵穴があったわ。」

「この小ささじゃ気付かなくても無理ないか。しかし、屋上に上る階段ねぇ・・・。」

「お宝あるかしら。」

「風雨にさらされてる屋上だぞ?あってもボロボロだよ。」

「またそう言う夢のない事言うんだから。」

「まぁまぁ、お二人共。とりあえず行ってみましょうよ。」

見かねたアネットが仲裁に入る。

まぁそれもそうだ。

とりあえず荷物を持って俺が先に梯子を上る。

手を滑らせると落ちる・・・事も無く、魔導鍵を差し込み窓を開けると足場まで出る親切設計だった。

ちなみにミラとアネットはスカートだ。

俺が最後だと色々見えてしまうからな。

そう言う理由もある。

梯子を一段一段のぼり、先に荷物を押し上げてから顔をのぞかせる。

「おぉ!」

「ちょっと、早く行ってよ!」

「わかったから脚を叩くな。」

感動も程々に後ろが詰まっているのでさっさと登りきる。

「広~い!」

「見てください街が一望できますよ。」

「こう見ると小さいのねぇ。」

見渡す限りの平原。

そこにぽつんとできたのがこの街だ。

東西に延びる街道以外に街の外に何も見えない。

あ、俺の畑と倉庫は別な。

思わず腰に手を当てて周りを見渡してしまった。

絶景かな絶景かな。

「それじゃあまぁ、この景色を堪能しながらお待ちかねの食事タイムとしゃれこもうじゃないか。」

「やった~!」

「終わったら昼寝な。」

「え、寝ちゃうの?」

「むしろこの天気で昼寝しない理由があるのか?」

「いや、日焼けとか・・・。」

「それが嫌なら下で寝てこい。」

「やだ、埃っぽいもん。」

まったく、文句の多い奴だ。

ミラとアネットはテキパキと持ってきた敷物を広げたり、食器の準備を始めている。

若干尻が痛いが・・・。

まぁ、仕方ないだろう。

「ねぇ、クッションか何かない?」

「グリーンスライムの核ならたくさんありますよ?」

「あれじゃ小さい・・・そうだ!」

何かを思いついたのかエリザが下に降りていく。

そして五分もしないうちに何か大きな袋をぶら下げて戻ってきた。

「何だそれ。」

「中にスライムの核を入れてみたの。うん、予想通りいい感じ!」

「なるほど、袋に入れて数で補ったんですね。確かにそれだと痛くなさそうです。」

「ちょっと貸してみろ。」

「嫌よ、自分で作りなさい。」

「ケチ。」

「ケチで結構よ。それじゃあいただきま~す!」

自分だけ快適に過ごしやがって・・・と思いきや、ちゃっかりミラとアネットの分を作ってきていたようだ。

「これは、気持ちいいですね。」

「スライムの核にこんな使い方があったなんて、流石エリザ様です。」

「脳筋のくせに。」

「何か言った?」

「何でもない、俺も作ってくる。」

こうなったら見返すぐらい大きいのを作ってやる。

とりあえず今あるものを食べたらな。

硬い床に我慢しながら、二人が買ってきた料理に舌鼓を打つ。

買ってきた水も予想通り、いや予想以上の美味しさだった。

何より入れ物がいい。

入れ物が良いと美味しく感じるのかもしれない。

それから下に降り、倉庫にあった一番大きな袋にスライムの核をしこたま詰める。

まるでサンタクロースのプレゼント袋みたいな大きさになってしまった。

持って上がるのはさすがに無理だったのでエリザに引き上げてもらい、その上に横たわる。

あぁ、最高だ。

「あー、いいなぁ。」

「お前には貸さんぞ。」

「いいもん。」

「ミラとアネットもどうだ?」

「お邪魔致します。」

「わ~い!」

「ずーるーいー!」

ミラとアネットを横に迎えて、ちゃっかりエリザもミラの横に滑り込んだ。

若干ポコポコするがそれがまた気持ちがいい。

あぁ、なんだか眠たくなってきた。

小春日和の空の下。

これで昼寝をしない理由はないよな。
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