上 下
268 / 1,027

267.転売屋は新米用の武器を探す

しおりを挟む
ここ最近休みが多かったが、仕事はちゃんとしている。

暇そうに見えるがこう見えても色々な事に手を出しているから、なんだかんだいく場所が多い。

この世界に来たときは買取の事だけを考えていればよかったんだが・・・。

まぁ、儲かるならそれでいいか。

「え、売り切れですか?」

「あぁ、悪いな。」

「そっかぁ・・・、あれ欲しかったんだけどなぁ。」

「似たようなやつを見つけたらまた仕入れとくよ。」

「お願いします。」

新米冒険者が俯きながら店を後にする。

彼女が探していたのは軽量化の効果がついたクロスボウだ。

弩と呼べばいいんだろうか、普通の弓矢と違って木でできた台の先端に交差するように弓が取り付けてある。

構造上重たくなりがちなのだが、軽量化の効果のおかげで女性でも扱える軽さになっていた。

板ばねを引いて矢を番え発射する。

連射は難しいが初心者に使えるので軽さは大きなプラスになるだろう。

銀貨30枚とそれなりの値段をつけていたのだが、ついさっき別の冒険者が買って行ってしまった。

取り置きはしていないから早い者勝ち。

これは致し方ない。

「残念がってたな。」

「仕方ないさ、また新しい装備を仕入れておくよ。」

「仕入れる暇もなさそうだが?」

「そうなんだよなぁ・・・。色々忙しくて。」

「大商人は違うねぇ。」

「やめてくれよ、俺はただの買取屋さ。」

「よく言うぜ。」

いやいや、マジで大商人とかキャラじゃない。

そういうのは年商が金貨1000枚超えたら言えるレベルで俺なんて・・・。

あれ?

よくよく考えればそれぐらいいってる?

いやいや、今回のオークションは偶然だ。

それを抜いたらまだそこまで稼げていないはず。

ともかく俺は普通の買取屋、普通でいたいんだよ。

「お、いたいた。」

「マートンさん、珍しいなこんな所に来るなんて。」

「店に行ったんだがこっちにいるって言われたんでな。」

「言ってくれたら工房まで行ったのに。」

「いや、ちょいと頼みたいことがあったんでな。今良いか?」

親方が俺に頼み事?

珍しいな。

おっちゃんが気をきかせて場所を開けてくれたので、とりあえず露店の中に入ってもらう。

「で、話ってのは?」

「さっきも見てたんだが、新米が随分買いに来てるみたいだな。」

「おかげさんで。マートンさんの所は・・・そっか新米お断りだったな。」

「まぁ、普段はそうなんだが、他所は忙しそうにしてるみたいだ。この春は特に多い気がする。」

「この前はそうでもなかったからなぁ。」

確かに春は冒険者が増えたように思うけど、ここまででは無かったはずだ。

仕入れても仕入れても追いつかない。

市場にも毎日新しい人が来るわけじゃないから、常に仕入れが出来るわけじゃない。

今まではそこまで品薄になることは無かったけれど、今回はかなりだからなぁ。

「で、そんな状況で仲間から相談を受けたんだが、色々考えても答えが出なくてな。ふと思いついたのがお前だったんだ。」

「え、俺?」

「あぁ。目利きといい行動力といいこの街で一番信頼できると俺は思っている。」

「そこまで買ってもらってもちろん嬉しいが、何も出ないぞ。」

「そこは、そこまで買ってくれるなら頑張らせてもらいますじゃないのか?」

「何をするかもわからないのに頑張るなんて言えねぇよ。」

無理難題を言われることはないと思うが、無責任なことは言えない。

それこそマートンさんのような職人であればなおさらだ。

「ま、そうだな。話ってのはずばり新米向けの武器を作りたいんだ。」

「新米向けの武器?今までのじゃダメなのか?」

「ダメってわけじゃないが・・・。例えば銅の剣だと銀貨1枚で手にはいるが、次の鉄の剣になると急に銀貨5枚まで値上がりするんだ。」

「あぁ、つまりはその間の値段で買えるものを作りたいって事だな。」

「話が早くて助かる。今は金のない新米だがこの先は大切な客だからな、増えている今こそしっかりとフォローしてやりたいんだ。」

「具体的にはどうするつもりなんだ?」

「新しい素材を見つけたい。」

おいおい、随分とでかい話じゃないか。

仕入れてこいじゃなく自分で作るから素材を探してこいだって?

「なんで俺なんだ?」

「言っただろ、お前の目利きの腕を信じてるんだよ。」

「目利きが聞いても新素材をおいそれと出してくれるとは思わないがな。」

「もしくは流用できる素材でもいい。今の現状を打破できる何かを、お前に見つけてほしいんだ。」

「ちょいと話がでかくないか?まぁいいけど・・・で、俺の取り分は?」

これだけの仕事をやらせるんだ、それなりの金は出してくれるんだよな?

マートンさんだけでなくこの街の職人連中の頼みなんだろ?

普通そう言うのはギルド協会かなんかに依頼するもんだと俺は思うがねぇ。

「素材の仕入れは全てお前を通す、ってのはどうだ?」

「確かに魅力的だがそれなら販売価格の二割を俺に回してくれ。別に永続とは言わない、俺が死ぬまででいいさ。素材の使用に許可は要らない、製法も隠匿しない、ただ使用料をくれればそれでいい。」

「二割は暴利だろ。」

「じゃあ一割。」

「値下げ早いな。」

「金は欲しいが喧嘩したいわけじゃない。それに、素材の買い付けを俺からすると言うがどう考えても無理だろ。新米向けの素材ってことは量が必要になるし、そうなれば俺はその専属卸しをやらないといけない。俺は買取屋だぜ?」

「それを言われると苦しいな。」

難しい顔をするマートンさん。

仕入れ代の他にロイヤリティもとられるとなればそうなってしまうだろう。

確かに仕入れの専属化は魅力だが、仕入れが簡単な素材の場合俺よりも安く卸そうとするやつが出てくるだろう。

そうなった時に、つい他所に手を出してしまった事でその工房が責められるのは避けたい。

変な縛りをつけるよりも使用料の方が単純明確、というわけだ。

「それに、その素材が見つかるかもわからないんだ。それをいまさら気にしてもな。」

「大丈夫お前なら見つけるさ。」

「期待が重すぎる。期限は?」

「一か月。」

「短いな。」

「この機会を逃すと新米が減るからな、できれば早い方がいい。」

「一応やっては見るが、期待するなよ。」

大丈夫さと言ってマートンさんは帰って行った。

「随分と大仕事を頼まれたみたいじゃないか。」

「まったく、そう言うのは先ず自分たちでやるもんだろ?」

「いや、俺にも気持ちはわかる。自分たちでどうにもならなくなると、新しい考えが欲しくなるんだ。」

「それで成功したことはあるか?」

「もちろんあるぞ。俺達は固定概念の塊だからな、それを崩してくれる誰かが必要になる時があるんだよ。」

「なるほどなぁ。」

確かに固定観念は怖い。

これしかない!と思っていたはずなのに、全く転売の事を知らない新人がもっと効率の良いやり方を発見したりする。

技術だってそうだ。

新しい技術をよそから持ち込むだけで、格段に進歩したりもする。

昔はスマホなんてなかったからパソコンにかじりついていたものだが、今じゃ外に出ていても在庫の確認が出来るようになった。

ま、それも過去の話。

俺はもうこっちの住人だ。

パソコンもスマホもどちらもない。

「ま、無理しない程度に頑張れよ。」

「あぁ、そうするよ。っと、いらっしゃい、今日は何だ?」

また新しい客が来た。

見た感じ新米っぽいな。

「軽くて丈夫な剣が欲しいんです。」

「軽くて丈夫ってなると鉄か軽量化の効果付きだな。予算は?」

「銀貨5枚まででできれば・・・。」

「その予算だったら鉄の剣なら買えるだろ?」

「そうなんですけど、やっぱりちょっと重くて。」

「鉄でも重いのかよ。軽量化をつけると一気に銀貨15枚まで跳ね上がるぞ。」

「うぅ、やっぱり無理かぁ。」

結構切実な問題のようだ。

新米にとって銀貨5枚は大金だ。

なんせその金額で十日は寝泊まりできるんだ。

それだけあれば同額を稼ぎ出す事が出来る。

でも、同額だ。

結局それを回すだけでは装備はいつまでも良くならず、いずれ壊れてしまうだろう。

そうならない為にも少しでも背伸びをして装備を集めたい。

それが新米の願いってわけだ。

「軽くて丈夫ねぇ・・・。」

「別に金属製でなくてもいいんですけど。」

「いやいや、それだと強度が出ないよ。」

「そうかぁ、僕の村だと魔物の骨を加工してたりしてましたけど。」

「ともかくここにはそれはないんだ、すまんな。」

「また、探しにきます。」

とぼとぼと新米が帰っていく。

その背中にはどこか哀愁が漂っていた。

夕日のせいではないだろう。

「骨、骨ねぇ。」

金属にばかり目が生きそうだが、過去には骨を加工して狩りをしていたそうじゃないか。

っていっても紀元前だっけ?

普通の骨では無理かもしれないが、ここは異世界。

もしかするともしかするかもしれない。

「そうと決まれば店じまいだ。」

「帰るのか?」

「あぁ、調べものしてくる。」

「そうか頑張れよ。ほら、今日の分。」

「助かる。今度バターを多めに頼めるか?女達が菓子を作るんだと。」

「わかった、牛乳と一緒に持ってくる。」

「これ、代金。」

「多いぞ?」

「いいんだよ。」

「さすが大商人は違うな。」

おっちゃんに銀貨10枚渡しておく。

新米が求める装備の倍。

彼らが今みたいに気楽に装備を買えるようになるためにも、ちょいと頑張ってみますかね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モブに転生したはずが、推しに熱烈に愛されています

奈織
BL
腐男子だった僕は、大好きだったBLゲームの世界に転生した。 生まれ変わったのは『王子ルートの悪役令嬢の取り巻き、の婚約者』 ゲームでは名前すら登場しない、明らかなモブである。 顔も地味な僕が主人公たちに関わることはないだろうと思ってたのに、なぜか推しだった公爵子息から熱烈に愛されてしまって…? 自分は地味モブだと思い込んでる上品お色気お兄さん(攻)×クーデレで隠れМな武闘派後輩(受)のお話。 ※エロは後半です ※ムーンライトノベルにも掲載しています

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 ハッピーエンド保証! 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります) 11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。 ※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。 自衛お願いします。

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

お飾り王妃の愛と献身

石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。 けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。 ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。 国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

真実の愛ならこれくらいできますわよね?

かぜかおる
ファンタジー
フレデリクなら最後は正しい判断をすると信じていたの でもそれは裏切られてしまったわ・・・ 夜会でフレデリク第一王子は男爵令嬢サラとの真実の愛を見つけたとそう言ってわたくしとの婚約解消を宣言したの。 ねえ、真実の愛で結ばれたお二人、覚悟があるというのなら、これくらいできますわよね?

白紙にする約束だった婚約を破棄されました

あお
恋愛
幼い頃に王族の婚約者となり、人生を捧げされていたアマーリエは、白紙にすると約束されていた婚約が、婚姻予定の半年前になっても白紙にならないことに焦りを覚えていた。 その矢先、学園の卒業パーティで婚約者である第一王子から婚約破棄を宣言される。 破棄だの解消だの白紙だのは後の話し合いでどうにでもなる。まずは婚約がなくなることが先だと婚約破棄を了承したら、王子の浮気相手を虐めた罪で捕まりそうになるところを華麗に躱すアマーリエ。 恩を仇で返した第一王子には、自分の立場をよおく分かって貰わないといけないわね。

魔がさした? 私も魔をさしますのでよろしく。

ユユ
恋愛
幼い頃から築いてきた彼との関係は 愛だと思っていた。 何度も“好き”と言われ 次第に心を寄せるようになった。 だけど 彼の浮気を知ってしまった。 私の頭の中にあった愛の城は 完全に崩壊した。 彼の口にする“愛”は偽物だった。 * 作り話です * 短編で終わらせたいです * 暇つぶしにどうぞ

処理中です...