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249.転売屋は事の顛末を見守る

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犯人の胸倉を掴む聖騎士団のホリア。

それにビビッてはいるものの、何とか強気な表情を崩さない犯人。

そして面倒な事になってうんざりしている俺。

あ、あと裏で全裸男と一緒に放置されているミラ。

はぁ、どんな状況なんだよ。

「何事も何も、ここに共鳴の鐘があるのは分かってる。片方が鳴ればもう片方も鳴るからな、さぁ早く出せ!」

「共鳴の鐘?なんだよそれは、そんなものしらねぇぞ。」

「おや、おかしいですね。先程買取る為に出された鎧についていたではありませんか。」

「何?」

「折角ですから持って来ましょう。少しお待ちを。」

なるほど、共鳴の鐘にはそういう効果があるのか。

お互いがお互いを呼び合うってのはそういうことなんだな。

裏に行き、鎧を抱きしめる全裸男からそれを引っぺがす。

「あ、そ、れ・・・。」

「直ぐに返すからちょっと待ってろ。あと、もう一回風呂に行け、まだ臭いぞ。」

「く、さい・・・。」

なんだか最初よりも反応が良くなった気がする。

自分の腕の臭いをかぎ、首をかしげる全裸男の背中を押して裏口から庭に追い出す。

さすがに寒かったんだろう、首をかしげながら即席の風呂に入っていった。

「ミラ、一悶着起きるからその隙に外に出て誰か呼んで来い、誰でもいい。」

「わかりました。」

「いい加減に手を離しやがれ、殺すぞ!」

「殺す?良い度胸だやってみろよ。」

「はいはいそこのお二人さん、暴れるなら店の外へ。で、これがその鎧だ。」

「・・・この鎧をコイツが?」

「えぇ、聖銀の鎧。たしか聖王騎士団の団員のみが身につける事を許されるそうだな。この前の盾も、コイツの持ち主じゃないのか?」

「盾?一体なんの話を・・・。」

「お前はちょっと黙ってろ、殺すぞ。」

ホリアさんが胸倉を掴んだまま犯人を持ち上げる。

身体が浮き、苦しそうに足をじたばたさせた。

「暴れて物を壊されるのは勘弁して欲しいんだが?」

「本当にコイツが持ち込んだんだな?」

「あぁ、その反応だとどうやらこの方は騎士団員では無いようだな。」

「こんな細い腕で我等が聖王騎士団に入れるわけが無いだろう。セインを除いてはな。」

「セイン?」

「その鎧、いやその鐘の持ち主だ。俺とセインは苦楽を共にするパートナーだった。」

「だった?」

「セインが逃げ出したあの日にパートナーは解散した。だが、アイツが俺を置いて勝手に何処かへ行くはずが無い。だから俺はこの町に来たのだ。」

「なるほど、共鳴の鐘を頼りにか。」

コレで全てがつながった。

そのセインってパートナーが突然居なくなり、お互いに持っている共鳴の鐘を頼りにこの街まできた。

鎧にしっかりと括り付けられているって事は外す事は考えて居なかったんだろう。

もしかすると追いかけてきて欲しくて外さなかったのかもしれない。

まぁその辺はどうでも良いが、鐘が形を保っているって事は生きているという事だ。

あの日盾を見ても諦めなかったのはそれが理由か。

「セインの盾が道に捨てられ鐘が鳴ら無くなった時は流石に諦めそうになったが、この鐘がある限りあいつは生きている。おいセインは何処だ、言え!」

ホリアが犯人を強く締め付ける。

苦しそうにホリアの腕を叩き、みるみるうちに顔色は赤から青に変わっていく。

「殺すと分からなくなるぞ。」

「くそ!」

手を緩めるとドスンと音をたてて犯人が床に落ちた。

ゴホゴホと咳をしながら必死に酸素を取り込んでいる。

そんな男の首にホリアが剣を当てた。

「白状すれば痛みを感じさせずに殺してやる、言わなければ生きている事を後悔するように殺してやる。」

「どっちにしろ殺すなら外でたのむぞ。」

「し、知らねぇ!そんな男あったこともねぇ!」

「嘘をつくな!セインがあの盾とこの鎧を手放すはずがない!お前が奪ったんだろうが!」

「奪ってねぇ!俺は落ちているのを拾っただけだ!」

いや、どう考えてもこんなものが落ちてるはず・・・。

あー、あの盾は落ちてたか。

「では残りの装備は?」

「そ、それは・・・。」

「言えない理由でもあるのか?」

首筋に当てた剣がゆっくりと引かれる。

すると真っ赤な血が一筋静かに流れ出た。

「ヒッ!」

「残りの装備は?」

「ほ、他の冒険者から奪ったんだよ!」

「ならば鎧もそうだろうが!」

「違う!その鎧だけは違う!本当にダンジョンに落ちてたんだ!あまりにも綺麗だから置いておくのが惜しくてそれで・・・。」

「ちなみにいつ拾ったんだ?」

「さっきだよ!つい2時間ぐらい前にダンジョンの低階層だ!落ちてるのを見た奴は他にも居る、そいつ等に聞けば分かる!本当だ!信じてくれ!」

やはりコイツが犯人で間違いないようだ。

だが、どうも様子がおかしい。

他の装備は奪ったと白状したのに、この鎧だけ頑なに拾ったと良い続ける。

そりゃあ首に剣を当てられていたらそういいたくもなるが、どっちにしても死ぬなら楽に死にたくないか?

そういう問題じゃない?

「ならばそれを調べれば話は早いな。どっちにしろ、最近の冒険者襲撃事件の犯人はこいつなんだ。冒険者ギルドに突き出せばそれなりの金はもらえるだろう。あんただって路銀は必要なんだろ?山分けでどうだ?」

「死体でも同じ事だ。」

「だがもしコイツが行き先を知っていたらその情報すら入らなくなる。生きている事を後悔するぐらいに拷問すれば吐くんじゃないか?」

「・・・鐘がある限りあいつは死んでない。くそ、一体何処にいる。」

「どんな奴なんだ?」

「背は俺よりも高く白に近い銀髪をしている。俺と違って女が放っておかない顔だよ。」

ん?

つまりは銀髪のイケメン?

んん?

「他に特徴は無いのか?」

「身体の線は細く、そうだ右腕に痣がある。上腕部に星型の痣だ。」

「星型の痣。ギルドに捜索依頼は出したんだよな?」

「冒険者ギルドにか?」

「そんなに広い街じゃないんだ、イケメンなら噂にぐらいなってるだろ。逆になっていないなら街の外もしくはダンジョンの中に居るってことになる。どっちにしろ冒険者に聞いた方が話は早いぞ、奴等そういう話は好きだからな。ついでに今はそいつを血眼になって探してる。」

首に剣を当てられたままガチガチと歯を鳴らして震えている犯人。

店に来たときの勢いはどうしたよ。

「なら、俺が手を下さずとも・・・。」

「だな。」

「終わりだ、もう、終わりだ。」

「楽して稼ごうとしたんだ、当然の報いだろ。」

俺も楽して稼いではいるが、他人から奪う事はしていない。

ちゃんと相応の対価は払ってるさ。

安いけど。

「しかしセイン、お前は一体何処に。」

「あー、それなんだが・・・。」

そこまで行った所でまたドアが開き、複数人がなだれ込んできた。

「シロウ無事!」

「おう、お帰り。」

「犯人がいると聞いてきました!どこですか!」

「そこで震えてる奴だよ、持っていってくれ。」

「捕まえたの?」

「俺じゃなくてそこのホリアさんがな。」

「そ、よかった・・・。」

入ってきたのはエリザとニア、それと屈強な冒険者が三人。

どれもうちの常連だ。

あ、ニアは違うか。

「後は任せるが、報奨金とか出るよな?」

「その辺りは夫に聞いて下さい。さぁ、私達を怒らせた報いを受けさせますよ!」

男達が犯人の両脇を抱え、放送できないような言葉を吐きながら店を出て行った。

ホリアさんが剣を腰に納める。

「ってことで私も一緒に行ってくるわ。」

「後で話を聞かせてくれ。ミラ、店じまいだ。そこの装備は・・・売主が置いて行ったんだからいいよな?」

「鎧だけは返してくれるか?」

「っと、それもそうだな。持ち主に返すべきだろう。」

「持ち主?」

「もう一度聞くが、そのパートナーってのは白に近い銀髪で身体は細くイケメン、んでもって腕に星型の痣があるんだったな?」

「その通りだ。」

星型の痣と聞いてミラがハッとした顔をする。

うん、俺もさっき見たわ。

全裸男が鎧を拾った時、確かに右腕に痣が合った。

今思い出すと綺麗な星型をしていた・・・気がする。

まぁ見たら分かるだろう。

「驚かないで聞いて欲しいんだが、それに近い、っというかほぼ一致する男を見たことがある。」

「本当か!」

今度は俺の胸倉を掴んでくるホリア。

ちょいやめぇ、苦しい。

「とりあえず手を離してくれ。」

「っと、すまない。つい我を忘れてしまった。」

パッと手を離すと呼吸が楽になる。

はぁ、苦しかった。

「大切な奴なんだな。」

「あぁ、アイツが居なかったら俺は・・・。」

「っと、それ以上はまた今度聞かせてくれ。で、そいつなんだがちょうどうちの裏庭で風呂に入っているんだが、確認するか?」

「はぁ?」

「アンタでもそんな顔するんだな。」

「俺をからかってるのか?」

「そう思うのは至極もっともだが、とりあえず文句は確認してから言ってくれ。一つ言うならば普通の状態では無い、それは覚悟しろよ。」

「生きているのならそれで良い。」

真剣な顔に戻ったホリアと頷きあい、店の裏へと案内する。

裏口を空け庭に出ると、白い湯気を上げる巨大な露天風呂につかり至福の顔をしたイケメンが笑っていた。

「セイン・・・。」

「やっぱりか。」

「おい、セイン、お前、どうして・・・。」

「あ、え、ホ、ホリ、ア?」

「あぁ、俺だ。」

「ホリ、ア。ホリア。ホリア。」

「バカヤロウ、心配かけやがって。のんきに風呂なんて入ってんじゃねぇよ。」

濡れるのも気にせず駆け寄り抱きしめるホリアに反応して全裸男が嬉しそうに笑ったのが見えた。

後は二人でやってくれ。

「さーて、エリザが戻ってくるまでのんびり待つか。」

「よかったですね。」

「良かったのかはわからないが、まぁそうだな。」

なんであんなふうになったのか、そして今後元に戻るのかもわからない。

でもまぁ生きている。

それで良いのかもしれないな。

盾を拾ったところから始まった面倒ごとも、どうやら無事に片付いたようだ。

それなりの装備もタダで手に入ったし俺としては文句は無い。

面倒だった。

ただそれだけの話しだ。

「シロウ様のほうが私の好みですよ。」

「そりゃどうも。」

あぁ、それとミラの珍しい顔も見れたしな。
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