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247.転売屋は面倒に巻き込まれる

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盾の件はそれ以降進展はなかった。

持ち主がどうなったのかはわからないし、探しに来た男も行方知らずだ。

ただ、良くない噂が街に広がっている。

「冒険者が冒険者を狙ってる?」

「そうなの。昔から全くなかったってわけじゃないけど、ここまで噂になることは無かったわ。魔物じゃなくて仲間を狙うなんて許される訳ないし、大抵はすぐに犯人が見つかって処分されてるから。」

「ちなみにその処分ってのは合法だよな?」

「さぁ、法の裁きを受けたやつはいないんじゃないかしら。」

それってつまり私刑が執行されたって事だよな?

流石にこれ以上聞くわけにはいかないか。

その場で殺したか、それとも魔物に襲わせたか。

ともかく仲間を狙う奴には容赦しないっていう意思表示だろう。

くわばらくわばら。

「ではダンジョンに潜る冒険者も減りますね。」

「討伐隊は巡回してるけど、初心者はあんまり潜らないんじゃないかしら。」

「うーん、そっち向けの装備を増やした所でそれか・・・。まぁ、置いといても腐らないし大丈夫だろう。」

「エリザ様はダンジョンに?」

「私も討伐隊に参加することになってるから時々は潜るわ。」

「エリザが?」

「正直乗り気じゃないけど、仲間を狙う奴はもっと許せないから。」

「気持ちはわかる。だが、相手はあの聖騎士を襲ったやつだろ?気を抜くなよ。」

あれから色々と調べてみたが、聖騎士団はかなりの実力者が集まっているようだ。

国中の騎士団の中から実力、器量、礼儀など厳しい審査を潜り抜けた奴だけが招集されて国王陛下を含む王都を守る任につくらしい。

そんじょそこらの冒険者じゃ太刀打ちの出来ない相手という事になる。

その相手が恐らくは亡くなったわけなんだから、襲ったやつは相当の手練れと考えていいだろう。

いくらエリザでも油断は禁物だ。

「もちろんわかってるわ。常に集団行動をして動くから大丈夫。」

「ミラ、ポーションの予備あったよな?」

「はい、ビアンカ様より仕入れている物がいくつか。」

「行く前に持たしてやってくれ、あとアネットの薬も。」

「そこまでしなくていいわよ。」

「馬鹿言え、お前に何かあったら稼ぎが減るだろうが。」

「そう言うと思った。でもありがとう。」

俺の女に何かあったら大変だからな、出来る限りの事はさせて潜らせたい。

行くなとは言わない。

それは俺が決めることじゃないし、自分がやると決めたことを止める権利もない。

アネットやミラは俺の奴隷だから俺に決定権があるが、エリザはそうじゃないしな。

「ただいま戻りました。」

「おかえり。」

「アネットさんお帰りなさい。いかがでしたか?」

「冒険者ギルドは厳戒態勢、ギルド協会もピリピリしている感じでした。」

「でしょうね。」

「冒険者ギルドからは探索用の薬をいくつかと、ポーションの納品も打診されたんですけど、どうします?」

「ポーション?街の錬金術師がやるんじゃないのか?」

「私もそう言ったんですけど、数を揃えたいみたいです。」

数を揃えたい。

それはつまり冒険者ギルドが討伐隊に持たせる、もしくは潜る冒険者にお守りとして持たせるという事だろうか。

冒険者全員となるとかなりの数、そして金がかかるが・・・。

被害をなくすためにギルドも本気になっているんだろう。

ギルド協会が噛んでいるのも、資本提供しているからかもしれない。

これを断る理由はないか。

「向こうがその気なら用意すればいいだけだ。アネットは頼まれた薬を準備、ミラは薬の材料を手配してくれ。俺はギルド協会に行って、ビアンカに連絡してもらうよう伝える。」

「わかりました。」

「気を付けてね。」

「俺が狙われる理由はないだろうが、まぁ気を付ける。」

相手は冒険者を狙っているみたいだし、商人の俺が狙われることは無いはずだ。

とはいえ、気を付けない理由もない。

ま、襲われても何もできないけどな!

店を任せて、いつもより警戒しながら大通りを進む。

普通はこんな街中で襲わないだろうが、あの盾が通りの真ん中に落ちていたからなぁ。

っていうか、誰が置いたのか未だに不明ってどうなの?

あの聖騎士も今は所在不明。

俺の店に来る前に冒険者ギルドに寄ったりしていたみたいだが、盾を渡して以降は姿を見なくなった。

あれから二日。

もう街から出たと考えるべきだろう。

「こんにちは、シロウ様。良くお越しくださいました。」

「隣町のアイル=パーカさんと連絡を取りたいんだが、可能か?」

「アイル様ですか・・・少々お待ちください。」

受付嬢に用件を伝えると小走りで裏にかけて行った。

そのまま突っ立っているのも邪魔なので、いつものように来客用のソファーで待つとしよう。

五分ほどで受付嬢が戻ってきた・・・とおもったら、羊男も一緒だった。

「なんだよ。」

「アイルさんに連絡すると聞き、飛んできたんです。アネット様からはお話を聞いてもらえたようですね。」

「俺は金もうけが出来るから構わないが、街の錬金術師は文句を言わないのか?後々になってもめるのはごめんだぞ?」

「その辺は良く言い聞かせてあります。冒険者を守る事が最優先ですので。」

「ってことはお守り代わりに全冒険者に持たせるのか?」

「さすがにそこまでは無理ですが、討伐隊と中級以上の冒険者には持たせる予定です。」

「初心者には渡さないのか。」

「今の所初心者の被害はありませんからね、襲撃場所もそこそこ深部なので初心者はそこまで潜らない、というのが冒険者ギルドと我々の考えです。」

流石に全員に出せるだけの金は無いという事だろう。

特に初心者は怪我をしやすいし、無駄に使用する可能性が高いからな。

「そういう事なら断る理由もない。どれだけ必要だ?」

「とりあえずシロウさんの所にはポーションを100個、上級ポーションが可能であれば50個お願いします。」

「かなりの数だな。」

「だからお願いするんですよ。街の錬金術師だけじゃパンクしちゃいますからね。」

「今回の件についてはギルドもかなりお怒りなわけだ。」

「理由は他にもありますけど・・・。シロウさんはもうご存じじゃありませんか?」

どう考えても面倒ごとじゃないか。

あの盾を回収した、そうだホリアだっけ?

あの人がギルド協会に要請をしたっていう可能性は高い。

聖王騎士団は王都の直轄、そこから逃げ出した人がこの街で襲われたわけだからお前ら地方も協力しろ。

そんな事を言われたのかもしれないなぁ。

だからポーションを配ってまで犯人探しをしている、と。

そもそも逃げたのは聖騎士団のせいで俺達は関係なくない?とかは禁句なんだろうけど・・・。

俺に話が来たのももしかしたらそれ関係なのか?

「俺は盾を拾って返しただけだぞ。」

「えぇ、それには感謝しています。あそこで誰も拾わなかった、もしくは勝手に捨てられていたらもっと大事になっていたかもしれません。」

「見つからなかった方が良かったんじゃないか?」

「この街まで来たことは分かっていますからね、最悪全戸調査する事にもなったでしょう。それぐらい王都は本気なんです。」

「なるほど、で、お礼はいかほど?」

「それに関しては今回の件が無事に終わったら、という事で。」

無事に、ね。

それは無理だと思うなぁ。

「とりあえずは用意してみる。」

「ポーション100個と上級ポーション50個の緊急依頼をアイルさんに流します。必然的にビアンカ様に受注連絡が行くと思いますので、後は出来次第発送するようにしてもらいますね。」

「違約金は無しで頼むぞ。」

「こちらからお願いする事ですから。でも、もう大丈夫でしょう。」

前は邪魔をする奴がいたが今回はそうじゃない。

薬草はたんまりあるんだし、失敗することは無いだろうさ。

でもなぁ、アネットみたいに無理をして倒れられても困るし体力回復用の薬を手配しておくか。

「それと!」

「なんだ、まだあるのかよ。」

「冒険者を襲ったやつは装備品なんかも奪ったそうです。」

「つまりそいつが生活費を稼ぎに売りに来るかもしれないから注意しろって事だな。」

「仮に犯人だとしても捕まえないですぐ連絡してください。」

「元よりそのつもりだ。」

「ですよね。」

エリザがいるならともかく俺が冒険者を捕まえる?どう考えても無理だ。

さらに言えば犯人をどうやって見極めろというんだろうか。

ご丁寧に返り血がついていたならともかく、いくらなんでもその辺は気を付けるだろう。

名前が書いてあったらわかるかもな。

「話は以上か?」

「はい、今の所は以上です。」

「まったく、面倒なことになったもんだ。」

「本当ですよ。過去に似たようなことはありましたが、今回は王都がらみですから。」

「見つかってないんだろ?」

「今の所は。」

二日間、冒険者がいたるところを探し回っているにも関わらず見つからないんだ。

食われたかバラされたか。

どちらにせよ考えたくないものだ。

「じゃあ、後は宜しく。」

「お任せを。」

依頼の件はアネットに手紙を出してフォローしてもらうとしよう。

やれやれ、本当に面倒なこった。

協会を出て店へと戻る。

ダンジョンでいざこざがあったとしても街はいつも通り、多くの人でにぎわっていた。

本当に色々な人が歩いている。

見た目が人間な人もいれば、そうじゃない人もいるし、そのそれぞれに冒険者や商人、職人、普通の住民とバラエティ豊富。

これだけいると多少変な人がいてもみんな気にならないんだろうなぁ。

俺だってその一人だ。

変だなと思うのはよっぽど見た目があれか、それとも・・・。

「この臭いは・・・。」

商店街に入ったところで酸っぱい臭いが鼻を衝く。

かすかならまだしもこれだけ露骨に臭いと、ほら、道行く人が距離を開けている。

ぼろきれを羽織った人物を避けて露骨に鼻をつまんだり、距離をとる人たち。

その人物はまさかまさか、俺の店の前で立ち止まった。
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