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246.転売屋は盾をみつける
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いつものように市場に行き、露店で販売を終えた後の事だ。
「何だあれ。」
道端に大きな落し物があった。
誰もがそこにあると邪魔だとわかっているのに、それを拾おうともせず避けて歩いている。
何故なのか。
それは近くまで行くとよくわかった。
血だ。
1mはあろうかという巨大で重厚な盾にべっとりと血がついている。
それが人の血なのか魔物の血なのかは定かではないが、触りたいものではないのは間違いないだろう。
でも俺は触るね。
近づき血のついてない部分に手をかける。
と、いつものようにスキルが発動した。
『聖騎士の盾。聖王騎士団の騎士のみがもつことのできる重厚な盾。聖属性が付与されている。最近の平均取引価格は金貨3枚、最安値金貨1枚、最高値金貨4枚。最終取引日は211日前と記録されています。』
聖騎士の盾か。
ダンジョンで見つかるものじゃなく騎士団で普通に支給されているもののようだ。
それが何でこんな所に?
落したとしても普通は気づくだろう。
じゃあ故意に置いた?
こんな道のど真ん中に?
っていうか落としたとしても置いたにしても誰かが現場を見ているだろう。
その時声を掛けなかったんだろうか。
わからん。
とりあえず邪魔だから別の場所に置いておくか。
血でべったりと汚れた盾。
そのまま持って歩くのはあれなので、近くの家の壁に立てかけたら怒られてしまった。
仕方がないので詰所にもっていく。
だが、気持ちが悪いし引き取りたくないから持って帰れと言われてしまった。
いや、仕事しろよ。
押し問答するも引き取ってもらえず、仕方なく俺が持っている事を伝えて詰め所を出た。
だが血が付いたまま持って帰るのが嫌だったので、外の井戸で血を洗い流してから家に持って帰る。
「うわ、おっきい!」
「すごい盾ですね、買い取られたのですか?」
「いや、落ちてた。」
「落ちてたぁ?」
家に戻ってすぐエリザとミラに呆れられる。
俺もエリザがこれを落ちてたと言ったら同じ反応をするだろう。
「あぁ、血がついていて邪魔だったから拾って詰所に持って行ったら気持ちが悪いから持って帰れだとさ。仕事しろよな。」
「この街では落し物は拾った人の物みたいな感じがあるわよね、お財布ならともかくそういうのは特に。」
「捨てたにしても物が物だからなぁ。」
「失礼します・・・。聖王騎士団で使われている盾ですか、確かに珍しいですね。」
「聖王騎士団って王都の一番すごい騎士団でしょ?なんでこんな辺鄙な場所に?」
「さぁ、誰かが持ってきたのかそれとも捨てたのか。」
この間国王陛下が来たからその時に聖王騎士団が同行していたっていう可能性はある。
でもこんなデカイ盾を持った集団は見かけなかったと思うんだがなぁ。
仮に来ていたとしても置いて帰ることは無いだろう。
そもそも昨日までなかったんだ、その線は無い。
「血が付いてたんなら、ダンジョンで使ってたのかな。」
「気持ち悪いから洗い流したんだが、魔物かそれとも人の血か・・・。」
「やめてよ。」
「呪われていませんからその線は無いと思います。おそらくダンジョンでついた血でしょう。」
「なるほど。」
装備は怨念などが込められると呪われる。
特に人から人に関するものはその傾向が強い。
もちろん可能性の問題なので、呪われてない品も沢山あるが、今回はそういう事にしておこう。
「呪われていてもモニカに言って解呪してもらうけどな。」
「それもそうね。」
「とりあえず倉庫に入れるのはあれだから庭に置いとく、念の為近づかないようにしてくれ。」
「は~い。」
「アネットは?」
「製薬中。カニバフラワーの種が思った以上に優秀みたいで、新しい調合に夢中になってるわ。」
「飯の時間になったら呼んでやれよ、ミラ今日の帳簿を用意しておいてくれ。」
「かしこまりました。」
一先ず聖属性は付いているのに不気味な感じのする盾にはご退場いただこう。
倉庫手前の木箱の上に置いて布をかけておく。
これで雨が降っても大丈夫だろう。
店に戻ってエリザの淹れてくれた香茶を飲みながら帳簿を確認する。
え~っと、買取が8件と販売が2件。
10件か、今日は多い方だな。
主に素材の買取だが・・・お、願いの小石があるじゃないか。
まだまだ数は足りないが少しずつ増えて行くな。
後は、装備品がいくつか。
火属性付きの鉄の剣は初心者向けに売れるし、みかわしのマントはシーフや魔術師に売れるだろ。
む、呪われた品もあるのか。
しかも人形とか、よく買い取ったな。
まぁいい、ホラー氏がまたうわさを聞きつけて買いに来てくれるだろう。
まだモニカに直接声をかけてないらしいし、どれだけ奥手なんだか・・・。
ま、俺としては売れるなら何でもいいけどな。
「ふむ、全部で金貨1枚の赤字っと。」
「普通に聞いてると卒倒しそうな金額よね。」
「赤字って言うと語弊があるな、持ち出し。売れば黒字なんだから問題なしだ。」
「久々に家でゆっくりしたけど、買取が多いのね。」
「最近は多目だな。冬が終わるからか?」
「さぁ、ダンジョンはいつもと変わらないと思うけど。お祭りもないし、お金を使う予定はないはずよ?」
「だよなぁ。でも装備は結構売れるんだよ。」
今日も持って行ったブツの半分は無事に売れた。
別に極端に値下げしたわけじゃないんだが、案外すんなり買っていく冒険者が多い。
どっちかっていうと新人向けの装備が売れた印象だ。
「春になると冒険者は増えるんだったか?」
「ん~、暖かくなったら新人が増えるわね。」
「新天地めがけてってやつか。」
「みんな一山当てようとここに来るから、まぁ半分以上は何もできずに死ぬか引き返すけど。」
「世知辛い世の中だなぁ。」
「実力がないだけよ。」
「ま、その通りだ。俺は装備が売れるし文句はない。」
今後は初心者向けの装備なら多少痛んでいても買い取っていいかもしれない。
武器関係はマートンさんのお弟子さんが修理してくれるし、防具も横の修理屋に頼めば何とかなる。
修理で思い出したけど、そろそろ春服の仕立てを頼まないと。
「そろそろ店を閉めるか、ミラ札出しといてくれ。」
「かしこまりま・・・、いらっしゃいませ。」
お、客が来たようだ。
流石にこのタイミングで帰れとは言えないな。
俺も出るか。
「買取ですか?」
「探し物をしている。」
「ここは買取屋だ、探し物なら詰所に行け。」
「もちろんそれは分かっている。だがそこになかったからここに来たまでだ。」
腕がミラの太ももぐらいあるんじゃないかってぐらいにムキムキの男が俺を睨んでいる。
だがそんなのでビビる俺じゃない。
裏には用心棒宜しくエリザが控えているし、何よりここは俺の店だ。
客を選ぶ権利はある。
とはいえ今のは俺が悪いな、ここは穏便に行くとしよう。
「それは失礼した。で、何を探している。」
「盾だ。」
「今日の買取品にはございませんが。」
「そうか・・・。」
「ちなみにどんな盾なんだ?」
「長さはこれぐらい、重厚で真ん中にワイバーンの紋章が刻まれている。」
・・・・・・
・・・
誰も何も言わなかったが、間違いなく俺が拾ってきた盾と同じものだ。
「持ち主なのか?」
「いや、知人の物だ。この街で行方知らずになったのは分かっているのだが、その後消息がつかめない。かなり特徴のある盾だからそれだけでも見つかればと思ってな。」
「なるほど、形見な訳か。」
「まだ死んだとは思っていないが、そうだなその可能性が高いだろう。」
ここで素知らぬ顔で売りつけることも出来るのだが、何やらきな臭い感じがする。
大人しく渡すのが一番だろう。
「詰め所にいったんだよな?」
「あぁ、そこにはないと言われた。だが、シロウという男が大きな盾を持って帰ったとは聞いている。誰だか知らないか?」
「あー、それなんだがな。俺だ。」
「何?」
「そしてアンタが探しているであろう盾も俺が持っている。持っているが、そのまま渡すわけにはいかない。」
俺が持っている。
そういった瞬間に、男の目つきが変わった。
さらに言えば、刺されたわけでもないのに刺されたような錯覚を覚えてしまう。
何事かとエリザが裏から飛び出てきた。
「理由は。」
「俺は鑑定スキル持ちでな、それなりの品なのは分かっている。わかっているからこそ、関係のない奴に渡すわけにはいかないんだよ。たまたま詰め所に行って盾が落ちてるのを知ったって線もあるだろ?」
「私が盗人だと?」
「可能性の問題だ。アンタが何者か教えてくれたら持ってこようじゃないか。」
「それは・・・。」
「言えないのか?身内の恥か何か知らないが、言えないのならさっさと出て行ってくれ。店じまいの時間なんでな。」
ここでビビっちゃ男が廃る。
っていうか、絶対に面倒な事になる。
変な奴には渡せない、だから名前を聞いているだけだ。
別に俺は何も悪い事をしちゃいない。
だろ?
「・・・私はホリア。聖王騎士団所属の騎士だ。あの盾の持ち主は私の友人、騎士団を逃げ出した彼を追ってここまで来た。」
「いいだろう、持ってくるからちょっと待て。」
所属も問題なし、理由は・・・まぁどうでもいい。
兎も角盾の持ち主とは縁があるようだ。
俺が持っていていい物じゃないしさっさと返す方がいいだろう。
裏に取りに行き、布をかけたままカウンターに置いた。
「これは道のど真ん中に半分以上血に染まった状態で落ちていた。状況は以上だ、確認してくれ。」
布をはがすと同時に男の目が大きく見開かれた。
「間違いないか?」
「あぁ、間違いない。血に染まったと言っていたな。」
「魔物か人かわからなかったんでな、外で洗い流して持って帰ってきた。誰が落としたのかはわからないままだ。」
「拾ってもらい感謝する。礼は・・・。」
「別にいい、さっさと持って帰ってくれ。面倒ごとはごめんなんでね。」
「・・・助かる。」
男はそれだけ言うと盾を持ち無言で店を出て行った。
「シロウ様。」
「何があったかは知らないが、面倒ごとには関わらないに限る。うちには縁のなかったものってだけだ。」
「騎士団から逃げ出すって、よっぽどの事よ?」
「お前もあまり首を突っ込むなよ、わかったな。」
「わかってるけど・・・。」
「とりあえず今日は店じまいだ。アネットを呼んでイライザさんの店に行くぞ、こういう日は飲んで忘れるに限る。」
何があったかは知らないが、俺はただの買取屋。
面倒ごとは他所でやってくれ。
買い取った品ならともかく、あれは拾った品。
持ち主に戻ってよかったって事にしておこう。
そう思いながらも、男の出て行った扉をつい見つめてしまうのだった。
「何だあれ。」
道端に大きな落し物があった。
誰もがそこにあると邪魔だとわかっているのに、それを拾おうともせず避けて歩いている。
何故なのか。
それは近くまで行くとよくわかった。
血だ。
1mはあろうかという巨大で重厚な盾にべっとりと血がついている。
それが人の血なのか魔物の血なのかは定かではないが、触りたいものではないのは間違いないだろう。
でも俺は触るね。
近づき血のついてない部分に手をかける。
と、いつものようにスキルが発動した。
『聖騎士の盾。聖王騎士団の騎士のみがもつことのできる重厚な盾。聖属性が付与されている。最近の平均取引価格は金貨3枚、最安値金貨1枚、最高値金貨4枚。最終取引日は211日前と記録されています。』
聖騎士の盾か。
ダンジョンで見つかるものじゃなく騎士団で普通に支給されているもののようだ。
それが何でこんな所に?
落したとしても普通は気づくだろう。
じゃあ故意に置いた?
こんな道のど真ん中に?
っていうか落としたとしても置いたにしても誰かが現場を見ているだろう。
その時声を掛けなかったんだろうか。
わからん。
とりあえず邪魔だから別の場所に置いておくか。
血でべったりと汚れた盾。
そのまま持って歩くのはあれなので、近くの家の壁に立てかけたら怒られてしまった。
仕方がないので詰所にもっていく。
だが、気持ちが悪いし引き取りたくないから持って帰れと言われてしまった。
いや、仕事しろよ。
押し問答するも引き取ってもらえず、仕方なく俺が持っている事を伝えて詰め所を出た。
だが血が付いたまま持って帰るのが嫌だったので、外の井戸で血を洗い流してから家に持って帰る。
「うわ、おっきい!」
「すごい盾ですね、買い取られたのですか?」
「いや、落ちてた。」
「落ちてたぁ?」
家に戻ってすぐエリザとミラに呆れられる。
俺もエリザがこれを落ちてたと言ったら同じ反応をするだろう。
「あぁ、血がついていて邪魔だったから拾って詰所に持って行ったら気持ちが悪いから持って帰れだとさ。仕事しろよな。」
「この街では落し物は拾った人の物みたいな感じがあるわよね、お財布ならともかくそういうのは特に。」
「捨てたにしても物が物だからなぁ。」
「失礼します・・・。聖王騎士団で使われている盾ですか、確かに珍しいですね。」
「聖王騎士団って王都の一番すごい騎士団でしょ?なんでこんな辺鄙な場所に?」
「さぁ、誰かが持ってきたのかそれとも捨てたのか。」
この間国王陛下が来たからその時に聖王騎士団が同行していたっていう可能性はある。
でもこんなデカイ盾を持った集団は見かけなかったと思うんだがなぁ。
仮に来ていたとしても置いて帰ることは無いだろう。
そもそも昨日までなかったんだ、その線は無い。
「血が付いてたんなら、ダンジョンで使ってたのかな。」
「気持ち悪いから洗い流したんだが、魔物かそれとも人の血か・・・。」
「やめてよ。」
「呪われていませんからその線は無いと思います。おそらくダンジョンでついた血でしょう。」
「なるほど。」
装備は怨念などが込められると呪われる。
特に人から人に関するものはその傾向が強い。
もちろん可能性の問題なので、呪われてない品も沢山あるが、今回はそういう事にしておこう。
「呪われていてもモニカに言って解呪してもらうけどな。」
「それもそうね。」
「とりあえず倉庫に入れるのはあれだから庭に置いとく、念の為近づかないようにしてくれ。」
「は~い。」
「アネットは?」
「製薬中。カニバフラワーの種が思った以上に優秀みたいで、新しい調合に夢中になってるわ。」
「飯の時間になったら呼んでやれよ、ミラ今日の帳簿を用意しておいてくれ。」
「かしこまりました。」
一先ず聖属性は付いているのに不気味な感じのする盾にはご退場いただこう。
倉庫手前の木箱の上に置いて布をかけておく。
これで雨が降っても大丈夫だろう。
店に戻ってエリザの淹れてくれた香茶を飲みながら帳簿を確認する。
え~っと、買取が8件と販売が2件。
10件か、今日は多い方だな。
主に素材の買取だが・・・お、願いの小石があるじゃないか。
まだまだ数は足りないが少しずつ増えて行くな。
後は、装備品がいくつか。
火属性付きの鉄の剣は初心者向けに売れるし、みかわしのマントはシーフや魔術師に売れるだろ。
む、呪われた品もあるのか。
しかも人形とか、よく買い取ったな。
まぁいい、ホラー氏がまたうわさを聞きつけて買いに来てくれるだろう。
まだモニカに直接声をかけてないらしいし、どれだけ奥手なんだか・・・。
ま、俺としては売れるなら何でもいいけどな。
「ふむ、全部で金貨1枚の赤字っと。」
「普通に聞いてると卒倒しそうな金額よね。」
「赤字って言うと語弊があるな、持ち出し。売れば黒字なんだから問題なしだ。」
「久々に家でゆっくりしたけど、買取が多いのね。」
「最近は多目だな。冬が終わるからか?」
「さぁ、ダンジョンはいつもと変わらないと思うけど。お祭りもないし、お金を使う予定はないはずよ?」
「だよなぁ。でも装備は結構売れるんだよ。」
今日も持って行ったブツの半分は無事に売れた。
別に極端に値下げしたわけじゃないんだが、案外すんなり買っていく冒険者が多い。
どっちかっていうと新人向けの装備が売れた印象だ。
「春になると冒険者は増えるんだったか?」
「ん~、暖かくなったら新人が増えるわね。」
「新天地めがけてってやつか。」
「みんな一山当てようとここに来るから、まぁ半分以上は何もできずに死ぬか引き返すけど。」
「世知辛い世の中だなぁ。」
「実力がないだけよ。」
「ま、その通りだ。俺は装備が売れるし文句はない。」
今後は初心者向けの装備なら多少痛んでいても買い取っていいかもしれない。
武器関係はマートンさんのお弟子さんが修理してくれるし、防具も横の修理屋に頼めば何とかなる。
修理で思い出したけど、そろそろ春服の仕立てを頼まないと。
「そろそろ店を閉めるか、ミラ札出しといてくれ。」
「かしこまりま・・・、いらっしゃいませ。」
お、客が来たようだ。
流石にこのタイミングで帰れとは言えないな。
俺も出るか。
「買取ですか?」
「探し物をしている。」
「ここは買取屋だ、探し物なら詰所に行け。」
「もちろんそれは分かっている。だがそこになかったからここに来たまでだ。」
腕がミラの太ももぐらいあるんじゃないかってぐらいにムキムキの男が俺を睨んでいる。
だがそんなのでビビる俺じゃない。
裏には用心棒宜しくエリザが控えているし、何よりここは俺の店だ。
客を選ぶ権利はある。
とはいえ今のは俺が悪いな、ここは穏便に行くとしよう。
「それは失礼した。で、何を探している。」
「盾だ。」
「今日の買取品にはございませんが。」
「そうか・・・。」
「ちなみにどんな盾なんだ?」
「長さはこれぐらい、重厚で真ん中にワイバーンの紋章が刻まれている。」
・・・・・・
・・・
誰も何も言わなかったが、間違いなく俺が拾ってきた盾と同じものだ。
「持ち主なのか?」
「いや、知人の物だ。この街で行方知らずになったのは分かっているのだが、その後消息がつかめない。かなり特徴のある盾だからそれだけでも見つかればと思ってな。」
「なるほど、形見な訳か。」
「まだ死んだとは思っていないが、そうだなその可能性が高いだろう。」
ここで素知らぬ顔で売りつけることも出来るのだが、何やらきな臭い感じがする。
大人しく渡すのが一番だろう。
「詰め所にいったんだよな?」
「あぁ、そこにはないと言われた。だが、シロウという男が大きな盾を持って帰ったとは聞いている。誰だか知らないか?」
「あー、それなんだがな。俺だ。」
「何?」
「そしてアンタが探しているであろう盾も俺が持っている。持っているが、そのまま渡すわけにはいかない。」
俺が持っている。
そういった瞬間に、男の目つきが変わった。
さらに言えば、刺されたわけでもないのに刺されたような錯覚を覚えてしまう。
何事かとエリザが裏から飛び出てきた。
「理由は。」
「俺は鑑定スキル持ちでな、それなりの品なのは分かっている。わかっているからこそ、関係のない奴に渡すわけにはいかないんだよ。たまたま詰め所に行って盾が落ちてるのを知ったって線もあるだろ?」
「私が盗人だと?」
「可能性の問題だ。アンタが何者か教えてくれたら持ってこようじゃないか。」
「それは・・・。」
「言えないのか?身内の恥か何か知らないが、言えないのならさっさと出て行ってくれ。店じまいの時間なんでな。」
ここでビビっちゃ男が廃る。
っていうか、絶対に面倒な事になる。
変な奴には渡せない、だから名前を聞いているだけだ。
別に俺は何も悪い事をしちゃいない。
だろ?
「・・・私はホリア。聖王騎士団所属の騎士だ。あの盾の持ち主は私の友人、騎士団を逃げ出した彼を追ってここまで来た。」
「いいだろう、持ってくるからちょっと待て。」
所属も問題なし、理由は・・・まぁどうでもいい。
兎も角盾の持ち主とは縁があるようだ。
俺が持っていていい物じゃないしさっさと返す方がいいだろう。
裏に取りに行き、布をかけたままカウンターに置いた。
「これは道のど真ん中に半分以上血に染まった状態で落ちていた。状況は以上だ、確認してくれ。」
布をはがすと同時に男の目が大きく見開かれた。
「間違いないか?」
「あぁ、間違いない。血に染まったと言っていたな。」
「魔物か人かわからなかったんでな、外で洗い流して持って帰ってきた。誰が落としたのかはわからないままだ。」
「拾ってもらい感謝する。礼は・・・。」
「別にいい、さっさと持って帰ってくれ。面倒ごとはごめんなんでね。」
「・・・助かる。」
男はそれだけ言うと盾を持ち無言で店を出て行った。
「シロウ様。」
「何があったかは知らないが、面倒ごとには関わらないに限る。うちには縁のなかったものってだけだ。」
「騎士団から逃げ出すって、よっぽどの事よ?」
「お前もあまり首を突っ込むなよ、わかったな。」
「わかってるけど・・・。」
「とりあえず今日は店じまいだ。アネットを呼んでイライザさんの店に行くぞ、こういう日は飲んで忘れるに限る。」
何があったかは知らないが、俺はただの買取屋。
面倒ごとは他所でやってくれ。
買い取った品ならともかく、あれは拾った品。
持ち主に戻ってよかったって事にしておこう。
そう思いながらも、男の出て行った扉をつい見つめてしまうのだった。
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