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242.転売屋はチョコレートを売り込む

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「ショコラータなら知ってるわよ。」

「確か二つ隣の町で作られているお菓子でしたね。」

「あぁ、冬季限定で販売されているやつだ。別段珍しいというわけではないが、この街では珍しいだろう。」

「私達は時々食べるけど、住民にはあまり根付いてないわね。」

「あまり見かけませんね。」

理由は簡単、輸送の手間とコストに売り上げが伴わないからだ。

金貨10枚で買い付けてきて金貨10枚でしか売れないのなら誰もやるわけがない。

金貨12枚、いや15枚売れる確証が無ければ手を出さないだろう。

となるとだ、この間食べたチョコが一箱銀貨1.5枚になってしまう。

一つで安宿なら三日は泊まれる値段だぞ?

普通に考えて手が出ないだろう。

普通に考えたならな。

「で、それがどうしたのよ。わざわざその為だけに呼び出したわけじゃないでしょうね。」

「もちろんだとも。実はな、こんな企画を考えている。」

「企画ですか?」

「贈り物の日まであと一週間、準備期間としてはぎりぎりだが、参加するのは店じゃなくて住民全員だ。暇な奥様方なら喜んで参加してくれるだろう。」

二人に手渡したのは前の世界で作ったこともない企画書だ。

まぁ、俺が口で説明してミラが作ったものだがそれは言わなくてもいいだろう。

「へぇ、面白そうじゃない。」

「要は誰が一番菓子作りが美味いかという競争ですね。」

「そうだな、条件はショコラータを使用していること。その為に40kg分のショコラータを仕入れさせてもらった。成型前だからこれを湯煎すれば溶け出し、冷やせば固まるようになっている。販売時に加工方法の簡単な手引書も渡せば問題は少ないだろう。後は作り手が好きに加工すればいい。」

「参加費は無料。優勝者含め上位10人を決め、それぞれに商品を渡す・・・と、この協賛というのは?」

「うちは買取屋だからな、冒険者はともかく奥様方が喜びそうな品はあまり入ってこない。そこで、賞品を提供してくれた店は期間中各所で名前を掲示、宣伝させてもらおうと思っている。」

「そうやって商品提供させて予算を浮かせるのね。」

「発起人として俺も協力するつもりだ。原料のショコラータは採算度外視で提供させてもらおう。」

「ちなみにおいくら?」

「10g単位で銅貨50枚・・・と言いたい所だが銅貨35枚で提供しよう。」

普通に考えれば赤字だが、予定の半値で仕入れることが出来た。

なので予算は変わらず量を倍に増やして貰っても単価は10gで銅貨25枚。

計算では金貨4枚分の利益が出るはずだ。

仮に全部売れなくても、別の方法で売る事も出来る。

保険はちゃんと用意してるさ。

「シロウさんが採算度外視って・・・明日雪でも降りますかね。」

「それでも高すぎない?」

「元が高いんだ、仕方ないだろう。代わりに参加費は無料で参加賞も出すってのはどうだ?」

「参加賞ってそれも協賛店舗に出させるんでしょ?」

「まぁ集まればの話だな。祭りのない冬にはもってこいだと思うんだが、まぁ参加しないのならばそれはそれで構わない。買ってきたショコラータを普通に卸すだけの話だ。」

「どこが買うの?」

「要は売り方の問題だろう。一人で利益をむさぼるってのもあれだから一緒に儲けないかというお誘いだったんだが、残念だなぁ。」

自分用の資料をわざとらしくトントンと立て、二人に返すよう促す。

これで返すなら脈なし。

だが・・・。

「確かに還年祭以降これといって催しはありませんし、シロウさんのやる事に今の所失敗はありませんからね。もし定着すれば来年の二月にも同じことが出来ます。その時は我々が材料を仕入れても構わないんですよね?」

「もちろんだ、俺が仕入れたのは今回だけで次回以降は全くの未定と先方には伝えている。」

「ならやる価値は十分にあります。蚤の市同様に、貴族からの協賛を得るというのは可能でしょうか。」

「贈り物の日にちなんで絞り出すことはできるでしょうね。良い顔をしたい貴族はたくさんいるもの。」

「なら決まりだ、そっち関係はお任せするよ。俺は量り売りに対応できるよう準備しておく。」

「シロウさんの店で売るんですか?」

「さすがに一か所だと問題があるだろうから、協力してくれるなら喜んで。」

蚤の市でもかなりの行列だったからな、販売場所は数か所に分散させたい。

そうなればうちの苦労は半減するし、勝手に利益が生まれるという寸法だ。

「じゃあ急ぎ企画を告知するとして・・・一ついいかしら。」

「なんだ?」

「本当は何を狙ってるの?」

「言っただろ、採算度外視だって。」

「それは次回も自分でするならの話よね?でもそれはしないみたいだし、材料の利益だって微々たるもののはず。それでこの男が納得するはずないわ。」

「・・・・・・。」

「沈黙は肯定として取っていいわよね?さぁ白状なさい。」

さすが副長の奥様。

だてに貴族の顔役をしているだけじゃない。

こういった所でキッチリしめるからこそ、今の地位を築いていられるんだろう。

「シープさんは気付かなかったみたいだが、アナスタシア様の目はごまかせないか。」

「当然よ、わざわざ私たちに話を持ってくるあたりおかしいと思っていたのよね。儲けるなら一人で儲けるはずの貴方が、わざわざ私たちを誘うはずないわ。」

「だがその考えは半分外れだ。利益を度外視しているのは本当だし、稼ぎも今回はそんなに多くない。」

「今回はね。」

「俺が狙っているのはショコラータの普及だよ。」

「「普及?」」

二人の頭の上に大きなクエスチョンマークが浮かんだようにみえた。

いや、間違いなく浮かんだだろう。

「今はまだ定着していないが、今回の催しでショコラータそのものの魅力に街の人が気付いたのなら次回以降は日常的に食べられるようになるだろう。」

「その時に貴方が胴元になって仕入れを管理して、しっかり儲けようというわけね?」

「でも、さっきは我々が仕入れても構わないと・・・。」

「あぁ、次回の催しの時は好きに仕入れて構わないぞ。」

「随分な言葉遊びね。」

「いやいや、そんなんじゃないさ、本当に誰が仕入れて売っても構わないと思っている。ただし、仕入れのコストと手間を考えるとあまりお勧めは出来ないけどな。」

仕入れに一週間かかり、利益はあまり出ない。

大量に売れればそれなりに儲かるが、保管するのに手間も金もかかる商品だ。

幸い俺には大型の倉庫と冷蔵用の大型魔道具があるのでその辺の投資も必要がない。チョコの為だけにこれだけのものを準備する商人はあまりいないだろう。

もちろん最初は手を出すだろうが、その手間に気づいた後は手を引く。

その後、俺が参入して牛耳ろうってわけだ。

と言ってもチョコの仕入れが出来るのは寒くなってからだから売れるのは一年で八カ月だけ。

チョコはな。

「シロウさんのように自由にお金を動かせる人にしか向いていないわけですか・・・。」

「次回があるのなら、今回同様利益を度外視して提供してやってもいいぞ。」

「その辺りは我々でも一度仕入れを行ってみてから考えます。」

「それをお勧めするね。」

「とにもかくにもショコラータがこの街で根付かなければ意味がない。でも、その普及を自分で行わず我々に丸投げってのはいただけないわ。もちろん貴方も手伝ってくれるわよね?」

「ちゃんと材料を仕入れてきただろ?」

「あら、それで終わりのはずないでしょ。」

「表舞台には出ないからな、あくまでもこれはギルド協会と街側の企画ということにしてくれ。そこは譲れない。」

「むしろここまで大事にするのならそうさせてもらわないと困るのだけど・・・。何をしてもらうかは追って連絡するから絶対に参加するように。」

「・・・出店程度なら参加してやるよ。」

「シープ、聞いたわね?」

「聞きました。」

げ、利益だけ頂こうと思っていたがこの二人を相手にしてそれは無理だったか。

エリザ達にも手伝ってもらうとしよう。

「ショコラータは北側の倉庫に入れてある。必要なら教えてくれ。」

「さぁ忙しくなるわよ、私は貴族に声をかけてくるからシープは今日中に企画を練り直して報告して頂戴。今年から贈り物の日が大きく変わるわ、頑張りなさいよ。」

「やれやれ、還年祭が終わってもゆっくりできなくなりそうですね。」

「本望だろ?」

「仕事があるのはいい事です。ではシロウさんお先に失礼します。」

資料を手に二人が会議室を出ていく。

さて、俺もさっさと家に帰るかな・・・。

っと、その前にハーシェさんの所に寄らなければ。

同じく書類を持ってギルド協会を出るとその足でハーシェさんの家に向かう。

今日は終日家にいると言っていたはずだ。

大きなドアを三回ノックするとすぐに鍵が開けられた。

「シロウ様ようこそお越しくださいました。」

「仕事の話だ、入って構わないか?」

「もちろんです、すぐにお茶を淹れますね。」

出会った時と同じ全身緑色の装い。

人の服の好みに口を出す趣味は無いが、単一カラーで統一している気がする。

スタイルがものすごくいいわけではないのだが、何を着ても様になるんだから不思議だ。

先に応接室に通され、しばらくしてカップを持ってハーシェさんが戻ってきた。

無言で俺の前にそれを置く。

白いカップは濃い茶色の液体で満たされている。

「お口に合えばいいのですが。」

「これは例のやつか?」

「はい。教えて頂いた通りに合わせてみました。」

カップを手に取り一口飲んでみる。

ほのかな甘み、若干粉っぽい所もあるがこれはかき混ぜれば問題ないだろう。

砂糖が少し足りないようなのでその辺も戻って確認しないとな。

「いかがですか?」

「うん、想像通りの味だ。美味しい。」

「よかった・・・。」

ホッと胸をなでおろすハーシェさん。

安堵の表情なのになぜ色っぽく見るんだろうか。

「全部でどのぐらい手に入った?」

「全部で50kg程です。」

「値段は?」

「この量で金貨3枚でした。」

「あぁ、そんなもんか・・・。」

10グラムで銅貨6枚程度。

うん、これを銅貨15枚で売れば金貨4.5枚の儲けか。

「次回以降はもう少し安くできないか交渉してみてくれ、継続して購入すると伝えてくれてもいい。ただし、贈り物の日が終わってからだがな。」

「時期を問わず仕入れが出来る事を考えるとかなり利益率の高い商材になりますね。」

「あくまでも搾りかす・・・って言ったら失礼か。ともかくカケオを加工していく中ではどうしても出来てしまうものだからな。向こうもそれが売れるなら喜んでくれるだろう。」

「どうして人気がないのでしょうか。」

「そりゃショコラータの方が美味いからさ、おれはこっちも甘くなくて好きだけどな。」

「ミルクに混ぜるだけでこんなに風味が豊かになるのに、もったいないですね。」

「そこに目をつけて売っていくんだ。独占契約出来れば最高なんだが・・・そこまでは実績がないか。」

「何とか交渉してみます。」

「無理はするなよ、先も言ったがここで流行る事が前提だ。」

「そうでした。でも絶対に流行ります。」

「ハーシェさんが言うなら間違いないだろうな。」

俺の本命はこっち。

冬の間しか手に入らないチョコとは違い、粉末状になっているココアパウダーは年中仕入れと販売が可能だ。

冬はチョコ、それ以外の季節はココアパウダー。

これでどの季節でも利益を上げ続けることが出来る。

まぁ、流石に夏は難しいかもしれないが、それ以外の季節に売れるのなら完璧だ。

夏は夏で何か手立てを考えればいい。

さぁて、ギルド協会がどれぐらい張り切ってくれるかでこいつの利益が変わるんだ。

どうなることやら。

「シロウ様、悪い顔をされていますよ。」

「そうか?」

「はい。でも、とっても素敵です。」

ハーシェさんの甘い視線から目を反らしつつ、甘いホットココアを堪能する。

贈り物の日まであと一週間。

せいぜい頑張ってもらいましょうかね。

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