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233.転売屋は散歩中にお宝を見つける

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魔物の襲撃から一週間。

無事に再作付は終わり、塀も綺麗に直すことが出来た。

あれから魔物の襲撃はない。

むしろ近隣から魔物が減ったと行商に来ていた商人が話をしていた。

結局何が原因で襲ってきたのかはわからずじまいだったが、魔物が少なくなったのはいいことだ。

「ルフ、大丈夫か。」

ブンブン。

魔物がいなくなったのをいいことに、ルフと一緒に久々の散歩に出た。

ところどころにオオカミの足跡が残っているのは、先日の名残だろう。

死骸は全て埋葬もしくは火葬したのでそれを狙った魔物は来ないだろう。

放置するとよからぬ魔物も来るらしいのでその辺は討伐隊が念入りに確認してくれた。

吐く息が空にのぼっていく。

外は快晴、絶好の散歩日和だ。

追撃部隊に同行したルフに大きなけがはなかったが、最初に受けた傷の辺りだけ傷跡が残ってしまった。

とはいえ、これも何れ見えなくなるだろう。

命があるのであればそれで十分だ。

「さーて、そろそろ帰るか。」

散歩に出てそろそろ二時間ぐらい。

腹時計的には一時ぐらいだと思う。

「戻ったら肉を食べような、快気祝いだ。」

「ワフ!」

「市場に行って肉を買って、それから・・・。」

昼から酒を飲むのは流石に憚られるが、ただの水ってのもなぁ。

香茶の美味しい店がテイクアウトを始めたはずだからそこで買って外で食べるか。

さぁ戻るかと思ったその時だった。

ルフが突然立ち止まり、茂みの奥を見ている。

思わず身をかがめた。

「魔物か?」

ブン。

あれ違った。

特に警戒態勢をとるわけでもなく、じっと向こうを見ている。

ふむ何かあるのかな?

「何かあるんだな?」

ブンブン。

ここほれワンワン的な奴だろうか。

腰の高さぐらいの茂みに分け入り3mほど進むと、まるでミステリーサークルのような空き地に出た。

まん丸で、直径10mぐらい。

周りは全て同じ高さの茂みでそこだけ地面がむき出しになっている。

どう見ても何かあるって感じ。

でも何も無い。

「偶然か、それとも何かがあった後なのか。」

この辺は初心者魔術師が魔法の練習をしている場所でもあるから、そのせいという可能性も高いがそれだとルフが立ち止まるはずが無い。

「何か感じるか?」

「ンン?」

キョトンと首をかしげ俺を見てくる。

何いってるの?

そんな感じの反応だ。

ルフには何かが見えている?

「すまん、俺にはわからないんだ何があるか教えてくれ。」

「ワフ!」

わかったと返事をして中心から少し離れた部分に向う。

そしてそこをガリガリと掘り始めた。

地面に何かあるのか。

残念ながら土の魔道具もスコップも持ち合わせていない。

えーっと何かあったかなと腰の収納袋を漁ると、1mほどの木の棒が出てきた。

『木の棒。何処にでもある枝を加工したもの。最近の平均取引価格は銅貨3枚。最安値銅貨1枚、最高値銅貨5枚。最終取引日は二日前と記録されています。』

太さは5cmほど。

何でこんなものが入って・・・。

そうか、塀を直している時に邪魔だったからしまったんだ。

先っぽには何も着いていないが素手で土を掘るよりかは効率的だ。

ルフが傷をつけた部分をゴリゴリと削っていくと、途中で何かに当った。

石か?

そう思って地面を見るとどう見ても石じゃない何かが見える。

「おいおい、まさかのまさかか?」

「ワフワフ!」

ルフも大興奮だ。

何とか周りの土をどけ、てこの原理で掘り起こすと出てきたのは30cmほどの木箱だった。

結構古そうな感じ。

「さ~て、中身は何かなっと。」

短剣を木箱の端に差込み力を入れる。

普通の剣だったら直ぐに折れてしまうだろうが、これはマートンさんお手製の奴。

そんな簡単に折れるはずが無い。

予想通りメキメキと音をたてて木箱の端が浮き上がり、そして外れた。

中に入っていたの銀色の杯だ。

見た感じ禍々しい感じはしない。

とりあえず鑑定だな。

ゆっくり右手で掴むといつものようにスキルが発動した。

『聖銀の杯。旧王朝時代に使われていた祭事用の杯で聖水を注ぐ事に使われていたため変質した。最近の平均取引価格は金貨2枚、最安値金貨1枚、最高値金貨170枚。最終取引日は2年と590日前と記録されています。』

おぉ、まさかの大当たり。

金貨2枚とかぼろもうけじゃないか。

価格に差があるのは無茶苦茶状態がいいとか、ふっかけられたとかそんな感じだろう。

旧王朝が何かは分からないが骨董品である事に代わりは無い。

銀だったらあまり素手で触らない方がいいかな。

木箱には赤い布が敷き詰められており、それで触った部分を丁寧にぬぐう。

布も古いもののはずなのに、随分と綺麗だな。

『アルメニス刺繍の聖布。古代王朝字に栄えたアルメニスの刺繍が施された聖布で邪悪なる物を寄せ付けない。聖属性が付与されている。最近の平均取引価格は銀貨35枚、最安値銀貨20枚、最高値金貨1枚。最終取引日は498日前と記録されています』

こっちも中々のレア物らしい。

ただの布だと思っていたけれどちゃんと価値のあるものだったのか

っていうかなんでこんな物がこんな所にあるんだ?

いかにもという怪しい場所にコレだけの品。

地中深くないという事は誰かが埋めたのは間違いないだろう。

「ルフ、他にもあるか?」

ブンブン。

お、やっぱりあるのか。

それから夕方までサークルとその付近を掘りまくり合計7つの木箱を見つけた。

中身は全て同じ杯。

数が数だけに星の刻印でもないかと探したがそんな物は無いって居なかった。

鑑定してもどれも同じ結果。

木箱を抱えて街に戻ると、畑までエリザが迎えに来ていた。

「ちょっとおそいじゃない!って何それ。」

「外を散歩してたら見つけた。」

「はぁ?」

「土に埋まってるのをルフが見つけたんだ、お手柄だったな。」

「その顔って事はお宝なのね?」

「あぁ最低一つ金貨2枚はくだらないだろう。」

「それが七つも!?何でそんな物が外にあるのよ。」

「さぁなぁ・・・。」

っていうかあんまりそんな大声を出すなよ、後ろから襲われたらどうする。

ひとまずルフにお宝を見張らせてその隙に肉を買いに行く。

ご褒美の肉を渡してからその日は店に戻り、改めて杯を並べた。

「綺麗ですねぇ。」

「こんなもの見たこと無いわ。」

「聖銀というらしいですが、ミスリルとは違うのですね。」

「あれは聖青銀って言うらしいぞ。」

「確かに少し青い気がします。」

見れば見るほど美しい杯だ。

触るのを躊躇する輝き、どれも同じ赤い聖布で巻かれておりそれもまた美しい。

「なぁ、旧王朝ってしってるか?」

「ずーーーっと昔に栄えたって聞いた事あるわ。」

「ダンジョンや各地に眠る遺跡はその時代のものだったと本で読みましたね。」

「何の本だ?」

「名前までは。この間図書館で見ましたのでアレン様であれば分かるのでは無いでしょうか。」

「明日はその調査か。」

少年司書は物知りだからな。

中身が何歳かは知らないけど。

「こんなものが落ちてるならダンジョンに潜らないでそっちを探した方がいい気がしてきたわ。」

「本当に偶然だぞ?ルフが居なかったら見つからなかったんだ。」

「でも埋まってたんでしょ?」

「あぁ、それほど深くは無かったが地面は硬かったからそれなりに時間は経っていたと思う。」

結構ガリガリやったからなぁ。

深さは20cmも無かった気がする。

埋まっていたのが出てきたって言う場所でもないし、何より気になるのはあの場所だ。

まるで作ったかのような綺麗な円形の空き地。

全部が空き地で見つかったわけじゃないが、何かあるぞといっているようなものだろう。

「遺跡ってどこにでもあるのか?」

「しらな~い。」

「私も存じ上げません。」

「私もです。」

女達は何も知らないのか。

ふむ。

それもまぁ調べればいいだろう。

「よし、今日はこのぐらいにするか。仕舞うぞ。」

「え~もっとみたい!」

「かなりのお宝っぽいからな、物によってはオークションに出す。汚れたり傷が付いたら困るだろ。」

「そうですね。倉庫代も支払ってしまいましたし、高く売れる物があるのは喜ばしい事です。」

「急な出費だったしなぁ。」

「ですがおかげで倉庫に空きが出来ました。馬車を乗り付けて荷を直接出し入れ出来るとハーシェ様も喜んでいましたよ。」

「あれは良い買い物だった。」

高い買い物ではあったが決して損ではなかった。

あの時即決してよかったと思っている。

あれを買えたのも全て国王陛下のおかげだけどな。

王朝にゆかりがあるのであれば、献上してお礼をがっぽりって言うのもありえるか・・・。

ちょっと本腰入れて調べるとしよう。

「もし遺跡があったらどうする?」

「どうするってそんなの決まってるだろ。」

「え、潜るの?」

「バカ、道具を売るに決まってるだろ。潜るのはお前の仕事だよ。」

ゴールドラッシュの時も最終的に儲かったのは周辺の宿泊所や貸し道具屋らしい。

俺もそれに乗っかって儲けるだけだ。

でもまぁそんな事は流石にないだろうけど。
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